オラリオに失望するのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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時代の変革

 最強の【ファミリア】は何処だ。そう訊かれれば、誰もが【フレイヤ・ファミリア】か【ロキ・ファミリア】の名を出しただろう。

 最強の冒険者は誰だ。そう訊かれれば誰もが【猛者(おうじゃ)】の雷名()を称えるだろう。

 だが、それも先日まで。

 祭りの終わりと同時に流されたニュースは、英雄の帰還とオッタルとの戦いにおける勝利、そして新たなLv.8の登場。

 オラリオ中がその話題で湧く。

 ある者は讃え、ある者は歓喜し、ある者は恐怖し、ある者は心折れ、ある者は嫉妬し、ある者は奮起する。

 

 

 

 

ドゴォォォオンッ!!

 

「っ!? なな、なんすかあ!?」

 

 突如響く轟音に、【ロキ・ファミリア】幹部候補、ラウル・ノールドは飛び起きる。音の発生源は近かった、というか館の中だ。

 慌てて部屋から飛び出すと既に他の者達も起きてきた。

 

「っ! クルスは団長達に報告、Lv.2以下は待機! 他は現場に向かうっす! ニック、ロイド、アークスは全員の武器を用意!」

「わ、解った! 女子達はどうする!?」

「そっちはアキが同じような指示を出してるはずっす! 俺達は現場に向かう!」

「「「おう!」」」

 

 素早い状況整理に、指示。誰一人文句を言わず従うのは彼が幹部候補として、時に指揮官として行動し、皆がそれを信頼しているから。

 

「ラウル!」

「アキ! 団長達は!?」

「まだ来てないけど、これだけ大きな音が鳴ったんならもう行動してるでしょ………」

 

 継続的に聞こえる轟音。場所は、鍛錬場!

 既にフィンとガレスはいた………いた、が。

 

「ぬううううん!」

「があああああ!!」

 

 音の発生源は二人だった。

 全身の筋肉を隆起させ振るわれた斧は地面を砕き、赤い目を輝かせ獣のような闘気を放ち瓦礫を跳ね回る。

 

「なにやってるんですかお二人共!?」

「ベートさんが瓦礫の下敷きに!?」

「おいおいどうすんだよ!? あの二人を誰が止めるんだ!?」

「リヴェリア様を誰か呼んで〜!?」

「『ダンジョンに行ってくる』という書き置きが!?」

「【目覚めろ(テンペスト)】!」

「ああ!? アイズさんが止めに………いえこれは、参加しました!?」

「…………………」

「……………」

 

 阿鼻叫喚の大混乱に、ラウルとアキは呆然と固まる。

 

「どうしよう?」

「どうしよっか………」

 

 ティオネとティオナも参戦しだした。一応止めようとしてるみたいだけど、むしろ被害が大きくなるような。リヴェリアも居ないし、どうやって第一級冒険者の戦いを止めろというのか。

 その後騒ぎを聞きつけたドワーフの女性が「朝っぱらからうるさいんだよおお! 近所迷惑考えな!」と叫びながら【ロキ・ファミリア】の堀を飛び越えてきて全員沈めた。

 僅かな疲労はあったろうが、あの人クソやばい。後都市中に響き渡った轟音の苦情が来たら、今はいないリヴェリアになんと言えばいいのだろうとラウルは白み始めた空を見上げるのだった。

 

「って、リヴェリアさんは!?」

「だからダンジョンだってば。聞いてなかったの?」

「え、1人で? そんなアイズさんみたいな?」

 

 

 

 

 魔法の効果を減衰させる『紅霧(ミスト)』。水で消すことも叶わぬ焼夷蒼炎(ブルーナパーム)

 更には龍種としてのポテンシャルの高さを持つ階層主、アンフィス・バエナ。

 その推定Lv.は5。ただし、水場という環境に於いてはそのLv.は6と推定される怪物。おおよそ()()()()()()()()()相手ではない。

 

「だからこそ、試練には丁度いい……」

 

 リヴェリアは杖を構え、目の前の双頭の白竜を見据える。蒼炎に彩られた水面には複数の氷塊が浮いている。それを放ったリヴェリアの魔法を警戒し、アンフィス・バエナは『紅霧(ミスト)』を温存する。鎧ではなく、盾として使わねば己の身に届くからだ。

 

「オオオォォォオォオオ!!」

 

 竜たる己の行動を制限する小さき妖精に怒りを覚えるアンフィス・バエナ。Lv.6の階層主に、それも魔導師の天敵に魔導師が単騎で挑む。普段の聡明なリヴェリアならまず行わない愚行。だが………

 

 

 

 

「ほんで、自分等なんでこんなことしたん?」

「力を得るため」

「遠征に向けてステイタスを上げておきたくてね。かと言って、僕等Lv.6がステイタスを上げるには下層でも心許ない、深層に………それこそオッタルのように単騎遠征でもしなければ、早々上がらないだろう」

 

 ロキの言葉に正座させられたフィンとガレスはそう返す。

 

「置いていかれた………そう、置いていかれたんだよ、僕達は。最早僕達は先を示す者じゃない、先行く者を追いかける立場だ」

「………………」

「いいや、それはずっと前からそうだったんだろうね」

「なにせLv.9は、ほんの少し前に存在してたからのぉ」

 

 当時Lv.4だったフィン達の遥か先を行く者達。その幹部にすら追いついていない自分達が、今では都市最強と呼ばれている。Lv.1が大半をして、一生懸けてもLv.2が殆どの冒険者においてLv.6ともなれば十分素晴らしい功績だ。もっと上がいるだろうなどというのは、現実を知らない者の言葉。

 

「だけどその身を持って証明した者が居た。ましてやそれが、間違いなく僕達に憧れていた子供だったともなれば思うところもあるさ」

「しかも才能などない、大成しないと思っておった小僧がなあ」

「あ〜……ようするに、あれか………自分等火がついたと?」

 

 呆れたようなロキの言葉にフィンとガレスは笑う。

 

 

 

「「「Lv.8(頂き)を見せられて、滾らぬ者など冒険者ではない」」」

 

 

 

 

 

 

「故に………」

 

 深層、49階層。獣蛮族(ファモール)の群はたった一人の男を怯えるように攻めあぐねる。男、オッタルの足元に転がる彼等の同胞の死体が地面を赤く染める。魔石が砕かれた者は灰へと還るも、夥しい血に染め上げられていた。

 圧倒的な実力差。破壊と殺戮が本能として備えられているモンスター達が怯えるほどの威圧感。

 不意にビキリと荒野に亀裂が走る。獣蛮族(ファモール)達はどこか歓喜するように吠えた。

 

「オオオオォォォ!」

 

 現れたるは独眼の怪物。獣蛮族(フォモール)の王。迷宮の孤王(モンスターレックス)、バロール。

 鋼も魔法も弾き返す堅牢なる肉体が、殺意を滾らせオッタルを睨む。同時に放たれる、熱線。溜めはない、視線を向けられればその瞬間死が確定する邪眼こそ、バロールの真髄。それを知るオッタルは既に回避していた。

 嘗て半殺しにまで追いやったものの、結局勝つことは出来なかった怪物…。

 

「雪辱を果たしに………いや………」

 

 再び頂きを見た。

 Lv.8でありながらLv.9を差し置き人類最強と称された傑物(おとこ)の姿を、今の己さえ超えていた男を何れ己に追いつくだろうと思っていた少年に見た。

 滾らぬ訳がない。故に

 

「『冒険』をしよう…………」

 

 何故なら彼等彼女等は、冒険者なのだから。

 

 

 

 

 

 

「時代が動く、か………」

 

 30階層、食料庫(パントリー)と名付けられたモンスター達の栄養となる液体が流れる広間に向かう道中にて、緑の肉に包まれた道を歩くヴァルドは不意に呟く。

 

「どうした、ヴァルドっち………」

「ウラノスの言葉を思い出した。変革の時だと、そう言っていた………この世の在り方が大きく変わる。人とモンスターの関係も」

 

 そう言って見回す視界に映るのは、武装したモンスターの群。どれもこれもが明らかに通常種を超えた力を感じさせる、強化種。それが人のように武器を持ち、()()()()()()()()宿()()()()を持っている。冒険者………人類からすれば発狂ものの光景だろう。

 

「俺はお前達の日の下を歩きたいという願いを叶えると決め、10年経った今も何もしてやれていない。だが、ウラノスは時代が変わると言っていた」

「私達ガ、空ヲ見れるト言うことですカ?」

「それはいいですね! 私、雲の中に入ってみたいです!」

「それには()()()()()()()()()()()が必要らしい。必然的に、人類は今より強くなる。今のままでは足りない……それは【ゼウス】と【ヘラ】が証明した」

 

 もしこの時代に成されるとするのなら、擡頭するのはヴァルドのよく知る現第一級冒険者達。彼等が今より力を付けるのだろう。

 

「全員が全員、お前達を受け入れるとは限らない」

 

 椿あたりなら面白がるだろう。オッタル達ならフレイヤの意思次第。フィンやアイズ達は…………少なくともヴァルドが知る現時点では不可能だろう。敵対するかもしれない。緑の髪を持つエルフ、何度も守り続けた彼女に剣を向けるかもしれない。

 

「故に俺も力を得なくてはならないな。奴等と敵対した時に、お前達を守れるよう」

「へへ、そう言ってくれるとなんだか照れくさいな!」

「面と向かって言わレるのハ………確かニ」

「でもでも、とっても嬉しいです!」

「キュー!」

「ミスター・クリストフ。感謝します」

「だが、お前達の望みでもあるのなら、お前達が何もしないという選択肢もあるまい」

 

 ピシリと空気が固まる。全員、なんだかとても嫌な予感を覚えていた。

 

「一人当たり20匹倒せ、五分以内だ。一秒でも遅れれば次の修行のレベルを上げる。攻撃も当たるな、一撃喰らえば一撃ごとに次の修行時間を10分増やす」

「う、うおおおお! やるぞ皆!!」

「「「うおおおおおお!!」」」

 

 蜥蜴人(リザードマン)の言葉に武装したモンスター達は一斉に駆け出した。

 それを確認し、ヴァルドは振り返る。

 ヴァルド達が空けた大穴から入り込んでくるモンスターの群れ。緑の肉壁に邪魔され食料庫(パントリー)に近づけなかったモンスターが戻ってきたのだろう。

 

「人間相手には試せなかったが、どの程度の毒か試させてもらおう」

「「「ッ!?」」

 

 母の中に侵入した人間を食い殺さんと唸っていたモンスターの群れはヴァルドが剣を抜いた瞬間怯えだす。どす黒い風が発生すると同時に踵を返して逃げ出す。

 

「逃さん」

 

 漆黒の暴風が迫る。振り返った一部のモンスター達は、己を睨む黒き巨獣の姿を幻視し次の瞬間には溶けて消えた。




ヴァルド・クリストフ
白髪長髪のイケメン。CVは梅原裕一郎だったらコラボイベとかで面白くなりそう。キノとかゴブスレとか。
 その世界に生きる者として多くの民に生きていてほしくて
 戦士として対峙した者としてアルフィアやザルドと同レベ、格上がいた最強派閥を返り討ちにした『黒き終末』を恐れて
 『読者』としてフィン達に期待して
 『冒険者』として己の理想が荒唐無稽だと自覚している。
 した上でどのみち今のままなら『黒き終末』にただ一方的に滅ぼされるかもしれないのだから強くなるしかないと周りと己に成長を求めている。
 7年の年月の怠慢を失望していてもやる気になれば出来るはずだと信じているしそれが過酷なものだとも理解しているがやらなきゃならないのだからやるしかないだろう考える破綻者。自覚はある。
 ヴァルゼライドの英雄性とファブニルの英雄憧憬と糞眼鏡の人類賛歌が混ざりあったトリニティ。糞眼鏡やファブニルほど押し付けがましい訳ではないが、あの二人が基準な時点で、まあうん。
 フィン達から見て才能はなかったし、成長補正スキルに目覚めるのにも思いだけではなくLv.7からLv.8になる際の【経験値(エクセリア)】を必要とした。
 一度死んでいるからか、死への認識が緩いくせに一度味わった自分はともかく一度も死んだことがない誰かが味わっていいものじゃないと考えている。
 前世について知ってるのはロキ、3幹部、ウラノス、フェルズ、椿、ヘファイストス、オッタル、フレイヤ、アルフィア、アストレア、アリーゼ、輝夜、ゼウス、ガネーシャ、シャクティ、ミア、アミッド。
 前世の全てを教えているわけではないが(異端児などの爆弾もあるので)人造迷宮に関してはフィン達と探した。見つけられなかったけど。
 神に嘘が通じないように、魂は世界に合わせて【加工】されているらしく、死ねば輪廻に流れるとフレイヤ、ロキ談。
 ソード・オラトリアの知識はない。

なんか思ったより筆が進んでヒロインも増えたので聖夜祭デート再アンケート

  • 家族仲良く リヴェリア、アイズ
  • 一度実家へ アルフィア、ベル
  • 聖夜祭だろ シル、ノエル
  • 夫婦水入らず リヴェリア
  • 義母義父のみで アルフィア
  • 街娘と日常を シル
  • 最も美しい女神(ヴァルド評) アストレア
  • 聖夜と言ったら聖女 アミッド
  • ツンデレ大和撫子 輝夜
  • 一人で過ごす男達の為に オッタル
  • 一人で過ごす男達の為に アレン
  • あるいはこんな世界 ディース姉妹
  • 聖夜祭は店も大忙し 豊穣の女主人
  • 何やらおかしな実験に フェルズ
  • ダンジョンデートだ 椿
  • ドロドロ依存 フィルヴィス

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