大空の影になりたい夜の子の話   作:雪の細道

30 / 31
29:ドッキリはお手柔らかに

「はぁ~~……静かだな……」

 

うららかな晴れた日曜日。

 

何もない休日に布団の温もりに包まれ満喫する桜のスマホが軽やかに鳴り出す。

 

「こんな時に何?……リボーンさんからか」

 

やや不機嫌な顔でメールを開くと、そこには物騒な文字が並んでいた。

 

《ついにツナが殺ったぞ》

 

訳の分からない内容に思わず首をかしげる。

 

「”殺った”……?え、誰を?いやいやそんな、まさかツナが……あれかな、何かの間違いか誤字でしょ」

 

全くお騒がせな人だ、と半笑いでスマホを置き再び布団にもぐり込む。

 

しかし気にしないようにすればするほど、気になってしまうのが人間の性というものだ。

 

二度寝をしようとするがどうにも落ち着かない。

 

「あーもう!」

 

モヤモヤとしたまま起き上がり急いで支度をすることに決めた桜。

 

綱吉のこととなると心配しすぎるあまり、慌てるようにご飯も食べず家を飛び出した。

 

「ん……?あそこにいるのは……山本武?」

 

途中、公園の前を通りがかると出入口でクラスメイトの山本武が何かを見つめて佇んでいた。

 

「おぅ縹か。あれ見ろよ」

 

近づいてきた桜に早くも気づいた山本武は、視線で公園内のある方向を指し示す。

 

「えぇ、獄寺様ですね。何をされてるんでしょうか?」

 

ベンチに座りボーッとただタバコを吸うだけで、特に何かをしている様子はない。

 

「ヒマだー」

 

目の前をてちてちと歩くハトに向かって喋りかけた獄寺に桜はなるほどと頷いた。

 

「あー、ヒマなんですね」

 

「ヒマみたいだな。オレちょっと声かけてくるわ」

 

そうして一部始終を見られていた獄寺は恥ずかしさでキレつつも、三人は沢田家へ向かうこととなった。

 

相変わらず仲がいいのか悪いのか、獄寺と山本の会話を聞きつつ桜はある懸念を抱く。

 

リボーンからの不穏なメールで迷わず綱吉の家へ向かっていたが、奈々がいれば桜はなるべく顔を会わせないようにしたい。

 

うっかり鉢合わせなどしてしまえば、桜にとってあまり好ましくない流れになるのではと心配していた。

 

(「メールで一応聞いてみるかな……」)

 

しかし先程の画面を開くと、リボーンからのメールに続きがあることに気づく。

 

【ついでにママンなら買い物でいないからな】

 

心配する桜を見越していたのか、追記には奈々の行動を前もって知らせてくれていた。

 

「さすがリボーンさん……」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「いえ何も」

 

独り言を聞かれていたのか、山本に問われるが桜は取り繕うように首を振った。

 

「さてやっと着いたぞ」

 

中に入り上がらせてもらうと何やら二階が騒がしい。

 

「よぉツナ!」

 

「おじゃまします十代目!」

 

口喧嘩しつつもしっかり挨拶しながら獄寺と山本が部屋に入ると、何故かハルがテーブルの下に頭を突っ込んでいた。

 

一瞬かくれんぼかと思われたが、空気からしてどうも違うようだ。

 

「オレの人生は終わったんだ~~~!!も──自首するしかない~~!?」

 

泣きわめく綱吉とハルに一同はポカンとする。

 

「ええっと……一体何があったんです?」

 

二人をなだめつつ事情を聞くと、どうやらリボーンからのメール通り綱吉が手違いか何かで見知らぬ人を射殺してしまったようだ。

 

しかし銃声を聞いて拳銃を握っていただけで、綱吉が明確に意思を持って引き金を引いたわけではない。

 

不自然な状況に山本と獄寺も半信半疑な様子だ。

 

「確かに綱吉様が言うように出血が見られますが……それにしては少なすぎる」

 

変わった死体に首を傾げていると、獄寺が先ほどまで吸っていた自身のタバコを近づけていた。

 

「おい 起きねーと根性焼きいれっぞ」

 

「ちょっとちょっと!」

 

慌てて止めようと獄寺の傍に寄るが、ふと死体の顔にどことなく見覚えがあるような錯覚を抱いた。

 

(「あれ、この人どこかで……」)

 

もう少し見ようと近づいたその瞬間、獄寺のタバコによるものか死体がピクリと動く。

 

「動いた!?」

 

背後のハルも”救急車呼びましょう!”と慌てているが、いつの間にか現れたリボーンが止めに入った。

 

医者を呼んでおいた、と宣うリボーンに桜の脳裏に嫌な予感がかすめる。

 

案の定、部屋の外から引っ張ってきたのは泥酔状態のDr.シャマルだ。

 

「リボーンさん……この人完全に仕上がっちゃってますけど」

 

「安心しろ。酔ってても腕は確かだ」

 

いまいち信用できない言葉に呆れていると、傍にいた獄寺が思い出したような反応を見せた。

 

どうやら実家の専属医だったようで、会う度に違う女性を連れていたらしい。

 

「よぉ隼人じゃん」

 

ほんの少し酔いが覚めたシャマルが懐かしそうに話しかけるが、獄寺はスケコマシと吐き捨てており、かなりの塩対応だ。

 

桜の記憶に残る昔のシャマルも、よく女性を口説いていた覚えがある。

 

冷たい反応の獄寺につまらなさそうにするシャマルだが、それよりも重大な患者がすぐそこにいる。

 

「早く患者を診てくださいよ!!」

 

綱吉に急かされシャマルはかったるそうに辺りを見回す。

 

「んーーどれどれ」

 

やっと診てくれるかと思いきや、シャマルの両手はベッドの死体ではなくハルの胸に当てられていた。

 

「キャアアアア!!」

 

シャマルの左頬に華麗な右ストレートをぶちかますハルに、桜は思わず”おぉ”と小さく感心した声を漏らす。

 

即座に反応して拳を出せるハルにシャマルは感心しているが、どう考えても女目当てだったのは明らかだ。

 

綱吉が死体を指して患者だと言うが、シャマルは相も変わらず男性拒否のスタイルを崩さない。

 

「あの……リボーンさん?分かっててやってます?」

 

「そーいえばそーだった」

 

わざとらしい素振りのリボーンに桜も綱吉も呆れ返る。

 

しかしシャマルはその生きていると思われた死体に懐疑的な様子だ。

 

言われるがまま瞳孔と呼吸と心臓をチェックしてみるが、どれも言われた通りの状態になっている。

 

ショックで静まり返る一同に反してシャマルはあまり気にしていないようで、”仏に用はない”と医者らしからぬ発言を残して帰っていった。

 

頼みの綱だったシャマルにすら見捨てられ、綱吉はこの世の終わりのような泣き声で叫ぶ。

 

「つ、綱吉様 まだ終わりと決まったわけではないですよ!まだ何か手が……」

 

桜がなだめているとリボーンがタイミングよくもう一人を呼び出したようで、外からバイク音が鳴り響いた。

 

そのバイク音が家の前で止まると、間を開けず屋根に誰かが駆け上がる音が足元に伝わる。

 

(「あれ?この気配まさか……」)

 

感覚に敏感な桜がいち早く気づいた直後、窓がガラリと開いてご機嫌そうな雲雀が姿を見せた。

 

「やぁ」

 

「ヒバリ!?」

 

恐怖に慄く綱吉達三人だが、桜の目は違うところに向いている。

 

「雲雀さん……さすがに窓から入るのは普通じゃないですよ」

 

(「気にするトコそこ!!?」)

 

綱吉は内心ツッコミするものの、しかし桜の疑問も至極当然ではある。

 

「関係ないね。僕は好きな時に好きなところから入って好きな時に出ていく」

 

(「そういえばこういう人だったわ」)

 

相変わらずな返答に唖然とする一同を他所に雲雀はさっそくリボーンに話しかける。

 

「やぁ赤ん坊」

 

「待ってたぞヒバリ」

 

取り引きのために来たと言う雲雀は、ベッドに転がる死体を足蹴にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「やるじゃないか。心臓を一発だ」

 

「感心してる場合じゃないんですけど?」

 

心配そうにする桜を無視して雲雀はすぐさま死体の処理を打診した。

 

殺しの事実を揉み消してくれることを喜ぶリボーンだが、常識的に考えればそれもそれで最適とは言い難い。

 

早くも帰ろうと窓から出ようとする雲雀に桜は慌てて駆け寄る。

 

「あの雲雀さん、処理とは言いますけど色々まずいのでは……」

 

「何言ってんの?君なら気づいていると思ったけど、もしかして君の目は節穴かい?」

 

「えっ」

 

そのままフッと笑みを浮かべると、雲雀は颯爽と来た時と同じように窓から帰っていった。

 

一方、意味深なことを言われた桜はその言葉の意味を唱えるように反芻していた。

 

(「”気づいている”……何に?まさか死んでいた事実が違うってこと?」)

 

何かを見落としている、と考えた桜は再び死体を見つめる。

 

入念に観察しようと近寄るが、背後では獄寺が雲雀にダイナマイトを投げつけてしまったらしく、打ち返されたダイナマイトはまっすぐ部屋の中へと向かっていた。

 

「やば……間に合わない!」

 

綱吉だけでも守ろうと手を伸ばしたその時、ベッドの方で何かが動いたのを視界の端で捉えた。

 

「綱吉様!大丈夫ですか!?」

 

「な、なんとか……」

 

獄寺の投げたダイナマイトが少量だったおかげか、部屋の中はかなり荒れたものの全員無事な様子だ。

 

「あれ!?」

 

素っ頓狂なハルの声に振り向くと、ベッドから死体が消えている。

 

綱吉は爆発の衝撃で吹き飛んだと心配しているが、桜が先ほど視界の端で見えたものである確信を抱いていた。

 

「いや~~死ぬかと思った。危ない危ない」

 

「……やっぱり」

 

口から吐血した状態の死体が喋り、綱吉は慌てふためく。

 

《殺され屋のモレッティ》

 

そう呼ばれる彼は桜にも見覚えがあった。

 

ボンゴレに引き取られ殺し屋になった桜が、まだ未熟な初期の頃にサポートとして何度か任務を共にしていたのだ。

 

「お久しぶりですね朔夜さん」

 

「お久しぶりです、モレッティさん」

 

”アッディーオ”の説明をされながら挨拶を交わす傍ら、その荒唐無稽な特技に綱吉はツッコミや呆れでヘナヘナとその場にへたり込む。

 

「ていうか朔夜くん、知り合いなら先に言ってよ~……」

 

「いやぁ申し訳ありません、なにせ数年ぶりだったもので……」

 

すっとぼけるように笑うが、リボーンはそれが記憶障害による影響だと気づいていたようで何も言わない。

 

一方でモレッティのドッキリは好印象だったようで、山本だけでなく気難しい性格の獄寺すらこのひと騒動はお茶目なお遊びとして成功を収めていた。

 

「ところでモレッティさんはいつまで日本に?」

 

「ちょっと長めの休暇なので、明後日までは色々巡る予定です」

 

朗らかに答えるモレッティにリボーンが思いついたように話しかけた。

 

「それならツナ、せっかくだし並盛を案内したらどうだ?」

 

「ええっ!?」

 

「おっ、いいなそれ!」

 

せっかくの日曜日が……とへこむ綱吉だが、山本と獄寺はモレッティを気に入ったようで前向きな反応を見せる。

 

「どーせ日曜日だからってグータラするつもりだったんだろ。さっさと行ってこい」

 

「ひいっ!?分かった分かった!銃向けるなってば!」

 

慌てるように綱吉はモレッティと二人を連れて部屋を出ていった。

 

「ではハルもこれで失礼しますね!屋形船も直さないといけないので……」

 

どう見ても直すレベルではない残骸を沈んだ様子で回収し、ハルは半泣きになりつつ帰っていく。

 

「……さてリボーンさん、わざわざツナ達を追い出して人払いした理由はなんでしょうか」

 

すっかり静まり返った部屋に桜のため息まじりの質問が響く。

 

「まあそう怒るなって。モレッティと昔の話をしたかったのはお前の顔を見れば分かる」

 

いそいそと自分用の椅子を用意し優雅に座るリボーン。

 

「セッティングはちゃんとしてやるから。それよりお前、この前来た時に自分で昔使ってた部屋見てないだろ」

 

いつの間にか淹れていたコーヒーをすすりながらチラリと桜を見やる。

 

「ええまあ……父さんから聞いた話だと母さんには事情を説明したらしいですけど、ツナへの配慮から私に関わる私物はおそらく処分してるはずですし」

 

”わざわざ見るまでもない”とでも言いたげな様子の桜にリボーンは呆れたように小さくため息を零した。

 

「お前はバカだな。とにかく部屋見てみろ」

 

「……?わかりました」

 

促されるように部屋に入ると、そこには見覚えのある景色が広がる。

 

昔と違ってベッドやタンスなどの配置は多少変わってはいるものの、その懐かしい光景は数少ない記憶とほとんど変わりない。

 

「ほら、やっぱり見てもしょうがないじゃないですか。大体、小さい頃は母さんと同じ部屋だったんだから家具がそのままなのは当たり前でしょう」

 

やれやれと首を振る桜の横を通り過ぎたリボーンは、おもむろにクローゼットの扉を開けた。

 

「ちょっリボーンさん!勝手に開けたら……!」

 

「バカ桜、ちゃんとよく見ろ」

 

慌てる桜の前にリボーンは小さな衣装ケースを出して見せる。

 

蓋を開けてみれば、その中には幼い頃に自身が使っていた衣類やおもちゃなどが宝箱のように納められていた。

 

「これは幼稚園に行ってた時の制服……こっちは七夕祭りに着た浴衣一式……」

 

その懐かしい香りに、昔の記憶が朧気ながらもじんわりと蘇る。

 

「な?見て良かっただろ」

 

優しく背中をさするリボーンの手に温かさを感じながらも、桜は必死に涙を堪えながらもこくりと頷いた。

 

「まだ気持ちの整理とかあるかもしれねーが、なるべく早いうちにママンに会ってやれよ」

 

「それはもちろんです。できることならすぐにだって会いたいですよ。ただ、任務に関わる計画があるので九代目にご相談してみないことにはなんとも……」

 

ゴシゴシと目元を袖口で拭い、出した物を大事そうに仕舞い始める。

 

「前にも屋上でそんなこと言ってたな」

 

「はい。これから先、リングを巡った大きな戦いが起こります。そのために段階的な準備が必要なのでちょっとタイミングが難しいんです」

 

「なるほどな。でもそれはオレに伝えてよかったのか?前に詳しく言えないとか言ってたよな」

 

「少し前に九代目からリボーンさんに従うようにとお達しがありまして……元々協力はするつもりだったんですが話す機会がなかなか無かったもので」

 

箱を元の場所に戻し桜はよいしょと立ち上がった。

 

「さて、そろそろ母さんが帰ってくる頃でしょう。私はお暇させていただきますね」

 

「ああ。また明日学校でな」

 

外に出ると、暑さの残る生温い風が桜の湿った目元を撫でつけた。

 

 

 

___to be continued.




*後書き*
最近、予約投稿の編集を予定時刻ギリギリにして予約投稿の意味を成してない上、ギリギリだったために後書きをサボっていました。

猛暑日と酷暑日を反復横跳びするような毎日ですが、皆さま体調は大丈夫でしょうか。私は実家にいた頃エアコンがなかったので乗り越えた身としてはおそらく頑丈なタイプです。今は天国です。

本編の話にはなりますが、このペースで毎話しっかり原作沿いやってると完結まで20年ほどかかってしまうので、執筆頻度を上げつつ日常編をちょっと省略します。省略した回は思いついた時に本編と矛盾しない程度に番外編で出す予定です。その辺はまたジュゲムなどのイベントで告知するのでお楽しみにお待ちいただければと思います。

それではまた次回 ここまで読んでくださりありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。