走る、走る、走る。
小高い丘を越え、森を抜け、泥道を突き進む。
「勝つぞ」
駆ける、駆ける、駆ける。
ただ只管に、前だけを見て、駆けていく。
「ッ!?」
痛い、痛い、痛い。
焼けるように、燃えるように、足を激痛が襲う。
だが、だけど、それがどうした。
『追いつくんだ』
抜いていく馬を、追いつき、追い越そう!
俺達でアイツを、今度こそ抜いてみせる。
『諦めるのは、走れなくなってからでいい』
「行くぞ!」
『行くぞ!』
「追い抜け!」
『追い抜くぞ!』
丘を下る。
足は重く、走り辛い。
だが、誰もが努力している。
誰もが勝利を期待している。
ならば、自分だけ諦めるには早すぎる。
諦めるな、なんて精神論に意味は無いと思っていたが、声援が背中を押すのだから。
『行かないと』
「クソ!まだだ!」
『行かないといけないのに……』
「諦めるな!」
『それでも……!!』
追いかける、理想の姿を、あの理想の走りを俺も……。
あぁ、畜生……もっと走りたかった。
……レースが、終わる。
一面に広がる芝、ただ1頭が先を行く。
抜きたい、勝ちたい、負けたくない!
ただ、その1頭以外は眼中にない。
「落ち着け」
『分かってる!』
逸る気持ちを抑えて、焦がれる衝動を抱きしめて、ただ好機を待つ。
信じろ、最後まで呼吸を合わせて、直線まで耐えるんだ。
「世界で一番、お前は強い牝馬だ」
『えぇ、行ってくる』
膨らんだカーブ、外から馬群目掛けて突き進む。
何があっても立ち止まらない。
なぜなら、今日この日のために、雪辱を果たすべく訓練したから。
落馬した奴がいる、それがどうした!
垂れる奴がいる、それがどうした!
来たぞ、私が、私達が来たぞ!
『くっ……』
『失速したわね、勝つのは私達だ!』
走る、走る、走る。
ただ前に、もっと早く、もっと速く、もっと疾く!
アイツの先へ、あの遥か彼方、その先へ!
連れていく、みんなの思いも全部まとめて、勝つために私達はここに来た!
『うおぉぉぉぉ!』
「うおぉぉぉぉ!」
抜いた、だが油断はしない。
最後まで、何が起こるか分からない。
駆けろ、駆けろ、もう少しだ!
『勝った!』
「勝った!」
雪辱を果たし、私達は栄光を手にした。
見知らぬ馬が走る。
俺を抜いて、光る何処かへと走っていく。
『待てよ、待てって!』
何故か、追いかけないと行けない気がした。
同時に、追いついてはいけないとも思った。
あの速度に、あの走りに、俺は追いつけることが出来るのだろうか。
ひと目で分かる、格が違うと。
あぁ、だが、なんだこの気持ちは……どうして俺は、あんな風に走れない。
『なぁ、待ってくれよ!頼むよ!』
走れ、動け、少しでも奴らに追いつけ!
じゃないと、俺は……。
『強く、なりてぇなぁ……』
何が俺に足りてない。
雪も溶けてきた春の頃、牧場の片隅で怒声が響く。
怒鳴っているのは杖を突いた老人であった。
「帰れ!」
「お、落ち着いて下さい。そちらにも悪い話ではないはずです」
咳き込む老人に慌てて駆け寄ったのは、佐藤牧場の馬主をやっている佐藤浩一だった。
父、光太郎の激昂する姿に怯えながらも、先に心配が勝ってしまう。
「ふざけるな!私達が、アレを見出したのだ!今になって!ゴホッゴホッ!」
「親父、落ち着いて。なぁ、落ち着いて」
「光太郎さん、今だからこそですよ。ここを逃したら、お互いに不都合になる」
「だからと言ってぇ!」
杖を振り上げ、そのまま手から溢れ落としてしまう。
慌てて支えに行くが、父は相手の男を睨みつけ続ける。
「メジロレクサスを返せだと!」
「返せだなんて人聞きの悪い。私は、転厩してはどうかと言っているんです。言ってはなんですが、メジロレクサスのことを考えたら良い判断だと思いますよ」
「どういう、意味ですか……」
「我々はノウハウがある、調教施設だって充実してます。人員、設備、知識、全てが揃ってる。皐月賞、出走は素晴らしいことだ。だが、3歳馬で勝ち続ける馬は、ほんの一握り……勝てる保証はない、違いますか?」
その言葉に、返す言葉もなかった。
お世辞にも、大手の牧場よりも勝ってるところなど探すことすら難しい。
だが、じゃあ、何で俺達に夢を見せたのか。
「我々の中でもオーナーの意向には疑問を覚えている者達もいるんです。勝てる保証がないのだから、いい機会じゃないですか。我々は可能性に謝礼をすると言っているのです」
「最初から、売らなければいいじゃないか!そもそも、そちらのオーナーが話をしにくるのが筋じゃないんですか」
「オーナーは忙しい方なんです」
「アンタ達が、実は勝手にやってることじゃないのか?前に話したが、ウチでは絶対に育てたく無いと、そう言ってたぞ」
浩一は、馬名としてメジロレクサスを使っていいか許可を貰った際の電話を思い出す。
確かに秘書とか色んな人に話が行って、特別にと本人と話せたことから忙しいのは間違いないんだろう。
ただ、話した時、尋常じゃない様子でウチでは育てられないと言っていたのだ。
あの様子を知っていたら、今更買い戻すなんて言うとは思えない。
「……後悔しますよ、いいんですか?」
「オーナーと話をさせてください、そちらが本当に転厩させたいなら、それくらいいいでしょう。私も馬主の端くれです、メジロレクサスの生育環境を確認する義務がある」
「何を仰ってるんですか?我々が、メジロレクサスに何かするとでも?」
「オーナーの気が変わったなら、そうではないかもしれませんが……とにかく一度話を」
「くどい!何度言えば分かるんですか、忙しい方なんですよ」
「そうですか……では、お引き取りを」
浩一の強い態度に、相手の男は帰っていった。
その様子に気が緩んだのか、光太郎が膝から落ちる。
「親父!」
「ハァハァ……少し、疲れた」
「無理するなよ、もう……」
「浩一、馬房に連れてってくれ」
親父の言うことに従い、肩を貸して馬房に移動する。
少し離れにある馬房、レクサスの馬房だ。
「レクサスは寝ておるのか、昼間なのに」
「レースに負けてから、気が乗らない様子なんだ。無理に調教はやめようって」
「そうか……そうか……」
馬房の奥には、横たわって寝ているメジロレクサスの姿がある。
ブブブブと、調子の悪いエンジンのようなイビキを掻いて熟睡していた。
「夢を見ているのか……」
「そうかもな、ほら、身体に障るから戻るぞ」
「俺も夢を見ている、お前と同じだ」
「親父……」
離れようとしない親父を引っ張り、自宅へと連れて行こうとする。
いつから、こんな細い身体になったのか。
こんなガレた馬みたいになっていたのか。
俺が、しっかりしないとな。
『んあっ?ふぁぁぁ……あっ?』
「あっ」
『ジッジやんけ、久しぶりに見たな。おっ、なんか身体が軽い気がする』
「おー、起きたのか」
もう少しで連れ出そうとしたのに、タイミングが良いのか悪いのか、レクサスが起き出す。
不思議そうな様子で、馬房の奥からこちらへと近付き顔を見せてくる。
『なんだ元気ねぇな、食い物持ってないか?』
「よしよし、しっかり英気を養うんだぞ。次は皐月賞だ」
『おっ、撫でたいのか?ほら、撫でさせてやろう』
「勝てよ、勝って見返してやろう。勝ち続ける保証がない、舐めるなよ……ゴホッゴホッ!」
『おいおい、大丈夫かよ。外は寒いんだから、帰れよ爺ちゃん』
「親父、もう」
「あぁ、そうだな……戻ろうか」
オッチャンとジッジが帰っていく。
それにしても、なんか身体の調子がいいな。
どれ……。
【メジロレクサス】
【調子】好調
【体力】60/118
【ステータス】スピード:B スタミナ:C パワー:C 根性:C 賢さ:C
【バ場適性】芝:S ダート:G
【距離適性】短距離:D マイル:B 中距離:A 長距離:B
【脚質適性】逃げ:D 先行:B 差し:S 追込:D
【スキル】
・スタミナグリード
レース中盤で後ろの方にいると前方の持久力をわずかに奪う<長距離>
・八方にらみ
レース終盤に他のウマ娘が動揺する<作戦・差し>
・位置取り押上げ
レース中盤で速度がわずかに上がる<作戦・差し>
・差し切り体勢
レース終盤で加速力がわずかに上がる<作戦・差し>
【スキルPt(236)】
・彼方、その先へ…… 200pt
落ち着いたまま、中盤の仕掛けどころまたは終盤の勝負どころのコーナーを中団で進むと奮い立ちわずかに加速力が上がる
・アナタヲ・オイカケテ 200pt
レース後半に中団から 速度をちょっとずつ上げ前方のウマ娘を ほんのちょっと委縮させる
・末脚
ラストスパートで速度がわずかに上がる 170pt
・尻尾上がり 100pt
レース中盤にスキルを多く発動すると速度がわずかに上がる
・直線加速 170pt
直線で加速力がわずかに上がる
・臨機応変 120pt
レース終盤にコース取りが少しうまくなる
・ペースアップ 170pt
レース中盤に追い抜くと速度がわずかに上がる
・先行のコツ 110pt
良い位置に少しつきやすくなる<作戦・先行>
・真っ向勝負 180pt
レース終盤に前方にいると加速力がわずかに上がる<作戦・先行>
あれ、俺、継承してね?