オラリオに失望するのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
ヴァルドが巨大な竜巻の中に巨大な蛇と閉じこもったのを確認し、フィンはリヴィラに攻めてきた食人花を睨む。
幸い芋虫はいない。自分達からなら取り返せるから、破壊は不要だとでも判断されたのだろう。
「しかしこの数を
恐らく『大最悪』と同じ方法で生み出されたモンスターをヴァルドが相手してくれて助かった。竜巻が包む前に見えた毒の霧、最悪リヴィラのほぼ全員が戦闘不能になっていたかもしれない。
逆に言えば、今は全員戦えるのだ。ならば、年下のヴァルドに任せ自分達が楽など出来るはずもない。
「階層の出口は塞がれた! 総員、必ずここを死守しろ!」
「「「おおおおおお!!」」」
フィンの号令に巨大なモンスターや食人花の群に及び腰になっていた冒険者達が吠える。もとより逃げ場はないのだ、ならば戦うしかないのだ。
「………………」
──足手まといだ
「うぅ………ううう!!」
その言葉が耳から離れない。他のことに集中しようとばかりに振るわれる剣は、
「うあああああ!」
強くなりたいと思っていた。Lv.5に、第一級になってもまだ足りないのは解っていた。それでも三年前、Lv.5になったとき少しは追いつけたと思っていた。
──幾らでもチャンスを持ちながら僕等は停滞し置いていかれた
だけど実際は、置いていかれていた。ずっとずっと先に居た。それはまるで………まるで………
「あああああ!!」
嫌な記憶だ。思い出したくもない悪夢。
戦えない自分を置いていったその背中が重なる。『黒い風』の中に姿を消した光景があの人に重なる。
置いていかないで………!
7年前も、5年前も、あの人は唐突にいなくなる。また居なくなるかもしれない、今度は帰らないかもしれない。そんなの嫌! そんなの耐えられない!
どうして置いていくの?
私が弱いから? 貴方達と一緒に戦えないから?
強くなるから。隣に立つから、置いてかないで!
「【
吹き荒れる暴風が食人花を、荒れ狂うモンスターを纏めて粉砕する。魔力に惹かれたモンスターは愚かにもその身を風に晒し散っていく。
「アイズ、落ち着け! 突貫しすぎだ!」
フィンの制止は、確かに彼女の耳に届いた。それでもなお、アイズの目に映るのは赤い髪を伸ばした女。ヴァルドとリヴェリアの報告とも一致する、二人の敵!
「その『風』」
風の鎧を纏うアイズを女は気怠げに見つめ、無造作に血管を束ねたかのような不気味な赤い剣を構える。
「お前が『アリア』か………」
──……え?
と、一瞬の硬直。その致命的な刹那に振るわれた剛剣が風の鎧を消し飛ばした。
「かっ!?」
「アイズ!?」
それでも勢いは衰えず、ギリギリ斬られることはなかったアイズの身体は台風の中の木の葉のように舞い水晶に叩きつけられる。
第一級、その中でも白兵戦においてはLv.6にも迫るであろう、ランクアップ間近なのは疑う余地のないアイズを一方的に吹き飛ばすという光景に、誰もが己の目を疑う。
「っ………その、名前を……何処で!?」
とうのアイズは焦りなど吹き飛び………否、異なる焦燥を持って女に向かって叫ぶ。それは、その名前と己を関連付けさせる者は限られているはずだ!
ロキとフィン、ガレス。そしてリヴェリアとヴァルド。
なら、目の前の女は何故知っている?
「あなたは、誰!?」
水晶の瓦礫から這い出し叫ぶアイズの言葉を煩わしいと言わんばかりに女が目を細めた、まさにその時だった。
「──ァァァァァァアアアアアアアアアアアッ!!」
背後から響く甲高い声が響く。発生源はフィンがヴァルドに渡されたウエストポーチ。その隙間からズルリと這い出す胎児に似た何か。
ギョロリとした大きな2つの瞳に、緑の皮膚。頭に生えた触手はまるで己を
その異形はまるでアイズの『風』に反応するかのように吠え、アイズに向かって飛んでくる。
「っ!!」
咄嗟に回避し、目標を失った胎児は勢いそのまま転がっていた食人花の死体にへばりつき──
輪郭が溶け葉脈のように、血管のような悍ましい形へと姿を変えていく。混ざっていく。
全身を覆うと死した筈の食人花が体を跳ね上げ吠える。
「オオオオオオオオ!!」
「ええい、全てが台無しだ!」
苛立つような女の言葉からして、これはあの女にとって想定外であっても異常事態ではないのだろう。暴れまわる食人花は荒れ狂うモンスターも同族のはずの食人花もその生死に関わらず取り込んでいき、その身の体積を増やしていく。
腫瘍のように膨れ上がった肉が徐々に輪郭を得ていく。それはまるで、人の女のようにも見える。下半身は無数の食人花により形成されていた。
「なにあれ〜!? タコ!?」
「あれって、50階層の……?」
【ロキ・ファミリア】はその姿に既視感を覚えた。それは先日の『遠征』の時現れた腐食液を持つ芋虫の群れを撃退した後に現れた女体型。細部は違えど概ね同じ。あの芋虫の女体型は胎児が寄生した姿?
無貌の顔を動かしアイズを見つめる女体型は大きく吠え………ようとして紫の閃光に貫かれた。
「は?」
軌跡を残す黒紫の線は雲が風に晒されたかのように輪郭を崩し黒紫の霧を撒き散らす。
「総員、離れろ!」
フィンが慌てて叫ぶより早く、霧の末端に数名が触れる。
「うぐ、おえええ…」
「ぎ、ぎもじわりぃぃ………なんだこれええ………」
「う、ぐ……目が、いでええ!」
「体が、熱いいい!」
毒だ。それも恐らく『耐異常』を持っているであろう何名かも交じっているはずの上級冒険者をも苦しめる。
「ティオネ! ティオナ! 彼等を移動させろ!」
すぐさまフィンが彼等を霧の範囲から外に出す。末端でこれだ。しかも皮膚が溶け始めている。霧の濃い部分は地面をも溶かす規格外の酸性の『猛毒』。
竜巻を突き破り飛んできた。竜巻はそのサイズを縮める代わりに風速が増していた。
それでも残った霧は広がっていく。
「【
「お前は私だ」
「っ!?」
すぐさま風で払おうとしたアイズだったが後頭部を捕まれ地面に叩きつけられる。
「あの男が戻る前に帰らせてもらう」
ギリギリと途轍もない力で地面に押し付けられる。尋常じゃない『力』の
「【
「っ!!」
吹き荒れる魔法の風が女を浮かせる。その隙をつき拘束から抜け出したアイズは体勢を整え女を睨む。
あの男……ヴァルドが戻る前に、と……そう言った。それはつまり彼女にとって脅威はヴァルド・クリストフだけであり、アイズは問題にもしていないということ。
「面倒な…」
事実浮かべる苛立ちは、餌に抵抗される捕食者のそれ。
突っ込んでくる女の剣を受け止め、その重さに直様受け流しに切り替える。刹那にも満たない切り替えはヴァルドとの修行の賜物。それでも、圧倒される。
技術は間違いなく自分が上だ。
しかし膂力、速度、大凡全ての
「っ! 【
人間相手だとか、そんな事を言っている余裕はない。最大出力の風を纏い、叩きつけ……
「────!!」
アイズの考えを正面から叩き伏せるかのような叩きつけ。剛腕から放たれる一撃は最大出力になる前の【エアリアル】を掻き消しアイズの体を吹き飛ばす。剣は健在。彼女の剣もまた、第一級に匹敵する。
「っ!」
その剣でアイズを斬ろうとした瞬間、背後から穿たれた槍が脇腹を抉る。
後少し反応が遅れていたら内臓までやられていただろう。
「ちぃ!」
槍を振るう小柄な男、フィンに苛立ったように剣を振るう女。
フィンは槍を地面に突き刺し軽業師のように身体を浮かせ、剣が槍を弾く勢いを利用し回転し槍の柄を叩きつける。
「第一級、Lv.5……いや、6か」
吹き飛ばされた女はゴキリと首を鳴らす。そのままチラリと竜巻を見る。
「分が悪いな」
「っ! 待って!」
女は踵を返し街の外へと駆け出す。アイズが慌てて追おうとするも、大量の食人花………そして森で待機させていたであろう芋虫の群れが現れる。
流石にこれに対処しないわけにはいかず、第一級並みの身体能力を持つ女の背はみるみる小さくなっていき、やがて崖に辿り着くと躊躇いなく飛び込んだ。
「っ!」
ギッとアイズの歯が軋む音をたてる。『アリア』を知る何者か、それを逃してしまった。そんなアイズの心情などお構いなしに残されたモンスター達は暴れまわる。
この階層のモンスター自体は下層、深層クラスのモンスターに為す術なく殆どが食われている。残されたのは強化種となった極彩色。
「いてぇ、いてぇよお!」
「あ、足が………骨が、見えて………!」
怪我人も多数。アイズ達はともかく、このままでは他の者達が………
「【癒しの滴、光の涙、永久の聖域。
響く
「【三百と六十と五の調べ。癒しの
襲いかかる食人花と芋虫。その群れに怯えることなく、詠唱を紡ぐ銀の聖女は腰に差していた短剣を抜き迫りくる触手を切り捨て、あるいは逸らして芋虫に当てる。
「【そして至れ、破邪となれ。傷の埋葬、病の
極上の餌を前にした獣のように迫るモンスターを前に一切臆することなく舞うような軽やかさで攻撃を一切受けない。
反撃は最低限、回避と防御のみに集中し詠唱を途絶えさせず魔力も常に安定している。
「へ、並行詠唱!? あんな魔力で!?」
未だその域に至れぬレフィーヤが目を見開く。並行詠唱………別の行動をしながら詠唱を唱え魔法を放つというのは、本来それだけ離れ業なのだ。
「【呪いは彼方に、光の枢機へ。
「【ディア・フラーテル】」
冒険者達の傷が癒える。毒に侵されていた冒険者達の中から毒が消える。疲労がなくなる。
リヴィラ全体で同様の現象。規模も効果も規格外な治療魔法をやってのけた銀の聖女、アミッドは回避と防御に向けていた意識を反転し、食人花達に向かい刃を振るう。
その動きはリヴィラの冒険者達を凌駕している。
「あれが、【
誰かが呟く。彼女の二つ名。
長文詠唱での並行詠唱、魔導師の理想の一つを前に、その高みにレフィーヤは戦慄した。気にしない能天気もいるが。
「わあ〜! アミッド、すっご〜い!」
「ティオナさん………ヴァルドは何処で無茶をしてますか?」
「え、ヴァルド? ああ〜………あの人ならあの竜巻の中ででっかいモンスターと戦ってるよ!」
近付いてきたティオナに真っ先にヴァルドの所在を尋ねたアミッドは竜巻を見て目を細める。あれ、これ怒ってる? とティオナが思わず冷や汗をかく。
「まあLv.8ですし………大きな怪我をしてなかったら良しとしましょう」
「そうだアミッド! アタシに回復魔法かけ続けてよ! そしたらあの芋虫の変な汁気にしないで戦えるから!」
「その必要はないかと」
平然と捨て身特攻を行おうとするティオナにアミッドはある方向を指差す。
「【一掃せよ破邪の
「【ディオ・テュルソス】!!」
白き雷霆が詠唱の通り、芋虫達を焼き尽くし数匹を一掃する。
「死にやがれええ!」
魔剣に込められた風の魔法を《フロスヴィルト》という特殊武装に吸収させたベートが風の銀靴を持って芋虫を蹴り飛ばし吹き飛ばし同士討ちさせる。
「時間の問題かと。あと残るのは、その巨大なモンスターとヴァルドの決着でしょう」
「!!」
アミッドの言葉にアイズは直様竜巻に飛び込もうとする。が、アミッドがそれを止める。
「お待ち下さいアイズさん、あれを……」
よくよく見ると竜巻の周囲が黒く染まり溶けていく。
「『毒』……いえ、『猛毒』でしょう。下手に近づけば命を落とします」
「でも、それは師匠も………!」
「彼はLv.8です。『耐異常』の評価も相応に高いはずです………というか心臓なくても動く人が『毒』で死ぬなら
「ええ!? ヴァルドって人、心臓なくなっても動くの!? ゾンビなの!?」
「ゾンビの方がまだ可愛いですよ」
アミッドははぁ、とため息を吐き肩をすくめるのだった。
「格下の私達が行っても足手まといになるだけです。我々にできるのは、信じて待つのみです」
「クオオオオオ!!」
「シュアアアアア!」
ゴバッと吐き出される毒霧は炎でこそないがその威力は深層の竜の咆哮と遜色なく、凶悪さは比較にならない。
沼に浮かぶ木々はない。飛び石もない。溶けるからだ。
代わりに毒に溶けない首を足場に跳ね回るヴァルドは雷光を放つも首の一つが吐き出した毒霧に魔法が散らされる。
『アンフィス・バエナ』の『
「っ!!」
プシュッと空気が抜けるような音で放たれる毒の閃光。加圧された霧の一線はヴァルドの『耐久』を突破し肉を貫き内臓に穴を空ける。多少の傷なら『不死身』の発展アビリティで癒せるとはいえ、喰らい続けるのは得策ではない。
「ゴハアアアア!!」
と、毒沼と化した地面に向かい毒の咆哮を吐き出す数本の首。ゴボ、っと人を飲み込むほどの水深となった沼が盛り上がり破裂し毒と混ざった溶けた地面が竜巻の中に撒き散らされる。水面が波立ち足場が揺れる。
バランスを崩したヴァルドを黒蛇の尾が毒沼の底に叩きつける。土と混じり酸性が薄くなったとはいえ、毒に晒され溶け崩れタールのような粘度になった底の地面が絡みつく。踏ん張ることもできない。
だがどうした。
再び振り下ろそうとした尾が斬り裂かれる。
剣の刃渡りに合わぬ斬撃、スキルも魔法も関係ない、技術で行う飛ぶ斬撃。
「やってくれる」
「クウウゥゥ!!」
沼から這い出て近場の首の上に立つヴァルドは口の中に入った毒を吐き捨て黒蛇を睨む。
硬い上に再生能力も高い。再生能力自体はベヒーモスに劣るが、サイズ比で見れば同等。それに強力な毒。18階層という密閉された空間では、毒さえ通じるなら推定Lv.は一つ上がると考えてもいいだろう。
「だが俺に毒は効かん。絡繰も見えてきた」
そう言って足場の首の一部を切り裂く。そこには紫根の石……魔石が存在した。
魔石を失い存在できるモンスターはいない。魔石を持たぬのなら何れ自壊するはずだ。これはその手の『階層の殲滅者』ではない、可能ならそのまま地上を蹂躙することも視野に入れた『神の抹殺者』。魔石はあった、しかし一つではない。恐らく9つの首全てに。
一つでも無事なら他の首を魔石ごと再生させる。
「ならば全て砕くまで…………【
雷光が剣を覆う。
バチバチと空気を焼く紫電の音はしかし徐々に収まる。空気へ散る一切の無駄を無くしたそれは、正しく光の剣。
「行くぞ……」
「…………?」
首の一本が痛みを感じ、自らの身に穴が空いていることに気付く。極限まで圧縮された雷光は肉の融解を許さず灰へと還し、炭化した肉が再生の邪魔をする。
「────!?」
「──!!」
「!?!!?」
己の魔石を再生出来ぬことに気付いた黒蛇は残る頭を同様に震わせる。そんな暇などないというのに。
2つ目の魔石が砕かれる。やはり炭化した組織が再生を阻み、魔石の復活ができない。
「ハアアアアアア!!」
魔法すら殺す猛毒を放つも、圧縮された雷光の僅か表面を殺すのみ。大口をヴァルドに向けた隙だらけの首が縦に斬り裂かれる。
バグンとヴァルドの左腕に噛み付いた首が振り下ろされた剣に斜めに切り裂かれ、宙に浮いたヴァルドを飲み込もうとした首が内から爆ぜる。
2本の首が纏めて根本から切り裂かれ、八本目に迫るヴァルドを振り落とすべく体を回し背中を毒沼に漬ける。が、八本目が何時の間にか切り飛ばされ残るは一本。慌てた黒蛇は、あくまで魔石を砕かれただけの首を最後の首で炭化した部位を噛みちぎろうとして──
「それは悪手だろう」
隙を晒した毒蛇の首は、
頸椎で辛うじて繋がる首が沼に倒れ毒液が竜巻の中を舞う。すべての魔石を砕かれたことにより肉体が灰へと還り黒い骨が残る。ドロップアイテムだ。周囲に転がっていた首も肉や皮を崩し大量の骨だけが残った。
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