パドックに向かう。
そこにいるのは、俺の相棒と、かつての相棒。
警戒すべきは尊敬している先輩。
これは憧れへの挑戦でもある、
「今日はよろしくな」
「はい。今日は勝ちますよ」
「そうか。だが、勝つのは俺達だ」
コンディションはどうだろうか。
俺達と違って、整えてきているかもしれない。
だが、それでもまだ折り合いは悪いはずだ。
俺だって、アイツと折り合いをつけるまで苦労したからだ。
だが、今日のような日はアイツも集中しているに違いない。
ここぞという時の、アイツの集中力は目を見張るようなものがある。
「沼添」
「はい!」
「さっきは勝つといったな」
「はい!……はい?」
「ダメかもしれない」
「えっ、どういう」
パドックに向かう。
そこにいるのは、後退る栗毛と荒ぶる青鹿毛。
既に臨戦態勢(意味深)な、かつての相棒の姿があった。
『どこに行くんだ!』
『ち、近付かないで!』
『何を怖がっている、来いよ!』
『だってアンタの、お、おお、とにかく近付かないで!』
えぇ……何してんだよ。
ふぅ、魅力的なメスに股座がイキりたってしまったぜ。
落ち着け、レクサス、俺のリトルレクサス。
俺はクールな馬だ。
KOOL、でクールだ。
うん?COLLだっけか、どっちでもいいや。
素数だ、素数を数えるんだ、何でか忘れたが落ち着く時は素数だ。
「よしよし、ほら来たぞ。がんばれよ、レクサス」
『そろそろか、あっヌッマじゃん!ヌッマが乗るのか、あれ?あれれ?』
パドックに入ってくる騎手達の中に沼添がいた。
なんでヌッマがおるんや、あれ?乗り替わりなくなったんか。
まぁいいわ、ほらさっさと乗れよ。
『おい、テメェがメジロレクサスか?』
『あぁ!?誰だよ、ゴラァ』
絡んできたのは、なんか小さい栗毛の馬だった。
ちっさ、なのに態度でっか。
『退きな、ソイツは俺のモンだぜ』
『何言ってんだお前、やんのかコラァ』
『おもしれぇ、今からでも殺ろうぜ』
小さい栗毛が鼻先を近付けてくる。
何だお前、何見てんだよ。
コレは視線を外したほうが負けな気がする。
「どわぁ!?離れなさいよ、レクサスぅ!」
「こら!お前はこっちだろ、どうもすいません」
「今日は本当にどうした、ほら離れて!離れなさいって!」
井上とか相手の世話係が手綱を引っ張ってくるが、人が馬の争いに入ってくんじゃねぇ。
こちとら馬だぞ、負けられない戦いがあんだよ。
「お疲れ様です、おしおし、落ち着けジャーニー」
『チッ、おい!後で覚えてろよ、今はレースだ』
『えっ?あっ、おい……どういうことだってばよ……』
舌打ちしながら踵を返す栗毛、その横には沼添の姿がある。
ど、どうなってるんだ?頭おかしくなりそう。
やっぱり、乗り替わりしてたってことだよなぁ?
まさか、アレが今のアイツの乗る馬だってのか。
『沼添ェ……』
「おーしおし、なんか落ち着いてるな。今日こそ、頼むぞ」
「今日も、よろしくお願いします」
「えぇ、任せてください。今度こそ勝ちますよ」
なんか、ガラの悪い馬に乗ってる……。
返し馬を終えて、そろそろレースが始まる。
俺の敵になるような奴はやはりダイワスカーレットだろうか。
【カワカミプリンセス】
【調子】好調
【体力】90/100
【ステータス】スピード:A スタミナ:B パワー:D 根性:C 賢さ:C
【バ場適性】芝:A ダート:G
【距離適性】短距離:D マイル:B 中距離:A 長距離:F
【脚質適性】逃げ:G 先行:C 差し:A 追込:B
【スキル】
・姫たるもの、勝利をこの手に
最終直線を走行中に競り合うと可憐にぶっ飛ばして速度を上げる
・垂れウマ回避
ラストスパートで前が塞がれた時の立ち回りがわずかに上手くなる
・昇り龍
最終コーナーで外から追い抜くと速度が上がる<作戦・差し>
・負けん気
追い抜きがわずかに成功しやすくなる<マイル>
・差し直線○
直線で速度がわずかに上がる<作戦・差し>
・ノンストップ・ガール
ラストスパートで前が塞がれた時の立ち回りがうまくなる
・根幹距離○
根幹距離(400mの倍数)が少し得意になる
『カ、カワカミプリンセス!?』
『まぁ!誰ですの、私の事をご存知で?』
『ご存知で』
『貴方、私怒っておりますのよ。まったく、破廉恥な、お嬢様パンチでも喰らわせてあげましょうか?』
『何言ってんだコイツ、お嬢様はパンチしないぞ……』
ヤベェやつに絡まれた、次。
【ダイワスカーレット】
【調子】絶好調
【体力】110/110
【ステータス】スピード:S スタミナ:C パワー:A 根性:D 賢さ:C
【バ場適性】芝:A ダート:G
【距離適性】短距離:F マイル:A 中距離:A 長距離:B
【脚質適性】逃げ:A 先行:A 差し:E 追込:G
【スキル】
・ブリリアント・レッドエース
レース後半で1番をキープし続ける力を発揮する
・好位追走
レース中盤でわずかに疲れにくくなる<作戦・先行>
・キラーチューン
レース中盤に前の方だと好位置を取りやすくなる<中距離>
・抜け出し準備
最終コーナーでわずかに抜け出しやすくなる<作戦・先行>
・レースプランナー
レース中盤で疲れにくくなる<作戦・先行>
・対抗意識
自分と同じ作戦のウマ娘が多いと能力を少し発揮しやすい
・急ぎ足
レース中盤でわずかに前に行きやすくなる<作戦・逃げ>
・真っ向勝負
レース終盤に上位約50%にいると加速力がわずかに上がる<作戦・先行>
……強い。
全然、ステータスが可愛くない。
Sってスピード育成でもしてるのかよ、逃げ馬ですか?
先行スキル多いけど、逃げ馬なの?
『おもしれぇ女』
「行くぞ、レクサス」
ゲートに入る。
もうすぐレースが……始まらない。
おい、誰か入ってないだろ。
『才能があって羨ましいな。だが、最後に勝つのは心が強いやつだ』
なんか言ってないで入れよ、おっと集中。
出遅れなんてしてられないからなぁ。
ゲートが開くのに集中する。
ゲートの閉まる音、人がゲートの下を潜っていく。
もうすぐ開く……まだ、まだ……今っ!
【スタートしました!揃いました、ダイワスカーレットがやはり先手を取りに来ました、内からはカワカミプリンセス。牝馬2頭が前を行きました、1周目の3コーナーへ】
左と右、外と内から2頭が駆ける。
外枠のダイワスカーレットと内枠のカワカミプリンセスだ。
どっちも逃げなのか、物凄い速さで駆けていく。
『退きなさいよ!』
『そっちこそ、邪魔でしてよ!』
女の戦いが繰り広げられていた。
うわ、こっわ。
【後は1馬身差、メイショウサムソン、アサクサキングス。3枠2頭エアジパング、コスモバルクです。後は中団にスクリーンヒーロー、フローテーション、ベンチャーナイン。空いて、中団の外を抑えております10番マツリダゴッホ】
知ってる顔ぶれが追走、だが先頭2頭が速すぎる。
固まるどころか追いつくのに走らざるを得ず、縦長になっていく。
よく見える、女達のケツが。
そして、その後ろを追いかける奴らもよく見える。
差しやすい、綺麗な直線の隊列だ、ダマになってない。
【4コーナーをカーブします】
『はぁぁぁ!』
動きがあった。
ダイワスカーレットが僅かに前に行く。
内枠に居たカワカミプリンセスの方が横から後ろになった。
そのままカーブに差し掛かり、前に居た奴らが少し減速する。
ダイワスカーレット先頭、その後ろにカワカミプリンセスを含む3頭がいる形。
内に寄ってるな、塊が出来るか?
『ッ!』
体重が、左に傾く。
これは外へ行くということか。
カーブに入ると同時に外に向けて加速する。
位置は中団、差しで今日は出来ている。
『よォ……やろうぜ!』
『ッ!?』
『おい!』
しかし、直線でカーブを少し曲がらず真っ直ぐ入って大きく弧を描くイメージで走っていたのだが、俺の外側にいる2頭が邪魔だった。
なんなら、一番外に居た奴は内に曲がろうとして、俺とソイツとで真ん中の馬に接触しそうになるような形だった。
て、テメェは!?
【後はメジロレクサス、アルナスライン、ドリームジャーニー】
先頭はダイワスカーレット、後ろに集団、少し空いて数頭の集団。
俺がいるのは、最後の方の数頭の集団だ。
『同じ差しか、良いぜ勝負だ!』
『ひえっ』
『やってやろうじゃねぇか、ブッ殺してやるよ!』
『あ、あぁ……』
『威勢がいいじゃねぇか、そうじゃなきゃなぁ!』
『はわわ……』
『テメェこそ、大口叩いて調子乗んな』
俺とガラの悪い奴が前に出る。
間に居たやつを置いてけぼりに、2頭で加速してコーナーを曲がる形だ。
【最後方にアドマイヤモナークでスタンド前です。先頭はダイワスカーレット、堂々と行きますリードは2馬身、カワカミプリンセス2番手、メイショウサムソン早め3番手、後はアサクサキングス、そしてエアージパング、コスモバルク中団です】
『退きな、お嬢ちゃん!』
『舐めないで下さいまし!抜かさせませんわよ!』
【フローテーションが中団の外、スタンド前を通過、あと3馬身差】
直線に入った。
上り坂になってるその場所で先頭を行く3頭、その後ろにいた3頭が少しずつだが外側に移動して俺達の前に来る。
スタミナ切れか、少しだけ速度が落ちていく。
前から近付いてきたのはフローテーション、内側にはベンチャーナインが見える。
『チッ、邪魔しやがって!』
『まだだ!まだ終わらん!』
真後ろから駆けてくる、ソイツは俺を倒したスクリーンヒーローの野郎だった。
あれ、さっきまでいたアイツどこ行った!?
【ベンチャーナインが追走、メジロレクサスです。スクリーンヒーロー後方、その外におりますマツリダゴッホ、あとはドリームジャーニー、アルナスラインがいて、最後方はアドマイヤモナーク】
分からん、分からんがダイワスカーレットがカーブに入った。
追って、カワカミプリンセス達も曲がっていく。
俺の前を行くのはフローテーション、俺とフローテーションの間には馬1頭分くらいの隙間がある。
【各馬第1コーナーを通過していきます。先頭はダイワスカーレット残り1400を通過、リードは2馬身、2番手にはカワカミプリンセス、そしてメイショウサムソン。3番手徐々に接近していきます】
『はぁぁぁぁ!』
『うおぉぉぉ!』
先頭集団が仕掛けた、呼応するように俺の前にいるフローテーション達が静かに加速する。
先頭では見えないが、カワカミプリンセスとメイショウサムソンが位置取り争いをしていると思われる。
俺の前にあった馬群はさらに空間を広げるように、前へ、前へと進んでいく。
『まだだ!』
『くっ、うぉぉぉ!』
横に居たスクリーンヒーローが加速する。
俺も合わせて加速すべく、足の回転数を上げていく。
【2コーナーを迎えます。それほどペースは速くありません。後は、アサクサキングス4番手、エアジパング、コスモバルク、フローテーション固まって、第2コーナーをカーブして向う正面へ】
追いついた。
俺とスクリーンヒーローの前に空間はもうない。
【更にはメジロレクサス中団で、そして外を回りましてスクリーンヒーロー、あとベンチャーナイン、マツリダゴッホは中団のやや後ろ、後は追走する7番のアルナスライン、更にはドリームジャーニー、最後方はアドマイヤモナーク】
上り坂、どんどん前が遅くなっていく。
垂れている訳では無い、全員ペースが落ちているだけだ。
間隔は維持されたまま、列をなして、間はなく、抜こうと思えばすぐ抜けるくらいの僅差での隊列。
流石にこの2回目の上り坂、逃げ馬が垂れ――
その時、俺の視界に入る赤いバラの花弁。
それがひらりひらりと横を通過する。
『優雅に、勝たせてもらうわ!』
消え……た?
【向う正面の中間を通過、さぁこれから3コーナーへ向かいます。先頭はダイワスカーレット、今残り800を通過。ペースをあげますか!リードを1馬身半!】
『馬鹿な、加速した!?うおぉぉぉ!』
『ここだ!』
『今だ!』
【メイショウサムソン2番手に上がった!後はアサクサキングス、フローテーションが先に動いた!】
仕掛け所だ!コーナーに入って加速する。
前にいたフローテーションが加速していく。
右手には、垂れてきたカワカミプリンセス、左後ろにはスクリーンヒーロー。
鞭が入る音が聞こえる、だが、俺はまだ入ってない。
まだ溜めて、このまま最後の直線に入ってから、そういうつもりか!
『まだだぁぁぁ!』
『んなっ!?』
スクリーンヒーローが加速して上がってくる。
怖いよコイツ、マジで窮地に覚醒する主人公じゃん。
だが、負けてられない。
俺も追いかけるように加速していく。
感じるからだ、背後から迫ってくるプレッシャー、俺を殺そうとするかのような気迫。
『いいや、先を行くのは私だ!』
スクリーンヒーローの横、馬体の影から何かが飛び出す。
別の馬だ、マツリダゴッホ!コイツ、スクリーンヒーローの後ろに張り付いていやがったのか!
俺を抜かしたスクリーンヒーローを、更に抜かしてマツリダゴッホが前に出る。
【第3コーナーをカーブします。ペースが速くなりました!後は3馬身差、外からスッーっと行った!行った!蟹谷正義が行った、マツリダゴッホ!連れてスクリーンヒーロー!スクリーンヒーローも進出です!】
コーナーが終わる。
遥か右前にはダイワスカーレットの後ろ姿、真横に近い右側には遅れてる先頭集団だった奴ら。
左側にはスクリーンヒーローとマツリダゴッホ。
背後からは足音と鞭の音が聞こえる!
【前がかたまってきました、後はメジロレクサス!第4コーナーへ向かいます!】
『限界なんぞ、超えていけぇぇぇ!』
『オォォォォン!』
スクリーンヒーローが更に加速する、化け物か!
だが、俺の前に空間が空いた。
ここから真っ直ぐ伸びていけば、追いつける!
俺の前を内に向かってスクリーンヒーローが一直線に突き進む、コーナーの中腹から一気に直線で走っていきやがった!
内側の先頭集団、4頭ほどを一気にごぼう抜きして、そして!
【400mを通過!ダイワスカーレットは先頭で直線コースに向かいます。スクリーンヒーロー!スクリーンヒーローが2番手】
『くっ!』
スタミナ切れか?突然の失速、スクリーンヒーローが垂れた。
その時、先頭のダイワスカーレットの周囲が歪む。
……なんだアレは、幻覚?
薔薇だ、ダイワスカーレットを挟むようにして薔薇の道が出来上がる。
ダイワスカーレットが駆ければ、散った花弁が後方に流れていく。
だが、それも一瞬!そんなものはなかった!
しかし、ダイワスカーレットが何故か垂れるどころか加速していた!
【メイショウサムソン伸びないか、外からマツリダゴッホ!後、メジロレクサスが突っ込んで――】
世界から、音が消えた。
『ハァハァ……』 ピキッ……
今度は、世界から色が消える。
『ハァハァ……』 パキッ……
1頭、また1頭と右にいた筈の馬達が消えていく。
『ハァハァ……』 パキパキッ……
俺はこの感覚を知っている。
『ハァハァ……』 パリィィン!
『させる訳、ねぇだろうがァ!』
俺の白黒の世界に異物が交じる。
真横に、荒れた地面が発生する。
ターフじゃない、まるで荒野のような白い砂利道だ。
そして、ソイツはやって来た。
【――いや、ドリームジャーニーだ!ここに来て、ドリームジャーニー上がってきた!】
『お前だけが出来る訳じゃねぇ!邪魔だ!』
『なっ……』
『雑魚が並ぶんじゃね!女が俺の前を走るんじゃねぇ!全員、確殺だァ!』
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
歓声が聞こえる。
馬群から発生する足音、芝の匂い、ターフの風。
世界が彩られていく。
『な、んで……』
『ッ!?誰だ!』
俺の横を抜けるソイツが、誰かに向かって吠えた。
吠えた先、そこには鬼気迫る勢いで加速する馬体がある。
俺を抜いたソイツを、更に抜いていく。
まるでスクリーンヒーローのような、走り。
【ア、アドマイヤモナーク!?お、追い込んでくる!】
『勝てるなら!』
『何だコイツ!?俺の道を、走ってやがる!』
まるで黒い靄のような物を纏った、馬のような姿のそれが、ソイツを抜いて駆けていく。
【大外からアドマイヤモナーク!ドリームジャーニー、あるいはメジロレクサス!先頭はダイワスカーレット!】
『死んでもいい!』
突然の叫びが、聞こえてくる。
それは、黒い靄から発せられた叫び!
走ってるからこそ理解できる、奴は本気でそう思っている!
『ぐっ、クソがァァァ!』
まるで幻だったかのように、荒野が掻き消えた。
そして現れた芝の上を、黒い線のように伸びていく馬体が俺とソイツから離れていく。
既に2番手にまで、ソレは進んでいた。
だが、そこまでだ。
大きく広がるように靄が爆発し、馬としての馬体がはっきりと見えた。
失速、ゴール手前でソレの行っていた何かが終わったのだと直感で理解した。
【ダイワスカーレット!アドマイヤモナーク!ダイワスカーレット!ダイワスカーレット!ゴォォォール!イン!ダイワスカーレット、逃げ切りました!】
『クソがぁぁぁ!』
『ハァハァ……』
キレ散らかしてるヌッマの乗っていた馬と息を切らした鹿毛の馬が俺の前にいた。
着順は、ダイワスカーレット、鹿毛の馬、やべぇの、俺は4番目だった。
【ダイワスカーレット1着!2着馬アドマイヤモナーク!3着はドリームジャーニーでした!】
また、負けた……