俺はただうまぴょいしたかっただけなんだ   作:nyasu

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その戦いは僕たちを熱く、熱く、狂わせる       “勝負”と“誇り”の世界へようこそ

第75回東京優駿(G1)

 

芝左2400m / 天候 : 晴 / 芝 : 良

 

心臓の音が真っ暗なゲートの中で、いやに大きく聞こえる。

今か今かとゲートが開くのを待ち、集中する。

それはまるで音のないモノクロの世界のように、歓声も嘶きも何もかもがなくなって、ただゲートだけが見えている。

ガチャン、と唯一聞こえた音が耳に入ってくると同時に俺の身体は駆け出した。

 

【さぁ、係がゲートから離れました……スタートしました!今日はディープスカイ、まずまずのスタートを見せました。さぁ、横に広がって……中から、レッツゴーキリシマが行きました!押している内、アグネススターチ】

 

左隣のデカい奴を置いてき、内側のコースを走り抜ける。

右手側から馬群の波が押し寄せるが、そもそも俺達は差しだからここで張り合わない。

ただ、好スタートを活かして前に出るならスタミナを削らせては貰う。

横を見る、俺の横には2頭しかいない。

後は後方、これから抜きに来るか。

来たのは……お前か!

 

『貰った!』

『させん!』

『うおぉぉぉぉ!』

 

俺を追い越した先で、2頭の位置取り争いが始まる。

先に進んだのは鞭を入れられて駆けた、レッツゴーキリシマ。

知らん馬を抜いていく。

 

【アグネススターチ、レッツゴーキリシマ、2頭の先団グループ、レッツゴーキリシマが叩いて先頭を奪いました】

 

速い、もう最初のコーナーか!幸い位置は良いから綺麗に曲がることが出来――

 

『そろそろ混ぜろよ!』

『俺達を忘れて貰っちゃ困るぜ!』

 

俺の真横から迫る2つの影、知っている奴らだ。

スマイルジャックとサブジェクト!

その2頭が、真ん中から加速して俺を抜いて曲がろうとしてくる。

クソッ、ぶつかるから大きく曲がることが出来ねぇ、速度を緩めなきゃ曲がりきれん!

 

【スマイルジャック、3番手の外め、サブジェクトが外から、内からメジロレクサス!3番手集団の内で第1コーナーをカーブ!アドマイヤコマンドはその後ろで足を溜めて、ディープスカイは後方から4番手に下げました】

 

失速はしたものの、最内で曲がれたと思えば問題はなかった。

むしろ内に来ようにも俺のせいで来れなかったスマイルジャックとサブジェクトの野郎のほうが走ったことだろう。

少し外を走るだけで、一周の距離は大きくなるからだ。

経験則で疲れるのを知っている俺達、競走馬は出来るだけ内側を走りたい傾向がある。

忌々しそうなのが見て無くても伝わってくる。

 

『ハァハァ、クソがぁぁぁ!』

 

一番先では無理をしているのか、だいぶ先行しているレッツゴーキリシマの姿がある。

 

【先頭を切るレッツゴーキリシマ、2コーナーに向かってリードは3馬身。2番手、今日は控えてアグネススターチ】

 

速度を徐々に緩める。

まだこれから長い勝負、一定の速度でキープする。

俺を無理に抜いていくのは先行で走りたい奴ら。

俺はゆっくり内ラチ沿いに走らせてもらう。

 

【残り1800m通過、外からスマイルジャックが続いて行って3番手グループ、最内にはメジロレクサス、その後ろやや上がってきたレインボーペガサス、3番手の外に並んで行きました。直後にアドマイヤコマンド向う正面に入ります。あと、サブジェクト。更に内から6番モンテクリスエス外にマイネルチャールズ、今日は中団外を回ります、クリスタルウイングが外から内で足を溜めてブラックシェル、中団後ろに付けましたタケミカヅチ、その内にディープスカイ、中団グループ固まって、ここは外にショウナンアルバも並んでいます。中団グループから2馬身差、エーシンフォワード、フローテーションが外、さらに内を着いてベンチャーナインが追走で、最後方待機メイショウクオリア】

 

直線コース、俺の前にはいつの間にか5~6頭が走っている。

殆どが僅差、横並びの走りだ。

先頭は線上に伸びて入るが、少し後ろは横並びに膨らんだ馬群がある。

俺の後ろは見えてないが、きっともっと大きな馬群があることだろう。

ここで序盤は終わりか、まずまずの余裕のある走りだ。

 

【さぁ、これから勝負所3コーナーのカーブに入りますが、軽快にレッツゴーキリシマ飛ばして2馬身半のリード、2番手アグネススターチ、折り合いは付いているようです】

 

俺を抜かそうと後ろの奴らが速度を上げる。

それに合わせるように俺も速度を上げた。

 

『チッ、こいつ横にピッタリ』

『抜かさせるか!』

 

身体は軽い、徐々に上がる速度。

身体がノッてきたのかもしれない、もしくはスキルが発動しているのか。

さぁ、見えてきたぞ第3コーナー、行くぞ!

 

【3コーナー回って残り1000m切りました。この2頭がぐんぐん後続を離しています。先頭2番手の間隔は5馬身、その後ろ更に5馬身があって、3番手にスマイルジャック。3.4コーナー中間に入ってメジロレクサスがやや上がってくる、上がってきますが。依然4番手の中団でレインボーペガサス、その直後に接近で、その後ろグループから依然サブジェクトが追走、アドマイヤコマンドは内、更に動いたショウナンアルバが外から上がってきて残り600切りました】 

 

コーナーに差し掛かる、俺の右側である中央から馬群が押し寄せる。

邪魔クセェ!寄ってくるんじゃねぇ!

 

『ッ!?』

『うっ……』

『遅せぇ!』

 

身体を前に前に、さぁ速度を上げる。

足が地面を力強く蹴って、速度は倍だ。

ここで加速していく、コーナー中間からの加速。

 

【軽快に飛ばしてレッツゴーキリシマ、外連味なく逃げて5馬身、6馬身とリードを取って直線コースに向きました】

 

先頭はレッツゴーキリシマ、少し垂れ気味。

その後ろに馬群が押し寄せる。

ゴールに向かって近いのは内側で、外側にいる奴らはバラけて後方気味だ。

問題は俺の前に壁のように広げられる位置取り争いの混戦。

外から抜くか、待って内から抜くか。

 

【アグネススターチ、2番手、3番手から、3番手からスマイルジャックが追い上げてくる。残り400切りました、追い込み勢はレインボーペガサス!更に外からクリスタルウイング、ショウナンアルバ】

 

『ここからぁぁぁぁ!』

『うおぉぉぉぉぉぉ!』

『邪魔だァァァァァ!』

 

外側に数頭いるが、それは遥か後方だ。

問題は内側中央から上がってくる集団。

どうする、ここで待つのか、それとも外から抜くか。

騎手の鞭はまだ入らない。

もう直線待っているのか、だがそろそろ駆けなくては負けるぞ。

 

【間を突いて、間を突いてマイネルチャールズ、内から各馬接近アドマイヤコマンドも接近してくる!そして中を縫うようにブラックシェルが追い上げに入った!】

 

もう、時間はない。

何をしている、もう無理じゃないか。

俺の前には複数の馬達が並んでいる。

それも混み合っていて、ゴールまでの道が見えない。

終わるのか、俺のダービーはここで……

 

(オ オ オ オ オ オ ン !)

 

その時、俺の真横を1頭の馬が駆けていく。

 

『……ッ!?』

『うッ!?』

『はッ!?』

 

グングン進むその馬は、俺が諦めかけた馬群へと突っ込んで押し通っていく。

流石に堪らずぶつかるまいと先団の奴らが左右に避けた瞬間だった。

 

『ッ!?待ってたぜ!』

 

鞭が、入った!

 

【来た!遂に来た!最内から、最内からメジロレクサスが駆けてくる!満を持して一気にスパート、先頭に踊り出た!】

 

狭まっていく間を、一瞬だけ切り開かれた道を駆けていく。

身体は徐々に速くなっていき、まるで遅く感じる先頭集団を追い抜いていく。

出た、先頭には誰もいない。

勝った、だが、まだ油断はできない。

 

『うおぉぉぉぉ!』

 

見せるんだ、俺の勝つところを!

 

『……ッ!?』

 

来た、何かが背後にいる。

何だ今の感覚、身体中がザワつくような、この感覚は一体。

 

【大外から、大外から一気にディープスカイ!ディープスカイ、一気にまとめて交わして先頭のメジロレクサスに迫る!】

 

広い視覚が遥か後方に位置する、黒い影を捉える。

それは、恐ろしい速さで他の馬を抜いていく。

ソイツの名は、ディープスカイ!

 

『ここで、お前が来るのか!』

『悪いが、勝たせてもらう!』

 

他の馬達は遥か後方、だが俺の真横には奴が居た。

最内と大外から直線での勝負。

 

【ディープスカイが上がってくる!先頭を走るメジロレクサスに、ディープスカイが――】

 

ゴール目前、最後のスパートだ。

 

『うおぉぉぉぉ!』

 

【並んだ!ディープスカイか、メジロレクサスか!ディープスカイだ!ディープスカイが抜いた!いや――】

 

『うおぉぉぉぉ!』

 

【――抜き返した!メジロレクサスか!逃げ切るのか!】

 

『いいや、まだだ!』

 

ディープスカイの速度が、一気に加速する。

まだ、そんな力を残していたのか!

……これが俺の限界?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めるな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ!限界がここだって言うなら、その先へ!

行くぞぉぉぉぉ!

 

『クソがぁぁぁぁ!』

 

【2頭が、並んでゴールイン!ディープスカイか、メジロレクサスか!………3着はブラックシェル、4着はマイネルチャールズ、5着レインボーペガサスです。暫く、お待ち下さい】

 

『ハァハァ……』

『フゥゥゥゥ……』

 

どっちだ、どっちが勝った。

畜生、身体中が痛てぇ、息も苦しい。

うわ、もう無理、重い……よっこいしょっと。

 

「うおっとと、セーフ」

『すまん、降りててくれ』

 

心臓がうるせぇ、吸っても吸っても息が戻らねぇ。

しんどい、気持ち悪い、ぐわんぐわんしてきたぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『うおぉぉぉぉぉぉ!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっ?

 

【1着メジロレクサス!2着ディープスカイ!メジロレクサス!2冠制覇です!】

 

「よっしゃぁぁぁ!」

『そうか……勝ったか……』

 

ヌッマの喜ぶ姿から、俺は勝ったのだと悟った。

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