オラリオに失望するのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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努力する理由

「Lv.6………? アイズさん、が……」

 

 ギルドの提示版に、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインのランクアップの公式発表が載る。

 

「本当に少し前だったかな。ヴァレンシュタイン氏が【ランクアップ】したって公式発表されたのは……」

 

 しかもその方法は大規模パーティーで挑むべき階層主──『迷宮の孤王(モンスターレックス)』──の単独討伐。

 成し遂げたのは公式ではヴァルドとオッタルだけ。後、彼等は知らないがリヴェリアも魔導師の天敵(アンフィスバエナ)を討伐している。だがベルにとって重要なのは、憧憬の、それも恋慕の対象に差を開かれてしまったという事実。もとより開いていた差が、更にその背が霞むほどに遠くなった。

 

「…………………」

「あ、あのね。今回のことは気にしなくていいと思うの………」

 

 ベルの想いを知っているエイナは何とか慰めようとするがベルは何処か覚束無い足取りで歩き出す。

 

「あ、すいません。ぼーっとしちゃって………今日はもう、帰ります」

「…………ベル君」

 

 強がってみせたが、やはりショックは大きい。

 遠い。

 遠すぎる。

 追い付かなくてはならないあの人と、自分の間に開く隔絶とした距離。

 

(………何時かお義母さんや貴方を守れるような英雄になりたい、か……)

 

 それは何時? そんな日が果たして本当に来るのだろうか。

 

「わっ!」

「おっと」

 

 下を向いて歩いていれば、誰かにぶつかる。

 慌てて顔をあげると小柄な少年。しかし、人ではない。神だ

 

「ご、ごめんなさい!」

「いいよいいよ〜、気にしない気にしない!」

 

 ケラケラヘラヘラと楽しそうに笑う軽薄な少年神。怒っていないようでホッとため息を吐く。

 

「どうしたの? なにか暗いね、僕様に相談してみなさい」

「え、でも………」

「これでも神だぜ? 永く存在してるんだ、下界の子の悩みの一つ二つ相談に乗れるさ」

「……………」

 

 実際、ただ悩んでいたところで自分になにか思いつくとは思えない。神様が親身になってくれるのだし、と自分の迷いを話すベル。

 

「ふ〜ん、憧れの人が更に強く。良いことじゃん! 君の人を見る目は間違ってないってことだろう?」

「それは………」

 

 憧れた存在が、実際に凄いと証明されたのだ。喜ぶことはあっても、悲観にくれるとしたらそれは自分のただのわがまま。待っていてほしいなんて、勝手が過ぎる。

 

「まあそれも子供の思いというのなら、僕は止めないぜ。君と仲良くしてたくせに君を置いてくなんて、確かに酷い女だ!」

「ち、違います! アイズさんは…………!」

「あ、そう? なら君が情けないだけか〜」

「っ!!」

 

 神の嘲笑を否定できずに歯軋りするベルに、神はやはりケラケラと笑う。

 

「自分が追いつけないからって待っててほしかったなんて、そんなんで良く強くなろうって努力したなんて言えるね〜。努力ってね、報われる奴は天才だけなんだ。凡人には無理無理、ましてや憧れの人が強くなったのを喜べない君みたいな奴はさ〜」

「……………」

「そんな君に元気になる魔法の言葉を教えて進ぜよう………ほら、あれ」

 

 と、少年神が指さした方向にはサポーターらしき人物。

 

「ああいう風にさ、冒険者に寄生するしか能のないサポーターだっているんだ。君はあれより上……『僕は彼奴等よりまし!』………ほら、そう思うと気が楽になる」

「…………やめてください」

「…………あれ〜?」

 

 ベルが不愉快そうに顔を歪めると少年神は態とらしく首を傾げる。

 

「誰が下とか、自分が上とか………そんな事、考えたくもありません」

「なら誰がランクアップしたかなんて気にしなくていいのに〜。差を感じて差別してるのは君も同じだろ〜?」

「っ!!」

 

 言い返せない。

 事実としてベルはアイズと自分を不釣り合いだと決め付けている。

 

「まあなら簡単だよね。強さに差があろうと関係ないなら、別に無理に強くなる必要なんてないんだから」

「それは………」

「いやぁ〜、これで解決だね! 今日も下界の子供達を導いてしまったゼ☆」

「……………」

 

 ()()()()()

 動作一つ一つに悪意が見て取れるのに、この神は間違いなく人類を愛している。その歪さが、酷く気持ち悪い。

 

 

「ああ、探しましたよ。こんな所に一柱(ひとり)で………」

「ああジミー君じゃ〜ん」

「私の名は………いえ良いでしょう。おや、そちらの方は?」

 

 と、唐突に現れたのは一人の青年。なんというか、印象がないというか、人混みに混じれば見失いそうな顔立ちだった。

 

「そういや名前聞いてね~や」

「はぁ………彼はまあ、無害そうですがお気をつけください。貴方は大事な客神(きゃくじん)なのですから」

「めんごめんご☆」

「本当に反省しているんですかねえ」

 

 はぁ、と疲れたように嘆息する青年は、ベルへと体を向ける。

 

「このお方が迷惑をかけたようなら謝罪します。何分、神々には変わった方々が多いでしょう? この方も例に漏れず変り者で………」

「ウェ〜イ☆」

「………おや、もしや貴方はベル・クラネルでは?」

「僕を知ってるんですか?」

「ええ、まあ。有名ですよ、あの英雄が連れてきた英雄候補ですからね」

 

 ニコッと優しげな笑みを浮かべる青年に、しかしベルは恐縮してしまう。

 

「え〜、その子があ? 憧れの女の子が強くなってショックを受けちゃう子が〜?」

「嫉妬ですか。ええ、それも素晴らしい感情だと思いますよ。超えたい、負けたくないという願いなくして強くなれるのは極一部の人間でしょう。それこそ、英雄と呼ばれるような」

「あはは、えーゆー! すごいよね、凡人じゃあ努力したって追いつけない」

 

 笑う少年神。

 やはりそれは、悪意を持った言葉。努力だけでは英雄になれないと彼はあざ笑う。

 

「私はそうは思いません」

 

 それを否定するのは、青年だった。

 

「信念と弛まぬ努力があれば、如何なる不可能も可能になる。事実私は抗うことなど不可能な『サイカ』を打ち破ってみせた英雄を見たことがあります」

「ふ〜ん?」

「努力は限界を突破する。あらゆる偉業を成し遂げるでしょう。しかしそれを、称賛されるべき形で行える者が少ないだけです。何故なら彼等はこぞって()()()()()()のだから」

「認められない?」

 

 努力を認める彼が、なぜそのようなことを言うのか困惑するベルに、青年は続ける。

 

「ええ、ええ。人々は英雄の軌跡とは白くあることを望む。汚れが一つでもあれば騒ぎ立てる。嘗てかの英雄が、たった一人の女と、悪とともに姿を消したオラリオはそれはもう醜いものでした」

 

 功績は偽りだと騒ぎ立て、強さは幻想、これまで救われた者達すら喧しく騒ぎ立てた。無論、そんなものはすぐに情報操作で押し潰されたが。それでもその間、彼に救われたことを感謝する者達、彼を称える者達の声は()()()()()()

 

「人は努力に()()を求める。それがどれほどの偉業だろうと、シミ一つ見つければこき下ろす。オラリオではそれが顕著ですよ? Lv.2に、3に至るのは十分な偉業。ですがランクアップ当時は褒め称え、しかし直ぐに忘れ、或いは成長出来ぬ存在を嘲る。自分はなんの努力もせず、何も成していないというのに」

「………………」

「ええ、ですからそれでもなお努力を貫けるものがいるとしたら、それは正しく、それだけで正しく英雄の如き信念を持っていると言えるでしょう」

 

 「故に私は努力を肯定します」と、青年は語る。

 

「努力をすれば必ず夢はかなうでしょう。不断の努力が報われないとしたら、それは成果がついてこないのでなく認められないだけなのだから」

「…………でも、努力って言われてもどうすれば」

「簡単ですよ。偉業を成せば良い」

「偉業?」

「ええ、私これでも第一級に分類されるレベルでしてね。だから、知っています。偉業をなす、それが冒険者がランクアップへと至る道。己より強大な敵に打ち勝つ、より上位の『経験値(エクセリア)』を手に入れ一定量を超過する。それがLv.上昇(ランクアップ)の条件です」

「でも、自分より強い相手って普通負けちゃうんじゃ………」

「だからこその偉業が認められるのです。貴方の師のように」

 

 ヴァルドのように、と言われ微かに肩を震わせるベルを見て青年は微笑む。

 

「では私達はこれで」

「まったね〜☆」

 

 青年は少年神を引き連れ去っていった。

 ベルもホームへ戻ろうと歩きだし………

 

「あ、ベルさん! 丁度いいところに、会いたかったです!」

 

 シルに捕まり店の手伝いをさせられた。

 

 

 

 

「全く、お気をつけください。見つかったのが弟子の方だったから良かったものを」

「あはは。大丈夫大丈夫、あの化け物にだって顔は見られてないよ…………見られてないはずだけど」

 

 青年の言葉に少年神は引きつった笑みを浮かべた。

 

「しかしあれだよね〜、ちょーっと下界の戦争を引っ掻き回そうとしたところでオラリオに帰還中の英雄に鉢合わせるとかついてないよ」

「ですが、そのおかげで貴方はこうしてこの都市へと来た」

「まあね〜、開始の一撃で砂漠の一部が吹っ飛んだもん。『あ、こりゃムリゲー。逃げなきゃ死ぬな』って使えそうな子引き連れてスタコラサッサーってね………で、君達()()に勝てるの?」

「さあ………ですが一つだけ言わせてもらうとするなら、()()()()()()()()()()

「……………」

「ようは英雄を()()()()()()()()()………らしいですよ。私にはとんと興味のないことですが」

「ふーん………都市の破壊者(エニュオ)って奴は、あれだね。あの化け物さえ帰ってこなければ作戦通りだーって高笑いしてたろうに、戻ってきたせいでもうこれしかないって慌ててると見た」

 

 アハハハハ、と愉快そうに少年神は路地裏から人気のある大通りを見つめる。

 

「僕みたいな新参が今更やれることなんてないと思ったけど、まぁまぁ楽しそうだね、オラリオって街は」

「ええ、ええ、それはもう……では此方へ、神ラシャプ」

 

 

 

 

 

「ベルさん、今日はごめんなさい。ほんとうにありがとうごさいました」

 

 『豊穣の女主人』の手伝いから開放され、今度こそ帰ろうとするベルにシルがお礼を言った。

 

「…………あの、ベルさん」

「はい?」

「………冒険は、しなくてもいいんじゃないでしょうか」

 

 心配そうな声で、シルは言う。冒険をせねば強くなれない冒険者に向かい。

 

「無理はなさらないでください。なんだか、それだけ伝えたくて」

「………シルさん」

「まあこの街には、何時も無理ばっかりして人に心配ばっかりかけるどーしようもない人もいますが」

「シ、シルさん………?」

 

 ふと師の『美人は怒ると怖い』という言葉を思い出した。

 

「ベルさんはくれぐれも、散々心配かけておいて『デートする約束があるから死ぬ訳には行かないだろう』とか調子良い事ばっかり言う所まで似ないでくださいね! 絶対ですから!」

「は、はいぃ!!」

 

 良く分からないが取り敢えず逆らえる気はしなかった。

 

 

 その翌日。アイズとの鍛錬最終日。

 アイズと対面して、改めて追いつきたいと思った。彼女の、そして自分の師でもあるヴァルドにも。

 絶望的な差だとしても……それでも、あの高みへと手を伸ばすと、改めて心に誓う。




ちなみに今回の護衛はリュー一人だけだった

なんか思ったより筆が進んでヒロインも増えたので聖夜祭デート再アンケート

  • 家族仲良く リヴェリア、アイズ
  • 一度実家へ アルフィア、ベル
  • 聖夜祭だろ シル、ノエル
  • 夫婦水入らず リヴェリア
  • 義母義父のみで アルフィア
  • 街娘と日常を シル
  • 最も美しい女神(ヴァルド評) アストレア
  • 聖夜と言ったら聖女 アミッド
  • ツンデレ大和撫子 輝夜
  • 一人で過ごす男達の為に オッタル
  • 一人で過ごす男達の為に アレン
  • あるいはこんな世界 ディース姉妹
  • 聖夜祭は店も大忙し 豊穣の女主人
  • 何やらおかしな実験に フェルズ
  • ダンジョンデートだ 椿
  • ドロドロ依存 フィルヴィス
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