秋──。
社会人であれば忙しさに追われてしまい、季節のひとつにしかすぎないと感じる人も多くなるが、学生時代ともなれば秋こそ催されるイベントは多岐に渡る。
食欲の秋・読書の秋・芸術の秋……そしてスポーツの秋。
ここ並盛中でも体育祭はビッグイベントとしてかなりの注目度のようだ。
「いよいよ明日か~ なんだかそわそわするなぁ」
「そうですね、私も初めての体験なので楽しみです」
前日の決起集会としてA組全体に招集がかけられ、綱吉と桜は二人並んで講義室へ向かっていた。
「それにしても前日の急な集まりって何をするんでしょうか」
「うーん、なんだろう。決起集会って言うくらいだし、スローガン出して士気を高めるとか?」
内容の分からない集会で首をかしげるが、綱吉にはもう一つ気になる点があった。
「あとさ……朔夜くん、そのカッコどうしたの……?」
思わずぎくりと肩を震わせる桜の格好は今までとは丸っきり違っていた。
桜が身を包む上下黒の制服……学ランは普通の生徒ではまず見かけない。
「まさか……風紀委員に?」
「うっ……」
そう、学ランは今や風紀委員という限られた一部の生徒しか身につけていない。
綱吉の不安と疑念が入り混じる目に桜は気まずそうに顔を逸らす。
「そのですね……これには少々複雑な事情がありまして……」
「そ、そうなんだ……?」
桜の表情から何かを察したのか、綱吉の不安げな空気がやや和らいだ。
「あの、決して自分から率先して風紀委員になったわけじゃないので!この制服もお飾りみたいなものでただの入りたての下っ端ですし、大して役には立たないので明日の体育祭をめいっぱい楽しみましょう!」
綱吉の懸念を何とか解消しようと慌てるように弁明する。
「そっか、それなら良かった!体育祭頑張ろうね!」
「残念だけどそれは無理だね」
体育祭という楽しみのために意気込む二人に第三者の声が響いた。
「!?」
「ひいっ!ヒ、ヒバリさん!!?」
つかつかと歩み寄る雲雀恭弥に綱吉は怯えるように後ずさりする。
「何の用でしょうか。私たちこれからA組の決起集会に行かないといけないんですが」
「ふーん。だから何?残念だけど君、そんな暇はないよ」
「えっ!?ど、どういうことてすか!?」
綱吉の質問に雲雀恭弥は涼しげに笑った。
「どういうことも何も、君さっきの話聞いたんでしょ。この子は風紀委員になったから仕事があるのさ。入りたてだろうが下っ端だろうが関係ないからね」
「生徒は学校行事が優先されるべきでは?そもそもそんな話聞いてません!」
「うん、今話した」
あっけらかんとして悪びれる様子もない雲雀恭弥に桜はげんなりと肩を落とす。
「とにかく、そういう話はちゃんと先生を通してから──」
「教師より僕の方が上なんだけど」
ああ言えばこう言うとはまさにこのことだろうか。
(「ていうか教師が生徒に屈するってこの学校は治安とか秩序は大丈夫なのか……?」)
呆れながらもふと雲雀恭弥と目が合い、彼が風紀委員長という名の秩序だったことに気づき盛大にため息を零す。
「分かりましたよ。これ以上ゴネても埒が明かないのでとりあえずお引き受けします」
「ほんとにいいの?せっかくならオレからも先生に言って……」
「なに?僕に逆らおうっていうの?」
「ひぃいいぃっ!すいませんすいません!」
今にもトンファーを出しそうな雰囲気に圧されて綱吉は思わず涙を浮かべる。
「大丈夫ですよ、一部の種目だけでも出れないか掛け合ってみますから。綱吉様は早く講義室へ」
「力になれなくてごめん!あんまり無理しないでね」
講義室へと向かう綱吉を見送ると、桜は恨めしそうに雲雀恭弥を睨みつけた。
「せっかくの体育祭なのに、とんでもないことしてくれましたね」
「まあそう不貞腐れないで。あとその学ランもなかなか悪くないね」
雲雀恭弥にしては珍しく褒めてるかのような口振りに桜は呆気にとられる。
「雲雀さんもそんなこと言うんですね……でもさすがにセーラー服が届いた時はびっくりしましたよ」
「女なんだからセーラー服が当たり前でしょ」
「前も言いましたけど、私は男として変装して、書類上も男として通ってるんですからセーラー服なんて着たらおかしいじゃないですか」
そう言いながらも、うっかり家にセーラー服が届けられた際の記憶が蘇り、桜は思わず顔をしかめた。
届いたその場で開封してしまったがために、届けた副委員長である草壁は服と桜を交互に見つめて随分と困惑した様子であった。
苦笑いしながら”間違えたみたいですね”と慌てて返したものの、あの時の彼の顔はおそらく一生忘れないだろう。
「二度とあんなことしないでくださいね。あと普通に草壁さんが可哀想です」
「そう。考えておくよ」
”間違いなく考えないな”と呆れながら桜は草壁の苦労に同情するのだった。
───…………
──……
「そういうわけで、体育祭の参加は難しそうです……」
雲雀恭弥からの理不尽な圧力に抗えず、交渉が失敗したことを綱吉に報告する桜。
「そっかぁ……まあヒバリさんじゃ逆らえないよね」
偶然にも帰りのタイミングが被ったために歩きながら先ほどの話を交わす二人。
「決起集会はどうでしたか?」
「それなんだけどさぁ~……もうめちゃくちゃで……」
参加できなかった決起集会の内容を聞くと、綱吉から大層悲惨な話が飛び出た。
「……なるほど、京子さんのお兄さんが強行採決で綱吉様を棒倒しの総大将に」
「そーなんだよ~~!!もう100m走どころの話じゃなくなって先パイ達からは白い目で見られるしさぁ~!総大将なんて絶対ムリだよーー!!」
「そんなのやんなきゃわかんねーぞ」
帰路を共にしていたリボーンは普段と変わらず前向きに励ます。
「おまえは棒倒しの怖さを知らないからだよ!!」
泣きそうな顔で綱吉は棒倒しの壮絶さを懇々と説明する。
そして極めつけは、どうやら対抗クラスの総大将は空手部主将と相撲部主将という、まさに倒すのが絶望的なほどのリーダーだということだ。
「ワクワクするな」
「ガクガクするよ!!」
愉快そうに笑うリボーンに綱吉は必死にツッコミをする。
(「まあ相手がそれなら、そりゃA組総大将はボクシング部主将であるお兄さんが適任だよなー……」)
誰もが適任だと思っていた人物が体力の無さそうな綱吉にその任を振れば、綱吉も相当いたたまれない気持ちであっただろう。
「ツーナさん!」
総大将という重荷で落ち込む綱吉に可愛らしい声が呼びかける。
「こっちですよー」
「ハル!」
「!?」
二人で声のする方を見上げると、そこには同じ年頃と思われる女の子が何故か電柱にしがみついていた。
「なっ、何してんだよ!?」
「リボーンちゃんに聞きましたよ!ツナさんの総大将決定を祝って棒倒しのマネです!!」
(「なんてアグレッシブな。しかもスカートで」)
パワフルなハルにやや引いていると、やはり綱吉も同じところが気になったようで頬を赤らめている。
「バカ!恥ずかしいからやめろよ!!」
しかしどうやら降りられなくなってしまったようだ。
苦笑いするハルを何とか降ろし、やっと同じ目線に立つ。
「ところでツナさん、こちらの方は……?」
「あー、この子はこの前転校してきたリボーンの知り合い」
「初めまして、縹 朔夜と申します。以後お見知り置きを」
「私、三浦ハルっていいます!こちらこそよろしくです!」
軽く会釈をする桜に返しつつもまじまじと見つめ返すハルに桜は首をかしげる。
「あっ、すみません!その……縹さんがツナさんと似てる気がしまして」
「いえいえ。綱吉様の遠縁になるので気のせいではありませんよ」
「やっぱりそうなんですね~!……ところでツナさん、明日うちの学校休日なんです!ツナさんの晴れ姿見に行きますね!!」
急に話題を切り替えたかと思えば、ハルから唐突な観戦宣言を受ける綱吉。
「い!!いいよ来なくて!」
こちらの事情など知らないために、純粋な気持ちで応援に来ようとするハルに綱吉は慌てて拒絶してしまう。
「はひ?どーしてですか?」
不思議そうな顔で尋ねられるが綱吉は気まずそうに口ごもる。
そんな綱吉の様子に桜は”そういうことか”とあることに気づいた。
本命の笹川京子でなくとも、見知った女の子に醜態を見せてしまうことが恥ずかしいのではないか……ということだ。
やはり男の子だ、異性にはカッコよく見られたいものなのだろう。
しかし綱吉は自身の実力をしっかり理解している。
運動音痴の自分が体育祭の、それも総大将を任されたところで失敗するのは目に見えて分かっていた。
その表情からしても総大将という大任はやはり分不相応だと思ったらしい。
「と…とにかく見にきちゃダメだぞ!!」
「あっ ツナさん!」
ハルに釘を刺し、自身の家とはやや違う方へに走り出す綱吉が向かう先に何となく予想を立てる。
(「もしかして笹川了平に直談判するのかな」)
「ツナさんどうしちゃったんでしょうか?」
急に置いてけぼりにされてしまい、ハルも驚いた様子だ。
「何か大事な用事でもあったんじゃないでしょうか。明日は大事な日ですし、気になることはしっかり解決しなければ集中できませんから」
「なるほど、ツナさん気合い入ってますね!じゃあなおさら応援に行かないといけませんね!」
全くそんなつもりはなかった発言が観戦への後押しをしてしまい、桜は”やらかしたな……”という様子で思わず明後日の方向を見つめた。
「それでは明日の準備のために帰りますね!また明日お会いしましょー!」
その気まずそうな様子も特に気にしないハルは、手を振りながら元気よく帰っていき桜も会釈で返す。
「ツナには悪いことしちゃったな……とりあえず私も帰るか」
ため息をつきつつ数歩ほど歩いたところで桜も大事な用事を思い出した。
「そういえば野菜がそろそろ無くなるんだった。買わないと明日の分がやばい」
商店街までの道のりを歩く途中、川に差し掛かったところで何やら聞き覚えのある声が響く。
棒倒しで使う棒を持った笹川了平に、山本武と獄寺隼人に加えて綱吉も居合わせていた。
「なるほど、何かで直談判してその上練習に付き合わされてるって感じか」
よくよく見れば付き添いのリボーンは象の被り物にムエタイらしき格好をしている。
以前聞いた”パオパオ師匠”というタイの長老設定のコスプレで笹川了平を信用させたらしく、今回もその格好で練習するように仕向けたようだ。
しかしリボーンが上手いこと焚き付けて練習を始めたものの、協力者となるはずの獄寺隼人と笹川了平は馬が合わない様子。
「すんごい喧嘩してるけど大丈夫かなぁ……」
心配そうに見つめる桜だったが、やはり不安は的中したらしい。
「消さんかぁ!!」
棒倒しの棒を三人で支えながらも、普段と変わらずいつも通りタバコに火をつけた獄寺隼人に笹川了平は実力行使でそれを止めたのだ。
先日も応接室の件で雲雀恭弥にタバコを止められた獄寺隼人は二度にも渡って喫煙を阻害され、その苛つきはあっさり頂点に達してしまう。
「ちょっお前ら!ちゃんと支えろよ!!」
獄寺隼人がダイナマイトを構えればそれに負けじと笹川了平も乗り気で臨戦態勢となり、一人にされた山本武は慌てふためくもそれはあっけなく終わりを迎えた。
当然ながら棒倒しは通常大人数で支えるものだ。
それをわずか三人で支えていたところで二人が同時に手を離せば結末は目に見えている。
「わりーツナ!倒れるぞ!!」
先ほどリボーンに死ぬ気弾を撃たれて調子良く登ったものの、効果が切れてしまったツナはその重力に逆らえず川に落ちてしまう。
「まずい、ツナが風邪引いちゃう!」
慌ててカバンからフェイスタオルを引っ張り出し駆け寄るが、水温がかなり低かったらしく綱吉はガタガタと震えていた。
「大丈夫ですか!?」
「えっ朔夜くん!?ありがとう~~助かる……」
残暑があるためリボーンには大丈夫だと言われてしまい帰されたものの、桜の心配はいまいち拭いきれない。
「大丈夫かな~……どうにも悪い予感がする……」
不安を抱えつつも眠り朝を迎えると、桜はいつもより早めに学校へ向かった。
何より、昨晩のうちに念の為リボーンへ出したメールに全く返信が来ないことも桜をより心配させる要因だった。
「もー、どうしてリボーンさんは何も返信をくれないの……ツナ来てるかなぁ」
自由気ままな上司の文句をブツクサと垂れつつも校内を歩き回ると、やっと見知った後ろ姿を見つける。
「いた……!綱吉様!!」
「あぁ朔夜くん……おはよ~」
いつもより赤みを帯びた顔色とふらつくような様子の綱吉に胸がざわつく。
「どうしたんですか?なんだか様子が……」
「昨日川に落ちたせいで熱があるみたいで……それで保健室で寝てようかと」
「それは大変です!すぐに行きましょう!!」
慌てつつもゆっくり横から支えて保健室へ向かう。
「すいません…カゼひいて……あの、熱があるみたいで……」
「カゼぐらいで休ませねーよ」
やっとの思いで辿り着いたのに、養護教諭は何故か冷たい態度だ。
そもそもこんな背丈だったろうかと桜はまじまじと見つめるが、次のセリフでその違和感の正体が判明する。
「つーか男に貸すベッドはねーんだ。女性はいつでも歓迎だけどな」
くるりと振り向いたその顔に桜は思わず顔をしかめた。
「Dr.シャマル!!」
「なんでここに?」
とっくにイタリアに帰ったと思われた男がまさかの並盛中におり、二人はかなり驚いた様子だ。
どうやら話を聞くところによると、夜遊びのしすぎで無一文になったため急きょ募集していたここの養護教諭となったらしい。
「そんなことはどうでもいいんですよ、ここに病人がいるんですから仕事してください」
「だーかーら、何度も言ってるが…… !!オジさんにチューさせてくれーっ!」
「本当にあなたは相変わらず……」
外から聞こえる歓声にシャマルは飛びつくように窓から出ようとする。
「わかったらとっととけーれ!」
シッシッと追い払うような素振りのシャマルだが、桜としては何としてでも診てもらわねば困るのだ。
最悪の場合は自分の正体を明かしその武器でやるしか……と覚悟を決めかけたところで、桜は綱吉がいないことに気づいた。
「えっ、あれっ!!?」
慌てて廊下に出るものの、綱吉の姿はどこにもない。
「オレは悪くねーからな。カゼひいたのがアイツじゃなくてお前なら診てたんだが」
「いえ、バカ正直に頼ろうとしてたのが間違いでした。問答無用で寝かせてあげなかった私のミスです」
落ち込んだ様子の桜にシャマルは呆れた顔で見下ろす。
「リボーンから聞いてた通りのブラコンだな、お前」
「聞いてた通り?リボーンさんから何を聞いたんです?」
「それよりアイツ探さなくていーのか?」
初耳な話に詰め寄るが、最もな返しをされ桜は言葉を詰まらせてしまう。
「~~!あーもう!今度ちゃんと聞かせてもらいますよ!」
捨て台詞を吐いて走り去る桜にシャマルはニヤニヤを笑みを浮かべた。
その顔は茶化すような表情ではなく、心配する親のような優しげな表情だったのを桜は知る由もない。
___to be continued.
*後書き*
今回は原作に則り前半と後半で分かれます。
話数が多いのでひとまとめにしようと思いましたが、そんな器用にまとめられるほと文章力なかったですね。
ここまで読んでくださりありがとうございました!