オラリオに失望するのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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リャナンシー
愛を求めて男を衰弱させる妖精。ヴァルドがディース姉妹に与えた呼び名


悪夢の残滓

 蹴りが放たれ地面の欠片が散弾のように舞う。それだけで土属性の上級魔導師の長文詠唱の魔砲に匹敵し得る破壊の暴風。

 しかしディナもヴェナも7年前の大抗争時点で第一級冒険者と同等のLv.5。横降りの雨のような飛礫の隙間を縫いヴァルドに近付き……それ以上の速度で接近したヴァルドに顔を掴まれ地面に叩きつけられる。

 ドォン! と爆音が響き階層全体が揺れ亀裂が食料庫(パントリー)の壁まで走り地形が変わる。

 

「………!」

 

 追撃しようとしたヴァルドの腕を万力のような力で掴むディナ。岩盤に叩き付けられようとも、高い耐久を持つ第一級からしたらクッションの上で戦うのと大差はない。

 

「あはは!」

 

 ヴァルドの腕を引きながら腹を蹴り上げるディナ。

 宙へと投げ出されたヴァルドに襲いかかる魔剣の魔法を、ヴァルドは空中で身をひねり回避すると勢いそのまま回転し蹴りをディナに放つ。

 防いだ腕の骨をへし折る感触。ただ、先ほど斬ったはずの腕が繫がるほどの回復能力。この程度では意味がないと追撃する。

 頰にめり込んだ拳が顎の骨を砕き、脇腹にめり込んだ拳が肋を圧し折り肺を破裂させ、腰にめりこんだ拳が仙骨を砕き、腹にめり込んだ拳が内臓を潰す。

 自称Lv.6、推定能力値(アビリティ)はLv.7の前衛であるディナが一方的に壊される。それでも()()()()

 

「げ、ぇ………ふ、あは……あはは!」

 

 肉が千切れ、骨が砕け、口から血と共に内臓の一部を吐き出そうと、第一級だろうと致死の一撃を何発も食らい笑っている。

 

憎悪(ぞうお)♡ いい目………あの時と同じね、ヴァルド」

 

 12年程前、その噂は都市に破壊と恐怖と死を齎していた姉妹に届いた。

 殺帝(アラクネア)が敗走した。Lv.2という格下に。当然馬鹿にして笑った。楽しかったとか面白かったとか、それは別にどうでも良い。

 ただその日を境に流れた噂。高潔な精神を讃え、誇り高き存在だと称賛する声。妖精(エルフ)が自分達こそそうであるとする尽善尽美の言葉を送られるヒューマンの少年の噂が気になった。

 聞けば妖精(エルフ)の中にさえそれを肯定する者がいる少年は、世界記録保持者(レコードホルダー)

 曰く上級冒険者でも逃げ出す複数のミノタウルスから仲間を守るために戦った。

 曰く幼い身でありながら鍛錬を怠った日はない。

 曰く謙虚な心根で、世界記録保持者(レコードホルダー)であることを鼻にかけず先達を敬う。

 曰くただ盲目的なだけでなく、悪しき行いをする者は先達であろうと容赦はしない。

 曰く心臓が貫かれようと力なき者達の為に動き続けた。

 最後のは殺帝(アラクニア)本人が忌々しげに肯定した。清く、美しく、正しい。エルフがエルフに贈る言葉を贈られた幼い英雄に、何時ものように悪戯気分でちょっかいを出しに行った。

 そして見た。物語の英雄のような存在を。連れてきた闇派閥(イヴィルス)構成員を纏めて斬り殺し、実力を上回る自分達に殺されかけてもその目の光は陰らず立ち上がり、逆にこちらが逃げざるを得なくなった。

 認めよう。あれは清い存在だ。

 理解した。あれは高潔な存在だ。

 称賛しよう。あれ程誇り高い存在は他にない。

 卑劣なる闇を忌避し、力に溺れず、弱者の盾となる英雄そのもの。

 嗚呼、なんて忌々しい(愛おしい)

 あの目を穢したくなった。あの存在を凌辱し尽くしたくなった。

 絶望でも怒りでも恐怖でも悲しみでもなんでもいい。あの光を穢し、自分達だけのものにしたくなった。

 

『殺戮に酔うか邪妖精(リャナンシー)共……俺の前でもはや誰も殺させてなるものか』

 

 そういえば『妖魔』と呼ばなかった冒険者は彼が初めてだったかもしれない。

 そんな彼が、今まさに自分を殺そうと迫る。

 

「素敵! さあヴァルド、もっと私達を憎んで(愛して)! 怒り狂って(愛して)! 3人で殺し合いましょう(愛し合いましょう)!!」

 

 血と泥に汚れながらも、尚も男を誘う娼婦のような色気を孕んだ無邪気な笑みを浮かべるディナ。その嬌笑を不愉快とばかりに砕かんとする拳。

 

「二人だけでずるい! 私を忘れないで!」

 

 拗ねる子供のようにヴェナが叫び、闇派閥(イヴィルス)構成員の死体を投げつけてくる。

 弾き飛ばそうと殴りつけた瞬間、死体の影に隠すようにはなった魔剣の炎が引火し爆発する。

 当然ヴァルドには火傷一つ負わせないが、視界が炎と煙で覆われる。

 

「っ!!」

 

 炎の中からディナがスティレットをヴァルドに突き刺す。

 嘗て暗黒期に、邪神の『外法』を用いて下位精霊を弄び強制的に『武器化』させた上で、複数折り重ねた『融合体』。第一級装備を超える、精霊を冒涜した武器。選りにもよってそれをエルフの姉妹が使うのは皮肉が………いや此奴等は昔からそうだ。

 エルフから蔑まれる報復のように、エルフが尊ぶものを蔑み嘲笑う。過去に何があったのか、過去に何をされたのか、そんなものに興味はない。

 此奴等は壊しすぎたし殺しすぎた。あの時のようにここで…………

 

「……………リヴェリア?」

 

 と、不意に感じた魔力の波長に振り返るヴァルド。次の瞬間食料庫(パントリー)の入口から吹雪が吹き荒れる。

 リヴェリアにしては、弱い。いや、魔力も微妙に違う。そういえば聞いた、彼女の後釜にしようと鍛えている弟子は他のエルフの魔法が使えると………。

 

「チッ。妙にしぶとく妙に硬え雑魚どもだ」

 

 『集合体』と『融合体』の氷像を砕きながら現れたのは、狼人(ウェアウルフ)の青年。【ロキ・ファミリア】所属のLv.5(第一級)、【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガ。

 

「あぁ? 何だてめえ等は!」

 

 そして、集まった視線に対して鬱陶しそうに叫んだ。

 その後ろには二人のエルフの少女。フィルヴィスとレフィーヤだ。

 

「もう少しだったのに!!」

「邪魔しないでよ!」

「え!?」

 

 そしてレフィーヤに向かって攻撃を仕掛けるディース姉妹。突然のことにレフィーヤの反応が遅れフィルヴィスが前に出る。

 

「【盾となれ、破邪の聖杯(せいはい)】 ! 【ディオ・グレイル】!!」

 

 純白の障壁が展開される。短文詠唱とはいえ魔法種族(マジックユーザ)たるエルフであり『魔導』持ちのフィルヴィスの障壁魔法は深層のモンスターの一撃だって耐え抜くだろう。だが………

 

「「邪魔よ」」

 

 魔法でも、ましてやスキルもなく砕かれる。一瞬とも呼べぬ時間、止めたと言うにも烏滸がましい時間稼ぎに………英雄は追いつく。

 ヴェナを雷で焼き、ディナの首を蹴りつける。ゴギッと首があらぬ方向に曲がりながら吹き飛んだ。

 

「あ、ありが………」

「礼を言うのはこちらだ。おかげで冷静になれた」

 

 そう言って足元の小石を蹴り飛ばし白髪の男を吹き飛ばす。

 

「おい、さっきのエルフども………ありゃ『妖魔』か?」

「え………」

 

 『妖精』ではなく『妖魔』。エルフに対して最大限の侮辱の一つを口にしたベートの言葉に敵とはいえレフィーヤが反応する。が……

 

「あはは! 懐かしい呼び名ね、ヴェナ!」

「でも気にしないわお姉様! ヴァルドがもっと素敵な名をくれたもの!」

 

 キャイキャイと無邪気に笑うエルフの姉妹。え、と固まるレフィーヤにベートが舌打ちしながら呟く。

 

「てめぇ等エルフ共がうぜえぐれえ同族好きなのは知ってるが、あれは同じだと思うんじゃねえ。闇派閥(イヴィルス)だぞ、あれは」

「え、同胞(エルフ)が……? そんな、何で………」

「自分たちが唯一絶対の穢れ無き種族だという価値観を持つから、その程度に疑念を覚える。探せばいくらでもいる破綻者だ」

 

 レフィーヤの言葉にヴァルドがそう返しながらもディース姉妹を睨む。その視線に頬を朱に染めるディナと瞳を潤ませるヴェナ。

 が、ヴァルドの前に飛び出した影を見て目を細める。

 

「私を、私を覚えているか『妖魔』!!」

「…………さあ? お姉様知ってる?」

「知ってるわ! でも会ったことあるかしら?」

 

 傷跡を残してもなお女神すら嫉妬させる美貌を持つ姉妹はフィルヴィスの怒りに可愛らしく首を傾げる。

 

「6年前! 貴様等が起こした悪夢! あの悪夢のせいで、私は………私は!!」

「フィルヴィスさん………」

 

 フィルヴィスの過去を知るレフィーヤが何か言おうとして、言葉を失う。悪夢とは、『27階層の悪夢』……フィルヴィスが仲間を失った事件だろう。

 話に聞くだけで吐き気を催す悍しき所業。それを妖精(エルフ)が?

 

「提案したのはヴァレッタよ?」

「実行したのはオリヴァスね!」

「私達も参加したけど、貴方達なんてどうでも良かったの」

「全員殺して死体を転がしておけばヴァルドが怒り狂うと思ってたのに、貴方達がしつこいせいで皆殺しにする前にヴァルドが来ちゃったし」

「おかげであの時のヴァルドったら、怒ってはいたけど周りを気にしてばかり。私達がいるのに!」

「貴方達のせいで折角の殺し合い(逢瀬)が台無しだったわ!」

 

 子供の癇癪のように叫ぶディース姉妹に、愛らしい筈なのに言いしれぬ恐怖を覚えるレフィーヤ。

 うまく言葉に出来ないが、気持ち悪い。腐肉で見てくれだけはいい芸術品を作ったかのような、そんな不安と不快。

 

「あれを同族と思うなウィリディス。あれは、猟奇の虜となった忌むべき恥さらしだ!」

「恥さらしですって、お姉様!」

「どうして皆そんな酷いことを言うのかしら? 私達だって歴とした『妖精』なのに!」

「認めてくれるのはヴァルドだけよ」

「「だからぐちゃぐちゃに殺したいの(愛しているの)!」」

 

 キャッキャッと姦しく騒ぐディース姉妹。と……

 

「何を遊んでいる! 『彼女』の敵が目の前にいるのだぞ!」

 

 と、ヴァルドが蹴った小石に吹っ飛ばされた男が叫ぶ。その顔にフィルヴィスが目を見開く。

 

「【白髪鬼(ヴェンデッタ)】……オリヴァス・アクト!!」

「彼奴もか………おい、どうなってんだヴァルド!」

「【白髪鬼(ヴェンデッタ)】はモンスターに体を割かれていたし、邪妖精(リャナンシー)共は切り刻んでやった筈だ…………神の恩恵とは別の何かによって復活したようだ」

 

 それが今回の異変の元凶。死に瀕した人類を復活させる………性質が反転しても権能は変わっていないのだろう。いや、元凶が魔石という成長手段で今も尚成長していることを考えるとより面倒かもしれない。

 

「切り刻まれた筈の妖魔共も復活させただと?」

「『彼女』ならばそれも容易い!」

 

 と、オリヴァスが高らかに叫ぶ。その目は狂信に満ちている。両手を広げ突き出した胸はヴァルドが蹴った小石により抉れ、肉の中に()()()()()()が埋まっていた。

 

「人を捨てたか」

「人を…………人を超えたとなぜ言えない匹夫めが!!」

 

 ヴァルドの言葉に激高するオリヴァス。そんな彼を可笑しそうに笑うディース姉妹。

 

「!? 貴方は………貴方達は一体何なんですか!!」

 

 レフィーヤの言葉にオリヴァスが高らかに叫ぶ。

 

「人と、モンスター。2つの力を兼ね備えた至上の存在だ!」




ヴァルド・クリストフ
年齢 27歳
身長 183
体重 76.7
髪の色 白
目の色 紫
好きな食べ物 ジャガ丸くん エルフの王女の拙い料理 ミアの料理 甘い物
嫌いな食べ物 街娘の手料理
戦闘スタイル 疑似魔法剣士(魔導を持たない)
特技 寝ない事 呼吸音を完全に睡眠状態に偽ること 料理
趣味 鍛錬(自・他)
女性関係 聞かぬが吉
主武装
武器 『獣王の毒牙』
 ヴァルドが打倒した二代目の大地の王の心臓部から造られた生きた武器。普段は気配を抑えてモンスターが逃げないようにしている。
 『黒風(かぜ)』と『猛毒』を操り、ヴァルド以外は整備士にしか触れさせない。
防具 『獅子王の外套』
 漆黒のモンスターの獣皮からに造られたコート。内側にサラマンダー・ウールを縫い付け防熱、防寒の効果もある。中層域のジャガーノートの破爪なら耐えられる高い防御性能を誇るが、ヴァルドがLv.7クラスとか漆黒のモンスターばかり相手するので定期的な補修は必要。5年前も下層のジャガーノートに斬られた。脆いんじゃない、ヴァルドが相手してる奴等がおかしいんだ!


性格は昔は内心は軽かったけど過酷な世界で生きるうちにだいぶ変わった。『不眠』を手にした今超珍しいが睡眠不足になるとテンションが変わる。第一話も寝不足になってた。またあのテンションを見るには毎日疲れさせた上で寝かせず1年と半年ぐらい必要。まあリヴェリアが膝枕するから多分一生ない

なんか思ったより筆が進んでヒロインも増えたので聖夜祭デート再アンケート

  • 家族仲良く リヴェリア、アイズ
  • 一度実家へ アルフィア、ベル
  • 聖夜祭だろ シル、ノエル
  • 夫婦水入らず リヴェリア
  • 義母義父のみで アルフィア
  • 街娘と日常を シル
  • 最も美しい女神(ヴァルド評) アストレア
  • 聖夜と言ったら聖女 アミッド
  • ツンデレ大和撫子 輝夜
  • 一人で過ごす男達の為に オッタル
  • 一人で過ごす男達の為に アレン
  • あるいはこんな世界 ディース姉妹
  • 聖夜祭は店も大忙し 豊穣の女主人
  • 何やらおかしな実験に フェルズ
  • ダンジョンデートだ 椿
  • ドロドロ依存 フィルヴィス
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