大空の影になりたい夜の子の話   作:雪の細道

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05:幼稚園デビュー

再び季節が巡り、桜と綱吉が3歳を過ぎた頃──

 

幼い2人に新たなイベントが差し迫っていた。

 

とりわけ、桜には小さな運命の転換期ともいえるイベントが──……

 

 

───***───

 

 

「それでは、今日からみんなの新しいお友達になる沢田綱吉くんと沢田桜ちゃんです!」

 

この日、綱吉と桜はお揃いの制服に身を包み並盛幼稚園へ入園した。

 

同じ年頃の子供たちが集められた前で先生から紹介を受けつつ、桜は昨夜のことを思い返す。

 

 

 

「え?ようちえん?」

 

「そうよ~、2人共もう3歳になったでしょう?幼稚園に入ればお友達もできて、今より楽しくなるんじゃないかと思って!」

 

夕飯後のまったりとしていた矢先に出された提案に、やっとそんな時期かと納得する。

 

九代目が来訪したイベントの後、4月の年度初めの辺りで幼稚園に入るのではと、桜はうっすら予想していた。

 

だがその予想に反しそれらしきイベントはやってこず、しかし転生した身である桜としては「まぁ15年以上も前のことだし」と半ば気にしない方向で決めたのだ。

 

桜が幼稚園に入るイベントを待ち望んでいたのは情報収集のためでもあるが、それ以外にも実はもう一つあった。

 

それは見知ったキャラクターに会った場合を考えての対処法である。

 

桜としては、確実になりつつある漫画の世界へ転生したという事実をふまえて、できる限り中心に近いキャラクターへの接触は避けるべきだと考えた。

 

既に主人公である沢田綱吉に関わってしまった時点でやや手遅れとも言えそうだが、身内に転生してしまったのは不可抗力なので致し方無い。

 

しかしその後の幼稚園ならば予想できる可能性が大いにある故に、桜はそのイベントをささやかながら待ち望んでいたのだ。

 

そしてその待ちに待った提案を、見た目ごく普通の3歳児が断るわけがなかった。

 

「うん、いってみたい」

 

「良かったわ!さくちゃんならきっとそう言うと思ったのよ」

 

両手を合わせて喜ぶ奈々にやや苦笑しつつも、桜は隣の綱吉にも問いかける。

 

「つなは?どうする?」

 

「さくがいくならぼくも……」

 

早くも眠気に襲われているのか、うたた寝をしながら答えた綱吉に今度は桜が顔を綻ばせた。

 

「まぁ~!ツっくんは本当にさくちゃんにべったりね!それじゃあ早速明日から行くことにするわね!」

 

そうしてとんとん拍子に話が進み、2人はこうして並盛幼稚園へと入園したのだ。

 

話を聞く限り、桜と綱吉は3歳児から入るタイミングとして少々早かったらしく、1歳上の子達と同じクラスに振り分けられたらしい。

 

「じゃあ2人も自己紹介してみようか!」

 

エプロンを着けた先生に促され、桜は気持ち控えめに自己紹介をする。

 

「えっと、さわださくらです……よろしく」

 

ぎこちなさげにぺこりと頭を下げると、まばらに拍手が起きた。

 

子供らしさはちゃんと出たらしい、と安堵しつつ隣の綱吉をちらりと見やる。

 

そういえば原作では小さいツナは全く見なかったな、などと呑気に考えつつ眺めるが、綱吉のモジモジした様子に首を傾げる。

 

「つな?どうしたの?」

 

「あらあら、綱吉くんはちょっと緊張しちゃったかな?」

 

色んな子供を見慣れてるせいか、先生は特に気にした様子もなく、さくさくと事を進めた。

 

「綱吉くんはちょっと緊張しちゃったみたいなので、みんな後でゆっくり聞いてあげてね」

 

大丈夫だよ、というように頭を撫でる先生に安心したのか綱吉はくしゃりと笑みを浮かべた。

 

そこで桜はようやく「あぁ、」と気づく。

 

原作ではダメツナと呼ばれ、あらゆる事に消極的な部分を見せていたその主人公に幼少期の性格も何となく掴めてきたのだ。

 

中学生の時点で控えめな性格が丸出しだった彼は、つまるところ幼少期から人見知りに近い性分だったのかもしれない。

 

そして桜の予想通りとも言うべきか、綱吉は好奇心旺盛な子供たちに囲まれながら桜の後ろにくっついて怯えていた。

 

“なるべく関わらず”を考えた桜だったが、綱吉のその様子に対し、冷ややかな雰囲気を醸し始めた子供たちに桜は慌ててフォローを入れる。

 

「まだはじめてだから、ごめんね?きっとすぐおともだちになれるとおもうから!」

 

この子はつまらない、と思われてしまう先の結果を想像し、桜はとっさに兄を守る選択肢を選んだ。

 

純粋ゆえに、興味の外側に対する残酷さもある子供の特性を分かっているからこそ、そうせざるを得ないと判断したのだ。

 

昨夜自分に誓ったその決意さえ簡単に破ってしまったことに、桜は小さくため息を吐いたのだった。

 

 

───***───

 

 

「幼稚園どうだった?」

 

家に帰り、おやつも済ませたところで奈々は何となしに当たり前の感想を問いかけた。

 

桜は横ですやすやと寝る綱吉をちらりと横目で見ると、しばらく考える素振りを見せる。

 

「……わたしは、おともだちがちょっとできた。でもつなは……」

 

「ツっくん?」

 

やや不安げな表情を見せた桜に奈々は首をかしげる。

 

「えっと、なんていうか、ひとみしり?みたい」

 

「さくちゃん難しい言葉知ってるわねぇ、すごいわ!」

 

肝心の綱吉に関する内容よりも、奈々は3歳児が発するには少々不釣り合いな単語に目を丸くした。

 

「えっ、えっと……本!本でよんだから!」

 

慌てて訂正するように言うと奈々はにっこり笑って桜の頭を撫でた。

 

「そうよね、さくちゃんたくさんご本読んでるものね」

 

細かいことを気にしない広大な器を持つ母に、桜は密かに感謝しつつ綱吉の今後についてもどうするべきか悩む。

 

本来の目的通り、なるべく関わらずにいた方が無難だと判断したかった。

 

しかし桜の目的はあくまでも桜個人の事情であり、外側から見れば綱吉の妹であるため丸っきり放置というわけにもいかないだろう。

 

そんなことを真剣に考えすぎていたのか、眉間にシワが寄っていたらしく奈々に指で突かれハッと顔を上げる。

 

「そんなに難しく考えなくても大丈夫よ」

 

「でも……」

 

不安げに見上げる桜に奈々は優しげな笑みを浮かべる。

 

「無理してお友達作ろうとしなくてもいいのよ。今はお友達がいなくても、もしかしたら5年後とか10年後とかになって増えるかもしれないし、ツっくんも少しずつ前向きに変わっていけると思うわ」

 

まるで中学生の綱吉を予見するかのように、穏やかに柔らかく言葉を紡ぐ奈々に、桜もやっと安心したのか安堵の表情を見せた。

 

「うん、わかった」

 

「さくちゃんもそうよ」

 

「??」

 

話題の方向が唐突に自分に向けられ、桜は何のことか分からず首を傾げる。

 

「さくちゃんは物覚えも早いしとっても頭がいいわ、それはママやパパにとってはありがたいことだけど……」

 

慈しむかのような優しげな手つきで頭を撫でられるが、奈々の表情は笑っているように見えてどことなく寂しげに揺れている。

 

「そんなに頑張らなくても大丈夫なのよ」

 

身の内に秘めた事情を、まるで見透かしたかのような言葉に桜は僅かに目を見開いた。

 

「あぁ…いえ、決してさくちゃんを責めてるとかそういうわけじゃないのよ?ただ、あなたは本を読んでる時や一緒にお買い物に行ったりした時、とても難しい顔をしてることがあるのよ。きっと何か知りたいこととかやりたいことがあるのね……でも今はまだできなくて、それがとても歯がゆいと感じているのよね」

 

難しい顔、と言われ桜は思わず両頬に手をあてる。

 

「ふふっ、その顔だと全然分からなかったみたいね。……でもあなたはまだ3歳なんだもの、ちょっとくらいできなくてもしょうがないわ。大丈夫よ、あなたの人生はまだまだずっと長いんだから、ゆっくりやれば良いし分からないことは何でも聞いてちょうだいね」

 

小さくこくりと頷いた桜を見て、奈々の顔にはもう先ほどの寂しげな雰囲気は消えていた。

 

「さて、ずいぶん長くお話ししてたからすっかり日が暮れちゃったわねー。ツっくんもそろそろ起こさなきゃいけないけど、さくちゃんはお昼寝しなくて良かったのかしら?それとも何かやりたいことはある?」

 

「ん……本よみたいから、へやからとってくるね」

 

「分かったわ、じゃあ上は寒いからケープ羽織りましょ。今日は満月だし、お夕飯食べたらおやつにお月見団子も食べましょうね」

 

「うん」

 

笑顔の奈々に見送られ、リビングから部屋に戻ると桜は深いため息を吐いた。

 

思った以上に愛されていたことは良かったが、それ以上に誤算が予想外だったためだ。

 

「そこまで見透かされていたなんて……でもあの人そんな鋭くないよね……?」

 

原作で読んだ沢田奈々という人は、確かに器が大きく細かいことは気にしないおおらかな性格だ。

 

しかし、その最大のチャームポイントは何と言ってもあの天然さである。

 

原作ではその天然さ故に、家庭教師として契約したリボーンから始まる、ありとあらゆるマフィア絡みの話をごまかせた。

 

だが先ほどの奈々はどうだろうか。

 

穏やかに受け止めつつも、自らの内側を鋭く見透かしたその母親は原作で見たあの奈々とはややかけ離れている。

 

知っているままの原作とは違う──、とそこまで考え桜はとある単語を思い出す。

 

「パラレルワールド?」

 

その可能性が確かならば、やけに洞察力に長けた奈々にも納得ができる。

 

そしてその可能性はもう一つのイレギュラーにも合点がいくのだ。

 

「1歳の誕生日に貰ったネックレス……」

 

正確に言えばネックレスについたチャームだ。

 

元々このチャームは転生する前の桜が持っていたもの。

 

世界も肉体も全て変わってなお、チャームは変わらない形で桜の元へ舞い戻ってきた。

 

ベランダの外から差し込む月明かりに気づくと、ちょうど雲間から見える満月にかざすようにチャームを見つめる。

 

「たとえこの世界がパラレルワールドだとして母さんが原作とは違っても、綱吉がこの先マフィアに関わり翻弄される運命なら……家族だけは守りたい。できることは限られているかもしれないけど……異物の私でも、せめて家族を守るくらいは……」

 

静かに目を閉じ、願うように小さくそう呟くと不意に手の平から温かな何かを感じ取る。

 

唐突な違和感にハッと目を開くと、そこにはチャームから炎がゆらゆらと揺れていた。

 

「死ぬ気の炎……?」

 

チャームから死ぬ気の炎が出ていることにも驚くが、何よりも桜を混乱させたのはその炎の色だった。

 

桜が前世で読んだ限り、知っている炎は大空を始めとした天候になぞらえた属性の7色のみだ。

 

だが今目の前で揺れる炎の色は、黒に近い深みのある青色に見える。

 

しかもその炎は深い青色の中で星が瞬くように小さくキラキラと輝いていた。

 

吸い込まれるように煌めく、その炎はまるで──、

 

『夜空』

 

ポツリと思わず呟いた桜の声は重なるはずのない新たな声と交わった。

 

チャームから視線を外し前を見ると、外のベランダには見知らぬ女性が佇んでいた。

 

満月の明かりに照らされた黒く長い髪は艶やかに揺れ、ふっさりと長いまつ毛が縁取る瞳は、桜が今しがた出した炎の色とよく似ている。

 

色白の肌によく映える真っ赤なルージュは、シンプルながら軽やかに着崩したスーツによく似合い、ミステリアスに纏わせる雰囲気も相まってその女性が洗練された美人だというのが見て取れた。

 

「……誰?」

 

3歳児を演じることも忘れ素の声色で尋ねるが、女性はさして不思議がることもなく不敵に笑ってみせる。

 

「さっきママンにも言われたでしょ、大丈夫よって。気にしなくてもアタシが誰なのかはそのうち分かるわ」

 

腰掛けていたベランダの柵からふわりと降り立つと、律義にも履いていたパンプスを脱いでスタスタと部屋に入り込む。

 

不法侵入されているにもかかわらず、桜もそれを特に何とも思わず自然と受け入れた。

 

「じゃあさっきの続きを話すわね」

 

しれっとベッドに腰掛けると優雅に足を組みまた笑みを浮かべる。

 

「アンタが言った通り、それは夜空の炎よ」

 

未だチャームに灯る炎を指さし、桜が素直に感じ導き出した答えをそのまま繰り返した。

 

「ついでにもう一つの疑問にも答えてあげるわ。まぁアンタも薄々分かってるみたいだけどね、それは死ぬ気の炎でもあり覚悟の炎でもあるわ」

 

「覚悟の炎?でも炎はリングで、しかも指につけないと……」

 

そこまで言いかけて、桜は例外があるのを思い出す。

 

桜のその思考を読み取ったのかどうか定かではないが、彼女も同じように肯定してみせる。

 

「そう、炎を灯すのに別にリングを指につけなきゃいけないわけではないわ。10年後に飛ばされた沢田綱吉も、笹川京子を守る意思で首から下げたボンゴレリングにそのまま炎を灯したしね」

 

そして例外は一つだけではなかった。

 

「もう一つの例外があるのも……まぁその顔なら分かってるようね」

 

促されるように静かに頷き桜も続けて言葉を紡ぐ。

 

「リング争奪戦の終盤、7つ揃ったボンゴレリングがザンザスの氷を溶かす炎を出した時、だね」

 

「えぇ、つまり例外とは言ったものの、結局炎を灯す必須条件にリングの装着は特にないってことよ。じゃあ装着の必要性が無いって分かったところで次の条件」

 

「リングであるべきかどうか?でも……」

 

まだ分からない様子の桜に彼女は少々呆れた様子を見せた。

 

「バカね、じゃあ沢田綱吉は何に炎を灯して戦ってたのよ」

 

「……グローブ」

 

「九代目は?」

 

「……ステッキ」

 

女性の導きで記憶がやっと掘り起こされてきたのを、あまり納得のいかない桜はやや不貞腐れる。

 

「しかも九代目は雲戦のモスカから出た後、指先に炎を灯して沢田綱吉に記憶を見せてもいるわね。死炎印もその応用よ。つまり、死ぬ気の炎はなんにでも灯せるってこと。そもそもリングを装着した上での炎はあくまでも匣を開匣するための条件なわけだし、覚悟っていうのだって24歳の山本くんがヒントとしてそう言ったまでよ。……まだ何か聞きたいことはある?」

 

大方の疑問点はほとんど解決したと思われたが、桜には唯一かつ最大の謎が残っていた。

 

「じゃあこのチャームは?だってこのチャームは……、あっ」

 

転生する前の自分が、と言うつもりで桜はここでやっと今までで一番おかしい部分に気がつく。

 

何てことはない、桜はこの女性が現れてからただの一度も演じることなく自分が今3歳児だという事実をすっかり忘れていたのだ。

 

しかもたかが一般人には関係ないはずの、マフィアに関する話まで事細かに会話していた。

 

それどころか、現時点ではまだ起こり得てもいない、はるか先の未来の事まで話題に上げている。

 

一般人の3歳児には到底不釣り合いな話を、まるで関係あると言わんばかりに会話をしていたこの女性──……彼女は一体何者なのか。

 

今さら3歳児のフリをしても意味がないのを分かった上で、桜は今もベッドで優雅に寛ぐ彼女に問いかけた。

 

「貴女はそもそも何者なんですか?というか今さらだけど名前だって名乗ってない……」

 

そんな視線にも意に介さず、彼女は満月を眺め、そしてゆっくりとこちらを振り向く。

 

左目の下には、三つの三日月を背中合わせにしたような特徴的な紋様が刻まれていた。

 

その顔は、やはり来た時と同じように唇は弧を描き不敵な笑みを見せている。

 

「……残念ね、時間切れみたいだわ。また会いましょ?」

 

ようやく紡いだその言葉に桜は疑問符を浮かべた。

 

「時間切れ……?」

 

それって一体、と言いかけたところで部屋の外から奈々の声が響いた。

 

「さくちゃん?いくらケープがあるとはいえ、そんな寒いところでご本読んでるの?こっちの方が暖かいし、もうすぐお夕飯ができるわよ」

 

やや数秒送れてドアをノックする音が聞こえる。

 

「今いくから、だいじょうぶだよママ」

 

慌ててドアの方を振り向き、咄嗟に開けられぬように仕向けた言葉を紡ぐ。

 

「そう?じゃあママは先に行ってるわね」

 

遠ざかる足音に安堵しつつ再びベッドへ向き直ると、いつの間にか彼女の姿はなく、当然脱ぎ置かれたパンプスも消えていた。

 

「結局さっきまでやってたのって原作のおさらいじゃん……」

 

全く何も解決してないことにガックリと肩を落とすと、桜はとぼとぼと部屋を後にした。

 

 

___to be continued.




*後書き的な一言*

二次創作であんまり人気がないパターン、文章力とか起承転結とか見せ場とか色々あるけど、おそらく1番読者が萎えるのはオリキャラの出しすぎかなぁと推察しつつ辞められない
あと後半の原作おさらい部分、たぶん解釈違い起こすかもしれません(土下座)
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