俺はただうまぴょいしたかっただけなんだ   作:nyasu

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科学的根拠はないが、とにかくヨシッ!

それは、人でなしの所業であった。

何も見えない真っ暗闇の中、俺は身体中を固定されていた。

何やら訳の分からん言葉を話すヒトカスどもが、俺に何かしようとしてるのだ。

特にあの白衣を来た医者野郎は許さねぇ!絶対に絶対にだ!

 

『がぁぁぁぁぁ!?』

 

熱い!熱い熱い熱い!脚が、俺の右足が焼けるように熱い!

違う、焼けるようにじゃねぇ!焦げ臭い匂いと共に痛みが走ってやがる。

真っ暗闇だったはずの視界は真っ白にチカチカと点滅する。

口の中にある何かを無意識に噛み締めるが、息つく暇もなく痛みが来る!

何度も何度も、終わりの見えない痛みが連続でやってくる!

 

『離せ!俺のそばに近寄るなぁぁぁぁ!』

 

身動きは取れない。

何をしていやがる、まさか馬肉にするつもりか!

いっそ殺せ!一息で殺せ!クソが、拷問しやがって!

許さんぞ、このヒトカスどもがぁぁぁ!

お前らに呪いあれ、この俺の怒りを地獄の釜のそこで思い出せ!

 

『ぐあぁぁぁぁ!?』

 

終わったと思ったら、左脚だと!

クソがァァァァァ!覚えてろ白いの、ブッ殺してやる!

 

『許さんぞ、絶対にぃぃぃ!んがぁぁぁぁ!?』

 

地獄のような時間が終わった頃には、俺は全身に疲労感を感じていた。

 

 

 

ここは馬畜生が落ちる地獄だ。

粗雑な馬房の中で、あれこれ触りまくるヒトカス。

傷口に何か塗ったり、人の食い物じゃない草や雑穀を無理矢理に食べさせる。

終わったと思ったら無理矢理に連行されて、野原に放り出され寄ってくる他の馬と仲良くすることを強要する。

ロックもない、漫画もない、ただヒトカスの指示に従って死んでないだけ。

生きているが、死んでないだけなのだ。

馬は、ただ生きていることに意味などあるのだろうか。

否、馬とはレースで勝ちフルーツを食べるために生きているのだ!

フルーツだ、フルーツを出すんだ!

俺は桃か梨を所望する。

 

「おっ、レクサス。元気になったか?」

『井上ェ!俺もぅ、ここやだよぉ~』

「どうしたどうした、いつになく人懐っこいじゃないか。あっ、先生」

 

それは、不倶戴天の敵。

白いやつが、複数の部下を連れて歩いている。

野郎ブッコロシャァァァ!?

 

「やっぱり来た!ひえっ!」

「来たぞ!押さえろ!」

「ここを通すな、やっぱ無理だったんだ!」

「落ち着け、なぜそこまで荒ぶるか!落ち着け!」

 

部下であろう、世話係どもが俺の身体を押さえつけに来る。

離せ、ソイツ、殺せない!

邪魔すんな、許せねぇ!あの白いの許せねぇんだ!

 

「すごい、こんなに元気になって」

「あの、やっぱり別の場所で話しませんか?」

「じゃれてるだけでしょ」

「いや、いやいや、明らかに私服の時と反応違うんですよ、脱いでいいですよね!白衣、脱ぎますよ!」

 

どこ行った!知らない間に逃げやがった!

クソが、分かったぞ!お前だろ、その白いの脱いだろ!アレだ、白衣脱いだろ!

思い出したぞ、白衣だ!お前が医者だろ、なぁ医者置いてけよ!

 

 

 

結局、医者の野郎をブッ殺せずに実家に帰ってきた。

おう、なんか綺麗やんけ。

ほな、休もうかな。

 

「ほらレクサス、色んな人からプレゼントだぞ」

『ファ!?フルーツが、色々ある!なんでカゴに入ってるんだ!』

「ほら盛り合わせだぞ、お姉ちゃん大好きな盛り合わせだぞ、キャバクラじゃ高いんだぞ」

『ぜ、全部食べて良いんですか?良いんですね、今、俺は冷静さを欠こうとしてます』

 

なんか知らんがスピーカー着いてる、クラシックが流れてるけどロックにしろや。

井上がフルーツ盛りだくさんで食べさせてくれる、美味しい。

放牧は……前と変わらんなぁ。

なんやここ、うわ、シャワーだ!すげぇ、上からお湯が降ってくる。

ブラッシングの後になんかマッサージしてくれるやんけ、ええやん。

 

「よしよし、大分よくなってきたか」

『おい、痛くないがあんま触んなや』

「本当に効果あったのか、残り2ヶ月。そろそろ調教やるか」

 

今日はなんか井上に連れられて調教になった。

久しぶりに人を乗せたが、こんなに軽かったやろうか。

うーん、しかし、芝を走らせてもな。

熱いし多分、夏だろう。

海とか行って勉強とか勉強とか勉強とかしないと。

なんでや!賢さトレーニングしかしてないやんけ!

 

『もう終わりや、今はスピードやない。スタミナや』

「あれ、おーい。あっ、こら、動けって」

『いやや、俺はこっちや』

「ウッドコース……まぁ、脚の負担少ないし、いいか」

 

ダートと木片の馬はスタミナが高い。

スタミナ、菊花賞はスタミナがないと勝てない。

やはり菊花賞はクリーク、円弧のマエストロは伊達じゃない。

あのバブみで油断させといて、えげつない走りをしてくるからだ。

 

『行くぞ、井上ェ!』

「あっ、うおぉぉぉぉ!?」

 

この後メチャクチャ、ウッドコースを爆走した。

 

翌日、当然ウッドコース。

更に翌日、今度は坂道コース。

そのまた翌日、ウッドコースからの坂道コース。

そうしてまた翌日、坂道コースと坂道コースと坂道コース。

 

『なんでや!?いつの間にか坂道やんけ!坂路ばっかやらされてる!』

 

いや、坂路は坂路で良いんだけど。

スタミナ鍛えられてる気がするし、良いんだけど。

 

「行くぞ、レクサス」

『嫌だ、もう坂路は嫌だ』

「こっちだと、ほら桃あげるぞー」

『…………きょ、今日だけだぞ』

 

井上が横の世話係に桃を渡して俺を坂路に引っ張ってくる。

あれ、今くれるんじゃないのか?あっ、あっ、分かったよ!走ったらくれんだな。

坂路を走ったらくれる、坂路を走らなきゃくれない、俺は賢いから学んだ。

 

『うおぉぉぉぉぉ!』

「よしよし、走れ走れ!」

 

ふぅー、終わった後の桃は格別だぜ。

今度はバナナとパイナポーもくれ、うっま!うっま!

草、果物、草、雑穀、果物、雑穀、果物!

ローテを組み込むと味に飽きない、これは大発見だぜ!

だが……。

 

【メジロレクサス】

 

【調子】絶好調

 

【体力】30/120

 

【ステータス】スピード:B スタミナ:C パワー:C 根性:C 賢さ:C

 

【バ場適性】芝:S ダート:G

 

【距離適性】短距離:D マイル:B 中距離:A 長距離:B

 

【脚質適性】逃げ:D 先行:B 差し:S 追込:D

 

【スキル】

 

・スタミナグリード

 

 レース中盤で後ろの方にいると前方の持久力をわずかに奪う<長距離>

 

・八方にらみ

 

 レース終盤に他のウマ娘が動揺する<作戦・差し>

 

・位置取り押し上げ

 

 レース中盤で速度がわずかに上がる<作戦・差し>

 

・差し切り体勢 

 

 レース終盤で加速力がわずかに上がる<作戦・差し>

 

・アナタヲ・オイカケテ 

 

 レース後半に中団から 速度をちょっとずつ上げ前方のウマ娘を ほんのちょっと委縮させる

 

・臨機応変 

 

 レース終盤にコース取りが少しうまくなる

 

【スキルPt(65)】 

 

・彼方、その先へ…… 200pt

 

 落ち着いたまま、中盤の仕掛けどころまたは終盤の勝負どころのコーナーを中団で進むと奮い立ちわずかに加速力が上がる

 

・末脚 

 

 ラストスパートで速度がわずかに上がる 170pt

 

・尻尾上がり 100pt

 

 レース中盤にスキルを多く発動すると速度がわずかに上がる

 

・直線加速 170pt

 

 直線で加速力がわずかに上がる

 

・アガってきた! 340pt

 

 レース中盤に追い抜くと速度が上がる

 

・ペースアップ 170pt

 

 レース中盤に追い抜くと速度がわずかに上がる

 

・差しコーナー○ 130pt

 コーナーで速度がわずかに上がる<作戦・差し>

 

・差し直線○ 130pt

 直線で速度がわずかに上がる<作戦・差し>

 

 

 

上がらない、上がらないんだよ!

俺のステータス、スタミナが高くなってるはずなのにBにならない!

前より無理している、体力もギリギリだ!

まだ、足りないというのか!

 

『こんなんで、菊花賞に勝てるのか?』

 

それは不安と焦りだった。

今までのようにステータスによる安心がない。

安心できるステータスだろうと、勝利に胸を焦がして挑んでくる強敵を前に押しつぶされそうになる。

上澄みも上澄み、負けるために用意された奴らじゃない。

寧ろ、勝つために鍛えられた奴らだ。

 

『いや、これが普通か』

 

この焦燥感を抱きながら、皆が勝利という栄光を追い求めている。

ようやくスタートライン、随分と遅かったが誰もが後悔しないために自分の走りをしている。

勝てるのかじゃない、勝つんだ。

 

俺の最初で最後、菊花賞が始まる。

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