悪の科学者を超える転生者 作:ヘルスパイダー
な…長かった……。
「なるほど、アレが界王拳か……。それにベジータが使ったパワーボールも中々に研究のし甲斐があるな」
「界王拳か? 確かに今回カカロットがベジータを追い詰めることが出来た要因はそれだろうが、アレは見るからに諸刃の剣だぞ?」
「問題無い。最初の方を見ればほとんどリスク無く運用出来ていた。つまり、技の熟練度と肉体のスペックを高めることが出来れば、ほぼ肉体に負担なく活用できるということ……。それと界王拳だけではない。お前にはパワーボールを使っての新たなトレーニングメニューを熟してもらう」
「うげっ! 俺にアレを覚えて大猿になって戦えっていうのか? 言っておくが、大猿になっても理性を保てるのは一部のサイヤ人だけで下級戦士である俺は理性を無くしたただの大猿にしかならんぞ!」
「安心しろ。別にパワーボールを覚えろとも、大猿になって戦えともいわん。しかし、それに似たことはしてもらうがな……」
そう不敵に笑うボゲの表情を見て、ラディッツは更に過酷なトレーニングが待っていることを予感して、げんなりした表情を浮かべてポップコーンを口に運んだ。
「それにしても、ボゲ。お前の言う通り、地球人とカカロットのガキが途中で助けに戻ったな。これもキサマの言う原作知識というやつか?」
「その通りだ。だが、何も原作知識だけではない。人間の心理と言うのは複雑ではあるが、表面的なものは酷く単純なものだ。そこから計算式を組み立てれば、余程腹に黒いものを抱えてさえいなければ予測は容易い」
「おっかないな、地球の科学者というものは……」
「はっはっは、こんな物騒な科学者は私を含めて精々が3~5人ほどだ!」
私と父とウィローの3人に加え、そのウィローの助手とバイオブロリーを作った研究者とか辺りなら該当しそうじゃな。ピラフ大王はハレンチな行為も投げキッス程度の悪さだから該当しないだろうしな。
「さて、そろそろ観戦に戻ろうか。物語もいよいよ佳境に入る。これを見逃す手はないだろう」
「だな。あのカカロットがベジータを追い詰めたのは驚いたが、ここから倒せるかどうかは別問題だ。俺の弟ならば最後はしっかりと勝ってくれねば困るからな……」
「ははは、しっかりと負けた相手の言葉は重みが違うな!!」
「っぐは! やめろ、その言葉は俺に効く!!」
「ふっふっふ、君も随分とこちらの俗世に染まってきたな。さぁ、彼らの戦いの続きを見ようではないか」
♦
「お……オメェら!? 一体どうしてここへ……?」
「あのでっかい満月を見て悟飯が急に戻るって言いだしてな。ヤムチャさんも嫌な予感がするって一緒に戻ることにしたんだよ。天津飯やピッコロには悪いが途中の島で置いていっていまったが……」
「オレも最初はあのベジータって野郎の気が跳ね上がったのを感じて、もしやと思ってな。悟空、お前ももう気が付いたかもしんねえが、俺はお前の尻尾を切り落とした経験があったから役に立つと思って戻ってきたが、まさか俺達の助けなくあの大猿化を止めるとはな!」
「ははは……、随分と迷惑をかけちまってたみてぇだな」
「まったくだぜ……って言いたいとこだが、俺達も随分とお前に助けられたタチだからな。これでおあいこだ!」
ヤムチャが差し出すグーに悟空も同じようにグーで返してコツンと当てる。
「大丈夫、お父さん?」
「ああ……、オメェらが来てくれたからオラ助かったぞ」
心配して駆け寄って来た息子に感謝の礼を伝え、痛む体を酷使して立ち上がる。
「悟空、お前だいぶ気が減ってるだろ? 俺から渡せる目一杯の気だ。受け取ってくれ!」
「オレも!」
「ボクも!」
「3人共……、サンキューな! オラまだまだやれるぐれえ元気が出たぞ!」
体の傷は治ってはいないが、底を尽き欠けていた気が回復したことにより、パワーが戻った悟空はニッ! と笑って拳を握りしめる。
「くっ、クソったれ共めぇ~~!! 何度もこの俺様の邪魔ばかりしやがってぇ!! 絶対に許さんぞぉ!!!」
フラフラと幽鬼のように立ち上がって向かってくるベジータに悟空を除く3人が驚きながら臨戦態勢に入る。
「あ……あんにゃろう! あれだけやられてまだ動けんのかよ!?」
「だが奴ももうボロボロだ。4人がかりで一斉にかかれば絶対に倒せる筈だ!」
「そうですね。お父さんも気が回復しましたし、ボクら全員で挑めばあんな奴! いきましょう、皆さん!!」
3人がそれぞれ構えた瞬間、悟空が待ったをかけた。
「待ってくれ! 悪いがアイツとの決着はオラ1人でつけたいんだ!」
「「えっ!?」」
「な! バカ言うな、悟空。今のお前は気こそ回復したが、その体で1人で戦うなんて無茶だぜ!」
「かもな! でもオラ、今最高にワクワクしてんだ。地球のピンチだってのにさ、やっぱりオラもサイヤ人の血が流れてるからかもな……」
ヤムチャからの説得も意に介さず、悟空はワクワクしているからという理由で1人で戦うことを決めた。
こうなってしまえばテコでもいうことを聞かない悟空の頑固さは折り紙つきだ。渋々と3人は悟空の戦いを見守ることにしてその場から距離を取った。
「甘っちょろい野郎だ。まさか本当に1人でこの俺様と決着を着けるつもりとはな……」
「ああかもな……、でもよオメェは強え! オラが出会ってきた奴らの中でダントツに一番の強さだ。だからさ、勿体ねぇと思ってよぉ……」
「勿体無いだと……?」
悟空のその発言に理解できないと顔に書いてあるベジータに、悟空は己の心境を打ち明ける。
「ああ、こんな強い奴を数で攻め立てて倒すなんて勿体無いってな! オメェとはオラと一対一の勝負で倒したい。そう思っちまったんだ……」
それを聞いたベジータは口元を歪ませ、なにかに堪えるように体を震わす。
「……っくっくっく、は~っはっはっは!!! サイヤ人の誇りも忘れ、地球人として生きてきたきさまが、よもやこの俺様との戦いをそこまで楽しんでいるとはな……」
いつもならば舐めやがってとキレるところだが、限界まで追い詰められたことによる影響か、ベジータは残酷なサイヤ人ではなく、戦士としてのサイヤ人へと変わっていた。
戦う前までの邪悪な笑いとは違う。純然たる戦士の顔つきに変わったベジータは、一対一の勝負を提案してきた悟空に本当の意味で向き直る。
「いいだろう。もうきさまを落ちこぼれの下級戦士なぞと侮りはせん! ここからは生き残った最後のサイヤ人として、どちらが真のナンバー
その目からは噓は感じられず、悟空と同じように、ただ純粋にどちらが上なのかを試したい。そんなサイヤ人の本能ともいえる部分に火がついた戦士の目をしていた。
「いいぜ! オラとオメェ、どっちが強いのか勝負だ!!!」
「ふん、言っておくが勝つのはこの俺様だ!!!」
こうして再び始まった2人の戦い。どちらも限界をとっくに迎えているのに、それでもなお戦い続ける。
「はあぁぁぁ!!!」
「ぜあぁぁぁ!!!」
拳がぶつかり合いながらも両者共に一歩も引かず、時には悟空の回し蹴りがベジータ脇腹をえぐり、時にはベジータの投げが悟空を岩山へ叩きつける。互いが常に相手に勝つことを意識し、攻撃の手を止むことはない。
流す血の量が大きな水溜りを作れる量になっても、どちらも諦めることはなく、もはや意地と気合だけで戦っている状態だ。
「はぁ……はぁ……はぁ……、いい加減倒れやがれ、カカロット!!!」
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……、やなこった。オラ、人一倍負けず嫌いなんだ!!!」
互いにボロボロの体を引きずって、歩くのも精一杯な悟空とベジータは両手を組みあって、力比べの状態のまま両者は同時に頭突きを決める。
「あぐ……!」
「うが……!」
互いの額がぶつかり合い、そこから額が切れて血が垂れる。
だが、そんなことお構いなしに悟空もベジータも再び頭突きをする為に背を後ろに仰け反らせ、その反動で思いっきり頭を振り下ろす。
ガン! ガン! ガン! と2回目からは血の飛び散る水音さえ聞こえてくる程に苛烈な頭突き合いに、見ているクリリン達の方が頭が割れそうになっていた。
「うおおぉぉぉ!!!!」
「でりゃぁぁぁ!!!!」
ガァン! とより一際大きな音を立てて、悟空とベジータの額がぶつかった。
「「…………」」
そこでようやく動き続けていた両者の動きが完全にストップし、数秒の沈黙がこの場を支配した。
「っうぐ……」
先に動いた……否、先に倒れたのは白目を向いて失神したベジータだった。
ずるりと悟空の手を握っていた力が抜け、そのまま前へとうつ伏せに倒れ落ちたのだ。
「……っ、か……勝った……」
血を流し過ぎて朦朧とする意識の中、ドサっとベジータが倒れる音を耳にして悟空は勝利したという事実に気が付いた。
それと同時に、緊張の糸がきれたのか全身の力がふっと抜けていき、そのまま背中から地面に倒れ落ちた。
「やっ……やったぁ!!! 悟空が勝った!!!」
「よっしゃー! 流石は悟空だぜ!」
「よかった! お父さんが勝ったんだ!!」
遠くで2人の戦いの勝敗を見守っていた3人が、悟空の勝利を目にして喜びを叫びながら駆けつけていく。
全身余すことなく傷だらけの悟空を囲い込み、各々があの激闘を繰り広げ勝ち取った悟空を褒め称える。
そうして、クリリン達が喜びに浮かれ上がっていると、遠くの空から1つの飛行物体が飛んできた。
何事かと驚いていると、それはサイヤ人が乗ってきた宇宙船だった。
「ぐぅ、この……俺が……、まさか逃げ帰ることに……なるとは……」
「あいつ、あんな状態でまだ動けるのかよ!? クリリン……」
「ええ、皆んなの敵討ちは俺達で……」
這って逃げるベジータの背中を捉え、クリリンとヤムチャはかめはめ波の構えをとる。
ようやくベジータが飛んできた宇宙船に這いずって辿り着いた頃には、背後からエネルギーを溜め終えた2人がかめはめ波を放つ直前だった。
これでは宇宙船で脱出するよりも先に宇宙船ごと撃たれて終わりだろう。
ちくしょう……!! と本気で悔しがりながら今にも自分にトドメを刺そうとする2人を睨みつける。
これでこの戦いの決着がようやく着く。そう確信していた2人を止める声が割り込んだ。
「まっ……待ってくれ! 2人共!!」
「っ!? どうしたんだよ、悟空?」
「お前、まさか!?」
こういった時の悟空の頼みごとは我儘であるパターンであると、長年の付き合いのある2人は察する。
「へへへ……、すまねえけどよ……そいつを逃がしてやっちゃくんねえか……?」
「に……逃がすだと……!!?」
「馬鹿言うなよ悟空!! ここでこいつを逃がしたら、今度はまた勝てるかどうかも分かんないんだぞ!!」
「そ……それでもよ……。オラ、まだそいつと完全に決着を着けれてねえ……。一対一っていってもよ、オラが来た時には……悟飯からダメージを……受けてたし、さっきもオメェ達が来なけれりゃ、オラの方が……先に殺されてた……。気だって分けてもらっちまってよ……。これじゃ……公平じゃ……ねぇ……」
「公平じゃないだと! 何言ってるんだよ、悟空! あれはどう見てもお前の勝ちだろ!!」
「ヤムチャさんの言う通りだぜ! あの勝負はお前の力による勝利だったって!!」
「そ……それでもよ……。オラ、今度こそたった1人の力でそいつと戦って勝ちを拾いたいんだ……」
そんな悟空の我儘をクリリンは溜息混じりにしょうがないと承諾した。
だが、ヤムチャは違った。
「どうかしてるぜ、悟空もクリリンも!! こいつはみんなを、地球人全員を殺そうとした大悪党なんだぜ!?」
「それでもよ……。次はオラ1人で必ず勝ってみせる。だから……ヤムチャ……」
「うっ……、っおおぉぉぉ!!!」
悟空の我儘にヤムチャは悩みながら、それでもとかめはめ波を撃ちはなった。それは真っ直ぐに飛んでいき、ベジータを巻き込んでの爆発を起こす。
「ああ……っ!!」
ヤムチャの行動に悟飯は口を開けて驚いた。きっと悟飯もなんやかんだでヤムチャもクリリンのように悟空の我儘を聞くだろうという思いが心の中にあったからだろう。
そして、当の我儘を言った本人はというと……。
「……すまねえな、ヤムチャ」
ヤムチャが放ったかめはめ波による爆炎による煙が晴れると、そこにはまだ生きているベジータと無傷の宇宙船が存在しており、その横にあった岩山が無惨な形で倒壊していた。
ヤムチャのかめはめ波はベジータには当たらず、その横にあった岩山に命中したのだろう。
「っ! いいか、悟空! そこまで大口を叩いたからには、次はけちょんけちょんにやっつけてしまえよ!」
しょうがなく悟空の我儘を受け入れたヤムチャは、次にベジータがやって来た時には絶対に勝つことを約束させる。
「ああ……、絶対にオラ1人で勝ってみせるさ……」
ウィィン! とハッチの閉じる音がして、その音の発生源となる宇宙船を見ると、傷だらけのベジータが操縦席に座っており、こちらを睨んでいた。
「1度ならず2度もチャンスを逃すとはな。本当に甘ちゃんばかりの連中でヘドが出るぜ……。だが、カカロット! 今はナンバー
「へっ、次に戦った時もオラが必ず勝ってみせるさ。また会おうぜ、ベジータ……!」
「……っち!」
悟空の別れの台詞に舌打ちで返してベジータは地球から去っていった。
「はぁ~、呆れた野郎だぜ……。あんなに傷だらけだってのに、まだあんなに叫ぶ元気が残ってるんだもんな~」
宇宙へ飛んでいったベジータの宇宙船を見送りながら、クリリンはそう呟いて、この天下分け目の超決戦の終わりを実感する。
♦
そして、そんな彼らの激闘をスクリーン越しに観賞していた2人。ボゲとラディッツは満足そうな顔で余韻に浸りながらジュースを啜る。
「んぐ、んぐ、っぷは! まさか、あのベジータがカカロットをライバルとして認めるとはな……」
「元々、本来の原作による世界ではベジータは孫悟空をライバルとして認めていた。まあ、この時点でのベジータからの印象は運がいい下級戦士といったところだったんだがな」
これもラディッツが生きていた影響によるものだろう。まさか、元気玉を使わずに制御能力を上げた界王拳による強行突破で大猿になったベジータと渡り合うとは……。
今回はパワーアップした影響がいい方に向いたとはいえ、ナメック星で同じような事になった場合、下手にフリーザを怒らせてクリリンよりも悟空が死ねばストーリーは終わってしまう。
はてさて、ナメック星編に手を加えるかどうか? 今回は同じ地球だからと静観していたが、流石に遠く離れたナメック星は先に行動していなければ手は出し辛いな……。
もう既にラディッツが乗ってきたアタックボールの再現&改良は済んでいるので、今からでもナメック星へは1週間もあれば到着する。
だが、今のラディッツの戦闘力ではフリーザとはまだ戦うには早過ぎる。
第三形態までならどうとでもなるが、最終形態に変身されれば勝ち目は無くなる。
こうなれば、ナメック星編はスルーでいこう。今回の件でも分かったが、バタフライエフェクトが多少起こったとしても、世界はある程度原作通りにことが進む。
そもそも、私の目的は我が父ドクター・ゲロの作り出すセルを超えること
で、原作厳守を誓った覚えはない。
「さて、私も君の新たなトレーニングメニューと器具の開発に戻らねばな。ああそれと、今日のトレーニングについての指示書を先に渡しておこうか……」
「ん? うげっ!! なぁ、お前は俺を強くしたいのか、殺したいのかどっちなんだ!? こんなのただの自殺用の拷問メニューだぞ!」
ボゲから渡された指示書に書かれていたのは修業と呼ぶにはあまりにも過酷で残酷とすら言い換えてもよいぐらいのエゲツない内容だった。
「はっはっはっ! 勿論、君が殺されないように(死なない程度の)修業を課してるだけさ。言っておくが、手を抜けば修業中に本当に死ぬから覚悟してくれたまえ」
「クソったれめぇ~~!!」
事実、この数日後のトレーニングルームで今回の戦いで悟空とベジータが流した血と汗以上の量を全身から垂れ流すラディッツの姿が確認された。
※ちなみに、その翌日には界王拳をマスターしたラディッツの姿が目撃されたとか。
最後にラディッツを使っての漫才はメッチャ書きやすかったwwww
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