前回の続きですので今回はちょっと短めです
「それでは注文の復唱をする。本日の紅茶が二つ、チョコレートパフェマシマロ増しが一つ、オムライス文字入れサービスが一つとアイスパンケーキ文字入れサービスが一つ、以上でよろしかったかな?」
「えぇ、それでお願い」
「承った。すぐ出来上がるので待っていてくれたまえ」
藍染が厨房の中に消えると集まっていた仲間達は各々の持ち場へと戻っていった
ちなみに忘れてはならないのがこの店は超人気店なのだが、カズマ達が来店してからの店内の対応は大体"安心院さんがいるからなんとなる"でまかり通る。安心院さんのおかげで今日もお客の満足度は最大値だ
「それにしてもカズマ、あんたオムライスまで頼んでそんなにお腹空いていたの?あっ、まさか…そんなにあの二人に文字書いてほしかったのねー」
「違いますー、普通に腹も減っていたんですー」
嘘である___実はこの男、アクアに内緒で今朝からジャイアントトードの唐揚げを肴にしゅわしゅわを三杯飲んでおり一食分食べなくてもいいほどお腹は空いていない
「でもメニュー見る限りここの料理のお値段、ちょっとお店の人が心配になってくるレベルで安いわね。ギルドでしゅわしゅわ一杯飲む料金より、この店で一食分の料理を食べた方が安いなんて収入の安定しない冒険者でも三食ここで食べたら余裕で貯蓄が出来るほどよ?」
「しかもメニューの種類も異様に多いぜ?和食、洋食、中華、なんでもござれな上におつまみや甘いものも全部網羅してるとか全ての飲食店を敵に回して余りあるって感じるぞ」
「これだけ安くて種類が豊富なら毎日通って溜まったお金でちゃんとしたところに住められそうね」
嘘である___この女、実は稼いだお金や浮いたお金は高い清酒を買うための軍資金にしていて今回もその例外ではない
「まぁこの値段と種類ならあの行列にも納得だよな」
カズマは店内を見渡す。店の外見に似合わない広い空間と、現代でいうところの一般的に想像される喫茶店のイメージをそのまま持ってきたオーソドックスな店内、視界の端に男性客にチョコペンでデコレーションする羽衣狐と安心院さんが見え、女性客には白蘭が忙しなく文字入れサービスのため他のテーブルを行き交っている
カウンター付近に立て掛けられたボードに目をやると指名数ランキングとして店員四名の名前がランキング順位として書かれており、彼らにとっては文字入れサービスの順位ですらゲームとして扱っていた。
そしてぶっちぎりの一番人気は白蘭であり、女性客が多い喫茶店において小悪魔チックな笑顔を振りまく白蘭は最早名物となっている。二位は同数で羽衣狐、安心院さんとなっており最下位は藍染となっていた。
ちなみに藍染がどうして指名数最下位かというと、常に柔和な笑みを浮かべてはいるが拭いきれない雰囲気と恐れ多いからという理由が大半を占め、そもそもチョコペンでデコレーションするイメージがないと言ったやはり見た目のイメージが大きな要因だった。
しかし実際の要因は藍染は指名されたなら内心ウキウキでデコレーションすることになるが、指名した人は普段とのギャップを他人に教えたくない独占欲が働きややヤンデレ気質が多い女性で占められ、口コミでは広まらないことであった。
「待たせたね、こちらが本日の紅茶が二つと、チョコレートパフェマシマロ増し、オムライス文字入れサービス、アイスパンケーキ文字入れサービスとなっている」
およそ五分ほどの時間しか経ってない短時間で藍染は厨房から木製のカートに料理を乗せ運んできた。
「本当にすぐ来たわね」
アクアの前に置かれたのは豊かな香りを醸し出す紅茶と、三〇センチはあるであろう容器に入れられた四層からなるアイスとコーンフレークとクリームの層と、頂点にはバナナとクルミ、二つのチョコレートアイスに刺されたポッキーのようなお菓子が乗り、名前通りマシュマロによく似たお菓子である白くふわふわとしたマシマロが大量に添えられていた
「確かに速いけど、この速さで提供できるから回転率がいいのか」
カズマの前に並べられたのはアクアと同様の紅茶と、メイド喫茶などでみられる薄焼きの卵で包まれたチキンライスのオムライスではない、バターライスの上に楕円形の卵が乗った真ん中をナイフで割って食べるタイプのオムライスであり、藍染はカズマの前でオムライスを割ると中から半熟でトロトロの卵が姿を現した。
ちなみに文字入れサービスがない場合はデミグラスソースをかけて提供するようになっている。
そしてアイスパンケーキは冷やしても硬くならないようにしっとりとした生地で作られており、バニラのいい香りを漂わせたアイスを挟み、半分に切られたイチゴとブルーベリージャムが添えられていた。
「その通り、もちろんこの速さは企業秘密だがね」
実際この料理が出来上がる速さは『
「それではカズマ、オムライスとアイスパンケーキの文字入れは誰をご指名かな?」
「じゃあ、オムライスは羽衣狐でアイスパンケーキは安心院さんでお願いします」
「承った」
藍染が二度手をパンパンと鳴らすと店内の死角から羽衣狐がケチャップを片手に持ち、安心院さんがホイップクリームとチョコペンを片手に現れカズマ達のいる机に集合した。現代でいうところの高級レストランのウエイトレスを彷彿とさせるが、ただの喫茶店である。
「いやーカズマくん両手に花とは君も隅には置けないなぁ、アクアちゃんに背中から刺されないか心配になるぜ」
「フム、お主は女を侍らせる才能でもありそうじゃのう」
「いや、散々な言われようなんですけど…」
事実未来の話ではあるが他に女性チームメンバーが続々と増えることを考えるなら間違ったことを言っていなかった
「では、妾から書かせてもらおうかのう、なんて書いて欲しいんじゃ?」
「じゃあ、『カズマくん』でお願いします!」
「名前だけとは謙虚じゃのう」
オムライスにケチャップで『カズマくん』と書いていくエプロンをつけた全身黒のセーラー服を着た女性というニッチな趣味の若妻感覚をカズマは堪能した
「ほれ、出来たぞ」
手慣れた様子でケチャップなのにかなりの達筆で羽衣狐はオムライスに書き上げた
「あの、アレはやらないんすか?」
「ん?アレとはなんじゃ?」
「その…『料理が美味しくなる呪文』っす」
カズマの言葉に疑問を感じて首を傾けていた羽衣狐はその言葉の真意を理解して目を見開き固まる
「ここはメイド喫茶ではないのじゃぞ?」
「いいじゃないかお客の無茶振りに答えるのも店員の役目ってもんだぜ?」
一番悪ノリしそうで悪ノリしてはダメな安心院さんが乗ってきたことで羽衣狐は瞬時に安心院さんの方に向く
彼女にとってあわよくば聞き間違えであることを祈るように言葉を紡ぐ
「いや、あの…本気で言っておるのか?」
「本気も本気、マジもマジだぜ?異世界に来て現代でも見られなかったメイド喫茶のアレが見られるかもしれないからね!」
「お主が見たいだけではないか!」
夢も希望もない安心院さんの純度百パーセントの欲望を体感した羽衣狐の綺麗なツッコミが決まった
「妾はこういう無茶振り苦手なんじゃ…惣右介もなんとか言うてくれぬか?」
なんだかんだと話をまとめてくれるリーダー的立ち位置にいる藍染に羽衣狐は助けを求めた
一緒に喫茶店を開きたいと言い出したのも彼であるし、行動の指標を示すことも多い彼ならばと淡い理想を抱き、藍染の反応を待つ
「見せてくれないのかい?」
「お主もその口か!」
この男も悪ノリには全力で乗っかるタイプであった
「白蘭!白蘭はおらぬか!!」
羽衣狐は最後の頼みの綱として基本的に常識人として転生してからもその本質を変えず、味方となってくれる可能性が一番ある白蘭を呼んだ
「ハイハイ、どうしたんだい羽衣狐ちゃんそんなに血相かえて?」
一番奥のテーブルで今さっきまでチョコペンでデコレーションをしていたであろう彼は、振り返りながらお客に手を振ってからチョコペン片手にカズマ達のいる席に駆けつけて、再び全員が集結した。
「聞いておくれ、白蘭…安心院さんと惣右介が妾に無茶振りをするのじゃ」
「んー?あー?なるほどなるほど、だめだよ二人とも羽衣狐ちゃんの反応が可愛いからって揶揄っちゃ」
白蘭がまるで救世主のように感じた羽衣狐は白蘭の背後に周り、その肩口から顔を覗かせる。まるで白蘭を盾のようにして背後に隠れる元男子高校生の黒髪ロングの美少女、あざとさの塊である。
「いやいや勘違いしてもらっちゃ困るぜ?無茶を振って羽衣狐ちゃんを困らせているのはそこのカズマくんなんだから」
「急に話振られても困るんですけど…」
「
「お前は俺のオカンか!それと口に物入れたまま喋るな!」
コーンフレークを口いっぱいに詰めモゴモゴと喋るアクア、純粋に行儀悪い
「じゃああの無理のようならやっぱり_」
「ダメだぜカズマくん、男の子が一度口にした言葉を訂正しちゃ」
なんだか途端に申し訳なくなったカズマはやっぱりやめて貰おうと断ろうとしたが喋ってる途中で安心院さんの手で口を塞がれ遮られる
カッコいいセリフでカズマの言葉を遮った安心院さんだが、メイド喫茶で見られる『例のアレ』を見たいだけなので不純な動機である。
「まぁいいじゃないか同郷のよしみだろ?僕もパンケーキのデコレーションの時やってあげるから安心してやろうぜ、安心院さんだけに」
何がなんでも羽衣狐にメイド喫茶の『例のアレ』をやらせたい安心院さんは自分もやるからと半ば強引にやらせようとする
「羽衣狐ちゃんには悪いけど、ここまで強い意志を持った安心院さんをどうにかすることは僕にはできないよ…なんとか頑張って!」
「裏切り者!」
羽衣狐の盾となるように安心院さんの間に立っていた白蘭だったが、入れ替わる形で羽衣狐の後ろに回り込んだ
味方をしてくれる人も居なくなると、他に道はないだろうと意を結した表情で羽衣狐は『カズマくん』と書かれたオムライスの横に立ち両手の指先を合わせハートの形を作る。
「嫌じゃ嫌じゃ!やっぱり妾は言いとう無い!」
だがここ一番で思い切りに欠け、一歩踏み出せずにいた。
「往生際が悪いぜ羽衣狐ちゃん、こういうことしたくなかったけど『アレ』を見せてくれないんだったら僕にだって考えがある。羽衣狐ちゃんだってわかってる通り、僕はやろうと思ったらフィンガースナップ一つでこの宇宙の生命の数を半分にだって出来るんだぜ?」
安心院さんからまるで人外が出す人ならざる威圧感が溢れ出る。この場にいてこの空気に抵抗できないカズマはどうしてメイド喫茶のアレが見たかっただけでここまで事態が重大になっているのかわからなかった。
ちなみにカズマと向かいの席に座っているアクアはパフェに夢中で構っていないし、構うつもりもない
「だから君がやらなかったら今ここで指を鳴らして…君の服装をフリフリのエプロンドレスに変えてやるつもりさ」
「宇宙のくだりはどこ行った!」
溢れ出る威圧感や押しつぶされそうな圧迫感を全て跳ね除けカズマはツッコミをいれた。
藍染のボケから始まりずっと我慢していた、まるで
くっ!と苦虫を噛み潰したような表情をした羽衣狐は本当に本当に嫌なのだろう、再びオムライスに向かい合う
「も…萌え、萌え…キュン…」
その時、店内全ての客のボルテージが最高潮となった。
これは余談だが、その日からオムライスの注文数は十倍に増え、羽衣狐の文字入れサービスの指名数が白蘭を抜きトップに躍り出たそうだ
◆◆◆
「彼女をあのまま返してもよかったのかい?」
アクア達が帰った後のテーブルを清掃する白蘭は、傍にいる藍染に問いかけた。
「構わないよ、見たところ彼女からは大した脅威を感じなかったからね。このまま絆されてくれるならそれでいい…もし、クリスの時のように我々の平穏を脅かす可能性があるなら見極め、危険と判断したなら…その時はその時かな」
藍染はティーカップを拭きながら僅かに微笑んだ
お疲れ様でした。
まさか喫茶内のちょっとした話だけでここまで長くなるなんて…
ここにめぐみんやダクネス、絡み的に面白い某見通す悪魔さんが混ざったらどれだけ長くなるんだか…