オラリオに失望するのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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小さな出会い

「お〜お〜、モテるねえあの兎。さっすがヴァルドの弟子だ。子供ってのもあながち嘘じゃねえのかもな」

「餌をやって放置するところもそっくりですねえ。何時か屑だのなんだの罵られて愛憎入り交じったナイフで刺されるでしょうねえ」

「うーん、これはヴァルドの子!」

「皆、いくらなんでもそれは彼に失礼だ」

 

 ハーフエルフのギルド職員と買い物に行った挙げ句『私が貰ってほしいなあ』と籠手を渡された光景を見て好き勝手話す【アストレア・ファミリア】。リューだけは同情的な視線を向けていた。

 

「それにしても、やっぱり現れやがったなあ英雄アンチ」

 

 と、ライラは地面に転がる死体を睨む。ベルへ明らかな殺気を放ち、声をかければ【アストレア・ファミリア】の姿に顔を顰め、ナイフを振りかざしてきたがその動きはあまりに遅く、捕えれば全員服毒自殺をした。

 『恩恵』なしだが、恐らくは闇派閥(イヴィルス)の信者………というよりはヴァルド・クリストフを憎み、唆されたであろう者達。皆ベルの命を狙っていた。

 

「武器は市販品。特定は無理だな………恩恵持ちを使ってこないあたり、様子見か」

「ま、大きく弱体化した今派手に動いて今度こそ殲滅されたらたまらないんでしょう………後は、ガス抜き」

「だろうなあ」

「捨てていい駒なのでしょうねえ」

 

 と、アリーゼが目を細め虚空を睨む。

 通常、闇派閥(イヴィルス)など様々な目的で数を揃えた集団はそれこそなにか目に見える成果を用意しなくては一部が暴走する。ただ、相手がヴァルド関係なら成果を出せなくてもまあ仕方ないかと思うだろう。行動はしている、そう見せるために末端を消費して深い情報を持つ駒を抑える。そんなところだとアリーゼは予想し輝夜やライラも同意する。

 

「まあ、それでも油断したところで『恩恵持ち』を使う可能性はあるから、あの子にも早く強くなってもらいたいところね」

「なにせ、あの英雄様が、わざわざ都市の外に出て、選んだ後継ですものねえ。きっと半年かあるいは3ヶ月でランクアップするのではあ?」

「色々強調してんな」

「輝夜はヴァルドが頼ってくれないことを根に持ってるからね」

 

 何やら黒いオーラを出す輝夜を見てライラが引いてアリーゼが補足する。空気の読めないポンコツ妖精が首を傾げながら輝夜に質問を投げつけた。

 

「輝夜はヴァルドさんに頼ってほしいのですか?」

「直球だなアホエルフ!」

「まさか。あの心臓止まろうと動き続け内臓溢れようと未知の骨糞蜥蜴と戦いを続けるイかれた男の頼みなど、命がいくつあっても足りませんので」

「と、言いつつ。頼ってもらったら皮肉を言いながら絶対に力を貸す輝夜なのであった、まる!」

「イラ☆」

 

 輝夜はそっと刀の柄に手を添えた。

 

 

 

 

「…………何か騒がしいなあ」

 

 時折感じる舐め回すような不躾な視線と異なり見守るような温かな視線を感じた方向が何やら騒がしい。今は視線を一人分しか感じない。

 何が起きてるんだろう?

 

「………ん?」

 

 と、不意に接近する気配。別のところに意識を向けていたベルは反応しきれずぶつかってしまい、走ってきた少女が転ばぬように慌てて支える。

 

「すいません、大丈夫でしたか?」

「追い付いたぞクソ小人族(パルゥム)!」

「っ!」

 

 更にやってきた男は物凄い剣幕で少女を睨みベルは反射的に少女を庇うように身を割り込ませる。

 

「……ああ? なんの真似だ。ガキ、邪魔だ、そこをどきやがれ!」

 

 装備の質からしてそこそこ稼げる冒険者だろう。つまりダンジョンのそれなりの深さに潜れるベテラン。ベルの装備を見て取るに足らない駆け出しだと判断したのか、だからこそ邪魔が我慢ならないと表情が物語っている。

 

「た、助けてください冒険者様!」

「あ、えっと………その、何があったんですか?」

「何も知らねえなら黙ってろ! いい、てめぇからぶっ殺す」

 

 駄目だ、話を聞く気がなさそうだ。苛立った様子で剣を抜く男にベルも【女神の剣(ヘスティア・ソード)】を抜く。

 怯えるどころか敵意を向けたベルにますます苛立つ男。

 

「死ねやあああ!」

 

 当然と言えば当然だが、その動きは手加減しているヴァルドより遥かに遅いし、技術も拙い……補足しておくがヴァルドが規格外としても、その男はいささか【ステイタス】任せが過ぎる動きだ。

 

「え……っと…………」

「っ!?」

 

 対人の基準値がぶっ壊れてるベルは困惑しながら剣を弾く。自分の一撃があっさり弾かれ男は目を見開く。

 ベルが向ける視線は、明らかにこんなに簡単に弾けるものなの、とでも言うような顔。その態度が男のプライドを刺激する。

 

「何なんだてめぇ、なんでそのガキを庇いやがる! 知り合いか!?」

「えっと、違います………」

「じゃあなんだって邪魔しやがる!?」

「その…………女の子、だから?」

「はあ!?」

 

 『女の子には優しくするんじゃ、ベルよ。え? お義母さんは? 彼奴女の子じゃぐはあああ!!』という祖父の教えを思い出しなんとなしに答えるベルに、何いってんだ此奴と言いたげになる冒険者。

 

「訳分かんねえ、もう良い………次こそ殺す」

 

 と、改めてベルを敵と認識した上で剣を構える男だったが………

 

「次から次へと、今度は何だぁ!?」

「リューさん?」

 

 現れる金髪のエルフの美女、リューだ。

 鋭い視線を男に送り、男は思わず息を呑む。

 

「その方は我々の恩人の弟子だ。彼に危害を加えることは許さない」

「っ………お、お前……【疾風】だな!? だったらそのチビを捕まえやがれ、そのガキが俺の金を盗んだんだよ!」

「貴方が最低賃金すら払おうとしなかったからでしょう!」

 

 最低賃金とは、サポーターを雇う場合において同派閥、他派閥問わず一定の給料を払うという決まりだ。世界記録保持者(レコードホルダー)がLv.1の時サポーターをやって感じた現状の不満をギルドに直接交渉して決めさせた規律。先に一定金額を払っておいてモンスターにやられてはその日の稼ぎがマイナスになったりするのでサポーターの死者は減ったし、そのぶん換金率も上がりギルドは正式採用とした。因みにサポーターの最低賃金はパーティーの平均レベル、到達階層、人数などで細かく決められるため見殺しにしたり囮にした場合寧ろ損をするようにロイマンがうまく調整した。規則なので破れば当然罰則が下る。

 

「まあ、だからといって盗むのはどうかと思うけどな。それはそれとして、私刑よりギルドに仲介頼んだほうが良いんじゃねえの?」

 

 と、ライラも現れる。

 

「サポーター軽視をやめさせようとした英雄様がご帰還したってのに随分とまあ、勇気のある行動するじゃねえの」

「っ! るせぇ! 小人族(パルゥム)風情が、いっちょ前に報酬をもらおうってだけで烏滸がましいんだよ!」

「…………ああ?」

 

 見た目は少女、実際は小人族(パルゥム)のライラはパルゥム差別のその発言に目を細める。

 

「その小人族(パルゥム)に劣るLv.が何をいっちょ前に偉そうにしてやがる。それとも【勇者】や4兄弟、アタシは小人(パルゥム)じゃねえってか?」

「っ!」

「うわ、あの人自分で弱い種族だなんだと言っておきながら強いと知ってると黙り込んだわ。格好悪い!」

「まぁまぁ団長様、そのような事実を受け入れる器量もない方に言っては可愛そうですよ」

 

 と、アリーゼと輝夜まで現れ男は顔を青くする。第一級冒険者や第二級冒険者に勝てるわけがないと、どうにか言い訳をしようと必死に頭を回転させる。

 

「っ………わ、解った解った! 金を渡せばいいんだろ!」

「だって、どうするおチビちゃん」

「チ……ま、まあ、団長に報告するのでその時まで護衛をしてほしいですが」

「じゃ、アタシがついていってやるよ」

「…………ありがとうございます」

 

 ライラが少女の護衛につくというと、闇討ちでもしようと思っていたのか男はちっと舌打ちする。

 

「ところで、今更だけどあなたの名前は?」

「リリはリリルカ・アーデです。そちらの冒険者様はゲ………えっと…………ゲドウ・ラッシュ様?」

「確かに外道なことをたくさんしそうね」

「名は体を表しますねえ」

「ゲド・ライッシュだ!」

 

 男、ゲドはそう言うと去っていった。

 

 

 

 

 

 

 【ソーマ・ファミリア】本拠(ホーム)にて、リリが扉を開け酒場にもなっている一階でカウンター席に座る。

 

「おうアーデ、戻ったか。今回はどうだった?」

「どうもこうも、まぁた値切られそうになりましたよ。盗んでやったらバレかけましたけど」

 

 その隣にやってきたドワーフはその言葉を聞いてそうか、と顎に手を当てる。

 

「他派閥かぁ、こういう場合どうすんだあ? あの野郎ならうまくやれたんだろうけど」

「その男が残した価値観のせいで未だうちのファミリアはギルドの警戒対象なんですがねえ」

 

 と、リリはちらりと一部の団員を見る。ニヤニヤニタニタ下品な笑みを浮かべ何やら話し合っている。

 

「団長も気をつけてくださいよ? 闇討ちなんてされて、彼奴等の誰かが団長になったら今度こそ潰されますよ、うち」

「…………まあ、仮に俺が殺されてもソーマ様がまともな奴を選んでくれるだろ」

「へっ、あんなアホがマトモな団長を選べるわけねぇですよ。団長だって選んだのは英雄様ですからねえ」

 

 やさぐれたように笑うリリにドワーフの男は「あの(ひと)だって子供の面倒見たりしたんだけどなあ」と苦笑いする。

 

「そういえば英雄の弟子に会いましたよ。噂になってる………なんというか、何も知らない子供でしたねえ。随分真っ白で、羨ましい限りです」

「………いじめるなよ?」

「いじめませんよ。リリを何だと思ってるんですか………英雄の弟子なんて、精々煽てて羽振り良くしてお金を貢がせるぐらいしか使い道ないです」

「………………」

 

 

 

 

「あ、お〜い! ヴァルド!」

「シルか」

 

 ダンジョンからの帰り道、給仕服姿の銀髪少女が駆け寄ってくる。

 

「こんばんは。聞いたよ、オッタルさんと接触禁止令を出されたって」

「………?」

「あれ、まだ知らなかったの?」

「ああ………しかし、何故?」

 

 心当たりが無いというようなヴァルドにシルはん〜、と顎に指を当てる。

 

「ヴァルドがオッタルさんをボコボコにしちゃったから、リベンジしに来たと思ってるんじゃないかな〜?」

「それはそれで望ましいが、今のままで挑んでくる性格でもないだろう」

「あんまり知られてないもんね、あの人の性格。ランクアップ果たしたばかりって言うのもリベンジ説の一つかなぁって」

 

 まあだとしてもギルドから接触禁止令が出ている以上、ギルドで勘違いさせるようなことを言ったのだろう。

 

「彼奴は昔から、言葉が足りない」

「…………………」

「何だその目は?」

「いえ、べっつに〜………」

「仕方ない、俺からロイマンに話を通す」

「…………因みに、なんて言うの?」

「俺もオッタルも無意味に街を破壊する趣味はない。雌雄を決するのは今ではない、と」

「忙しかったら?」

「簡潔に、いずれオッタルとは決着をつけるつもりだ、と…………」

「う〜ん………」

 

 シルは困ったように笑う。

 

「まあ頑張ってね。禁止令が解かれたら私がご飯作ってあげる♪」

「………………………急いで誤解を解く必要はないか」

「なんでえ!?」

 

 と、シルは叫びながらヴァルドの髪の毛を引っ張った。ヴァルドにこんな事を出来る者は、そうはいない。

 Lv.8ゆえ本気で抵抗することできず、それが解っているのかシルは楽しそうに笑うのだった。




ヴァルドととある女神の関係
女神・愛おしい。そばに置きたい。他人が大好きね。
ヴァルド・厄介。神の愛は面倒。恋をしてから出直せ。

ヴァルドととある街娘の関係
街娘・友達。たまに遊びに誘う。料理をどうぞ。
ヴァルド・友人。たまに振り回される。料理はいらない。


ヴァルドがとある女神に言った言葉
「お前は俺を愛していても恋してない。俺ではお前の願いを叶えられない。だから、振り回されるだけ振り回されて、俺に何も得るものがない。ただ迷惑だ、関わるな鬱陶しい」

ヴァルドがとある銀の少女に言った言葉
「美の女神と関わるのはもう御免被るが、ただの街娘と話すぐらいなら問題はない」

ベルのおb……お義母さんが話を聞いて言うかもしれない言葉
「そういうところだ」



ヴァルドとシルはあくまで友達です。男女の友情が成立してる。シルは抱きついたり肩に顎を乗せたりお姫様抱っこさせたりと色々好き放題してるが本人曰く男女間の感情は芽生えていない。ただリヴェリア達の反応を楽しむこともある。

なんか思ったより筆が進んでヒロインも増えたので聖夜祭デート再アンケート

  • 家族仲良く リヴェリア、アイズ
  • 一度実家へ アルフィア、ベル
  • 聖夜祭だろ シル、ノエル
  • 夫婦水入らず リヴェリア
  • 義母義父のみで アルフィア
  • 街娘と日常を シル
  • 最も美しい女神(ヴァルド評) アストレア
  • 聖夜と言ったら聖女 アミッド
  • ツンデレ大和撫子 輝夜
  • 一人で過ごす男達の為に オッタル
  • 一人で過ごす男達の為に アレン
  • あるいはこんな世界 ディース姉妹
  • 聖夜祭は店も大忙し 豊穣の女主人
  • 何やらおかしな実験に フェルズ
  • ダンジョンデートだ 椿
  • ドロドロ依存 フィルヴィス

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