オラリオに失望するのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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問われる勇気

 精霊の分身達は勝利を確信する。

 彼我の実力差は圧倒的。そのうえであそこまでダメージを与えたのだ。そして自分は無傷で、魔力にも余裕がある。『アリア』を食らい、他の邪魔な者を消し、地上に戻る。空を見る。

 それだけを目的に触手を伸ばした精霊の分身はふと動きを止める。

 

『………?』

 

 我が子と混ざり、本能をモンスターのままに精霊の自我に支配された神もダンジョンも予想し得なかった『下界の可能性の子』。それが行った階層の破壊に、ダンジョンが()()()

 

「「「────!!」」」

『『────!?』』

 

 人も精霊も思わず固まる異音。女を世界規模の大きさにさせ、腹を割けばこの様な悲鳴を上げるのではと思わせる甲高い悲鳴。

 やがて天井に巨大な亀裂が走る。

 ボロボロと崩れる天井から落ちてきた紫の漿液。まるで自ら子宮をこじ開けるように天井の破片を落としながらヒビは大きくなっていく。奥で瞬くは真紅の眼光。

 それは地面に落ち灰を巻き上げ、汚れた精霊もそちらに視線を向ける。

 土煙の奥に、何かがいる。たった今生まれたばかりのモンスター。

 超大型級のモンスター。その体躯は細く、腕は異様に長い。足は逆関節で、骨ばった体を覆う紫紺の『殻』。腰から伸びる6メドルある長い尾が揺れる。

 

「何だ、あれ……新種?」

 

 この階層に本来生まれるモンスター? それにしては、氷河の環境に適応しているようには見えない。

 キョロリと精霊の分身を睨むモンスター。次の瞬間、精霊の片割れの頭が消える。

 

『エ──?』

 

 警戒して盾としていた花弁ごと切り裂かれた。

 何時の間にか後ろに移動したモンスターに精霊が慌てて触手を振るうも爪の一振りで切り裂かれる。

 

「はやっ……! え、嘘でしょ!?」

 

 超大型級にして、高速移動を可能とする敏捷。そして精霊の守りを容易く突破した攻撃力。両立などありえないはずの最悪の組み合わせ。

 

『『『──────!!』』』

 

 片割れを切り裂いたモンスターに怒りの形相を向ける精霊。その怒りに呼応するように極彩色のモンスターの大群が襲いかかり……粉砕。

 

『シャアアア!?』

 

 モンスターの片手の爪が芋虫型を切り裂いたことにより溶けた。困惑するモンスターを精霊の触手が打つ。

 

『ギ、ガ…………シャアアアア!!』

 

 吹き飛ばされ、怒りの咆哮を上げるモンスター。その身を覆う殻に走る亀裂。耐久は低い。

 あんなモンスター、知らない。見たことも聞いたこともない………フィンとて初めて見る。が、その特徴を知っている………。

 

「…………『破壊者(ジャガーノート)』」

「団長、知ってるんですか!?」

「ああ、存在を秘匿された………【アストレア・ファミリア】を壊滅させたモンスター」

 

 その存在を知るのはウラノスと彼の直属の部下。

 直接見たのは襲われた【アストレア・ファミリア】に、厄災を討伐したヴァルドだけ。

 ダンジョンに修復の間に合わぬほどの傷をつけることにより生み出される免疫機能。呼び出し方は簡単で、故に悪用も容易く秘された存在。ヴァルドの交渉により【ロキ・ファミリア】の三幹部にも存在を聞かされては居たが………。

 

『ハアアアア』

 

 迫りくる芋虫型に対して地面に『破爪』を放つジャガーノート。無数の散弾となって降り注ぐ破片は元々耐久の低い芋虫型を容易く貫き破砕させる。

 

『【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊(トルトニス)(イカズチ)ノ化身(イカズチ)女王(オウ)】』

 

 魔法が完成する。短文詠唱とは思えぬ魔力が溢れ、ジャガーノートがその魔力に動きを止める。

 

『【サンダー・レイ】!』

 

 放たれる魔砲。魔導士の長文詠唱にも匹敵する砲撃が着弾する瞬間、ジャガーノートの体が淡く光り、雷槍が体を大きく抉る。

 

『………!? アアアアアア!?』

 

 体を焼く雷撃に困惑し絶叫する()()()()()()()()()()

 『魔力反射(マジックリフレクション)』。自身の体に向かってくる魔法を尽く跳ね返す無敵の盾。

 耐久は低い。だがその敏捷で攻撃を当てることは難しく、範囲技である魔法は自らに牙を剥く。

 グチャリと精霊の体に牙が突き刺さる。

 

『イヤアアアア!?』

 

 精霊が触手を振るうも素早い動きで距離を取る。触手から逃れ、再び神速の接近で『破爪』で切り裂く。

 と、地面から無数の蔦が伸びジャガーノートに襲いかかった。突然の不意打ちに大袈裟に飛び退くジャガーノートは、ズタボロになった精霊を睨む。

 相性はあるだろう。それでも自分達を苦しめた精霊を一方的に蹂躙するモンスターに誰もが戦慄する。

 

「構えろ。あの化物の次の標的は僕達だ」

「!? た、戦うんすか!?」

「それ以外にあれから生き残るすべはない。奴の動きは見たはずだ」

 

 Lv.4にも視認することすら困難な高速移動。【ロキ・ファミリア】最速のベートよりも、魔法を使った瞬間的な加速ならベートを上回るアイズよりも速い。つまりこの場の誰も逃げることは出来ない。

 

「でも、でもあんなの………」

 

 破爪、高速移動、魔法反射。一つ一つが絶望を与えるのに十分な能力。それを見せられ心が折れそうになる冒険者。アイズも剣を握るも構えられずにいた。

 

「君達に『勇気』を問おう。その瞳に何が映っている?」

 

 それでもフィンは、真っ直ぐに精霊を解体していくモンスターに目を向ける。

 

「恐怖か? 絶望か? 破滅か? ああ、正直に言おう。僕にだって別に、勝機が見えているわけじゃない」

 

 嘘偽りのない本音。自分達を一方的に蹂躙した精霊の方が、まだ勝機が見いだせる。

 

「それでも、抗う者を知っているはずだ。勝算などなかろうと、挑むべきだ。僕らは冒険者なのだから!」

 

 それとも、とフィンは不敵に笑ってみせる。

 

「君達にベル・クラネルの真似事は荷が重いか?」

 

 諦観に染まりかけていた瞳が、その言葉に光を取り戻す。フィンはあの光景を見た者達に問いかける。

 

「自分より強大な敵に、彼は諦めなかった。君はどうだい、ベート」

「解りきった質問、すんじゃねえ!!」

「彼は全てを出し切って戦った。ティオネ、君は限界まで戦ったか?」

「まだまだ、これからです! 団長!」

「彼は『冒険』をした。『生』と『死』の狭間に挑んだよ、ティオナ」

「だね、あたし達も負けてられない!!」

「ベル・クラネル………彼は限界を超えたよ。僅か一ヶ月で、ミノタウロスを倒すに至った。あのヴァルドですらやっていない偉業だ」

「………うん!!」

 

 立ち上がる。あの光景を見た冒険者達が……自分より遥か格下のはずの少年が見せた勇気に負けていられないと体に力を込める。

 

「…………………」

 

 レフィーヤは、知らない。

 ベル・クラネルの何が彼等を奮い立たせたのか………彼女は、その光景を見ていないから。

 だけど、会話から解る。彼もきっと挑んだのだろう。自分より強い相手に、逃げずに、諦めずに…………!

 

「っ!!」

 

 私は、彼の好敵手(ライバル)だ! 彼がやったのなら、自分だってやってみせる!!

 立ち上がった彼等を見て、フィンはリヴェリア達に視線を向ける。

 

「オッタルと対面した時、ヴァルドが来なければ終わっていたかもしれない………それだけの差があった。本当に、我ながら情けない」

 

 槍を握る拳に力を込め、おのれ自身を奮い立たせるための言葉を語る。この言葉はきっと、彼等も奮い立たせるから………。

 

「追い抜かれて、置いて行かれて……それでいいのか? 僕は……()はゴメンだ。君達がそうでないと言うのなら、そこで眠っていればいい。先に行く、待つつもりはない」

「…………生意気な、小人族(パルゥム)め! そういうところが昔からいけ好かんのだ!」

 

 ガレスが立ち上がる。

 

「おい高慢ちきなエルフ! お主は立ち上がらなくていいのか!? それとも、ヴァルドの隣はあの女に譲るか!?」

 

 リヴェリアはガレスの言葉に肩を揺らし、ゆっくり立ち上がった。

 

「………決めた。地上に戻ったら、デートに誘う」

「「…………は?」」

 

 意外も意外、超意外な言葉に思わず目が点になるフィンとガレス。

 

「ああ、だからこんなところで死んでたまるか」

 

 立ち上がり、杖を取るリヴェリア。ガレスとフィンは顔を見合わせる。

 

「走馬灯でヴァルドが去っていく時を思い出したのか?」

「女の子とデートしてたのを目撃してつい後をつけてしまった時かもね………あるいは、ただ置いていかれないより、彼女にとってはよほど戦う理由になるのかも」

 

 精霊の分身の肉を噛みちぎり魔石を飲み込んだジャガーノートは次の獲物に目を向ける。

 先程まで死に体だった冒険者達が立ち上がり、戦う意志を見せている。その変化に意味を見出す情緒は彼に存在しない。ただ殺すだけだ。




ジャガーノート深層種
特に情動が育つ予定もない破壊者。滅茶苦茶強い。
獅子王の外套やヴァルドの耐久を突破する。対峙必須条件が不壊属性(デュランダル)装備というクソ仕様。
ヴァルドと戦った場合階層を破壊しまくった奴の対処のため呼び出されたのに階層が更に破壊されまくる結果になる。


獅子王の外套の素材
実は首周りや腹の獣皮は特に硬く、当時の椿には加工が出来なかった。
ヴァルドは最近余裕で貫ける攻撃してくる敵が増えてきてのでそろそろ新しい外套が欲しいと思ってる

カーリー・ファミリアのバーチェがどうなるかは決めてるんですよ。アルガナはどうしよう

  • フィンに任せる
  • ヴァルドに調き─鍛錬されたティオネが勝つ
  • ヴァルド「戦士の作法を教えてやろう」
  • 船止めるためにぶん投げた石で船ごと沈む

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