俺はただうまぴょいしたかっただけなんだ   作:nyasu

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君に与えられた敗北と約束を、今度は果たすためにやって来たよ

「みなさん、こんにちは。みなさんの競馬の時間がやってきました。本日は年末最後の楽しみ有馬記念です。どうですか先生」

「そうだね、やっぱり最後は純ちゃんに勝ちたいよねぇ」

「なるほど、ではここで一発逆転と行きたいと。だそうですよ、現場の太江さーん」

「はい、現場の太江です。飯崎先生よりも、今年プラスで終われるといいんですけど」

「あぁ、レース前からバチバチとしてきました。ちなみに、本日はゲストに今話題のヤバい芸人松ちゃんに来てもらっています」

「今日はもう馬券を買ってきたぜぇ~、既に2桁使っちまったぜぇ~ヤバいだろ?」

「はい、先に言われるとヤバいので予想コーナーまでお待ち下さい」

「あっ、はい、すいません」

 

テレビの中からスタッフの笑い声が聞こえた。

北海道の佐藤牧場、リビングの前にはお正月前の掃除を終えて家族みんなが揃っていた。

お父さんだけは、馬主だからいないけど。

出張というらしい、お土産はピーナッツの予定。

 

 

「――以上、14頭のパドックでした。それでは、太江さんのイチオシについてお聞きします」

「はい、えっとですね。やはり、仕上がりで言えばダイワスカーレットが良かったんじゃないでしょうか。しっかりとした馬体で、史上4度目の牝馬による有馬記念がもしかしたらあるかもしれません」

「なるほど。では問題のあった3番人気、メジロレクサスはどうでしょう」

「毛艶もよく前走の疲れはなかったと思いますが、落ち着かない様子でしたね。レースではどうなるか分からなくなってきました」

「以上、パドックからの中継でした」

「はい……ということでCMの後はみなさんの大本命です」

 

レースはまだ始まっておらず、パドックが映されていた。

馬が走る前にグルグルするパドックで、今日のレクサスは元気に飛び跳ねていた。

いつもと違ってたからか、画面の向こうでは悲鳴が上がっていた。

流石の私も、もう小学生だ。

だから、ヤバいってことだけは分かった、なんかヤバそう。

 

「あっ、写った!」

 

CMが終わると、スタジオでみんなが数字を披露するコーナーだ。

最近知ったが、これで順番を当てて、当たるとお小遣いが増えるのである。

ちなみにやろうと思ったが、まだ早いと言われた。

あと、大人になっても出来るわけではないらしい、難しいことは分からない。

 

「さて、みなさんの大本命。みなさんの予想はこうなりました」

「松ちゃんが13番ダイワスカーレット、飯崎先生が6番メジロレクサス、太江さんも13番ダイワスカーレット、こうなりました。じゃあまずは飯崎先生からお願いします」

「今日は最後だからね、一発逆転よ。これはねジャパンカップで乗り替わりしたんだけどね、掲示板に入ったし最後の末脚も凄いのよ。菊花賞もね、全然走れたし距離も十分。折り合い不安でこの人気は美味しいね」

「おぉ、三冠馬ですね。只今は……順位が下がって4番人気ですね」

「あちゃぁ、まぁ馬っ気だったし仕方ないね」

「では先生の買い目は……おぉ先生来ました。馬単6→13の一点勝負、5000円」

「調子に乗っちゃった。年末だからね」

 

レクサスの名前が出て、お母さんに教えてあげる。

ただ、なんかお母さんは変な顔していた。

なんでだろ。

 

「次は、皆さん気になってる松ちゃんの予想ですが、買い目は」

「俺も、馬単総流しだぜぇ~ダイワスカーレットから各一万円だぜぇ~」

「ヤバいですね。全部で14万円ですか」

「ちなみに、今月の給料の半分以上だぜぇ~ヤバいだろ」

「それは本当にヤバいですね」

「でも、ダイワスカーレットはですね連対率100%なんですよ。今回の上位人気はジャパンカップからのローテを考えると疲労も残っていると思いますので、逃げ切ることも出来るかなと。今回はハイペース予想なのでスタミナが持つか、セーフティーリードを持ったままゴールできるかが注目ですかね」

「競馬の話になると急にキャラを忘れてましたが、続いては太江さん」

 

じゅ、14万。

お年玉14年分、すごい。

お金持ちだこの人、これが富豪の遊び。

 

「お母さん、これって当たらなかったらどうなるの」

「そうねぇ、寄付かしらね」

「寄付って」

「赤い羽根のことよ」

 

この人、14万円も赤い羽根に使ったのか。

ヤバい人だ……ダメな大人だ。

 

「はい、私ね。的中率は高いんですけど、ちょっと今回は自信ないです。本命はメジロレクサスだったんですけど、パドックでの様子から変更しましてダイワスカーレット軸の3連複で。馬っ気が出たので、メジロレクサスは紐で」

「24点、1万円フォーメーションですね。さて、それでは先に阪神10Rの中継です」

 

みんなの数字コーナーが終わったので、そろそろメジロレクサスがテレビに映る。

メジロレクサスも有名人、ジャニーズと一緒である、すごい。

ただ、気になるのはみんなが言う馬っ気ってなんだろう。

 

「お母さん、馬っ気って何?レクサスは大丈夫なの?」

「そうね……ハッスル、みたいな?」

「ハッスルって?」

「げ、元気爆発、みたいな?」

「ふーん、よくわかんない」

「遥も大人になったら分かるわよ」

 

後日談、大人になった私は毎年正月になると、このネタで弄られる事になり後悔するのだった。

恨むぞ、幼い頃の私よ。

 

第53回有馬記念(G1)

芝右2500m / 天候 : 晴 / 芝 : 良

 

(人気)(枠順)(馬番)(馬名)

 1 8 13 ダイワスカーレット

 2 6 10マツリダゴッホ

 3 5 8スクリーンヒーロー

 4 4 6メジロレクサス

 5 6 9メイショウサムソン

 6 5 7アルナスライン

 7 1 1カワカミプリンセス

 8 7 11ドリームジャーニー

 9 4 5フローテーション

 10 7 12アサクサキングス

 11 3 4エアジパング

 12 3 3コスモバルク

 13 2 2 ベンチャーナイン

 14 8 14アドマイヤモナーク

 

 

 

夕日の見える草原、そこに俺は立っていた。

孤高、そんな言葉が俺に与えられた肩書。

他の馬の追随を許さず、ただ駆けていたらいつの間にか一匹、一匹と姿を消す。

ある馬が言った、アンタは孤独だと。

そんな俺が、初めて敗北した。

 

「これが、敗北か」

「待ちなさいよ!」

「誰だ?」

 

俺に声を掛けたのは、栗毛の馬だった。

その馬は、俺を追い抜いた馬でもあった。

 

「さっきの勝負は何!アンタ、手を抜いたでしょ!」

「何を言って……」

 

言われた言葉は、図星だった。

最後の一瞬、俺は確かにこのまま勝利したらまた孤独になると、そう思ってしまった。

結果、力を抜いて抜かされるという失態を犯した。

その指摘は、事実だった。

 

「うるさい!」

「うるさいじゃないわよ!怒りたいのはこっちよ!私はね、1番がいいのよ!」

「1番になれたじゃねぇか」

「馬鹿!私の言う1番はね、誰かに譲って貰った1番じゃないのよ!誰もが全力のレースに勝って、勝ち取る1番なのよ!こんな1番、いらないわよ!」

「いらないって」

「次よ!また私と勝負しなさい!次は、全力で!」

「そんな事したら俺が勝つぞ」

「やってみなさいよ!勝つのは私よ、たとえ全力だからって勝たせてあげないんだから!」

 

そう言って去っていく彼女に、俺は言葉を掛けられなかった。

全力のレースで勝ち取る1番か。

そうか、そうだな。

誰もが1番を目指している、誰もが手を抜いたりはしない。

手を抜くなんて、敗者に対しての侮辱だった。

 

「ありがとう、ダイワスカーレット。次にあったら全力だ」

 

もし次に彼女と戦う事があったなら、次こそ全力を尽くそう。

そして、彼女に告白する。

俺の1番を奪った女を、1番を取り返して、俺の女にしてみせる。

 

 

 

パドックで、栗毛の馬が見えた。

無駄のない引き締まった身体、艶やかな栗毛、溌剌とした整った顔立ち、滑らかな毛並み、スラットした足から、綺麗な丸みを帯びた尻、規則正しく揺れる尻尾は蠱惑的だ。

 

『久しぶりだな、ダイワスカーレット』

『……誰?』

『どうやら俺達は、宿敵だったようだ』

『初対面だけど!?』

『好きだ、俺の子供を産んでくれ』

『えぇ……怖っ……近寄らないで』

 

な、なんだと!?

あの時のお前はどこに行って……そうか、自分より弱い男は男として認めないということなんだな。

良いだろう、この勝負必ず勝ってみせよう!

 

「うわっ、おち、落ち着け!どうしたレクサス!」

『うおぉぉぉぉぉ!』

「う、馬っ気!?嘘だろ、どうして……」

 

 

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