【スタートしました……揃いました。さぁ、まずは先行争い1コーナーに内からウオッカ!ウオッカ!出ていきますが、外からスクリーンヒーロー、押してメジロレクサス】
『うおぉぉぉぉ!』
『こんな序盤で!?』
驚いた拍子で駆け出してしまう。
左にはウオッカがいる。
まさかの先行争い、先行策ってことか。
【メジロレクサス、竹豊騎手が先手を取りました。ウオッカ2番手、3番手マツリダゴッホ後はコスモバルク4番手、メイショウサムソン内5番手、後スクリーンヒーロー、そしてダイワワイルドボア内を突いてオウケンブルースリ、馬群の中から中団にやや後ろ9番ディープスカイで、各馬が第1コーナーをカーブしていきました】
駆ける、駆ける、駆ける。
息切れはしていない、スタミナに余裕はある。
だが、誰もいないターフが見える。
誰もいない、先頭の景色。
逃げ馬じゃねぇのに、なんだこの位置!
おかしいだろ、さっきまで競り合って……思い出した!
『ウオッカは、差し馬……』
やられた!いや、俺が走り出したのもあるがカーブで少し速度を落としてロスを減らしながらアイツは曲がったんだ。
俺は速度を維持したままコーナーに入って、そのまま後続に追われる形。
この位置を譲ってまで速度を落としてスタミナを温存するのは勿体ない。
まるで、いつかのレースの時のようだ。
【先頭は7番メジロレクサス、リードは1馬身。コスモバルク2番手で後は1馬身差ウオッカ外にマツリダゴッホ並んでいます。後、2馬身差5番手にメイシウサムソン、スクリーンヒーロー。中団には1番のオウケンブルースリ、やや縦長です。後はダイワワイルドボアが追走、そしてトーホウアラン、外にアサクサキングスです。中団グループ、パープルムーンそして半馬身差9番ディープスカイ後は1馬身差固まってトーセンキャプテン、ペイパルブル。間には11番シックスティーズアイコンで1400を通過、後方から2番手にはオーミスグラスワン、最後方はアドマイヤモナークで向う正面の中間を通過、各馬これから3コーナーはへ向かいます】
直線を駆ける。
全体的にやや遅い。
俺を抜かないつもりなのか、俺が徐々に速度を落としてスタミナを温存させようとしているのに誰も速度を上げない。
ピッタリと後ろに張り付く感じだ。
感じる、これが追われる者のプレッシャーか。
騎手からは鞭はない、馬なりに、俺のやりたいようにやらせてくれている。
もうここまで来たら、このまま行くしかない。
上り坂だ、こっからカーブすれば最後の直線か。
【先頭は7番メジロレクサス1200を通過リードは1馬身、コスモバルク2番手です。ウオッカが内、3番手、外にマツリダゴッホ、後に4番手メイショウサムソン、動きはまだありません。後はスクリーンヒーロー、オウケンブルースリ、第3コーナーカーブ残り1000m通過!後は中団から外を回って上がってきましたアサクサキングス、パープルムーン、ダイワワイルドボア、その外を付きまして9番ディープスカイ徐々に進出です】
カーブ手前、俺の後ろにいた馬が加速し始めた。
来た!抜きに来た!速度を上げる、だが後続も合わせるように速度を上げていく。
だが、いつもと違って先頭にいる俺は最内でスタミナ消費の少ない好位置をキープ出来ている。
まだスタミナに余裕はある。
『行くぞぉぉぉぉ!』
【3、4コーナー中間を通過。さぁ先頭は、前は固まって……僅かに先頭メジロレクサス、外にコスモバルク並んで4コーナーへ向かいます!後はマツリダゴッホ3番手、まだ溜めているウオッカです。更にはスクリーンヒーロー600m通過、外を回ってスッーとディープスカイが進出体勢!先頭は、メジロレクサス、メジロレクサス!】
コーナーを曲がった。
俺の右側、やや後ろに広がる馬群。
後方からすごい勢いで駆け上がってくる、アイツの名前はディープスカイ!
『さぁ、リベンジと行こうじゃないか!』
『悪いが抜かさせて貰うよ!』
左からはウオッカ!ウオッカが上がってきやがった!
鞭が入る!それどころじゃないと焦った感覚が痛みでリセットされる。
スパートだ、前だけ集中しろ!溜めてたスタミナを全部放出だ。
行く……ぞ……?
【そして、マツリダゴッホやや後退した。ウオッカは動くか、どうだ!あと400mを通過した】
『フルスロットルで、ブッチ切るぜ!!』
ウオッカが、俺の横を通過する。
あれ、可笑しくないか?
おい、なんで――
『ハァ…ハァ…ハァ…』
身体が……
『ハァ…ハァ…ハァ…』
重い
【内を突いてきたメイショウサムソンです!外を回ってきたスクリーンヒーロー、アサクサキングス。一番外から9番のディープスカイが追い込んでくる!】
眼の前がぐにゃりと回る。
音がくぐもったように聞こえづらくなる。
頭は押されているように圧迫感を感じて、体温が急激に下がったような感覚。
何より、足が、鉛のように重い。
『悪いが、勝たせて――
【さぁ変わった、先頭はマツリダゴッホ!追い込んできたウオッカ!いや、これは!】
『いいや、此処から先は俺が主人公だ!』
――もら、う?』
【ス、スクリーンヒーロー!?】
『何だと!?』
『えっ!?』
【ディープスカイの後ろから、スクリーンヒーローが一気に駆け上がる!】
『今度こそ、勝ってやるんだぁぁぁ!』
……リベンジ?
『負けるかぁぁぁ!』
……負けたくない?
『知るか!このレースの主人公は、俺だ!』
【スクリーンヒーロー!更にはディープスカイ!】
……勝手にやってろ!俺はリベンジしに来たんじゃねぇ!負けねぇために走ってるんじゃねぇ!
俺は勝ちに来たんだ!
【ディープスカイ!ディープスカイ!スクリーンヒーロー!内からウオッカ!あっ!?】
『返 せ ! 俺 の 場 所 だ !』
【メジロレクサス!メジロレクサスだぁあああ!まだ三冠馬は終わりじゃない!】
誰もいない景色が広がる。
モノクロの世界、そこに駆け上がってくる馬がいる。
真っ白な世界を駆けるソイツは漆黒の馬体をしていた。
そうか、お前が来るのか。
何を犠牲にしてでも目的を完遂する、そんな強い意思が籠もった眼差しが俺を睨む。
俺とお前しか居ない、この世界がお前の見ていた景色か。
あぁ、怖いなぁ。
でも、すげぇな。
こんな場所を、お前は走っていたのか。
『三冠馬が負けられるかぁぁぁ!』
アイツが走ってくる。
後続から駆け抜けてくる。
まるで映画の一幕のような、逆転劇だ。
『これが、俺の、限界か……』
……これ以上無理したら、また走れなくなるかもな。
「負けるな!」
「勝てよぉぉぉ!」 「走ってぇぇぇぇ!」
……あぁ。
「頑張れぇぇぇ!」 「行けぇぇぇ!」 「負けないでえぇぇぇ!」 「頑張れスクリーンヒーロー!」
……聞こえるさ。
「お前はスクリーンヒーローだろぉぉぉ!」
「諦めんなァァァ!」 「走れ、走れ、走れぇぇぇ!」 「もう少しだぞぉぉぉ!」
……聞こえているともさ!
「頼む、勝ってくれぇぇぇ!」 「駆けろぉぉぉ!」 「後少しだぞ、頑張れ!」 「お前を応援してるんだぞぉぉぉ!」
――まだだ!まだ終われない!
『な、なんだよ……それ……』
世界が一部だけ色づいていく。
モノクロの世界に、一直線上に色の付いた景色が広がる。
今にも消えそうで、朧気な色の付いた景色。
なんとも不格好、なんとも不安定で不完全な景色。
だが、俺だけの勝利への道だ。
分かっている俺は時代を作れるほどの器じゃない。
だが、だからこそ、この一瞬だけでいい。
二度と走れなくても!ここで死んだとしても!
勝てるなら悔いはない!
至らないなら振り絞れ!
命なんて燃やしてしまえ!
1秒でも速くなれるなら構わない!
極限の一瞬を駆け抜けろ!
『俺が、
【スクリーンヒーローだぁ!ゴールイン!スクリーンヒーロー、スクリーンヒーローです!2着ディープスカイ!3着ウオッカ!銀幕の英雄が、ジャパンカップを征しましたぁ!】