俺はただうまぴょいしたかっただけなんだ   作:nyasu

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ふぉぉぉ、ジャンプだ!ロックだ!なんかぬいぐるみだ!

厩務員の井上が掃除をしていると、様子を見に来た佐藤がやって来た。

 

「どうだ、レクサスの方は」

「やぁ、ダメっすね」

 

中山でのレースの後から一週間が経った頃だった。

ここ最近、メジロレクサスは馬房の隅っこで小さくなっている。

食事は日に日に少なくなり、調教に参加することも嫌がるようになっていた。

一応、馬の本能なのか一日中動かないと血流が上手く流れないことを知っているのか、放牧には抵抗しないがそれだけだ。

 

「レースで負けたことが分かるのかもしれなんなぁ」

「っすねぇ、落ち込んだり不機嫌になったりとか聞きますし」

 

佐藤はそう言って、此方に背を向けて寝転がってるメジロレクサスをじっと見てから深い溜め息を吐いた。

色々と悩みが尽きないからだ。

また来ると言って、そのまま別の仕事へ向かうの佐藤を見送り、持っていた箒に体重を乗せるようにして井上はレクサスを見た。

人間の苦労も知らずに、レクサスはレクサスで凹んでいた。

 

「早く元気になれよ、レクサス」

 

あるいは、人が知らないだけでレクサスにも悩みがあるのかもしれないな、そんなことを思うのだった。

 

 

 

レクサスの様子を見てから別の仕事に戻った佐藤は、今後のことをどうするか考えていた。

禁煙していた筈の煙草を無意識に追い求めて、口元に待ってこうとポケットを漁ってはそうだ禁煙していたんだと思い出す。

そんな不毛な行動をする自分に、悩んでるのを自覚する。

 

「どうしてかなー」

 

レースは、悪くない結果だった。

少なくとも自分達の陣営の殆どが喜んでいた。

悔しがっていたのは親父である、光太郎くらいであった。

子供も生まれ入り用になってくるので、望外の結果に喜んでいたのも自分だけだったのか。

騎手と馬は不満そうだった。

 

メジロレクサスの方は、またも騎手を振り落としたので毎度のことJRAには謝り倒した。

謝れば何とかなるからそっちは良いものの、本人というか本馬の方が問題だった。

騎手の墨田を一切乗せないのである。

調教では、一応は調教助手でもある井上君は乗せたりするが何が何でも墨田は乗せないのである。

 

それもあってか騎手の方も、墨田騎手も申し訳無さそうにしていた。

申し訳ないのはこっちである。

 

「新しい、騎手か……」

 

テキも親父も、雑誌や新聞じゃないんだから何言ってんだ等と言っていたが、墨田騎手が乗りたがらないのはインターネットの評価だろ。

なんか、あれやこれや感想というか好き勝手言えるところがあるらしく、それのせいもあるんじゃないかと井上くんから聞いた。

最近の人は、ネットから他人の評価を聞くらしい。

あるいは、自分達が知らないところで何か言われたのかもしれない。

 

「はぁ……」

「どうだ浩一、進捗のほうは」

「あぁ、藤井さん……どっちの?」

「んっ?あぁ、騎手の方だ。レクサスは、なんか井上の奴が音楽きかせてた」

「それ、意味あるんですか?」

「クラシックとか聞かせるとリラックスする話は聞いたことがある。アイツがやってるのは自分が好きな曲だけど」

「それ、意味あるんですか!?」

 

えぇぇぇぇ、井上くんの趣味ってバチバチのロックだよね。

ニルヴァーナとかジミーヘンドリックスとかだよね、おじさん知ってるよ。

うるさいの馬には逆にストレスだと思うんだけど。

 

「そんなことより騎手の方だ」

「いや、そんなことって」

「それで、どうなんだ」

「どうって言われても、騎乗依頼は出してるけど色よい返事はちょっと、あの気性じゃ断られてるのかもしれない」

「燻ってる奴らは多いはずなのに、根性がない」

 

そんなこと言っても、下手な騎手には任せられないからって選り好みしたのは藤井さんと親父である。

テキである藤井さんと親父の選んだ人達は、そりゃ実績もあるし危ない馬になんか乗らなくても仕事は来るのだろう。

もうこうなると、殆ど騎乗依頼が来てない騎手に頼むしか、いよいよなくなってくるのだが。

 

「仕方ねぇ、俺が一肌脱ぐか」

「えっ?」

「俺にいい考えがある」

「本当ですか」

 

だいたいそういうのって、良くないって井上くんが影で言ってたけど、本当に大丈夫だろうか。

後日、テキから無理だったなんて話がやってきた。

やっぱりな、知ってた。

 

「ということで、地元の奴らのコネを頼ったが無理だった。ので、別の騎手を紹介してもらった」

「こ、これ……マジっすか」

「まじ?よくわからんが、そういうことだ」

 

そこには藤井テキ宛に送られた別の調教師からのFAXがあった。

いや、ていうか騎乗依頼出そうとした相手ギネス持ってるし癖馬だから任せるって風潮あるけど、ウチのレベルじゃ無理だろ。

というかすごいな、その知り合いの調教師。

メジロレクサスの新しい騎手が後日来ることになった。

 

 

 

レクサスが部屋で元気がないことに、遥は気付いていた。

小学校から帰ってくると、馬の世話をした次いでにレクサスの様子を見る。

初めて自分が買った(買ったのは浩一で、金は祖父が出してる)馬だから、気になったのだ。

 

「いのうえ、なにしてんの」

「おっ、遥ちゃんお帰り。今は、実験中だよ」

「なにそれぇ」

「ウォークマンっていうんだ、高いんだぜ。まわりはアイポット派だけど」

「よくわかんない」

 

レクサスの馬房では、ジャカジャカ音楽が流れていた。

遥、知ってるよ。これ、ギターソロって奴でしょ。

 

「ほら見てよ、レクサスの奴ちょっと元気になったんだぜ」

「みても、わかんないよ」

「テンアゲしてるっしょ、うぇーいって感じで尻尾とか耳とか」

「なにいってるか、わかんないよ」

 

取り敢えず、頭と尻尾を振ってるのは大丈夫なのだろうか、遥は訝しんだ。

家に帰って手を洗った後、遥はリビングで絵を描いていた。

何か出来ることがないかと思って良いことを思いついたのだ。

 

「わたしにいいかんがえがある」

「遥、何してるの?お絵かきかしら」

「あっ、ママ!ただいまー」

 

クレヨンで画用紙に絵を描いていると、耕太を連れたママが覗いてくる。

ちなみに耕太は遥の弟だ、ちっちゃい。

 

「かわいい……猫ちゃんね」

「うまだよ」

「知ってたわ!今のは、冗談よ。足が……5つある……」

「しっぽだよ」

「そ、そうね。分かってたわ」

 

遥知ってるよ、ママ絶対分かってなかったやつだ。

全く、これだから大人はダメである。

絵が完成したら今度は習字でお手紙である。

筆ペンとやらを使えば、普通の字が習字っぽくなってなんか大人になる。

ちゃんとひらがなで、はいけいれくさすさまと書くのだ、偉い。

 

「でけた!」

「あれ、絵を描いてたんじゃ、お手紙だったのね」

「なにいってるの、ひょうしょうじょうだよ」

「表彰状!?どういうことなの」

「もうちょっとかんがえてからしゃべってよね」

「私が悪いのかしら」

 

見れば分かるのに分からないのだから悪い、確信した。

表彰状ができたらプレゼントである。

卒業式で見た、六年生が泣いていたので効果は抜群である。

 

「たくさんあるから、これあげよう」

 

遥のぬいぐるみシリーズから一番古い宝物でもある、白い馬のぬいぐるみをあげることにした。

お祖父ちゃんも持ってるし、パパも持ってるので、実家には三匹もいる。

名前はオグリ、俳優みたいな名前の馬だ。

ちょっと茶色く黄ばんでるし、汚いからあげることにした。

 

「おう、遥ちゃん戻ってきたのか」

「いのうえ、まだいたの?しごとしないの?」

「たはっぁー、手厳しい。仕事してたんだよなぁ、現在進行系で」

「はいはい、わかったわかった」

 

井上がサボっているのはいつものことである。

こっそり内緒でジャンプ読んでるの知ってるんだから、まぁお菓子貰ったから内緒にしてるけど。

あと、新聞が読めるからって馬にジャンプは読ませようとするのは無理だと思う。

新聞読めるって誰から聞いたんだろ。

 

「れくさすー!」

「ブルルルンッ!」

「はいこれー、たべちゃダメだよ」

「遥ちゃん、そのまま渡すとぐしゃぐしゃになるから飾っとく?」

「なにいってんの、かみきれなんだからきにしなくていいでしょ」

「えー、意外とシビア。思い入れとかない感じ……」

 

どうするかはレクサス次第だし、馬だから汚してもしかたない。

そしたらまた描いてもいいし、なんなら食べられるクレヨンだから食べても良い。

食べないでほしいけど、まぁ、どっちでもいいか。

 

「あと、これ。しゅっせばらいで、ぬいぐるみになるんだよ」

「子供の期待が重い。めっちゃ古いけどオグリキャップ……」

「オグリ、きたないからよごしてもいいよ」

「オグリキャップ、子供って残酷だ」

 

ここまでしたんだから、早く元気になってね。

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