ぽかぽかとした暖かな昼下がり。
食事を終え、沢田一家はのんびりと午後の昼寝をしていた。
「良い天気ねぇ……」
うとうとする桜を見ながら奈々は穏やかに微笑む。
「そうだなぁ……そういやもうすぐ二人の誕生日だよな」
すっかり寝入ってしまった綱吉を撫でつつ家光は呟いた。
(「誕生日……そういえばもうすぐ1歳か……」)
うららかな日差しにまどろみつつ桜はこの1年近くを振り返る。
産まれた当初は転生した時の衝撃にしばらく悩んだものだった。
その後、とにかく情報収集をしなければと意気込んだが如何せん肉体は産まれたばかりの赤子で、自力で起き上がるだけで四苦八苦する毎日。
努力のかいもあってか、桜は八ヶ月ほどで歩けるようになっていた。
拙い歩き方でも特に大きな怪我をすることも無く、気がつけばもうすぐで一歳になる。
転生した意味について悩むこともまだまだ多いが、一方でこの世界に馴染めるよう新たな人生を楽しむことも考え始めていた。
これからの誕生日に何があるかと、僅かばかりの期待に胸をふくらませつつ頭上で交わされる両親の会話に耳を傾ける。
「誕生日プレゼントは何がいいかしらね~、商店街のぬいぐるみとかどうかしら?」
「おっぬいぐるみか!奈々からのプレゼントはそれを買っておくとするか~」
(「ぬいぐるみか、昼寝のお供に良さそうだな……いや……うん?」)
のんびりとそんなことを思いつつ、何となく違和感を覚える。
家光は"奈々からの"と言った。
まるで自分の予定もあるかのような。
桜はてっきり、プレゼントは家光が二人兼用みたいなものでまとめて買ってくるものだと思っていた。
しかし家光の言い方だと奈々のプレゼントとは別に自分もプレゼントを用意すると捉えられる。
気のせいだろうか。気のせいだと思いたい。
しかしそんな淡い期待も虚しく、その違和感は現実となってしまう。
「じゃあ奈々からのプレゼントはぬいぐるみに決まったことだし、ちょっくらオレもプレゼント買いに行ってくる!」
それだけ子供を愛してくれているということだろう。
原作と比べても遜色のない良き父親であった。
よっこいせ、と立ち上がる家光に奈々はのんきにもあら~と呟く。
「どこまで行くの?」
「ちょっとイタリアまでな!」
前言撤回だ。そこまで良くない。
どこの世界に子供の誕生日プレゼントを買いにわざわざ海外まで行く親がいるのか。
(「えぇ……イタリア?イタリアって言った?プレゼント買うだけでイタリア?」)
「とっても素敵ね!いってらっしゃい」
娘が衝撃を受けているとも知らずに、奈々は何の疑問もなく笑顔で見送る。
数日で帰ってくると思っていた家光が帰ってきたのは誕生日も目前に控えた前日になってからだった。
実に半月近くも不在にしていたにも関わらず、奈々は笑顔で家光を出迎える。
「良いお買い物はできた?」
「おぅ!明日まで楽しみにしててくれよ!」
わざわざイタリアまで行って買ったものとはなんだろうか。
桜はほのかに疑問を抱きつつ、そういえばマフィアっぽい情報がまだ出てきてないなと気づいた。
原作で奈々にはマフィアに関することは隠し通していたため、この時点でも分からないのは無理もない。
しかし転生したこの世界がどこまで原作通りなのか、桜にはまだ把握しきれていなかった。
マフィアとは縁遠い世界線なのか、それとも原作より血なまぐさい展開になるのか。
これから歳を重ねていけば情報もより収集しやすくなるだろう。
一抹の不安と期待を胸に桜は明日への眠りに落ちた。
───***───
この季節に相応しい快晴の今日、迎えた十月十四日。
沢田家に誕生した双子の一歳の誕生日であり、転生した桜の誕生日でもあった。
おめでたい日のせいか、普段の倍よりも賑やかになっている。
家光は朝から大張り切りで居間の飾り付けを行っており、かたや奈々も上機嫌で鼻歌を歌いながら料理を次々と作っていた。
忙しなく動き回る両親を不思議そうに眺める綱吉。
それを桜は微笑ましく見つめていた。
肉体的には一歳児でも中身は成人間近なのだから仕方ないだろう。
それにしても、と桜はふと考える。
視力が安定してから見えるものはそのほとんどが見知ったものだった。
目の前で可愛らしく毛布を被った綱吉は、原作通りの小麦色をしたツンツン頭に小麦色の瞳をしている。
家光も奈々も同じように原作通りの見た目と性格だ。
これで現在住んでいる地名も原作通りなら、やはりここは間違いなくREBORNの世界だろう。
現実世界にREBORNと同じ地名があったら聖地になるだろうし、横で眠たそうに船を漕いでいる兄はいずれ有名人になる。
しかし普通に考えていずれ世に出回る漫画と地名も人物も同じというのは考えにくい。
ぐるぐると思考を巡らせていると、やはり眠たいのか綱吉は頭を桜にぐりぐりと押しつけながらぐずり始めた。
一歳児の脳みそで考えられるキャパシティを超えたのか自分も眠気がきていることを感じ取る。
目が覚めたら夕ご飯かな、などとぼんやり考えながら桜は寄り添うように一時の眠りに落ちた。
───***───
予想していた通り、桜が目覚めた頃には夕ご飯の準備がほぼ滞りなく完了していた。
食卓の上には奈々が腕によりをかけた豪華な料理が並べられ、その真ん中辺りには今回のメインであるケーキが置いてある。
もちろん綱吉と桜が食べるのは離乳食なため量はだいぶ小さめだが、それでも愛情を込めたのがよく分かる品々だ。
いつの間にかリビングに登場していた家光が明かりを消し、ケーキの蝋燭に火を灯すと二人は並んで定番の曲を歌い始めた。
『誕生日おめでとう、綱吉、桜』
ケーキに飾られた一才のプレートをぼんやり眺め、やっと迎えた誕生日にしみじみとしていると頭を撫でられる。
「さぁさくちゃん、ケーキの火を消して、ふ~ってやるのよ」
「ふーっ」
これも定番だなぁ、と思いつつ息を吹きかける桜。
しかし。
「あら~まだ消えてないわよ、ほら、ふ~」
「ふーーっ」
悲しきかな、一歳児の肺活量では蝋燭の火さえ消せないらしい。
「やっぱりまだ難しいわね~、ママが消してあげましょうね」
奈々が出した代わりに消す、という案に小さな焦りを感じる。
こんなたかが1本の蝋燭の火さえ消せないようではダメだと考えたのだ。
「や!やー!」
思う通りに回らない舌っ足らずの口で懸命に訴える桜。
「嫌なの?じゃあ頑張って消しましょうか」
ふんす!と意気込む桜の隣から家光のおぉ~という声が聞こえる。
「すごいな~綱吉は自分で消せたのか」
「まあすごいわ!さすがお兄ちゃんね!」
(「双子なのに私だけできないだと……」)
二人に褒められて上機嫌の綱吉に癒されつつも、小さな闘争心がほんのりと芽生える。
しかしいくら息を吹きかけても火は消えない。
そこで桜はふと考える。
何も一歳児の足りない肺活量で無理に頑張らなくても良いのでは、と。
桜は思い出していた。
(「確か両手を合わせて……ちょっと真ん中をふくらませつつ……中指だけ開く」)
子供時代ならおよそ誰もがやったで有ろう、両手に空洞を開けて拍手のように音を鳴らす遊び。
それを応用しようと思いついたのだ。
実際その試みは成功した。
やや可愛らしい高めな音だったものの、目の前で発した拍手で蝋燭の火は見事に消えた。
できたよ、と意味を込めながら自信ありげに両親を見上げると、二人はぽかんとした顔で自分を見下ろしていた。
(「えっ、なんかまずかった……?一歳児が拍手って発想ありえない??異世界召喚されたなろう系主人公みたいなことした???」)
しばしの沈黙に心拍数が上がる。
しかし桜の心配とは裏腹に家光と奈々は感激していた。
「すごいわさくちゃん!」
「まさか拍手で消すとはな!これは頭がいい!」
思ったより好感度の高い反応でホッと胸を撫で下ろす。
「さぁ、ご飯が冷めないうちに食べましょ」
食卓につき、夕ご飯が終わるといよいよ誕生日プレゼントを貰う時を迎える。
「はい、ママからこれをあげるわね」
娘にプレゼント計画を聞かれていたとは露知らず、当初通り桜と綱吉には黒と白でお揃いのテディベアが渡された。
身の丈程のふわふわとしたテディベアをぎゅっと抱きしめると、奈々も嬉しそうに二人の頭を撫でる。
「嬉しそうで良かったわ~」
「ああ、夜寝る時にも使えそうだな!」
満足そうに笑いながら家光もプレゼントを取り出す。
それは漆黒の長方形をした箱だった。
「何が入ってるの?」
不思議そうに見つめる奈々を横目にそっと箱を開けると、そこには二本のチェーンネックレスが並んでいた。
「ネックレスね、でもデザインが同じだしどっちが誰のものか見分けがつきにくいんじゃない?」
さすが包容力のある奈々である、一歳児には全く不釣り合いで似つかわしくないプレゼントに見分けの差を疑問視するだけだ。
しかし桜も心の内で同じように疑問を抱く。
その反応を予想したらしい家光はまあまあと笑った。
チェーンネックレスをカーペットの上に置き、ネックレスが嵌っていた型紙をそっと外す。
普通ならば何も無いが、そこにはアンティークのようなチャームが二つあった。
「そういうことね」
奈々が理解を示したのを横目に家光は小さく頷く。
それぞれのチャームについた小さな輪っかにチェーンを通すと、幼児には不釣り合いで大きめのネックレスが完成した。
「これは二人で一つの特別なものだ。まあその意味が分かるのはずっと先だろうがな」
そう言いながら、家光は錠らしきチャームのついたネックレスを綱吉に、鍵らしきチャームのついたネックレスを桜の首にかけた。
綱吉はそれが何なのか分かっていない様子で不思議そうに見つめていたが、桜にはそれに見覚えがあった。
(「このチャーム…私が前世でお守りにつけてたネックレスのチャーム……!?なんで……!?」)
自身の転生に引き続き、この世界にあるはずのない存在に不安と衝撃を抱く。
原作での沢田綱吉は本来一人っ子のはずだ。
自分というイレギュラーが入り込んだこの世界がどこまで原作通りなのか。
それをいち早く探る為に、そしてこの下腹部まであるネックレスが相応しく理解できる歳になるまでにも、終わりのない努力をしなければ…と再び静かに決心し桜の誕生日は幕を閉じた。
__to be continued.