オラリオに失望するのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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サポーターの仕事

「ほわああああ!?」

 

 ダンジョンを駆け抜ける兎、もといベルの背に張り付いたリリは悲鳴を上げる。壁を、天井を駆け回り次々とキラーアントを切り裂いていく。

 その動きはどう見ても駆け出しのそれではない。

 キラーアントは瀕死になると仲間を呼ぶフェロモンのようなものを放つ。それに寄り集まったキラーアントの群れに、血の匂いと少女の悲鳴に寄ってきたモンスター。更に新たに生まれるモンスターが階層の一角を覆い尽くし死体の魔石を踏み潰したり、あるいはベルが砕いたりしたことにより産まれた灰の山を赤く染める。

 

「っ! 流石に、そろそろ…………リリ、お願い!」

「こ、こんなのサポーターの仕事じゃありません!」

 

 と、リリはバックパックから取り出した袋を投げつけ鼻をつまむ。厳重に包装されたそれは、しかしモンスターの爪にあっさり引き裂かれ、激臭が周囲を覆う。

 

「「「─────!!」」」

 

 モンスター達がその臭いに目を見開き硬直し、我先にと逃げ出そうとするも通路いっぱいに詰まった同胞と押し合い踏み合いまともに逃げられる個体は殆ど居ない。

 

「ふっ!!」

 

 その隙を突き、ベルがモンスターを一掃した。

 

 

 

 

 

「魔石が35、魔石が36…………あ、ドロップアイテム」

 

 リリは死んだ魚のような目で灰の中から魔石やドロップアイテムを回収していく。ベルが周囲の壁に切り込みを入れモンスターを生まれぬようにして、やってこないか警戒してくれているのでモンスターの心配はない。

 

「リリ、ありがとね。モンスターが来たら、絶対に守るからね」

「ありがとうございます。ところで、さっきのは?」

「師匠がナァーザさんに作ってもらった『強臭袋(モルブル)』って言うんだって」

 

 事前に臭いと聞いていたが、想像以上だった。モンスターが逃げ出すのもわかる。直ぐに消臭のアイテムをぶち撒けた。

 

「ところで、自分でやっておいてなんだけど………怪我、してない?」

「………………ええ、まあ」

 

 リリは「師匠に言われたキラーアント狩りをやりたいんだ。でも、モンスターが多いとリリを守れるか心配だから、その間僕の背中に掴まっててよ」という言葉を思い出しながら応える。

 最初は何言ってるか解らなかった。だって駆け出しがキラーアントを敢えて殺さず仲間を呼ばせ倒していく修行なんて、普通しない。ベテランだってまずしない。Lv.が低ければ危険だし、高ければもっと深くに潜ればいいからだ。

 

「良かった。でも、リリが危ないと思ったら確認取らずに使っていいからね。僕も人を背負って戦うのははじめてだけど、おかげでなんていうんだろう…………視野が広がった、のかな? リリのおかげだよ」

 

 最初はリリが後ろから迫るモンスターについて教えていた。

 始まりはモンスターの名前まで叫んで、途中から「来ました」と言ってる間に視界がくるりと入れ替わって、最終的には叫ぶために空気を吸い込んだ瞬間にはモンスターへの攻撃が終わっていた。

 

「よく反応できますね」

「師匠とお義母さんの修行に比べたら……目隠しして一ヶ月ぐらい過ごさせられたし」

 

 ちなみに義母(はは)は瞼を開ける事が疲れると言って常に目を瞑って生活していた。ヴァルドと話す時は何時も目を開くくせに。祖父いわく「なんでって、そりゃあヴァルドの顔を目に焼きつげばあああああ!!」だそうだ。

 

「お義父さ………師匠もお義母さんも凄いんだよ! どっちも修行って言って後ろから矢で打ったりするんだけどどっちも怪我したことないんだ!」

「ちょっと何言ってるかわかりません」

「あ、えっとね。後ろから攻撃された時の対処法のお手本として、こういう修行をするって………もちろん僕は鏃を潰して先端を綿や布で包んだのを」

 

 そういうことじゃない、と言う言葉をなんとか飲み込むリリ。だがなるほど、後ろからの攻撃に対する異様な反応速度はその修行故か。

 まあ暗黒期にたまに見かけた第二級とか、普通に後ろからの攻撃回避してたし………

 

「…………というか、ベル様こそ怪我は大丈夫ですか?」

 

 が、下級冒険者であるベルは全ての攻撃をかわせたわけではない。いや、それでも本来ならここまで傷つくことはなかったろう、何せ紐で背中に引っ付いていてまともに動けなかったリリが無傷なのだから。

 要するにベルは、リリを庇うような動きばかりしていたということだ。

 

「大丈夫大丈夫、師匠に木刀で殴られる方が痛いから」

 

 あはは、と笑うベル。そういえばヴァルド・クリストフは英雄の一人として崇められる反面、修行は厳しく幼女にも容赦無かったと聞いたことがある。その幼女は今や第一級のアイズ・ヴァレンシュタインだけど。

 

「でも、リリを庇わなければつかなかった傷もあります」

「? えっと…………でもそしたらリリが怪我しちゃうよ?」

「……………は?」

「うん。そっか………そうだね。やっぱり、このやり方は良くないか。リリも危険に晒すし、修行の時は誰かに迷惑かけないように一人でやるよ」

「いや、え………は? あの、リリが………危険だから、ですか?」

「あ、あはは。まあ、僕もやっぱりちょっと怖いかな………」

 

 バレちゃった、みたいな顔をしてるけど、さっき一人でやるとか言ってた。要するにリリが危ないからやめたのだ。

 リリは改めてバックパックを見る。魔石にドロップアイテム………この稼ぎはリリの見立てでも5人パーティーが数日は潜って稼ぐ稼ぎになるだろう。リリはそれらの回収しかしていない。そんなリリが、危ないから?

 賃金や囮に関する問題は少なくなったとはいえ、まだ残っている。サポーター、それも他派閥のサポーターなど多少怪我しようが気にしないしなんならそれを理由に値引きしようとするものまでいるのに。

 

「…………変なの」

 

 

 

 

 

 サポーターの給金。

 まずはサポーターを雇う場合、パーティー人数、Lv構成、潜る階層を決める。そして、その3つの要素によって前払い金が変わる。因みにこれは当日渡すもので、如何なる理由があろうと返金不可だ。ギルドのルールとして明記しないとサポーターから無理やり奪おうとする輩が出る。

 今回のベル、リリのLv.1のツーマンセルで9階層予定。前払い金額8000ヴァリス。

 

「それと、稼ぎの分割ですね。5人パーティーなら5%、ツーマンセルなら10%」

 

 今回の稼ぎは128000ヴァリスなので、12800ヴァリス。ベテラン下級冒険者の日当も凌駕する、サポーターとしては破格の金額。

 

「ここに冒険者様が色を付けてもいいわけです」

 

 その色を付けてくれる冒険者を見つけ、稼ぎを増やすのがフリーのサポーターのやり方。【ファミリア】のあり方が改善され、脱退金もなくなった今リリにはそこまでお金に頓着する理由はない。とある老夫婦に送る金と、何時かオラリオの外に出る為の金がリリの金を貯める理由。別段急いで貯める必要はないが、あるにこしたことはないので多少多めに貰えたら………まあたまにゲドのような輩にも運悪く出会うが。実入りが少なく、老夫婦に送れないと焦ったのが良くなかった。

 

(まあ今回の稼ぎなら10%でも十分な金額。色を付けなくても………)

「はい、これリリの分」

「……………へ?」

 

 64000ヴァリスが入った袋をヒョイと渡された。

 

「………………え?」

「ありがとう、リリ。もし良かったら、明日も組んでくれないかな?」

「あ、はい…………あっ! ま──」

「ありがとう、じゃあまた明日!」

 

 そう言って笑顔で走り去るベル。リリでは追いつけない。

 

「………………まあ、でもこの稼ぎなら」

 

 今日みたいなことをされないのなら、割はいい。お金があって困ることもない。

 

 

 

 

 

 

「俺の弟子がサポーターを雇った」

「そうなの……?」

 

 歓楽街のとある店、その最上階。ヴァルドに最近の出来事を聞いたエルフの娼婦はどこか懐かしむように目を細めた。

 長く伸びた薄緑の髪はきめ細やかで少し首を傾げるだけでサラサラと流れる。翡翠の目は同じ色を持つリヴェリアに比べ鋭さがなく、優しげな印象を与える。

 嘘か真か王族(ハイエルフ)の遠い傍系に当たるらしい彼女は、リヴェリアとは比べ物にならない包容力を持っていた。

 

「私と貴方の出会いも、サポーターとしてだったわね」

「俺もサポーターだったがな」

「そして、二人揃って見捨てられて………貴方1人なら逃げられたのに、私を守るために闘ってくれた。素敵だったわ、あの時の貴方」

 

 うっとりと頬を染めるエルフの娼婦にヴァルドはそうか、と返す。

 

「【ソーマ・ファミリア】の少女というのが、なにかの意思を感じないでもないがまあ悪い結果にはならないだろう」

「信頼してるのね」

「これがベル以外の誰かなら、未来を知ってようと不安になったろう。だがベルならば大丈夫だろう、そう思える」

「ふふ。その子のこと、本当に信頼してるのね。羨ましいわ………少し、妬けてしまう。なんて、娼婦の私が言っても嘘くさいかしら?」

 

 微笑む仕草、指の動きの、目の動きの一つ一つが男の情欲を高ぶらせる娼婦の技。そこに女神にも劣らぬエルフの美貌も合わされば、並の男ならすぐに虜になるだろう。己に気があると勘違いし、入れ込み、破産するかもしれない。というかこのエルフに入れ込んで破産した男の数は10や20ではきかない。何なら【ファミリア】の主神が入れ込んで【ファミリア】単位で滅んだことがある。

 名はシャムハト・ハリムトゥ。二つ名は【破滅毒蜜(バビロン)】。【イシュタル・ファミリア】所属の第一級冒険者。かつてヴァルドに救われたサポーターであり、ヴァルドにイシュタルを差し向けた張本人。

 現在の関係は客と娼婦。

 

「シャムハト姐さん、ヴァルド来てるって?」

「遊んで良い? 遊んで良いよね!」

 

 が、男女の甘い時間が始まる前に部屋に飛び込んできたのは幼いエルフ達。娼婦に身を落としても、堕胎など出来ないと産んだ生まれながらにして歓楽街以外を知らない娼婦見習い。

 ヴァルドは彼女達に外の世界の知識や生き方を教え、教師のような役割をしているからか人気が高い。

 大抵の子供はダイダロス通りに捨てられる中、この店は例外的に全員で助け合い子育てをしている。エルフだからかもしれない。

 

「ごめんなさいシャムハト、折角久し振りの二人っきりなのに」

 

 と、他のエルフの娼婦達が申し訳無さそうにやってくる。娼婦らしく露出が多いが、エルフにしてはという言葉がつく。どこか品のあるように見えるのは、彼女達の美しさも理由の一端だろう。

 

「ふふ、もう仕方ないわね。皆呼んできて、ヴァルドには英雄譚でも語ってもらいましょう? 居候先のお爺さんが絵本を書いてて、ヴァルドも読まされてたんですって」

「本当!? セルディア様のお話あった?」

「詩人のリュールゥが語ったお話聞きた〜い!」

「わ、私はええっと………ええとぉ」

「精霊のお話聞かせて!」

 

 シャムハトの言葉に子供達がキャッキャッと騒ぎ出す。子供達を連れて行こうとしたエルフはいいの? と聞きたげな視線を送る。

 

「良いのよ。それに、ヴァルドが帰ってきて最初の歓楽街での一日を私が独占したら、貴方も、皆も、妬いちゃうでしょう?」

「べ、別に私はシャムハトが誰と寝たって………」

 

 顔を赤くして視線を逸らすエルフにシャムハトはニコリと優しげに微笑む。

 

「ふふ、私にだけ? ヴァルドだって、気になってるくせに」

「そ、そんなこと……!」

「ヴァルド、早く早く!」

「私この前のテスト一位だったの。私のリクエスト!」

 

 元気な子供達に囲まれるヴァルドをチラリと見て、目が合うと慌てて逸らす。シャムハトはそれを見てニコニコ笑っていた。




シャムハト・ハリムトゥ
【イシュタル・ファミリア】所属
エルフの娼婦にして第一級の魔法剣士。
元々は別の美の女神の眷属にして妻の一人。イシュタルに【ファミリア】を滅ぼされ女神を送還され、無理やり所属させられ娼婦に。客を取りたくないなら金を自分で稼げと言われ、フリーのサポーターをやっていた期間にヴァルドと知り合い助けられる。なんでイシュタル差し向けたかって? その内書く。
両刀使い。
仕草が一々色っぽいくせに品を感じさせ、甘い匂いに誘われた客が自分が救うと金を出し続け破産する。二つ名は眷属が何人も破産した神達が結託してつけた。本人は気にしていない。ヴァルドに合わなきゃ死んでた。


ヴァルドの歓楽街での主な活動。
出来ちゃった子供の世話。ダイダロスに捨てられた子供とかの為にとある孤児院にお金渡したりしてた。誘われたら断らないのでそれなりに関係を持った娼婦が多い。

なんか思ったより筆が進んでヒロインも増えたので聖夜祭デート再アンケート

  • 家族仲良く リヴェリア、アイズ
  • 一度実家へ アルフィア、ベル
  • 聖夜祭だろ シル、ノエル
  • 夫婦水入らず リヴェリア
  • 義母義父のみで アルフィア
  • 街娘と日常を シル
  • 最も美しい女神(ヴァルド評) アストレア
  • 聖夜と言ったら聖女 アミッド
  • ツンデレ大和撫子 輝夜
  • 一人で過ごす男達の為に オッタル
  • 一人で過ごす男達の為に アレン
  • あるいはこんな世界 ディース姉妹
  • 聖夜祭は店も大忙し 豊穣の女主人
  • 何やらおかしな実験に フェルズ
  • ダンジョンデートだ 椿
  • ドロドロ依存 フィルヴィス
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