俺はただうまぴょいしたかっただけなんだ   作:nyasu

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おい、俺とヤローや!

第69回菊花賞(G1)

芝右 外3000m / 天候 : 曇 / 芝 : 良

 

(人気)(枠順)(馬番)(馬名)

 1 7 14 オウケンブルースリ

 2 5 9マイネルチャールズ

 3 5 10スマイルジャック

 4 4 8メジロレクサス

 5 8 18ダイワワイルドボア

 6 1 2ノットアローン

 7 3 6ロードアリエス

 8 7 15ベンチャーナイン

 9 6 11ミッキーチアフル

 10 3 5ナムラクレセント

 11 2 3アグネススターチ

 12 2 4メイショウクオリア

 13 8 17ダイシンプラン

 14 7 13シゲルフセルト

 15 1 1フローテーション

 16 6 12ヤマニンキングリー

 17 4 7ドットコム

 18 8 16ホワイトピルグリム

 

 

 

 

やってきた場所は、京都競馬場。

正直、スタミナが足りる自信はない。

坂道を行い続け、前日から放牧を行って調子は絶好調にした。

ヌッマも最後の方には乗りに来て、軽く流すような感じで追い切りもやった。

 

しかし、ステータスの変動はない。

だが、ステータスが全てではない。

なぜなら、ステータスにないバッドステータスだって起きているからだ。

脚は、嘘のように痛くない。

 

『遅せぇぞ、メジロレクサス!』

『スマイル……』

『スマイルジャックだ!テメェをブッ殺す馬の名前だ、その小さい脳に刻んどけや!』

『んだとテメェ!今、ここで立てなくしてやろうか!あ゛ぁ?』

『お、おう。い、威勢良いじゃねぇか……怪我のせいで負けたなんざ、言い訳すんじゃねぇぞ!』

 

【スマイルジャック】

 

【調子】好調

 

【体力】50/110

 

【ステータス】スピード:C スタミナ:C パワー:C 根性:B 賢さ:D

 

【バ場適性】芝:A ダート:G

 

【距離適性】短距離:D マイル:D 中距離:A 長距離:B

 

【脚質適性】逃げ:C 先行:C 差し:A 追込:D

 

【スキル】

 

・対抗意識◎

 

 自分と同じ作戦のウマ娘が多いと 能力を発揮しやすい

 

・伏兵◎

 

 4番人気以下のレースで 能力を発揮しやすい

 

・ペースキープ

 

 レース中盤に追い抜かれると 持久力がわずかに回復する

 

・勝利への執念

 

 最終コーナーで追い抜かれると 差し返しやすくなる<中距離>

 

・ワンチャンス

 

 レース終盤に後ろの方にいると 加速力がわずかに上がる<中距離>

 

 

 

……俺と大差ないステータス。

仕上げてきてる、それもそうか。

特にペースキープか、回復スキルなのが厄介だ。

 

『怪我はどうかね、メジロレクサス』

『マイネルチャールズか』

『フン、手加減はしない。今宵、俺は貴公に復讐しに来たからな』

『今は昼だぞ』

『……月が見えるから、夜なのだ』

 

いや、その理屈はおかしい。

あっ、おい、ちょっと待て。

俺の顔見てもう一回言ってみろ、ノリで喋って恥ずかしいのは分かるけど。

 

【マイネルチャールズ】

 

【調子】好調

 

【体力】80/115

 

【ステータス】スピード:B スタミナ:D パワー:B 根性:C 賢さ:C

 

【バ場適性】芝:A ダート:G

 

【距離適性】短距離:D マイル:B 中距離:A 長距離:C

 

【脚質適性】逃げ:B 先行:B 差し:A 追込:D

 

【スキル】

 

・火事場のバ鹿力

 

 力尽きそうになったとき 走る気力が復活する<長距離>

 

・日本一のウマ娘

 

 期待を背負った強い想いが力に変わり最終コーナーで速度が上がる<長距離>

 

・気炎万丈

 

 レース中盤に中団で競り合うと 持久力が少し回復し さらに速度が少し上がる<中距離>

 

・食い下がり

 

 最終コーナーで追い抜かれると わずかに差し返しやすくなる<中距離>

 

・ワンチャンス

 

 レース終盤に後ろの方にいると 加速力がわずかに上がる<中距離>

 

・あやしげな作戦

 

 レース後半に速度が少し上がるが すごく疲れてしまうことがある 

 

 

 

……メチャクチャ強くね?

いや、うーん、ステータスもさることながらスキルもヤバいだろ。

スタミナは大分低いが、だが火事場のバ鹿力でどのくらい回復するのか。

というかゴール前で発動とか、いやあのスタミナなら終盤で必ず発動するのか?

後、他に強そうなやつは……

 

【オウケンブルースリ】

 

【調子】好調

 

【体力】40/100

 

【ステータス】スピード:A スタミナ:C パワー:B 根性:D 賢さ:D

 

【バ場適性】芝:A ダート:G

 

【距離適性】短距離:D マイル:D 中距離:B 長距離:B

 

【脚質適性】逃げ:D 先行:C 差し:B 追込:A

 

【スキル】

 

・鋼の意志

 

 レース序盤または中盤に前が詰まった時に強い意思を保ち持久力が回復する

 

・強硬策

 

 レース中盤に後方にいるとしばらくの間速度が少し上がる<作戦・追込>

 

・ペースアップ

 

 レース中盤に追い抜くと 速度がわずかに上がる

 

・まなざし

 

 レース終盤に目を付けたウマ娘の緊張感がわずかに増す<作戦・追込>

 

・疾風怒濤

 

 レース終盤に後方にいると追い込み態勢に入り位置を上げる<作戦・追込>

 

・末脚

 

 ラストスパートで速度がわずかに上がる

 

 

 

スピードAだと。

なんだあの、サポカ全部スピードでまとめましたみたいな、ステータス。

いや、日本は高速な競馬って聞いたことあるし、これが主流なんだろうか。

でも俺と同じスタミナCで回復スキル持ちか。

 

パドック周回、他の馬を見るがスキルを殆ど持ってないやつらばかりだ。

持ってても2つ3つくらい、しかも金スキルなんて滅多にない。

よく考えれば、レースで勝てばポイントが増えるが、負けたらポイントは手に入らないということだ。

そして、ポイントがなければスキルもなく、スキルがないからレースでは勝てず、レースでは勝てないからポイントは手に入らない。

しかも、そのレースが適正通りのレースかも分からない。

俺も、最初からマイルや短距離をやらされていたり、適正のない鋼の意思みたいなスキルを持ってたら弱かったかもな。

鋼の意思で鋼の意思は取ってはいけない、これは常識だ。

 

『まぁ、だとしても、ステータス通りにことが運ぶ訳じゃない。油断できない』

「よし、休養明けだけど頑張るんだぞ~」

『三冠馬になれって言ってるのか?やっぱり分かんねぇな』

 

だが、俺に笑いかける井上、パドックの上で手を振る遥やオッサンの姿が見える。

そして、一礼してから駆け寄るヌッマ、みんなが勝ちに来てる。

慢心はしない、全力を尽くす、そして三冠馬になる。

ウマ娘じゃ簡単に思えたが、実際の三冠馬は困難な戦いの連続だった。

勝てる保証がない、ゲームと現実は違いすぎる。

でも、勝つぞ。

 

 

 

返し馬、モニターには謎の記号が映し出されている。

恐らくそれは菊花賞って漢字だと思う。

入場は万雷の拍手と共に、観客はすごい入りようだ。

ファンファーレと手拍子が聞こえる、レースの開始が近いのだ。

 

「勝つぞ、レクサス」

『何言ってるか分かんねぇけど、勝とうとかそんなだろ』

 

軽くクビを叩かれる。

レースの始まる前なんざ、どうせ勝とうぜとか頑張ろうとかだろ。

正直、走ったことのない距離だ。

一人じゃ勝てないし、俺よりもきっと経験があるヌッマを信じるしかない。

いや、コイツ菊花賞走ったことのあるリーディングジョッキーとかなのか?

まぁ、走ったことのある奴だと思おう、たぶん俺より作戦とか考えてそうだしな。

 

【クラシックロードの終着点、菊花賞を制し最強の称号を手にするのは誰だ!今回、注目はやはりこの馬4番人気メジロレクサス。宝塚記念を回避しての休み明け、悲願の三冠達成なるか】

【厳しいかもしれないですね。坂路主体の仕上げを行ってましたが体重はマイナスですし、ガレてた影響はあるでしょう。2番人気くらいだと思ったのに、思った以上に評価が低い。ただ三冠馬は見てみたいですね】

【さぁ、各馬ゲートインが完了しました】

 

 

 

さぁ、行くぞ。

ゲートが開く、全ての馬がいっせいに飛び出した。

 

【スタートしました、先頭争い。坂を登っていきますが、アグネススターチ!好スタートからジョッキー押してアグネススターチ公約通りまず行きました、アグネススターチ】

 

走る、走る、走る。

まず最初に上り坂がやってくる。

指示は、抑えるように手綱を引かれた状態。

まずまずのスタート、良い滑り出した。

位置は中団、前に数頭と後ろに数頭いる形だ。

まずは内側に進路を取って走る距離を減らさないといけない。

 

『フンッ!』

『ッ!?』

 

内に行こうとした瞬間、後方から前に上がってくる馬がいた。

マイネルチャールズの野郎だ。

そうか、コイツ俺をマークしてやがる。

悪いが、お前と競り合うつもりはない。

俺の考えと同じなのかヌッマも外に行こうとしている。

 

【その後、ロードアリエス、ナムラクレセント早めに行って。その内はノットアローンの追走ようやくミッキーチアフル追い上げ、今!坂の頂上から最初の降りに入りました】

 

スピードは大分速い、全体的にハイペース。

こんな序盤からこの速度、クソ……下げすぎないように走らないといけない。

この上り坂でのスタミナ消費を考えてるのだろうか。

勢いよく坂を駆け上がって、ようやく頂上にやってきた。

 

『くっ……ハァハァ……』

 

1頭が後ろに下がってくる、駆け上がるときにスタミナを使い過ぎたか。

いや違うな、下り坂と直線のための位置調整だろ。

よし、カーブで外に行く。

 

『悪いがテメェを甘く見たりしないぜ!』

 

スマイルジャック!コイツ、俺の真横に!?

クソ、外に行きたくてもぶつかるから行けない。

 

【ナムラクレセント先団を見る形でいまポジションを一旦下げて、その後にスマイルジャック、メジロレクサス、マイネルチャールズ中団でピタッと並んでいます。その後ろヤマニンキングリー、シゲルフセルト、メイショウクオリアが続いてオウケンブルースリは中団後ろ、ダイワワイルドボアその外ピタッと合わせています、4コーナーを回って後は一番のフローテーション、ホワイトピルグリム、ドットコム、そしてベンチャーナイン、最後方がダイシンプランです】

 

まだ最初のコーナー、明らかに菊花賞は長距離だから一周はする。

2回は坂を登るのはチャンミで覚えている。

だから時間はあるが、馬群に飲まれているこの位置は、後々に影響しそうだ。

だが、外側の左隣はスマイルジャック、内側の右隣はマイネルチャールズだ。

動こうにもコースを制限されてる。

 

後続は多く、下げたら多頭数だから抜ける保証はない。

それに前方の馬群も、待ってて抜けるか、抜けれるかもしれなくても左右の位置取りが厳しい。

何だこの状況、詰んでる?

 

【さぁ、スタンド前にかかってきますが前2頭が飛ばしています。アグネススターチを今度は外から、ノットアローン、ノットアローン縦山典弘交わしていきましたリードは2馬身、アグネススターチ2番手1000mは58秒8、速い流れ後続に10馬身とリードを取っています】

 

直線に入った。

馬群は膨らみから2~3列へと移行する。

だが、俺の周りには複数の馬が居て、前に2頭距離をすごく離して走っている。

おかしい、今までこんな事があったか。

もっと縦に伸びていたはずだ。

 

『そろそろ噛ますぜ!』

 

来た!

スマイルジャックの野郎が外に向かって走っていく。

 

【さて、早めにスマイルジャックが3番手に上がって――】

 

ここだ、ここで仕掛ける!

 

『来たか!』

『待ってたぜ!』

『なっ、お前らも!?』

 

俺が駆けた。

と、同時に少し前を行っていた奴らが加速する。

一瞬の加速、だがそれは俺と前方の距離を縮めることを阻止した。

そして、成立する馬群の壁。

前が、塞がった。

偶然だろう、実際に驚く声も聞こえた。

マイネルチャールズやスマイルジャックだけじゃない、コイツらも俺を警戒してマークしていたんだ!

だから、仕掛けるタイミングに合わせて上がって、結果的に壁を作りやがった!

 

【――ナムラクレセントが4番目になりました。そのあとミッキーチアフル、インコースはロードアリエス、集団の内マイネルチャールズ、シゲルフセルト、メジロレクサスは後方で、ダイワワイルドボア動いていきました】

 

コーナーに入る。

だが、抜こうにも横並びのラインは外から移動するしかない。

しかし、その外も進路妨害になるかもしれないくらい背後にピタッといる馬のせいで動きづらい。

無理して前に出ようとも、前の馬達との距離も近すぎる。

斜行になったマックイーンみたいに、判定で勝っても順位が下る危険がある。

 

【今、1コーナー回ってオウケンブルースリは中団の後ろです。さぁ、1コーナーから2コーナーへ向かっていきましたが先手を奪ったノットアローン、リードは2馬身を取っています。アグネススターチは2番手に控えました。後は4馬身、5馬身、徐々に差を詰めてスマイルジャックが3番手から前2頭を追って向こう正面に入りました】

 

そうこうしている内に外から何頭か前に出てくる。

くそ、まるで追い込みのように馬群の壁が厚くなって来やがった。

 

【それから3馬身空いてナムラクレセント4番手ロードアリエス、インコースの5番手でシゲルフセルト6番手に上がりました。この間にマイネルチャールズ、今先頭までは5馬身くらいでミッキーチアフル、ヤマニンキングリー、馬群の中になったダイワワイルドボア、インコースのメイショウクオリア、依然中団後ろオウケンブルースリ、現在お終いから6番手くらいフローテーション、2馬身空いてこれを見ながらメジロレクサス、おっと動いたダイシンプラン、後はベンチャーナイン、ホワイトピルグリム、ドットコム最後方で坂を登ってきます。2度めの坂越え3コーナーに向かって】

 

再び坂がやってくる。

最初と違う圧倒的な威圧感。

普段ならもう走りきったくらいのキツさ、2400mは既に走ったかもしれない。

ここから、全ての馬にとって未知の長距離という領域。

前方の馬達が一気に減速し始める。

これはスタミナが切れた証拠だ、行くなら今だ!

 

『うおぉぉぉ!』

 

奴だ。

あのスピード特化の追い込み野郎、オウケンブルースリの奴が吠えた。

そして、ぐんぐん速度を上げていく。

ここで仕掛けてきたか!

なら俺も余力はある、身体は軽い、ここはもっとスピードを出せる。

 

『行くぞ!』

 

馬群は崩れ始めたが、まだ邪魔な壁だ。

だったら、誰もいない大外しか道はない!

あの、オウケンブルースリのように大外から一気に行くんだ!

そうだろヌッマ、お前も外に行こうとしてるなら同じ考えのはずだ!

 

【今度はアグネススターチが先頭に!奪い返しました!アグネススターチ先頭で2馬身のリード、スマイルジャック坂の頂上で2番手、今下って800を切りました。その後、2馬身差折り合いを付けてナムラクレセント3番手、シゲルフセルト4番手、マイネルチャールズが並んでここは馬群一団。ヤマニンキングリー、ミッキーチアフル、動いた動いたオウケンブルースリ大外から一気に動いていく】

 

身体は加速する、坂の頂上から直線に向けて。

オウケンブルースリを左側に、俺は少し後ろをついていくように駆けていく。

 

『うおぉぉぉ!』

 

最後のコーナー、先頭を行く馬群はそのままに、中団の馬群はその横に向けて移動する。

後方の馬群はその後を追うような形。

直線コース、そこ横並びに膨らんだ形が形成された。

 

(オ オ オ オ オ オ ン !)

 

既に全員が満身創痍、ヨレ始めたせいで隙間は出来始める。

勝機が見えてきた。

 

『ッ!?』

『来たか!』

『メジロレクサス、そこにいるのか!』

 

前方の馬達が何やら騒ぎ出す。

だが、相手する暇はない。

 

【今、5番手から4番手、連れるようにメジロレクサスがやって来る!馬場の真ん中スマイルジャックが先頭だ!スマイルジャック、その内に潜り込んで――】

 

『ハァハァ……まだ、まだぁぁぁぁ!』

 

先頭を行く、スマイルジャックの姿が見える。

その横にはマイネルチャールズ。

やはり、アイツらが最後は先頭争いか。

 

『俺が、勝つんだ!こんなとこで……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『負けれないのでね、勝たせてもらう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、マイネルチャールズの身体から何かが吹き出したように見えた。

まるで、一時的に大きくなったような錯覚を覚える。

他の馬も同時に感じ取った刹那、奴の身体が前に出る。

……ここに来て、加速だと!?どこにそんなスタミナが!?

 

 

【――マイネルチャールズが!並んで交わした!マイネルチャールズ、内に切り込みながら先頭に変わる!】

 

スマイルジャックが抜かされていく。

あんなに強かったアイツが、スタミナ切れだ。

そして、先を数倍の速度で行くマイネルチャールズ。

後ろから他の馬が追走するも、追い抜けないどころか距離を開く。

だが、まだ終わりじゃない。

 

『ッ!?』

 

 

 

 

 

 

 

『おい!その場所は俺の物だ!!』

 

 

 

 

 

全身が粟立つような感覚に包まれる。

それは、俺の横に居たオウケンブルースリによるものだった。

 

『貴様ッ、謀ったか!』

『羨ましいなァ!寄越せよ、その場所!』

 

奴の身体から蒸気のような物が見えたような気がした。

その蒸気が真ん中から割れるようにして消え去り、気付けば奴の身体が飛び出すように加速していた。

まるで今までが軽く歩いていて、急に走ったかのようにだ。

 

【外から来た!オウケンブルースリ!オウケンブルースリ!このまま2頭の争いか!メジロレクサスは――】

 

遠く先を行く、2頭が見える。

2頭だけだ、後続は大きく離されてる。

 

……これが「限界」なのか?

 

『……ふざけるな』

 

限界なんて誰が決めた!

いつだって、限界を決めるのは俺自身だろうが!

絶対に、前に出るんだ!

 

『ハァハァ……』

 

聞こえるのは、自分の息使いだけ。

 

 

『ハァハァ……』

 

 

規則的に聞こえる呼吸音、心臓の鼓動の音、駆ける脚音。

 

 

 

『ハァハァ……』

 

 

 

トクン、トクン、という心臓の鼓動がゆっくりゆっくりとなっていく。

 

 

 

 

『ハァハァ……』

 

 

 

 

だが、それも次第に小さくなっていく。

 

 

 

 

 

『ハァハァ……』

 

 

 

 

そして、音が消えた。

あるのは全てが止まったかのようなモノクロの世界。

俺しか居ないような、そんな場所。

 

 

 

 

 

 

『勝つのは!俺だ!!』

 

 

 

 

 

 

【――来た!メジロレクサスが来た!マイネルチャールズ、メジロレクサス2番手争い!】

 

大地を蹴る!

息を吸い、前に出る!

視界の端には睨みつけてくるオウケンブルースリ!

 

【抜いた!粘るかオウケンブルースリ、それとも差し切るかメジロレクサス!――】

 

此方を見向きもせず、走り続けるマイネルチャールズ!

だが、お互いに視界は広く、お互いの姿を認識している。

勝てと言われた気がした。

言葉はないから俺の思い込みかもしれない。

だが、言われて無くても勝つために俺はここにいる。

 

『テメェ!』

 

言葉はいらない。

喋る暇があるなら、走ったほうが良いからだ。

アイツはお前と違って、もっと走ることに真摯だった。

だから、お前に勝って証明してやる。

これが、俺の走りだ。

 

【――抜いた!ラスト1ハロン、200mで抜いた!速い、1馬身差を付けた、メジロレクサス!メジロレクサスだ!メジロレクサスが来た!メジロレクサス先頭、これが第七代の三冠馬だぁぁぁぁ!メジロレクサス、三冠達成!三冠達成だぁぁぁ!】

 

歓声が、拍手が、誰かの罵声と悲鳴が聞こえる。

勝った!遂に、俺は、俺が、三冠馬だ!

 

『よっしゃぁぁぁ!』

 

【そしていつものように、これがいつものメジロレク、あぁぁ!おっとと、騎手を落としたぁ!そのまま走っていく!こんな三冠馬は初めてです!あっ、気付いて戻ってきました】

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