大空の影になりたい夜の子の話   作:雪の細道

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28:体育祭後半

「はぁあぁぁ~~~~……私なにやってるんだろ……」

 

楽しそうに体育祭を満喫する同級生を遠目に眺めながら、手元の書類にぺたりと判子を押す。

 

本来であれば同級生に混じり、桜も体育祭に参加しているはずだった。

 

しかし快晴の空の下、体育祭のために設けられた仮設テントで桜は書類とにらめっこをしていた。

 

「余計な口叩いてないでその書類早く片付けなよ。終わったら君は校内の見回りね」

 

先に書類整理が終わった雲雀は優雅に寛ぎながら桜の手元を眺めていた。

 

「この書類もですけど、見回りとか必要あります?」

 

手元の書類には”遺失物届け”と書かれている。

 

一般的であればこういった仕事は体育祭の運営本部がやるべきことだろう。

 

しかし並盛中においてはその一般的な概念とは違ったようで、雲雀は”そんなことも知らないのか”とでも言いたげに呆れた様子で顔を背けた。

 

「他の学校より貴重品の紛失が多いのさ。その回収された貴重品を風紀委員が管理してるから確認書類が回ってくるだけ」

 

「じゃあ見回りは?」

 

「校内だと参加種目が回ってこない男女が不純異性交遊をしてるから、学校付近は他校の女子や不良が群がるからだよ。分かったなら早く進めて」

 

説明を聞きつつ次の書類に判子を押し、桜はふと首をかしげた。

 

「あの、他校の女子っていったい何の用で来るんです?」

 

「君のクラスにも一人や二人くらい人気の男子がいるでしょ。そういうのの目当てでうちの生徒の家族に紛れる不届き者が毎年絶えなくてね」

 

”人気の男子”と言われ、桜も何となくその様子が想像できる。

 

中学生といえばスポーツに秀でていればモテる部類に入る。

 

さらに容姿が整っていれば校外でもそれなりの噂にはなるだろう。

 

山本武や獄寺隼人を思い浮かべ、それは確かに仕方ないなと桜は呟いた。

 

「書類、終わりましたよ。私は校内の見回りでしたっけ?」

 

「そう。僕は学校の周りを見回るから」

 

そう言って雲雀は学ランをひるがえしスタスタと校門へ向かう。

 

「というか私のこと待ってる必要あったのかな」

 

さっさと先に行けばいいのに、と独りごちる桜に、傍で見ていた草壁がそっと耳打ちした。

 

「たぶん、委員長はあなたのことが心配だったんですよ。ご自分が学校の外を回ってあなたに校内を任せたのもおそらく……」

 

困ったように笑う草壁に桜はいまいち腑に落ちない様子だ。

 

「うーん……あの人、他人を思いやるような性分じゃないと思いますよ。単にサボらないか見張ってただけでは」

 

「そ、そうですね……」

 

「じゃあ私、校内の見回り行ってきますね」

 

そう言って駆け出す桜に草壁は小さなため息をこぼす。

 

「先は長そうだ……」

 

一方、校内の見回りを任された桜の歩みはさりげなく観覧席へと向かっていた。

 

応援に行くと言っていたハルやビアンキに会えれば多少なりとも参加できなかった不満が紛れると思ったからだ。

 

しかし、数メートルまで近づいてあと少しの距離でその足は止まってしまう。

 

よく見知った後ろ姿が、どうにも桜を前に進めさせてくれない。

 

「母さん……」

 

数年ぶりに見るその姿に、嬉しさと悲しさが混ざったような、複雑な感情がぐるぐると心の内を駆け巡る。

 

できればすぐにでも駆け寄って抱き締めたいところだが、自らが過去に犯した過ちや、まだその時機ではないことに唇を噛み締め桜はそっとその場を離れた。

 

「でも……元気そうで良かった」

 

昔と変わらない姿に、安心したように涙が零れ落ちる。

 

誰にも見られないようにと足早に校内に入ると、ふいに近くでドサリと何かが落ちる音が響いた。

 

「……?まさか、雲雀さんが言ってた通りに生徒が……?」

 

あらぬ現場を想像しつつ音が聞こえたトイレをそっと覗き込む。

 

「よぅ」

 

「リボーンさん?こんなとこで何して……えっ!?」

 

水○黄門のようなコスプレに驚きつつも、リボーンが乗っかっている巨体に思わず目を見開いた。

 

「この人は……確かB組所属で総大将の押切先輩では?まさか、リボーンさん」

 

悪い予感に恐る恐る聞くとリボーンはニヤリと口角を上げる。

 

「安心しろ、ちょっと気絶してるだけだ」

 

「気絶に”ちょっと”とかありませんが。なんでこんなことを?」

 

「ついさっきな、ちょうど了平と獄寺が喧嘩してイイ感じにC組総大将の高田ってやつをぶん殴ったところだったから、ついでにこっちも襲ってツナになすりつけることにした」

 

「なんて??」

 

情報量の多さに思わずあらぬ方向を見上げる。

 

「えーっと……”ちょうど”とか”イイ感じ”とか楽しそうに言ってますけど、要は場外乱闘をツナのせいにしてるってことですか?」

 

「物分かりがいいな」

 

あっさりと認めるリボーンに、桜の眉間のシワが三割増で増えてしまう。

 

「わかりました、言いたいことは山ほどありますがとりあえずツッコミは諦めます。でもなんでわざわざそんなことを?」

 

「B組C組の総大将が倒されればそっちで合同チームになるだろ?そこをツナが一網打尽にするってわけだ」

 

(「相変わらず無茶苦茶なことやってるな……」)

 

スパルタっぷりにドン引きしつつも、しかし疑念はまだ残っている。

 

「しかし合同チームになったところで相手方は誰を総大将にするんでしょうか?」

 

「あぁ、今のところは誰もいないだろうな。でもヒバリが出てくる可能性がある」

 

「雲雀さんが?あの群れるのが嫌いな人がわざわざ参加するでしょうか」

 

性格的に難しそうだと考える桜に対してリボーンはそうでもなさそうだ。

 

「アイツあれでたぶん負けず嫌いだからな、応接室の時のことでオレ目当てにツナと戦うかもしれねぇぞ」

 

「はぁ……」

 

「んじゃ、オレは相手チームにタレコミ行くからな」

 

颯爽とトイレの窓から出ていくリボーンに呆気にとられつつ、足元に転がる先輩を眺める。

 

「……とりあえず応急処置はしてあげるか」

 

しばらくするとリボーンのタレコミのせいか、遠くから揉め事のようなブーイングが響いてきた。

 

先輩を保健室に送り届け風紀委員のテントに戻ると既に見回りを終えた雲雀が椅子で寛いでいる。

 

「終わった?」

 

「終わりましたよ。負傷者1名を除いてどこも異常ありませんでした」

 

ほとんど見回りしていないにも関わらずしれっと嘘をつく桜。

 

「ふぅん……まあいいや」

 

何かを言いたげな雲雀だったが、それはふいに流れた校内放送で遮られる。

 

《皆さん静かにしてください》

 

どうやら棒倒しの問題が深刻だったのか、審議するために三年生の代表を呼び集めたようだ。

 

お昼休憩を挟むとのことで桜はよっこいしょと立ち上がる。

 

「どこ行くの」

 

「自分のクラスの応援席ですよ。そこにお弁当あるので」

 

風紀委員の仕事は予定外だったため、お弁当は置き去りにしていたのだ。

 

そのままお昼ご飯を食べに戻ろうとするが雲雀の鶴の一声でそれも叶わなくなってしまう。

 

「じゃあお弁当はここに持ってきて食べなよ」

 

「なんでですか……」

 

「風紀委員だから」

 

(「リボーンさんに負けず劣らずの無茶苦茶だ!」)

 

横暴すぎる命令にため息をつきつつも、逆らえないと諦め渋々お弁当を取りに応援席は向かった。

 

途中、運営本部のテントの近くを通ったためさり気なく中を覗いてみると笹川了平が何やら押し問答をしているのが見える。

 

「B組C組を合同にするのに反対してるのかな……まあ三対一じゃ不利だしね~」

 

実際は正反対の主張をしているのだが、並盛中に入って日の浅い桜に笹川了平の性格など把握しているはずもなく、もうすぐ知ることになる結果が真逆になっていたとはまるで予想もついていない。

 

正々堂々とした戦いをしたいのだろうと勝手に思い込み、満足気にその場を離れた。

 

「あっ、ビアンキ姐さんも来てる」

 

声をかけようかと思った桜だが、周りには敵意むき出しのB組やC組が睨みつけていた。

 

しかし美人のビアンキに下心で誘き寄せられ、差し出されたチョコレートを躊躇なく口にしてしまう。

 

「あれ……?食べて大丈夫なのかな」

 

心配になりつつも、上出来な反応にさすがに杞憂だったか……と自身はお弁当を回収して戻ろうと背を向けた。

 

しかし、一斉にドサドサと倒れ込む物音に嫌な汗が背中を流れる。

 

「A組の総大将が今度は毒もったぞ!」

 

リボーンがわざわざ拡声器であらぬデマを叫び出す。

 

「やっぱりポイズンクッキングだったか~……」

 

真の敵は味方にあり、のような言葉があるが、綱吉にとってはまさにこのことだろう。

 

身内による予想外の援護射撃によって、相手チームからの敵対心をさらに煽る形になり綱吉は震え上がってしまう。

 

《おまたせしました。棒倒しの審議の結果が出ました》

 

校内放送によって告げられたそれは、綱吉にとってさらなる追い討ちとなる。

 

「合同チーム!?リボーンさんの言ってた通りになった……」

 

さすが九代目に家庭教師を任されるだけあるな、などと呑気に眺めていると、本部の方から笹川了平がトボトボと自陣に戻ってくるのが見えた。

 

「どんな話し合いだったんですか!?」

 

「多数決で押し切られたんすね!」

 

駆け寄ったチームメイトが口々に憤慨しているが、笹川了平はそれを一喝するように叫ぶ。

 

「いいや オレが提案して押し通してやったわ!!」

 

予想外の反応に全員がドン引きする中で、棒倒しの棒からスルスルとリボーンが降りてきた。

 

「一回で全部の敵を倒した方が手っ取り早いからに決まってんだろ」

 

パオパオ老師のコスプレで容易く笹川了平を丸め込むリボーンに桜は頭を押さえる。

 

先程の放送で”予想通りになるとは先見の明があるなぁ”などと悠長に感心していた数分前の自分を殴りたい気分だった。

 

しかしリボーンのゴリ押しでB組とC組が合同チームになったために、やはり相手方は適切な総大将がいないらしく困惑しているようだ。

 

サッカー部か、レスリング部か等と声が上がる中、それは第三者の急な一声で決まることになる。

 

「僕がやるよ」

 

「ヒバリさん!!」

 

制服のまま棒倒し用の棒に駆け上るとただ一言、”倒さないでね”と圧をかける雲雀に下の生徒は悲鳴混じりに頷いた。

 

「まさか、あの雲雀さんが参加するとはね……これもリボーンさんのゴリ押しなのかな」

 

「ちげーぞ」

 

誰もいないと思って呟いた言葉に可愛らしい声で返事が来る。

 

「ヒバリが実際来るかどうかはあくまでも予想だったんだ。オレがやったのは了平を唆したところだけだ」

 

いつの間にか普段のスーツに着替えていたリボーンは早くもレオンを拳銃に変えていた。

 

「ほとんどゴリ押しじゃないですか。全く自由奔放な人ですね」

 

「それよりお前は参加しないのか?」

 

棒倒しで騒ぐ生徒たちを遠目に眺めながら桜は不満げにため息を漏らす。

 

「呼んだらすぐ来れるようにって、雲雀さんに全種目を不参加にされたんですよ」

 

「そりゃ大変だな。お、いいタイミングだ」

 

適当に流してそのまま綱吉にいつも通り死ぬ気弾を撃ち込むリボーンに桜は呆れたように呟いた。

 

「全然聞いてないですよね……私、無理やり風紀委員に引き込まれたんですよ」

 

「いいじゃねーか、それも経験になる。それに一応は引き受けたってことは任務には支障ないんだろ?」

 

「それはそうですけど……でもせっかく初めての体育祭だったし」

 

「そうスネるな。どーせ来年も再来年もあるだろ」

 

「まあ、確かに……あっツナ落ちた」

 

棒倒しから崩れる間際で死ぬ気モードになり騎馬戦方式で乗り切るものの、支えていた獄寺と笹川了平がまたもや喧嘩を始めてしまい、綱吉はあっけなく地面に落とされてしまう。

 

「アイツらほんとしょーがねーな」

 

「じゃあ私は雲雀さんのところ行ってきますね。たぶん戦えなかったせいで不機嫌になってるでしょうから」

 

「頑張れよ」

 

食べ損ねていたお弁当を抱えテントに走っていくが、伝達ミスでもあったのかそこは既にもぬけの殻だった。

 

不思議に思いつつ念の為応接室に向かうと先に雲雀が帰っていたようで、眉間に皺を寄せて不機嫌そうに椅子に座っていた。

 

「お疲れ様でした。棒倒しはどうでしたか?」

 

「どうも何もないよ。君も見てたんでしょ」

 

不貞腐れた様子の雲雀はやはり満足のいかない顔をしている。

 

「せっかくあの赤ん坊に会えると思ったのに、とんだ無駄足だったよ」

 

「まあそんな残念がらなくても……リボーンさんとはいずれお手合わせしてもらえますから」

 

「そう。それなら気長に待ってようかな」

 

不機嫌だったわりにはすんなり納得してくれたようで桜はホッと息を漏らした。

 

「じゃあ今は君と手合わせしてもらおうか」

 

「なんでそうなるんですか!」

 

やけに素直だと思えば標的をリボーンから桜に変えていたようで、その手には既にトンファーが握られている。

 

「ちょっ!今日はもうだめですよ!!私もう帰りますからね!」

 

「そうはさせないよ」

 

いそいそと帰ろうとする桜を逃すまいとしたのか、雲雀は唯一の出入口である扉に立ち塞がった。

 

「本当に困った人ですね……そんなことしても意味ありませんよ」

 

「何言ってるの?待ちなよそっちは窓、」

 

予想外の動きに反応が遅れた雲雀を置き去りに桜はひらりと窓から飛び降りていった。

 

「ふーん、あんな猿みたいなことするとはね」

 

やや不名誉な感想を抱かれているとは露知らず、桜の足は帰路への道ではなく校舎内に向かっていた。

 

「棒倒しのゴタゴタで忘れてたけど、ツナの風邪大丈夫かな!?」

 

雲雀と押し問答をしていたために閉会式も終わり、校舎の中は後片付けをする生徒達でごった返し状態だ。

 

体育祭で負けて悔しがる生徒や勝って充実していそうな生徒で溢れる中、一際疲れきった様子の綱吉が目立つ。

 

「いた!綱吉様!?」

 

「あ~、朔夜くんお疲れ~」

 

明らかに疲労困憊している様子に桜は心配そうに覗き込んだ。

 

「顔色がよくありませんね。風邪は大丈夫ですか?」

 

「風邪……??あっ!そういえば」

 

桜と同じく綱吉自身も棒倒しのトラブルですっかり忘れていたらしい。

 

「色々ありすぎて完全に忘れてた…なんか思い出したら悪寒が」

 

「怪我もされてますし保健室行きましょう!」

 

しかし、この先でDr.シャマルの存在を思い出しひと悶着起きるとは思いもせず、二人は体育祭の余韻を楽しみながら保健室へと向かうのだった。

 

 

 

___to be continued.

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