俺はただうまぴょいしたかっただけなんだ   作:nyasu

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これが諦めないということだぁぁぁ!

皐月賞、それはクラシック路線で最初で最後のレース。

競走馬の人生で1度だけ、挑戦できるのは一度きりの大舞台。

ありがたいことに、ここ数年は出させて貰えてはいるが二桁の着順。

並み居る強豪を倒すことは未だに出来ていない。

 

集中しないといけない、そんな大事なレース。

だが、それ以上に頭の片隅に居座る皐月賞。

メインレースだからといって、その前のレースを蔑ろにすることは出来ない。

2着とまずまずの結果、好成績ではあるものの不満の残る結果だ。

 

パドックを見る。

そこにはこれから乗る、メジロレクサスの姿がある。

いつもと違い、落ち着いた様子に不安を覚える。

普通は逆だが、騒がしい方がメジロレクサスらしいからだ。

 

……感じているのか、この大舞台を。

 

妙に勘の鋭い馬だというのは、噂ながらに言われている。

一番有名になったのは、とある雑誌に載ったミラクルおじさんの話だろう。

彼は、メジロレクサスの直感を信じて100円から100万円まで増やしたそうだ。

メジロレクサスは時折止まっては、ジッと他の馬を見る。

その馬は、今日の1番人気マイネルチャールズ、そして2番ブラックシェルだ。

前評判のいい馬を知っているはずもないのに、見詰める姿に噂が本当のように思えてくる。

だが、それがどうした。

 

「今度こそ勝ってみせる」

 

パドック周回が終わり、厩務員の井上くんが曳いてくる。

改めて見るその姿に息を呑む。

以前と見違えるほどにしなやかで筋肉の張った肉体となっていた。

これ程の変わりよう、どれだけ調教したのか。

だが、そんな話は聞いていない。

まるで一晩で馬が成長したような、それほどの変わりようだ。

 

「今日は、今までにないくらい落ち着いてます」

「ですね」

「逆に不安になりますよ」

「俺もです、でも勝ちますよ」

 

メジロレクサスにとっては初のG1、観客の熱は段違いだ。

その熱狂に調子を崩すかと思えば、太ももから伝わる力は堂々としたものだ。

リラックスしている、まるでそうであるのが当然かのように、古馬のような貫禄すら感じる。

多くの人間が俺達の勝利を予想している。

だが、上には上がいて絶対であるとは思われていない。

勝負の世界に絶対はない、だがそれでも圧倒的な人気というものはある。

 

「見返してやろう、ここから始まるんだ」

 

俺達の戦いが、誰もが圧倒される勝利を掴みに行くんだ。

今度こそ、そしてここから、俺とお前の皐月賞が始まる。

 

「レクサス?」

「ブルルルルッ!」

 

返し馬、そのスタートでメジロレクサスが立ち止まる。

首を上げ、その視線はまるでターフの近くに備えられた巨大なモニター、ターフビジョンを見ているようだった。

映っているのは、俺達の姿……まさかな。

馬が理解できるわけもなく、たまたまだろう。

興味を失ったのか颯爽と走っていく。

動きはいい、今まで以上に軽い手応えだ。

激しくも緩くもなく、ちょうどいい力の入り具合。

乗っていて楽、そう感じるほどの手応え。

 

立ち止まったまま、まるで待つかのようにメジロレクサスがゲートを見る。

俺達の番が来た途端、まるで分かっていたかのようにすんなりと入った。

恐ろしいほどに静かな、それこそ隣の馬の方が煩いくらいに落ち着いている。

 

2度目の2000m、スタミナは足りると弥生賞で確信している。

中山競馬場はコーナーがタイトで直線も短い小回りコース。

そのため、レース前半でのポジション争いが勝敗を左右することも少なくない。

そのようなことから、最も速い馬が勝つと言われている。

スタートとゴール、最初と最後での急な坂、スタミナ配分を考える必要もある。

そして何より、逃げや先行が有利とも言われている。

だが、敢えての差しで行く。

誰もが先行で行くと予想している、その上で差しで行く。

スタミナを確保しつつ、メジロレクサスの足なら間に合うと確信しているからだ。

 

 

「行くぞ、レクサス!」

「ブルルッ!」

 

7枠14番、外枠からの出走。

ゲートが……開いた!

ほぼ同時かのように駆けある足、左右の馬を追い抜いていく。

右側にズラッと並ぶ馬群、先頭は……内枠にいたキャプテントゥーレ。

真横にいたサブジェクトが駆け上がっていき、中央へと内に向かって行く。

釣られるなよ、そう思ったが反応はない。

ただ、真っすぐ走っている。

 

「ッ!」

 

直線、その最内で動きがあったのだろう。

ダマになっていた馬群が俺達の外側へと寄ってくる。

恐らく内側からよれたか、よれかけたか、近付いてくる馬に押される形で外側に来たのだろう。

馬群の中にいたら、影響を受けていた。

これは枠の運があったか。

しかし、外側にいるというのは走りやすい分だけ距離がある、そのためスタミナ不安が発生する。

耐えろよ、俺達の戦いはまだ先だ。

 

「…………!!」

 

今ッ!

最初のコーナーに差し掛かり、体重を調整するように傾ける。

重心を意識した移動が間に合うと同時にコーナーに差し掛かる。

中団にいた馬達が下がっていき、一部の馬達が前に出る。

先頭を行く馬達はそのまま走り、隙間を縫うように内へと入っていく。

馬群は、膨らんだ形から直線に近い列へとなってコーナーを曲がった。

 

先頭は依然、最初に駆けたキャプテントゥーレ。

その灰色の芦毛は見ただけで分かる。

後の順番はざっくりだがオレンジから、サブジェクトだと分かる。

サブジェクトは外枠で最初から前に無理して出ている。

キャプテントゥーレもずっと最内ながら走り続けている。

この2頭は終盤に垂れると見て良い。

怖いのは……中団に控えるマイネルチャールズ!

そして、ブラックシェル!俺達の近くにいやがる。

 

「スゥ……」

 

息を吸う、そろそろ次のコーナー。

これから先は、ただ走るのみ。

俺の息を吸うのと同時に、背後から馬の近付く音が聞こえる。

上がってきた、誰かが。

 

「ハァフゥッ!ハァフゥッ!」

 

同時に、鼻音が大きくなる。

鼻でしか呼吸の出来ない馬の構造上、鼻音が大きいということは、多くの空気を吸ったことに他ならない。

中盤に差し掛かったここで、メジロレクサスの足が速くなる。

速度を上げたままコーナーを曲がり、中団から先頭へ抜けていく。

内から外へ、俺達の前に他の馬が塞ぐように寄ってくる。

 

「フシュゥゥゥゥゥ!」

 

不思議な音だ。

同時に他の馬が避けるようにして隙間を開けた。

その隙間をメジロレクサスが、ちょっとずつだが速くなって駆けていく。

 

「ッ!?」

 

終盤だ、まだ鞭は入れてない。

だが、鞭が入った時と同じくらいの加速だ。

もう、俺達の近くには数頭しかいない。

差し切るつもりか、メジロレクサスの身体は前へと伸びるように低く頭を下げた形へと自然と移行していた。

そして、直線だ。

これから最後の上り坂、ここが最初で最後の正念場だ。

 

「くッ!?」

 

鞭を入れ、駆ける。

だが、垂れるはずのキャプテントゥーレが最内で2馬身、3馬身と差を広げていく。

早い!最初から最後まで逃げ切るつもりか!逃げ切れるのか!

その横からはマイネルチャールズが追い込んでくる。

俺達の少し先をマイネルチャールズが行く、そして圧倒的な先をキャプテントゥーレが行く。

もう、終わりなのか!ここまでなのか!

 

「フゥゥゥ!フゥッ、フゥッ!フッ、フッ!フッ!」

 

鼻音が、細かいピッチを刻むように、まるでエンジン音のように、短い間隔で息を吐く。

そして、身体が伸びるように前に出た。

 

「ッ!?」

 

一気に低く、持ってかれるかのように重心が移動する。

足の動きが、段違いに速くなる。

前足が地面を突くたびに、鼻息が抜けていく。

地面を蹴り、前に進むたびに呼吸を早くして行く。

 

そうだよな、まだ終わりじゃない。

最後まで、勝負は終わらないんだ。

俺が先に諦めちゃダメだよな!

 

坂道を駆けていく、まるで垂れ下がったかのように先を行っていた馬を抜く。

見えた、芦毛の、キャプテントゥーレ!

その差は、2馬身、だがもう1馬身!

 

「ッッ!!!」

「フッ!!!」

 

鞭を目一杯に入れる。

回数制限、知るか。

今は、ただ、追い抜ければそれでいい!

勝つんだ、俺とお前で、俺達で勝つんだ!

……行け!行け!行け!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『うおぉぉぉぉぉぉ!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歓声が、俺達を包んだ。

決着は、ハナ差で俺達の1着。

 

「しゃぁぁぁぁ!」

「ヒヒィィィィン!」

「うわぁ!?」

 

レクサスが立ち上がったせいで、そのまま芝に向かって後ろから落ちた。

 

「えー……」

「ブルルッ……」

「落とすなよ……」

「……ブルルッ!」

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