オラリオに失望するのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
4000万ヴァリス。
愛剣『デスペレート』の代わりにレンタルされていた剣の値段であり、アイズが
その返済のためにヴァリスを稼ぐべく、ダンジョンに潜る。メンバーはアイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤ、そしてフィン。ガレスも行こうとしていたが敵も多い【ロキ・ファミリア】は事前に色々準備せずに幹部全員でダンジョンに潜るわけにはいかない。
Lv.4、3を複数揃えている時点で早々攻めて来られる【ファミリア】は居ないだろうが念を入れるに越したことはない。
「………師匠も、潜ってるのかな?」
「う〜ん。どうだろうね、彼の発言からして今は後進育成に力を入れている可能性も高い」
アイズの呟きにそう応えるフィン。後進育成と聞き、アイズが僅かに沈む。
「げ、元気だしてくださいアイズさん! アイズさん達に失望するなんて、あの男の方が見る目がない失礼な男なんですよ!」
事実として【ロキ・ファミリア】は第一級、それもLv.6を抱える最大派閥。Lv.4ですら幹部候補、Lv3でもあまり目立たず、Lv.2なら末端扱い。普通に考えて彼等に失望するヴァルドが可笑しいのだ…………
「だが僕達が最強を名乗りながらもLv.6にしか達していなかったのは事実。嘗ての『最強』の2大派閥は、Lv.6を複数抱えた上で、そんな彼等ですら幹部止まり………彼が冒険者になった頃には既に僕等が最強となっていたけど、威信は遥かに劣る」
それこそ
「その結果、彼は
「──」
その言葉に息を呑むレフィーヤ。
「で、でもそれは団長達のせいじゃ………!」
「自粛していた
「5年前はフィン達と一緒のLv.6だったんだよね〜? すごいよね〜」
ティオナが呑気に笑うのを見て姉のティオネは顔をしかめる。為す術もないどころか、何をされたのかすら解らず気絶させられた時のことを思い出したのだろう。
「正直、都市外でLv.8なんて信じられません」
「だが事実だろうね。Lv.7になろうとも彼の鍛錬相手になれる存在も、近くにいただろうし………その後何か偉業をなしてランクアップした」
ダンジョンの外にて二度のランクアップ。それも第一級としても上位に位置するLv.6が。突拍子もないどころか荒唐無稽な与太話にしか聞こえない。
それは何もレフィーヤが彼を嫌っているのではなく──まあそういった気持ちがないとは言えないが──冒険者としての常識故に、だ。
「まあ普通ならそういう反応になるだろうね………でも彼はヴァルド・クリストフだ。彼を知る者からすれば、『ああ、またか』って思いを抱くよ」
「うん。師匠はすごいから」
フィンとアイズが褒めるのを面白く感じないのはレフィーヤとティオネだ。フィンにとってはかつての旧友、アイズにとっては師。そしてその関係をあっさり捨てた、二人を尊敬するからこそ、そこに嫉妬を交えた怒りを覚える。
「そもそも、7年前の疑問とか6年前の確信とか言ってましたけど、何があったんです?」
軽口を叩きながらモンスターを切り捨てるティオネ。フィンもミノタウロスの喉を貫きながら、質問に答える。
「7年前、彼はLv.7と戦ったんだ」
「Lv.7と!? どうして!?」
「詳細は説明できないけど
7年前というのなら、あの『死の7日間』と呼ばれるオラリオ最悪の一週間だろう。伝え聞いた事しか知らないが、まだ幼いアイズも参戦していたらしい。
「そして6年前、僕は数多の冒険者達を見捨てる選択を取った」
「え……」
「言い訳に聞こえるけど、それが
主神と幹部を失い
「でもその事件の際、ヴァルドは僕の命令を無視してダンジョンに飛び込み、結果として全員とはいかぬまでも多くの冒険者を救ってみせた。僕等が動けば、もっと多くを救えていただろう」
「それは………」
更に言うのなら、フィンは『27階層の悪夢』が起こる前に流れていた噂、あれが罠だと気づいた上で多くの【ファミリア】が向かうのを止めず、目を引かせ本命をとった。オラリオの住人は【
「そして残党処理にも一年かかり、最終的にはヴァルド自身が行った。彼の失望に、僕等は否定する言葉がない」
フィン本人がそう言ってしまえば、レフィーヤ達も何も言えない。空気が沈む中ティオナだけが気にせず話題を変えた。
「アイズの師匠ならさ、アイズより剣の腕上なの?」
「うん。私の剣は、お父さんと師匠が教えてくれたもの」
「ど、どういう修行をしてたんですか?」
「えっと……腕が上がらなくなるまで素振り」
「……………え?」
「上がらなくなったらポーションで回復して、また繰り返す。走り込みも、吐くまで走らされた」
「虐待じゃないですか!?」
「うん。僕等も止めたよ? でも、同じ事をヴァルド本人もきっちりやってたんだよなあ………」
肉体の限界? ポーションを使え。
精神の限界? 知るかとばかりの過酷な修行法。さらに剣の打ち合いで骨を折ったりしてくる。ヴァルドの場合、【ロキ・ファミリア】にそこまでする人間がいなかったので【フレイヤ・ファミリア】の
リヴェリアが『そんなに【フレイヤ・ファミリア】のやり方が合うなら神フレイヤの眷属になれ!』とよく叱っていた。
その後、聖女と知り合いポーションを使おうともやりすぎれば成長期のアイズの体に悪影響が、などという説明を受けじゃあ全癒魔法を使ってくれといって殴られていた。
「それに
「模擬戦はね。二人してダンジョンに籠もり、リヴェリアに叱られていたのを忘れたのかい?」
アイズはぷい、と顔を逸らした。
「あれ、なんか街の様子が変じゃない?」
「街以前に、森の一角が吹き飛んでいるんだけど」
18階層、リヴィラの街を見て不思議そうな顔をする妹に姉が突っ込む。
「ていうか街そのものが壊れてません?」
レフィーヤの言うように、外壁が壊され建物もいくつか破壊されていた。モンスターの襲撃でもあったのだろう。その話を聞かなかったのは、比較的すぐに終息したのだろう。
「………………」
「あ……」
「あれは、リヴェリアか………」
さらに、階層の一部が凍りついていた。あんな事を出来るのはリヴェリアぐらいだろう。彼女もこの階層にいるらしい。
「じゃあ森もリヴェリアかな?」
「まあ今はリヴィラにいるだろうし、彼女に訊いてみようか」
そして一同はリヴィラの街に向かう。『335』の文字が入った看板がちょうど立てかけられるところだった。
住民にリヴェリアの居場所を聞いて彼女が泊まっているというエルフが経営する宿に向かう。
エルフが経営しているだけありきれいな印象を受けるそこは、法外な値段ばかりのリヴィラに置いても高級宿。
受付のエルフにスイートルームの場所を案内してもらい扉を開けた。
「来たか、フィン」
「………………」
リヴェリアは居た。一人ではなかったが。
「なあ!? リヴェリア様と………あの時の!?」
寝台に座るリヴェリアとソファに座るヴァルドがその部屋の中にいた。男女が、ホテルで二人で一部屋!? と混乱するレフィーヤをよそにヴァルドはフィンを見つめる。
「なんだい?」
「雰囲気が変わった……いや、昔に戻ったというべきか? 少しはやる気を出したようだな」
「あれだけ言われればね」
「そうか………」
失望を叩きつけた者と叩きつけられた者、しかし二人の間に剣呑な雰囲気はない。
「それで、何があったのか聞いてもいいかな?」
「ああ、構わない」
「例の食人花に芋虫型、そしてそれを操る赤髪の
ヴァルドとリヴェリアの説明を聞いたフィンは口元に手を当て考え込む。
「仮に俺のような魔法補助スキルや『魔導』のアビリティ持ちでなかったのなら、もっと上がるがな」
「それは怖いなあ…………それで、その襲撃者が君を狙った理由は
「ああ、運び屋から返してもらった。今は隣の部屋で寝ている」
何でも報酬が受け取れなくなるかもしれないからせめて宿を奢れ、と言ってきたらしい。中々豪胆な相手だ。
「ふぁ〜……よく寝たぁ……お、【剣聖】。世話になった……げ、【
タイミングよく部屋から出てきた褐色肌の
「やあ【
「あ、あははは…………それじゃ、あたしはこれで!」
二つ名【
「必要ないよ、ティオネ。おそらく彼女は何も知らない」
「………そうですか」
と、大人しく戻ってくるティオネ。彼女がフィンに向ける目には見覚えがある。彼もまた、狙われてしまったのだろう。
「フィン、親指はどうだ? また攻めてくると思うか?」
「うん。まあ………疼いているね。きっとまた来る………どういう手かは解らないけど…………っ!!」
瞬間、
窓の外に見えるのは乾きや飢えを彷彿とさせる敢えて形容するなら『貧寒の色』の神威の光。神がダンジョンに入り込み、その存在をダンジョンに知らしめた。
「こう来たか………」
苛立つようにヴァルドが壁に立てかけてあった剣を取る。
「これは、あの時の?」
アイズが既視感に困惑する中、ヴァルドはポーチをフィンに投げ渡す。
「フィン、それを頼む。壊れたら困るからな」
「君はどうする?」
「俺はこれから産まれるものに対処する。モンスターが攻めてくるだろうから、そちらを頼む」
「ああ、任せた」
「ま、待って。私も………!」
「足手まといだ」
アイズが慌ててついていこうとしたが、その言葉に思わず固まる。
「フィンに従ってこの街を守っていろ」
「…………うん」
明らかに気落ちするアイズを後目に窓を蹴破り外に飛び出すヴァルド。18階層の天井に存在する光を放つ水晶が、本来『昼』の光量を放つ時間帯に翳っていた。否、中に何かがいる。
バキリと罅割れ、その中身が落ちる。
ダンジョンは気付いていた。嘗て己が生み出した強大な力を持つ内の一つの力が己の中で『外敵』の意思で振るわれたことを………つい先日時間をかけて生み出した個体が殺されたことを。
放たれた神威は
『巨人』では足りない。
『双頭』では力不足。
故に生み出されるのは新たな個体。
地面に落ち、階層を揺らす巨体。鎌首をもたげて
漆黒の鱗が全身を覆い、足のない長い体は蛇を彷彿とさせる。
しかし纏う威圧は『
「コオオオオオオ!」
口から吐き出す赤黒い霧、全身から吹き出す漆黒の霧。どちらも『猛毒』。木々は勿論地面も溶かし、まるで沼地のような景色に変えていく。
ヴァルドの持つ『獣王の毒牙』の気配に警戒しているのか、
ヴァルドが剣を振るい漆黒の竜巻を発生させる。
「────!?」
一人と一匹を閉じ込めるために現れた巨大な竜巻。不運にも中にいたモンスター達が浮き上がり飲まれ、バラバラに引き千切られる。
『黒風』の最大出力。この竜巻が健在な限り『獣王の毒牙』はこれ以上の風を操れない。
「コオオオオオオ!」
「ハアアアア!!」
「シイィィィッ!」
9つの首がそれぞれ唸り声を上げ敵を睨み、ヴァルドは短い詠唱を唱え雷光を纏う。
「俺に『毒』は効かぬが、それで攻略できる相手でもなさそうだ……」
推定Lv.7階層主級。古代、地上を蹂躙した者達にもあるいは迫らんとする怪物。毒を抜きにしても相当な戦闘能力だろう。
「だが、フィンに約束した手前………いいや、それがなくともリヴィラの住人にも被害を与えるというのなら打ち倒すまで。来るが良い」
死を撒き散らす毒蛇に、相対するは
漆黒の風に包まれ、観客は今もなお減り続けているモンスターのみ。直ぐに居なくなるだろう。それで構わない。
名誉は不要。
賛美は無用。
観客の居ない英雄譚の一幕が、今ここに開かれた。
漆黒の
古代の怪物の一歩手前。アンフィス・バエナが倒されピリピリしていたダンジョン内で過去に放った最強の一角の力が己に牙を向いた挙げ句人を脅すためではない神威の解放にブチギレたダンジョンが生み出した神抹殺の刺客。
純粋な毒としてはベヒーモスには劣るものの、酸性はより凶悪化した毒霧を持って地面を沼のように変える。
モデルはヒュドラ。名の由来は海蛇座で最も明るい星。
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