オラリオに失望するのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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始まりの冒険

 眼の前で構える武人、オッタル。

 Lv.差があるから当然とはいえ、過去に何度もアイズの師であるヴァルドを降した男。

 

「…………」

 

 それでも、彼の背後に用がある。

 

「そこを……どいて!」

 

 小細工なしの渾身の踏み込み。

 並の冒険者では知覚すら不可能の神速の袈裟斬りを、オッタルへと放つ。

 

「温い」

「!!」

 

 その全力の斬撃を、武人は片手の大剣でいとも容易く弾く。

 体が浮き上がり、しかしその勢いを利用して回転しながら斬りかかる。再び、防がれる。アイズは委細構わず連撃を放つ。

 

「あああああああああっ!!」

 

 仮借のない連続攻撃。

 『少年』の危機に、アイズは人形の仮面を脱ぎ捨て彼と知り合い語り合った少女として、進路を塞ぐ男へと斬りかかる。

 

「その動き、そうか………お前もまた新たな高みへと至ったか」

 

 それら全てが防がれる。

 アイズのランクアップの公式発表を知らないオッタルはその動きを見て感嘆と称賛を込め、一撃を放つ。

 

「何処まで強くなる、【剣姫】」

 

 振り下ろしを『不壊属性(デュランダル)』のデスペレートで防ごうとして、吹き飛ばされる。両足で地面を深く削り続け、何とか停止する。

 

(なんて、力…………!)

 

 10M(メドル)近く吹き飛ばされ戦慄するアイズ。

 これがLv.8………いや、違う。これが【猛者(おうじゃ)】。

 階位云々ではない、ヴァルドと同じく愚直に己を鍛え続けた武人の力量。

 だが、それを理解した上ですぐさまオッタルに斬りかかる。

 この先に、ミノタウロスと少年がいる。このままでは間に合わなくなる!!

 行かなくては!

 助けなくては!!

 死なせたくない!!

 

 

「───【目覚めよ(テンペスト)】!」

「むっ……」

 

 第一級の力で振るわれた剣であろうと押し返す風を纏うアイズ。手加減はしない、する余裕もない。

 猛る。

 少年を救うために気流を纏い爆風と共に姿が掻き消えるアイズ。そして、信じられないものを見た。

 

「ぬんっ!」

 

 風を力任せに突破し、アイズの剣を弾くオッタル。再び吹き飛ばされるアイズ。オッタルは、一歩たりとも動いていない。

 

「軽いな」

「──っ!」

 

 圧倒的な力で魔法を捻じ伏せられた。

 壁に()()したアイズは耳を澄ませる。声が聞こえない。

 

「──リル・ラファーガ!!」

 

 速く速く速く!!

 一秒でも早く向かうために、放つ『必殺』。風の槍となって突き進むアイズに対しオッタルは……

 

「ふん!!」

 

 アイズの手首を掴み地面へと押し付ける。技術ですらない力任せのそれに、アイズの必死の一撃は逆らうことすら出来ず地面を抉る。

 

「………………」

「退け、【剣姫】。この先にお前を通すわけには行かない」

 

 腕が、抜けない。立ち上がれない。ミシリと万力に締め付けられるような圧迫感にアイズが顔を歪め………頭上に影が差す。

 

「むっ!」

 

 オッタルに向かい振り下ろされる大鉄塊。

 超重量の大双刃(ウルガ)を振るうのは【大切断(アマゾン)】ティオナ・ヒリュテ。オッタルは獲物を振るい、打ち返した。

 

「どうなってんのこれ〜!?」

 

 大双刃(ウルガ)を弾かれ着地するティオナはしかしすぐさま仲間を襲う敵へと肉薄する。アイズとともに猛攻を仕掛けるティオナ。

 甚だしい破壊力を秘めた大双刃(ウルガ)に、畳み掛けられる複数の斬撃。それでもなお、止められない。

 周囲に突き刺した武器の一つを手に取り振るう。ありえない程の轟撃となり、ティオナが吹き飛びその陰から翔ける一つの影。

 

「猪野郎!!」

 

 オッタルを睨むベートが渾身の蹴りを放った。それを防いだ武人のもとに、湾曲刀(ククリナイフ)が飛来する。

 

「どうなってんのよ、コレ!」

 

 妹と同じ疑問の声を上げるティオネもまた参戦する。第一級冒険者達の猛攻。僅かに生まれた一瞬の隙──アイズは駆け出し

 

「………え」

 

 オッタルに片足を掴まれる。

 誰も反応できなかった。【ロキ・ファミリア】最速のベートも、瞬間的加速だけならベートよりも上のアイズも。

 そのまま、振るわれる。

 

「かっ!?」

「ぐぇ!」

「がぁ!」

 

 咄嗟に回避出来たのはベート一人。ティオナとティオネがアイズと共に壁に叩きつけられ、肺の中の空気を吐き出す。

 圧倒的な速度に、膂力。先程までより、速く重い………手を抜いていた。

 

「これは、どういう状況かな?」

 

 と、そこに現れるフィン。オッタルが視線を向けたと同時に駆け出しており、放たれた突きは受けとめられ、咄嗟に槍を放し距離を取る。

 槍を掴んだままだったならそれごと壁にでも叩きつけられていただろう。予備の武器であるナイフを抜くが、予備とはいえここまで武器を頼りなく感じたのは初めてだ。

 リヴェリアも追いついてきたが、彼女の魔法なら或いは可能か? 詠唱を終えるまで守れればという前提を果たせればだが。

 

「この戦いは派閥の総意、ひいては君の主の神意と見ていいのかな? 女神フレイヤは全面戦争をお望みかい?」

「………俺の独断だ。だが……」

 

 オッタルは剣を構えたままフィン達を見据える。

 

「全面戦争になろうと、叩き潰す自信はある」

「「「っ!!」」」

 

 頭皮に触れる頭髪の感触すら不快に感じるほどに神経が研ぎ澄まされる。Lv.8という怪物を前に、その場の誰もが息をつまらせる。

 

「此処から先を通らぬと言うのなら、俺がなにかすることもない。だが、通ると言うなら……この場で雌雄を決するか?」

「いいやそこまでだ」

 

 と……天井が砕け……否、()()()()()()()()()

 現れたのは白髪の若き剣士、ヴァルド。

 

「そこを通せ、オッタル」

「………………」

 

 その場に揃った二人のLv.8。戦いの音に怯えていたモンスター達はとっくに逃げているが、生まれてくることを拒絶したかのように階層からモンスターの出現が止まる。

 

「………通せ、と?」

「ここで救われるなら………救われることを受け入れるならそこまでだ。だが、そうはならん」

「…………良いだろう。お前も参戦した時点で、俺はこの先を誰も通さぬという目的は果たせない」

 

 剣を収め、地上に向けて歩き出すオッタル。アイズは直ぐ様横を通り抜け、ベートとティオナ達が慌てて追う。

 

「……助かったよ、ヴァルド………我ながら、情けない」

「………………」

 

 笑みを浮かべながらも力強く握られた拳を見て、ヴァルドは目を細める。

 

「しかし、良く解ったね」

「………知り合いの魔術師(メイジ)のおかげでな」

 

 何らかの方法で、監視されていたということだろうか?

 

「行くぞ」

「………この先に、何か見せたいものでもあるようだね?」

「ああ………学ぶべき技術も称賛する駆け引きもない、ただの冒険だがな」

 

 

 

 振るわれる剛腕を神様の剣(ヘスティア・ソード)で横から殴り逸らす。腕は、切れていない。

 切れ味が足りない? いいや、足りてないのはベルの膂力と技術。

 よくよく見れば傷だらけで、片角も折れたミノタウロス。同格か、或いはそれ以上の存在との戦いを経験したであろうミノタウロスの強化種は、力任せではない拙いながらも確かな技を持って大剣を振るう。

 

(Lv.2上位……? まさか、Lv.3は行ってるんじゃ…………!?)

 

 その平均を知らぬゆえに判断出来ぬが、初めてあったダンジョン産のミノタウロスより明らかに強い。個体差で済ませるには足りない程。

 別のモンスターと思ったほうが納得できる。

 

(これが、強化種!)

 

 勝てない。勝とうとするな。リリが助けを呼んでくるまで、逃げ回れと本能が訴える。

 かと言って、下手に距離をとっても助走距離を与えるだけ。なら………

 

「ブオオオオオ!!」

「っ!!」

 

 振り下ろされる大剣を回避し懐に飛び込む。ミノタウロスの死角へ、安全地帯に! と、ミノタウロスの目が自身の肉体の陰に隠れようとする獲物を捉え、頭を大きく振るう。

 

「っ!?」

 

 迫るは角。咄嗟にエイナから貰ったプロテクターで受けるもあっさり貫かれる。鋭い角は僅かに逸れベルの腕を浅く切り裂くだけで済んだ。が、ミノタウロスの角はプロテクターに刺さったまま。

 

「ヴゥン!!」

「っぅ、あ!!」

 

 ブンブンと首を振り回し、角に引っかかったベルが振り回される。プロテクターが砕け宙に放り出される。

 

「が、あ……かはぁ………っぁ!」

 

 天井近くまで投げ出され、地面に落ち空気を吐き出す。全身が痛い。指一本動かすことすら苦痛になる。

 立てない。まずい、死……

 

「────」

 

 死の足音が近付く中、遮るように金色の風が吹く。

 

「………大丈夫? ……………頑張ったね」

 

 【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。ベルの憧憬が、出会い(あの時)のようにベルをミノタウロスから救いに来た。

 

 

「いたぁー! アイズー!」

「チッ、つまんねーことに巻き込まれてんじゃねえっつーの」

 

 ベートとティオナの声が聞こえる。

 二人の気配を感じながら、アイズは怯えるように後ずさるミノタウロスを見る。拙いながらも堂に入った構え。感じる気配は、恐らく強化種。

 

「…………頑張ったね」

 

 本当に、頑張った。

 鎧は砕け、体もボロボロ。それでも、逃げずに戦っていた。勝てなかったけど、君は負けてなんかないよ。

 

「今、助けるから」

 

 

 

 

「………………」

 

 助けられる?

 また………この人に?

 同じ様に、繰り返すように………誰が?

 

 僕が?

 

「ッッッ!!」

 

 立て、立てよ!

 格好悪い自分はもう嫌なんだ! 強くなるって、決めていただろう!?

 憧れた人が居るんだ。同じ憧れを持ってる人が居るんだ!!

 ここで、今立ち上がらずに……ここで助けられて………じゃあ何時立ち上がるって言うんだ!?

 ここで高みに手を伸ばさないで、何時届くっていうんだ!!

 

 

 

「……………」

 

 背後で、音がする。地面を踏みしめ立ち上がる音が。

 アイズのものではない。ミノタウロスでも、ベートやティオナでもない。

 ありえない。立ち上がれるはずがない。立ち上がる必要なんてない。

 勝てる相手じゃない。

 戦える相手じゃない。

 なのに………それが解っていて剣を取れるとしたら………

 

「──いけ、ないんだ!」

 

 ダン、と草原を踏みしめ振り向こうとしたアイズの手を掴み驚愕するアイズを後ろに押しやる。

 

「もう、アイズ・ヴァレンシュタインに………助けられるわけには行かないんだ!!」

「……………」

 

 どう、して……。

 怒りでも、憎しみでもない。その目に宿るのは真っ直ぐなまでの白い決意。

 少年は立ち上がり勝てぬはずの相手に向かう。怒りと憎悪に飲まれなければアイズには出来なかった事だ。

 英雄の器ではなかった。何処にでもいる、しかし優しい少年だった。

 どうして立てる。どうして挑める。

 

「君は……いったい…………」

 

 君はいったい、何なの?

 怖くないの?

 恐ろしくないの?

 憎くないの?

 許せないんじゃないの?

 どうしてそんな顔で、冒険ができるの………?

 

「──っ! 待っ──!」

 

 疑問は後だ。勇気を出したからって勝てる相手じゃない。止めようとしたアイズは、しかし固まる。

 

『そこにいなさい、アイズ』

 

 少年の背中が、父の最後の姿と重なる。

 アイズは伸ばしかけた手を戻す。

 

 

 何が君をそうさせるの?

 解らない……

 

 

 『冒険』をしよう。譲れないこの想いの為に

 

 

 だけど、解るよ。君は今も白いまま、そして……

 

 

 僕は今日初めて冒険をする。

 

 

 ──今私の前で一人の『冒険者』が生まれた。

 

 

 己の『殻』を破り『冒険』に挑む。

 『英雄』への道のりを一歩踏み出した少年を前に、アイズの体は動かなくなる。

 

 

 

 

 最早あの獲物は喰らえない。

 自分より遥かに強い者達が来たからだ。後はもう、殺されるだけ。

 その筈だった。

 獲物は強い者を押しのけ己の前に立つ。武器を構える。

 理解できない。何故そんな真似をするのか。死にたいのか? ただ殺されるだけの獲物のくせに。

 

「────っ」

 

 違う。

 あれは逃げ惑う獲物の目ではない。あれは、彼奴は………あの男は!!

 敵………敵だ。倒すべき、倒さなくてはならない、全霊を持って挑んでくる、全霊を持って挑まなくてはならない、敵!!

 

「………今、あのミノタウロス………笑わなかった?」

「何言ってんのよ、そんなわけ無いでしょうが」

 

 言葉を理解し得ない彼にはその声が自分に向けられているのに気付かない。いや、言葉を理解していようと、気付く必要すらない。

 今自分の全神経を集中すべきはただ一人なのだから!

 

「勝負だあああ!!」

「ヴオオオオオオ!!」

なんか思ったより筆が進んでヒロインも増えたので聖夜祭デート再アンケート

  • 家族仲良く リヴェリア、アイズ
  • 一度実家へ アルフィア、ベル
  • 聖夜祭だろ シル、ノエル
  • 夫婦水入らず リヴェリア
  • 義母義父のみで アルフィア
  • 街娘と日常を シル
  • 最も美しい女神(ヴァルド評) アストレア
  • 聖夜と言ったら聖女 アミッド
  • ツンデレ大和撫子 輝夜
  • 一人で過ごす男達の為に オッタル
  • 一人で過ごす男達の為に アレン
  • あるいはこんな世界 ディース姉妹
  • 聖夜祭は店も大忙し 豊穣の女主人
  • 何やらおかしな実験に フェルズ
  • ダンジョンデートだ 椿
  • ドロドロ依存 フィルヴィス
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