学校生活、任務と忙しくも充実した日々を送る桜に、ある一つの転換点が訪れようとしていた。
九代目と久しぶりのお茶会をした日、桜は母と再会することに思い悩みその心の内を打ち明けたのだ。
「君の覚悟というのはそんなものかい?」
そう返ってきた問いは桜の甘い優柔さを自覚させ、同時に決心へと導いた。
"家族のため"
ただその目標のためだけに、これまでありとあらゆる艱難辛苦を乗り越え生き抜いてきたことを思い出し、自らの足枷となっていた迷いを振り切ったのだ。
九代目と話したことや自身の決意を静かに聞いていたリボーンは、満足したように口角を上げる。
「やっとその気になったようだな」
「今までご心配をおかけしました」
申し訳なさそうな雰囲気で深々と頭を下げる桜。
「長いこと我慢してきたとこもあっただろ。ちょうどいい頃合いじゃねえか」
そのセリフに呼応するようにレオンもぺろりと舌を出す。
「そうと決まれば早速帰る日を決めるか」
待ってましたと言わんばかりにレオンが10月のカレンダーへと姿を変えた。
"中々器用だな……"と思いつつ桜もそのカレンダーを覗き込む。
「今日が13日だろ、オレのバースデーパーチーが終わったら次がツナと桜のバースデーだからタイミングいいな。明日にしろ」
やや気の早い提案に桜は苦笑いを浮かべた。
「さすがにちょっと早くないですか……?」
「あ?今さら何言ってんだ。ここまで来てガタガタ抜かすんじゃねーぞ」
眼光鋭く睨みつけるリボーンにそっと身をすくめる。
「えーと……じゃあこの13日の誕生日の次の……誰の誕生日って言いました?」
数秒前にあったばかりの発言に聞き覚えのない違和感で首をかしげた。
「オレのだぞ」
「リボーンさんの?」
「バースデーパーチーだ」
「……聞いてませんが」
「そうだな。さっき初めて言った」
(「この人こういうとこあるよなぁ……」)
思わず顔をしかめて虚空を仰いだ。
「あの、そういうことはもっと早く言っていただかないと……分かっていればちゃんと誕生日プレゼント用意できたのに……」
「ああ、今回ばかりはしょーがねえからな。お前はこれから任務だ」
「ガセかもしれないからって決まらなかったアレですか」
小さなため息をこぼしてリボーンは表情を曇らせる。
「オレはこの通りツナの家庭教師で動けねえ。シロで確定しなかったばかりに、桜にはオレのバースデーパーチーに呼べねえのが残念だ」
「リボーンさん、もしかしてですけど任務というより誕生日会の方に重きを置いてますね?」
深刻そうな口ぶりだが、話の内容はだいぶ誕生日会に傾いているのが丸わかりだ。
「おっとバレたか。ツナにはまだ内緒だぞ」
何かを企んでいるかのように愉快そうに口角を上げるリボーンを見て桜はそっと心の中で合掌する。
「まあお前のことだ、任務がガセだろうと本当だろうとさっさ終わらせられるだろ。プレゼントは0時になるまで待っといてやる」
「分かりました!学校が終わったら早急に任務片付けて準備しますね」
リボーンとそんな風に約束を交わし、桜はその後いつも通りの学業をこなすのだった──。
しかし、その意気込みとは裏腹に現実は厳しいようだ。
「……来ないな」
"並盛に怪しい侵入者が接近している"
そんな真偽不明の情報が入ったため、沢田家の付近で待機していた桜だったが待てど暮らせどその侵入者は現れない。
「やっぱりガセだったのかな」
わざわざ高い位置を取り、さらに来日した際に持ち込んだ高性能小型ドローンで周囲を警戒するが今ところ怪しいと思われるような人物は確認できなかった。
かといってその情報が誤ったものか、はたまたシロなのかそれすらも不明確故に撤退することも不可能だ。
にっちもさっちも行かない状況で、無情にもただただ時間だけが過ぎていく。
「一応リボーンさんへのプレゼントは学校帰りに買ったけど……渡す時間あるかなぁ」
終わったらすぐに行けるようにと、ポケットの中に忍ばせておいたプレゼントをそっと握りしめる。
うっすら募りつつある焦りを抑えながら腕時計を見ると、時刻はもう23時半を過ぎている。
「途中放棄なんて絶対ありえないし、来るなら来るで早くしてくれないかな」
握りしめたドローン操作用の端末に苛立ちのあまり若干のヒビが入りかけたところで、連絡用の端末がポケットの中で鳴り響いた。
画面を見ると、そこには"0時を回って変化がなければ撤収可"という指示だ。
「それはもう手遅れじゃん……」
深いため息をこぼしつつ撤収の準備を始めると、残していた一基のドローンから警報音が伝わる。
画面を見ると沢田家の数メートル近くで不審な動きを見せる人物が観測されていた。
すぐさま全ての片付けを終えてその人物へと近寄る。
「こんばんは」
手に持った拳銃で間違いなく該当の不審人物だと確認し、桜は警戒されぬようそれとなく声をかけた。
しかし相手はやや素人寄りだったのか、普通ならば拳銃を隠して一般人を装うのにも関わらずそのまま拳銃を桜に向ける。
「誰だお前!」
「日本の住宅街で声をかけられて拳銃を隠しもしないなんて、ずいぶんと不用意ですね」
「!!お前、まさか同業者ッ……」
そう言いかけた殺し屋は口を開いたまま息の根を止められた。
銃口から薄い煙を漂わせ、桜は不愉快そうに相手の顔を眺めた。
「ボンゴレ十代目に手を出そうなんて百年早いんですよ」
手早く回収班へと連絡を済ませ、流れるようにリボーンへとメールを送る。
端末に表示された時刻は23:56を示している。
急いで沢田家に向かうと門柱の上でリボーンが鼻ちょうちんを膨らませていた。
「寝て……る……?」
「ギリギリだな」
鼻ちょうちんに見えていたのはただのハリボテだったようで、桜はホッと胸を撫で下ろす。
「遅くなってしまって申し訳ありません」
ポケットから綺麗にラッピングされたプレゼントを手渡す。
「お誕生日おめでとうございます。急いでご用意したので気に入っていただけるか分かりませんが……」
リボーンが包みを開けるとそこには木の葉を模した小さなシルバーのネクタイピンが入っていた。
「なかなか良いもんを選んだな」
「リボーンさん、いつもスーツなのでこういうのなら実用的だしシンプルで似合うかなと思いまして」
控えめそうにそう言うとリボーンは満足げにニッと笑う。
「良い読みだ。んでこれは何の葉なんだ?」
「これはアスナロの葉を象ったものでして、木言葉に"永遠の憧れ"という言葉があります。リボーンさんは、私が並盛に来てから色んな面で導いてくださるお方です。いつかそういう他者を思いやって導ける人間になりたいという、そんな憧れを込めて選びました」
数々の助けられた場面を思い出しそう語る。
「いいぞ、気に入った。サンキューな」
「本当ですか?良かった〜……ツナは今日どうでした?」
任務のせいで誕生日会に参加できなかったため、ツナの様子を尋ねるとリボーンはボルサリーノの影で意味深な笑みを浮かべる。
「ツナはなぁ……」
その怪しげな雰囲気に悪予感を抱きつつ桜はゴクリと唾を飲み込む。
「色々あって入院することになった」
「……?入院!?」
どうやら誕生日会の出し物でかなり体を酷使したようで、並盛病院に入院することになったそうだ。
「それなら明日すぐにお見舞いに行きます!」
「ダメだ」
桜の発言にリボーンは却下の判断を下す。
「お前は明日ママンに会うことになってるだろ。九代目ともオレともそう約束したんじゃねーのか」
「でも……ツナが入院なんて一大事の時に私だけそんなの……」
不安そうに視線を彷徨わせる桜。
そんな桜の気持ちを察してか、リボーンは声色を和らげる。
「入院と言っても別に命に直結するような大怪我じゃねえ。そこまで心配しなくても二日か三日もあれば退院できる」
「……」
「そんなに心配なら見舞いはママンに会ってからでどうだ?」
リボーンの提案に桜は少しばかり納得したようだ。
やっと表情筋が緩んだのを見てリボーンはやれやれという様子でため息をこぼす。
「お前は自分の本当の願望に蓋をする癖があるな。行き過ぎた自己犠牲は時として周りも巻き込むことになるぞ」
「気をつけます……」
「そういう素直なところはお前の一番良いところだ。んじゃ、明日10時に来いよ」
そう言い残し、リボーンは家の中へと姿を消した。
「はい。おやすみなさい、リボーンさん」
ーーー……
翌日。
「ちゃんと来たな」
前の晩と同じように門柱の上で佇むリボーンが満足そうに笑う。
「約束しましたしね」
「そうだな。んじゃ早速行ってこい」
「ちなみにビアンキさんは……?」
何となしに所在を尋ねる。
「安心しろ、人払いは済ませてある。ママンはいつも通り中で家事やってるところだ」
急にそんなことを聞かれ、リボーンは怪訝そうな表情に変わる。
「なんだ?まさかここまで来て怖気づいたんじゃねーだろうな」
「いえ、決してそういうわけではないんですけど。……その、どんなことを話したらいいのかなって」
そんなことも分からねえのか、と呆れるようにボルサリーノの下でため息を漏らす。
「昔の思い出話でもすればいいだろ。そんなに覚えてねえなら、九代目に作ってもらったとかいうサポートAIでも使えばいい」
「あっ、確かに……!」
向けられた指先にあるポケットの携帯端末を起動させると、画面上に見慣れたサイバーパンク風の女の子が現れる。
「ニーナさん、私が小さい頃の……およそ4歳くらいまでの記録を検索してここに表示して」
サポートAIが言われるまま記録を表示すると、そこには桜の記憶から抜け落ちていた思い出の数々が色鮮やかに再生された。
両親に初めて祝われた誕生日や3歳で入った幼稚園、家族揃って出かけた七夕の夏祭りやイタリアでの旅など、それは奈々と語り合うには十分なほどだ。
「そいつ持って存分に話してこい。お、タイミングがいいな。ママンが洗濯物干しに出てくるぞ」
感傷に浸りつつその言葉で耳を澄ませると、確かにリビングの奥からパタパタとスリッパの音が軽やかに聞こえてきた。
お礼を言おうと振り返るも、リボーンは気を遣ったのか早々に姿を消している。
庭先には先に干したであろう真っ白いシーツが風に揺れている。
「柔軟剤、ずっと変わってないんだな……」
懐かしい香りに目を細めると、カラカラとガラス戸が開き中から洗濯カゴを抱えて奈々が現れた。
最後に見た9年前よりも髪が短いが、それ以外の見た目はほぼ変わらない。
鼻歌まじりに洗濯物を干す奈々に近寄ろうと一歩踏み出すが、桜はふと自分の見た目を思い出す。
当時はツナと同じハニーブラウンの髪色だったが、今は実験の影響で黒髪に変化している。
4歳だった頃の自分とはだいぶかけ離れた今の自分に、奈々は果たして気づくだろうかーー。
うっすらとそんな不安がよぎった時、目の前にひらひらとアゲハ蝶が飛んでいった。
(「そういえば、蝶は変化の兆しって言うんだっけ……」)
蝶の動きを目で追うように前から視線を背けたその一瞬、ひらめくシーツの隙間から細い腕が自身へと伸びてきた。
あ、と気づくと同時にその腕は包み込むように桜の体にふわりと寄せられる。
それが母の腕だと分かるのにそう時間はかからなかった。
「おかえりなさい、さくちゃん」
「……ただいま」
数年の隙間を埋めるように、抱き合う2人を秋日和の空気が暖かく吹いていた。
__to be continued.
大変お久しぶりです。約1年ぶりの投稿となります。
私生活が多忙になり、執筆する時間が取れないままいつの間にか1年が経っておりました。各プラットフォームでの感想や応援のお言葉大変ありがたく読ませていただいてます。本当にありがとうございます。
やっと落ち着いてきたのでぼちぼちゆっくり再開できればと思ってますのでよろしくお願いいたします。
また告知が遅くなりましたが、REBORNアニメ20周年ということで夢創作オンラインイベント、Re!Dream partyに参加することになりました。展示内容として先行公開エピソードがあるため、今回に限りハーメルンでの投稿ではなく特設ページでの公開となりますのでお楽しみに!
イベント開催は10月10日22時〜11日21時となります。
会場への一般参加は無料となっていますので、興味あればぜひお越しください!
【スペース】い3
【会場URL】
https://pictsquare.net/events/stage3/rv4m35yrx8bvlkitlhkojxk75b7pst3a
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