オラリオに失望するのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「……………」
「あ、あの〜…………アイズさん?」
レフィーヤが恐る恐る声をかけるも、アイズは反応しない。どんよりと暗い空気を纏っていた。後微妙に怒っているようにも見える。
(………逃げられた)
それは先日の出来事。
ダンジョンで気絶していた白髪の少年。諸々を謝りたくてリヴェリアの助言に従い膝枕したのだが、目を覚ますと同時に赤くなっていき、全力で逃げられた。
怖がりめ! ヴァルドに鍛えられてるくせに!!
でも、自分はそんなに怖いのだろうか?
「…………………」
いや、怖くて当然だろう。強さを求め、戦いを求め、胸の内に宿す黒い炎に身を委ねる自分は、モンスターのように恐ろしいに違いない。
(どうして師匠は、あの子を選んだんだろう…………)
そんな風にモヤッとした感情が湧いてくる。
私だったら怯えない、恐れないと、そう思う。
あの子が頑張っているのは装備の傷から解る。新しい傷ほど対応が出来てきているのが解る。でも、強い誰かを育てたいなら新しい冒険者より自分達のように鍛えられた冒険者を更に鍛えたほうが…………。
(…………違う。理屈をこねても、これは嫉妬だ)
置いていかれたから、選ばれた彼が羨ましいのだ。
彼が頑張っているのは解るが、素直に認めたくない。自分だって頑張ってるのにと思ってしまう。
(だから、選ばれなかったのかな……)
あの子は白かった。黒い自分とは大違いだ。臆病だけど、ダンジョンに再び潜っていた。自分からは逃げたけど、ダンジョンからは逃げなかった。
(…………私って、ダンジョンより怖い?)
むぅ、と頬を膨らませる。先程自分で怖がられても仕方ないと認めつつも、やっぱり納得いかない乙女心。
「お〜い、アイズ〜? ほおら、ジャガ丸くんだよ〜?」
「はむ!」
「うっぎゃあ指が〜!?」
考え事をしているといい匂いがして口の中に大好きなジャガ丸くんの味が広がる。悲鳴が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
「もぐもぐ、ごくん」
そういえば、昔はこうして機嫌が悪くなった自分の元には…………
「アイズ」
「………リヴェリア?」
顔をあげると紙の箱を持ったリヴェリアが居た。
「土産だ」
「そんな気分じゃ…………?」
と、そこまで言いかけ懐かしい匂いを感じ取る。奪い取るようにリヴェリアから箱を受け取り開ける。中にはシュークリームが2つ入っていた。
そのままパクリと食べる。
表面の砂糖が僅かな甘みを与えてフワフワの衣を噛みちぎると中のトロリとした濃厚なクリームが舌に広がる。噛めば噛むほど口の中で混ざり合い丁度いい甘さに変化する。
噛み進めるとクリームの代わりに、ミルクの中に感じる卵の香りが甘さを際立たせる。
「これは、師匠の?」
「ああ、お前が落ち込んでいると教えたら2つ作ってくれてな。一つは私のだ」
もう一つに手を伸ばしかけていたアイズだったが、リヴェリアがヒョイと取っていく。むぅ、と頬を膨らませる睨むもクスクス笑われた。
「ふむ、こっちはチョコと生クリームか」
唇に僅かについたクリームをペロリとなめ取るリヴェリア。味が違うと気付いたアイズはカスタードの方をズイッと差し出す。一口交換、というわけだろう。
リヴェリアは微笑み交換してやる。
「リヴェリアも師匠も、子供扱い」
「私達にとっては子供だからな」
子供扱いされプイ、と顔をそらすアイズ。とはいえ、ヴァルドがお菓子を作ってくれたのは素直に嬉しい。
「ほらアイズ、せっかく得難い戦いをしたんだ、【ステイタス】を更新してこい」
「うん」
「アイズたんLv.6きたああああ!!」
「ベル君はもう9階層ぐらいは平気そうだね。10階層にはいくの?」
と、エイナの言葉。
「冒険者は冒険してはならない」と口が酸っぱくなるほど言っていたエイナが言うのなら、ベルは10階層でも通用するだけの力を得たのだろう。
でも、10階層からは
「ベル様?」
「…………うん。大丈夫だよ」
何時までも怖がってばかりではいられない。師匠にも、あの人にも追い付けない。だから、行こう。
(ベル君、10階層に向かったかな………)
9階層であれだけ成果を出せるのなら確かに10階層でも通用するだろう。でも、急かしてしまったのではないだろうかと今更思ってしまう。
10階層からは『大型級』が現れ始める階層。強さ以上に威圧感が違う。恐怖で本来の動きを行えない、ということもあり得る。
(ううん………やっぱり、まだ早かったかなあ……………)
「ああ、あの白髪のガキが…………」
「…………?」
不意に聞こえた声の、『白髪のガキ』という言葉に思わず立ち止まるエイナ。
「ダンジョンの奥に潜ったら………アーデも………」「しくじるんじゃねーぞ」
見た目で判断するわけではないが、ガラの悪そうな男達がそんな事を呟きながらダンジョンに向かっていく。
『アーデ』という名に聞き覚えがある。ベルと組んだサポーターの苗字だ。
「…………………」
「白髪?」
「え?」
「?」
と、エイナの他に彼等の話を聞いていた者が居たのか呟かれた言葉にエイナが反応しお互いを認識して目と目が合う。
「ヴァ、ヴァレンシュタイン氏!?」
「えっと………ギルドの人?」
「あ、はい。クラネル氏の担当アドバイザーで……」
「クラネル?」
「あ、えっと………ベル・クラネル氏です。お知り合いなのでは?」
白髪に反応していたし、と思ったが彼女の師も白髪だった。
「ベル……そう、知ってる。でも私、怖がられてるから」
ずーんと黒いオーラを出すアイズに戸惑うエイナ。怖がっている? 彼女を? ベルが?
まさか照れくさくて逃げ回って勘違いさせたのではなかろうか。いや、それより………
「あの、無礼を承知でお願いがあります。私の担当冒険者、ベル・クラネルを助けてくれませんか」
「……………」
「彼は今、厄介事に巻き込まれている可能性があります」
「解った」
あっさり了承したことに、エイナは思わず目を見開く。
「あ、ありがとうございます。あ、あの…ベル君は、貴方に助けてもらったことを感謝していましたよ」
「………………」
アイズはタッと走り出す。胸の奥のモヤモヤが、僅かに晴れたような気がした。
10階層。そこからは、ダンジョンの地形すらモンスターの味方をする。『
霧に包まれた薄暗い階層の至るところに生えた枯れ木をオークが握ると形を変え、根っこが消えたかのようにあっさり引き抜かれ棍棒となる。
「しぃ!」
「ぷぎゃあ!?」
それでもベルの方が実力は上だ。単純な力ならオークの方が僅かに勝っているかもしれないが、速度も技量もベルが遥か格上。
危なげ無くいなし、腕ごと棍棒を切り飛ばし体を真っ二つにする。その動きを見て冒険者歴一ヶ月以下などと、誰が信じるのだろうか。
「リリ、平気?」
「はい。ベル様があっと言う間に倒されますし、戦えなくても最低限身を護るぐらいはできますので」
腕に装着するタイプのクロスボウを見せながら応えるリリ。近づいてくるモンスターの牽制程度は出来る。全く戦えないわけではないのだ、一匹倒せるのに必要な装備を準備すれば、モンスター一匹狩っただけでは足りない出費があるだけだ。あとインプやゴブリンなど小型種ならともかく大型級は普通に無理。
「そろそろ切り上げようか?」
「そうですね。本来ツーマンセルで長居するところでもありませんし……」
と、リリがベルの言葉に同意すると同時にベルがリリに向かって駆け出し剣を振るう。
「え──」
ギィン! と甲高い音を立てて矢が弾き飛ばされる。
「誰だ!?」
「べ、ベル様!?」
「リリ、僕の後ろ…………っ!」
後ろに隠れて、そう言おうとしてベルが顔を顰める。囲まれている。数は3………いや、4人。
「チッ、不意打ちを防ぎやがった。腐っても英雄の弟子かよ」
「へっ、構うこたねえ………所詮はLv.1。数で攻めりゃ切り崩せる」
「違いねえ」
「っ! カヌゥ様……」
嫌な意味で見知った顔に、リリが顔を顰める。【ソーマ・ファミリア】の冒険者、ザニスの取り巻きだった屑の部類。
「おおおらああああ!!」
「っ!!」
と、更に現れる人影がベルに斬りかかる。ベルは咄嗟に剣で受け止め、相手を見る。ベルもその顔を覚えていた。
「貴方は………!」
「よお、久し振りだなあガキ!」
ゲド・ライッシュは獰猛な笑みを浮かベルに叩きつけた剣に力を込め………しかし一ミドル足りとも押し込めない。
「……………あ?」
圧倒的な『力』の差に目を見開き冷や汗を流すゲド。おかしい、話が違う。駆け出しじゃなかったのか、こいつは………。
「きゃあ!」
「っ! リリ!」
聞こえた短い悲鳴にベルはゲドの腹を蹴り飛ばし振り返るとリリを抱え首にナイフを押し付ける獣人、カヌゥと呼ばれた男の姿が。
「動くんじゃねえガキ! アーデの首が切られていいなら別だがなあ」
「っ!!」
リリに手出しされる前にカヌゥの顔面をぶん殴ってやろうとするベルだったが残りの二人が遮るように前に立つ。僅かな遅れは、そのままリリの命の危機に繋がるため足を止めるベルを見てニヤニヤ笑う。
「はは、サポーター風情を見捨てられねえとはなあ。てめえは冒険者失格だなあ!」
「貴方が冒険者を語るな……」
自分がヴァルドやアイズと同じ冒険者だとでも言うようなカヌゥの言葉に、彼を知るものなら戸惑うであろう冷たい声色で話し掛けるベル。カヌゥが思わず後ずさる。
「ちょ、調子に乗ってんじゃねえぞガキ! ゲドの旦那、やっちまってください!」
「っ! この、クソガキがあ!」
と、立ち上がったゲドがベルに再び迫る。強い。カヌゥ達程度なら束になっても敵わないであろう、Lv.1としてランクアップ間近にいるであろう実力者にベルは無視できず相対する。
剣戟の音が響く。無視こそ出来ぬが、勝てない相手ではない。直ぐに無力化して………
「っ! その目………その目をやめろクソガキがぁ!」
勝てる存在として自分を見てくるベルに苛立ったように叫ぶゲド。と、二人の周りに何かが落ちてくる。
「…………あ?」
「え?」
血腥いそれは、モンスターを呼び寄せる
「て、てめぇ等なんのつもりだ!」
「へへ。此奴も追加ですぜ!」
更に投げ込まれたのはキラーアントの半身。まだピクピク痙攣していることから、生きている。つまり、仲間を呼び寄せる
「て、てめぇらああああ!?」
ゲドが叫ぶ。カヌゥ達は逃げ出す。ベルが直様追いかけようとして、何か袋が投げつけられる。
(っ! 毒!?)
その可能性も考え斬るのではなく剣の腹で弾くベル。視線がそちらに引き寄せられてしまったベルの顔を目掛け飛んでくるナイフに、身体を捻らせ地面に転がる。その間にカヌゥ達は距離を取っていた。逃げ慣れている。
「待て! リリ………リリィィィィッ!」
ベルの言葉が虚しく響き、返ってきたのはリリの返答ではなく無数の大きな足音と、ギチギチと軋むような不気味な音。
オークにインプ、ハード・アーマードに加え、キラーアントの群れ。
「くそ! くそくそくそ! あのクソ野郎ども! おいガキ、お前も手伝え!」
ゲドがベルに助力を求める中、ベルはリリが連れ去られた方向を睨む。
「貴方は、後で殴ります」
「っ! この、クソガキが!」
見捨ててやると目で訴えながら、二人はモンスターの群れに突っ込んだ。
この事を報告したらヴァルドに汎ゆる態勢から反撃できるように調き……訓練させられます
なんか思ったより筆が進んでヒロインも増えたので聖夜祭デート再アンケート
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