オラリオに失望するのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
毒霧は主を喪い徐々に薄くなっていく。地面と混ざった毒沼はそのままだが、ダンジョンの回復機能で何れ元の姿を取り戻すだろう。過去に業火に焼かれても元の姿を取り戻せたのだから。
剣を軽く振るい竜巻を消す。背中に戻すと自動的に布が巻き付いた。
「………………」
下手な素材では溶けてしまうので個人的な繋がりを持つ
そう思ったヴァルドは全部持って帰ることにした。一先ずフィン達と合流すべく、リヴィラに向かう。
「どうも」
「アミッド……?」
リヴィラに戻ると見知った銀の髪を持つ少女が見えた。小柄だが、ティオナ達より歳が上の昔からの知り合いだ。ヴァルドにとって少し後ろめたさもある相手だ。
「久し振りだな…………いや、祭の時も会っていたか」
「すれ違い、声を交わしただけでしょう。改めて、お帰りなさい、ヴァルド」
アミッドはそう言って、美しく微笑む。人形のようだと言われる精緻な顔が浮かべる笑みに、周りの男性冒険者、女性冒険者問わず目を奪われる。
「ああ、ただいま………暫く見ないうちに、2つも試練を超えたらしいな。
「貴方のせいではありません。貴方のために、私が勝手にしたことです」
「俺のため?」
「貴方は自分を大切にしませんから。100と1を天秤にかければ、自分を1に置くような人ですから………」
まあヴァルドはその1になっても生き残るのだが。
それでも何時か最悪な事態になるかもしれない。
「隣に立てるなどと思っていません。後を追えるはずもありません………それでも、私は貴方を救いたい」
「そうか、だが不要だ」
「そう、言うんでしょうね。貴方は………自分より他の誰かを救えと。ですが、お断りします。貴方が頼まれずとも人を救うように、私は勝手にあなたを救う。言ったでしょう? 勝手にしていることだと」
「……………ならば勝手にしろ」
「ふふ。ええ………はい!」
アミッドってあんなふうに笑うんだ〜、と興味深そうに見つめるティオナ。ヴァルドが気に入らないのか睨むベートとティオネ。相変わらずだと笑うフィンに眉根を寄せるリヴェリア。二人を複雑そうに見つめるアイズと、フィルヴィス。
「………!」
と、ヴァルドがフィルヴィスに気付き視線を向けるとフィルヴィスが固まる。後ろめたい何かがあるかのような、今の自分を見られたくないかのように顔を伏せ後退り………走り出すより早くヴァルドがその手を掴む。
「久し振りだな、お前も」
「っ………あ、ああ…………5年ぶりだ……………5年…………5年、も………放って他の女と子育てしていたお前が今更なんのようだどうせ私など英雄が救った大勢のうち一人にしか過ぎないのだから気に留める価値もないのだろうなにせ約束も守らず何も言わず姿を消したのだからなだから離せお前のお人好しが感染する!」
「すご、一息で言い切った!」
「あんたは黙ってなさい………」
感心する妹に呆れるティオネ。というかあのエルフ離せと言う割には自分から振りほどこうとはしていない。ヴァルドとのステイタス差で振りほどけない、というようには見えない。エルフが己に触れさせている時点で、まあそういうことだろう。
「くそっ、じれったいわねえ。あの男もあの男よ、とっとと押し倒して子供産ませればいいのに」
「自分がフィンにされたいことでしょそれ」
と、今度は妹が姉に呆れた。
「そうだな、お前の汚名を返上させると息巻いておいて、置いていったのは俺だ。好きなだけ詰れば良い。だが一つだけ………元気にしていたか?」
「〜〜っ!!」
かぁ、と怒りや羞恥で顔を赤くするフィルヴィス。
何も言わず姿を消したことに怒りもある、だけど心配してくれるのが素直に嬉しい。
そんなぐちゃぐちゃした感情を処理できず固まるフィルヴィス。
「………ディ、ディオニュソス様が………居てくれた、から………あの
と、フィルヴィスはヴァルドの手を払う。
「お前にまた会えて、嬉しいよ。だけど、お前と会えぬ日々で、私は醜く穢れてしまった………お前に手を差し伸べられる価値なんてない………」
「そうか………深くは聞かん。だが、再会を喜んでもらえるのなら、今はそれで満足しよう」
フィルヴィスはその言葉を聞くと少しだけ微笑み走り去った。
「どうして、今更………なんで、私は…………!」
この身は穢れている。たった一人生き残ったあの日から、死を振りまく悍しい『
自分に救われる価値などありはしない、あの英雄の手を取れるわけがない。
「ああ、私は……お前を信じられなかった。帰ってくるとは思えなかった………だから、ディオニュソス様に愛を求めた……なのに、なんで今さら………何であの時、私を連れて行ってくれなかったんだ………」
彼は7年前、都市を滅ぼそうとした女を連れて都市から離れ、噂では5年前にその女の下に身を隠していたらしい。なら私だって、そう思ってしまう。
「……………」
【
【剣姫】も、ハイエルフも穢れたこの身より、ずっとあの英雄の側にいるのに相応しい。
「ああ………だけど、お前はきっと手を差し伸べてくれるのだろうな」
そうだ、きっとそれは自分だけだ。こんな穢れ果てた後も手を差し出されているのは自分だけの特権。そう思えば僅かに沸き立つ優越感。そんな事を考えてしまう自分に、すぐに嫌気が差した。
「ボールス、これをやる」
「おう、金になるんだろうな?」
ヴァルドが持ってきた黒い骨を見てボールスが厭らしい笑みを浮かべる。が……
「街の柵に使え」
「はあ?」
「モンスター避けに使える。下層から進出してきた場合はまだわからんがこの階層にやってきたモンスター程度なら避けるようだ」
「そうなのか? んじゃ売れねえか………いや、あんなにでけぇなら──」
「階層主………ではないが俺が一人で討伐したものだ。ドロップアイテムは全て俺のものだ」
チッ、と舌打ちするボールス。ヴァルドは運ぶのを手伝えば少しは金をやるというとやる気を出した。
「俺は一度地上に戻る。お前達はどうする?」
ヴァルドは魔石の入った袋を担ぎフィン達に尋ねる。
「ん〜……そうだね。僕達も戻るよ。怪我人の護送は、アミッドがいるから不要だね。ギルドの報告は僕等からしておこう」
「そうか、頼む」
「あ、あの………師匠」
「どうした?」
アイズが恐る恐る話しかけるも、しかし何も言えず黙り込んでしまう。リヴェリアが杖の石突でヴァルドの足を軽く小突いた。
「アミッドやあのエルフだけでなく、アイズにも何か言ってやれ、馬鹿………」
「置いていった俺が今更何を言えと?」
「それが罪の意識と思っているのなら、それはただの自己満足だ」
「知っている」
「………………」
だから厄介なんだお前は、と今度は杖で頭を叩いた。どうせ後衛の攻撃などダメージにはなりしないのだろうが。
7階層辺りで、戦闘音が聞こえてきた。
ベテランのLv.1だろう、と予想する一同。この階層に潜れるほどの
「相手はキラーアントか………消極的な戦い方だ、すぐに決着をつけている」
「うん、7階層に潜ったその日にわざとキラーアントを半殺しにして
「アイズの時もしていたな………」
まあ半年ほどで潜る師弟がここに居るのだが。しかもキラーアントの特性を聞いていたヴァルドはキラーアントを半殺しにして仲間を呼び寄せ戦っていた。
アイズに修行をつける際も半殺しのキラーアントを持ってきた。
「ベルにもするか」
「その少年が恩恵を得たのは半月前なのだろう? 流石にそれは早すぎる」
「そうでもないようだな」
「何?」
と、曲がり角を曲がるとそこで目に飛び込んできた光景は、キラーアントと戦う白髪赤目の少年。
「………嘘」
「アイズ?」
アイズが信じられないというような目で目の前の光景に目を見開く。リヴェリアは改めて白髪の少年を見る。7階層に来るには頼りない装備、駆け出しと言っても過言ではない………どう考えても、この階層に来られるだけの戦いを経験した者の出で立ちには見えない。
「知り合いか?」
「ミノタウロスの、時と…………酒場で、師匠と居た………」
「っ! それは、つまり…………」
「ああ、彼奴がベル・クラネル。俺の弟子だ」
「…………ベートの目には、彼は駆け出しに見えたと聞いていたけど」
「ヴァルドの弟子………だけじゃねえ。どうなってやがる、
ダンジョン・リザード、キラーアント、ウォーシャドウ。それら全てを相手取る少年の動きは、技術はもちろん
「どういうことだ、彼は恩恵を得たのは………」
「ああ、半月前だ。半月で、彼奴はこの階層に来た」
「「「────」」」
元々オラリオに来た頃にはLv.3となっていたティオナ達やLv.2で後衛故にパーティーを組ませられていたレフィーヤなどは今一ピンときていないが、オラリオにて恩恵を得た者達はそれがどれだけ異常なことかが解る。
「そんな………ありえない。なんで、そんなに速く………」
「それがベル・クラネルだ………」
と、ヴァルドはベルへと近付いていく。ベルもヴァルドに気付くと駆け寄ってきた。
「師匠! お疲れさまです!」
「ああ、お前もな」
「………撫でられてる」
アイズは己の頭に手を置きながら白髪を撫でられる少年を見つめる。
自分も昔は撫でられてたし……。羨ましくないし。
(………あ、謝らなきゃ)
モヤモヤした感情はおいておいて、今はミノタウロスの件と酒場の件を謝らなきゃ、とベルに近づこうとするアイズ。
「っ!? ア、アイズ・ヴァレンシュタインさん!? な、なんで師匠と一緒に!?」
「………………」
そうか……自分がヴァルドと一緒にいるのが、そんなに不思議か。
アイズの中の小さなアイズがプンプン頬を膨らませ両腕を振り回す。
「泥棒兎!」
そのままサッとリヴェリアとヴァルドの背に隠れる。当のベルはポカンしていたが顔をチラッと覗かせたアイズはべーっと舌を出す。
よくわからないが、嫌われたというのは解る。
「う、うわあああああん!!」
逃げ出した少年を見てふふん、と何だか得意気になるアイズ。リヴェリアがごん、と
「うぎゅう………!」
「何をしているんだお前は」
ヴァルドも呆れたように言う。二人に呆れられ、あの兎のせいだと逆恨みするアイズ。と……
「…………あ」
リヴェリアに殴られた場所を優しく撫でてくれる手に目を細める。
「ア、アイズさんにあんなに親しげに〜!!」
レフィーヤが何やらギリギリしている。ベートはベルの戦闘の跡、倒されたモンスターの死体を見て眉根を寄せる。
「あのガキは、本当に半月前に恩恵を得たのか」
「そうだ」
「……………チッ」
舌打ちして踵を返すベート。
「どこへ行くんだい?」
「潜るんだよ、ここはダンジョンだろうが」
フィンの言葉にそう言いながらベートはダンジョンの奥へと向かっていく。フィンは仕方無いというように肩をすくめ
「では僕も」
「お前は組織の長としての義務を果たせ」
ダンジョンの奥に向かおうとしたフィンの首根っこをリヴェリアが掴んだ。
フィルヴィス「何故私を…連れて行ってくれなかったのだ………」
フィルヴィスは好いた男に捨てられたと思った後ディオニュソスに汚されたんだって、と噂が流れたとか流れなかったとか
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