俺はただうまぴょいしたかっただけなんだ   作:nyasu

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どうして走れないじゃなくて、どうして走れるかで自分を語れよ!

第53回産経大阪杯(G2)

芝右2000m / 天候 : 晴 / 芝 : 良

 

(人気)(枠順)(馬番)(馬名)

 1 8 11 ディープスカイ

 2 1 1マツリダゴッホ

 3 6 8ドリームジャーニー

 4 7 10メジロレクサス

 5 2 2カワカミプリンセス

 6 3 3サンライズマックス

 7 5 5ヴィクトリー

 8 4 4アドマイヤフジ

 9 6 7マストビートゥルー

 10 7 9シャドウゲイト

 11 5 4アグネストレジャー

 12 8 12サザンツイスター

 

 

 

輸送を終えて、レースが始まる。

今回は随分と長い休養だった。

肌寒かったのが温い感じ、春やなぁ……。

 

井上に引張られてパドックまでやって来る。

ディープスカイ、マツリダゴッホ、あとガラの悪いちっこいの。

カワカミプリンセスもいやがる、錚々たるメンバーだ。

 

『何だァ……またテメェか?』

『ドリームジャーニーか』

『雑魚が、見てんじゃねぇよ!』

 

相変わらず小さい癖に態度がデカい。

だが、コイツに負けるのは癪だ。

敗因は分かってる、なんか知らんが超能力のせいだろ。

 

『お前に聞きたいことがある』

あぁ!?

『……前に使ってたアレ、なんだ、こう道が出来るやつ』

『知るかよ、テメェで考えろ!』

 

えー、知らねぇのかよ。

俺の道をとか言ってなかったか、いや知らないなら知らないでいいけど。

なんか思い出し掛けてるような、知っているような気はするんだけど分からん。

でも、重要なのは覚悟だって言うのは分かる。

どうしても勝ちたいという意思が必要なんだろ。

勝ちたいが、そこまでじゃないから使えないかもしれないけど。

 

『おや……おやおや?もしかして悩み事かい』

『新手のナンパかよ』

『おいおい、牡馬同士で生殖活動は生産的じゃないねぇ……』

 

話し掛けてきたのはディープスカイだ。

コイツ、これからレースなのに余裕か?

 

『まぁ、話は聞いてたんだけどね。ところで、僕はお兄ちゃんと君のことを呼んだほうが良いのかい?』

『はぁ?なんでそうなる』

『……あぁ、気づいてなかったのか。君が発情したダイワスカーレットは種違いの姉だ。ちなみにキャプテントゥーレも親戚だよ』

『…………』

 

親戚だよ……親戚だよ……親戚だよ……

な、何も見えない……な、何も感じない……

何が起こった……何を言ってるんだコイツは……

 

『おーい、大丈夫かい』

『……ハッ!?』

『困ったねぇ、ところでさっきの話だけど』

『確かに!言われてみれば、ケツがデカい!』

『何を言ってるんだ?というか、聞く気ない?』

 

いやいや、聞く気はある。

ちょっと衝撃的すぎただけだ。

でも、そうだよな。

腹違いとか種違いの親戚だらけだよな、馬の世界ってさ。

いや、これが当たり前なのか?うん、なんか違和感があるけど。

 

『君の言う現象はゾーン、悟り、オーラ、と呼ばれるものだよ』

『なんだよそれ』

『極限の集中、もしくは雑念のない状態、または興奮状態だと僕は思ってるけどねぇ』

『そんな言葉で……』

 

そんな言葉で、説明できるものなのか。

じゃあ、俺は気合や集中しているのを見て、変な幻覚が見えていたってことになる。

それにしては、リアル過ぎるだろ。

 

『まぁ、本当は良く分からないんだけどねぇ……』

『おい!』

『でも答えを知るのに、言葉はいらない』

 

そう言って、ディープスカイは首を横に向ける。

向けた先、そこにいるのはドリームジャーニーだ。

 

『騎手くんが違うからかなぁ、今の君は怖くないよ。恐いとしたら』

『よォ……そんな雑魚じゃなくて、俺と殺ろうぜェ……』

『彼の方かな』

 

睨みつけるドリームジャーニー、それを受けて立つディープスカイ。

そこに俺の居場所はない。

眼中にないのである。

 

 

 

 

 

 

【阪神競馬場は春の光が溢れています。第53回の産経大阪杯、去年のダービー馬。今年も始動ですが、意外なことに4番人気です】

 

 

返し馬が終わり、レースが始まろうとしている。

ゲートへと向かい、後は走るだけ。

だが、ここに来て、俺はまだ迷っている。

本当に、俺は勝ちたいのか?どうして、俺は走ってるんだっけか。

 

 

【G1馬が揃いました。解説は小坪元雄さんです。1番人気は1.7倍と売れてるんですが、三冠馬のメジロレクサスは11.5倍となっています】

【えぇ、やっぱりこういったね花のある馬が稼働し始めると競馬だなぁと思いますね】

【そうですねぇ……サラブレッドがあの、本当にもう、綺麗に見える季節になりましたねぇ】

【本当にね】

【小坪さんディープスカイが本命ですが、中々ねぇ……面白いレースですよね】

【あのぉ……前半レース、展開がね。ちょっとだけ鍵を握るかもしれないですかね。ヴィクトリーに対してメジロレクサスという馬が前で競馬出来るだろうか、出来ないようですとかなりヴィクトリーペースになるのかなと、少し展開の乱れがあるのかなと思いますけど、ディープスカイは59は背負ってますから、やはりある程度行かないとね、厳しい流れになると思いますよ】

【そうですねぇ】

【あの、マツリダゴッホが内枠を引いて、昨日のちょっと雨が降ったんでね。思ったより時計のかかる馬場状態になってますね】

【力がいりますねぇ。スタート地点、良原アナウンサーです】

 

 

馬が順番にゲートに入っていく。

先行か差しか、どう走らせようとしてくるのか。

だが、俺としては差しで走りたい。

 

 

【その馬場状態なんですが、ジョッキーに聞きましても外からの差しも決まってるんですけど、内が特に悪いということはなさそうですね。ちょっと力のいる馬場状態とのことです。ゲートイン順調で、残りは後1頭です】

【最後に12番のサザンツイスターのゲートインです】

 

『もう、走りたくねぇ!』

 

最後の1頭が入ってくる音がする。

外枠、一番外側の馬だ。

走りたくないか、じゃあ何で俺らは走ってるんだろうな。

 

【安田記念へ、あるいはもしかしたら天皇賞へ、ディープスカイは秋の凱旋門賞へ、夢が広がります。12頭の態勢完了――】

 

眼の前のゲートが、合図ともに開け放たれる。

同時に、俺も地面を蹴った。

 

『ヤバッ!?』

『ッ!』

 

俺の右隣から、慌てる声がした。

同時に一度入った鞭、気を取られるなと言っているかのようだ。

事実、俺は痛みにハッとして前に出た。

 

【――スタートしました。アグネストレジャー、あれ、ちょっとタイミング合わないか。さぁ、内の方からマツリダゴッホ、弾かれたようにヴィクトリーでございます。その外へ、マストビートゥルー2番手、メジロレクサスは行かない3番手、内からアドマイヤフジでございます。メジロレクサスの後ろに、外に、ディープスカイが付けている】

 

前を向いて走る。

右には並ぶように走る奴ら、左には遅れていく奴ら。

どうやら後ろに付けようという考えらしい。

 

『うおぉぉぉぉ!』

 

内側にいる馬達に動きがあった。

真ん中の奴が加速して、それに釣られて他の馬達も加速していく。

だが、このまま下がっていけば好スタートからの差しが出来る。

位置的には4番手、このまま走らせて貰うか。

 

『メジロレクサス、今日こそ俺が!俺が勝つ!』

『えっ?』

 

俺の真横、最内からマツリダゴッホの奴が走っていく。

こんな序盤で加速するだと、馬鹿か!

 

 

【あぁ、ちょっと内の方で掛かり気味か1番のマツリダゴッホ!ちょっと苦労している、この一番白い帽子がマツリダゴッホであります。その後ろにサンライズマックス、外を通るピンクの帽子がディープスカイ59kgであります】

 

 

『レースに集中したまえよ!』

『くっ!』

 

上がってきたのはマツリダゴッホだけじゃない。

俺の左後ろから、その威圧的な体格を詰め寄るようにディープスカイが来たからだ。

最初のコーナー、そこへ先頭集団から離れた場所で、内からマツリダゴッホ、メジロレクサス、ディープスカイの順に曲がることになった。

 

 

【さぁ、1コーナーから2コーナーへ、朦朧と煙るこの六甲の山並みを背景に先頭は5番のヴィクトリーでございます。3馬身から4馬身、5馬身のリード】

 

 

直線に入った。

ようやく先頭が見えてくる。

先頭集団は少し下がって、圧倒的先に1頭だけポツンと走っている。

真ん中を走っていた馬だ。

必死に、ひたすらに、真っ直ぐ走っていた。

スタミナが持つのか、持たないのか、そういう揺さぶりとかじゃない。

他の馬を揺さぶる作戦とかじゃなく、がむしゃらに走ってるのが分かる。

 

 

【2番手にアドマイヤフジが続く、3番手にマストビートゥルーです。その後ろ、ようやく折り合いが付いたのかマツリダゴッホ。それからメジロレクサスがいる、その外にディープスカイ59kg、内に3番のサンライズマックス、さぁそれからドリームジャーニーがいました。ダイシングロウです。このあたりが後方集団です。さぁ、桜並木の下、カワカミプリンセスは後ろから3頭目、サザンツイスターがいて、殿からアグネストレジャーであります!あとゴールまで800mです】

 

 

『まだまだぁぁぁぁ!』

『垂れてきてるぜ!』

『もう終わりだ!』

 

 

【先頭はヴィクトリー、3馬身のリード。2番手でありますが依然としてアドマイヤフジ!アドマイヤフジ2番手、マストビートゥルー3番手】

 

 

走っても、走っても、前を行くマツリダゴッホとの差は縮まない。

序盤に加速したのに、スタミナが持っているのか!

 

『ハァハァ……』

 

いや、限界だ!奴の息遣いが如実にそれを物語っている。

 

『さぁ、行こうか!勝つのは――』

『――させる訳、ねぇだろうがァ!』

 

上がってくる、そんなディープスカイの横をアイツが来た!

ディープスカイの足元から先に、荒れた荒野のような物が見える。

それは錯覚だと分かっている、分かっているが、これが集中や興奮で出来上がった物だとでも言うのか。

 

『――僕達だ!』

『んだと、テメェ!』

 

だが、そんな荒野を一步!

二歩、三歩、とディープスカイが踏みつけて、加速していく。

邪魔をしてきた、だからどうしたと言わんばかりに先を行く。

 

 

【その後ろ内々を通るマツリダゴッホ、その外にディープスカイ、その後ろにメジロレクサス、それから追い込みのドリームジャーニーとサンライズマックスが差を詰める】

 

 

最後のコーナーだ。

もう、先頭の奴は垂れ下がって追いついた。

先頭集団は抜こうとしている。

だが、それよりも、俺の横を走る奴らから目を離せない。

 

『…………』

『クソがァァァ!』

 

その馬体から、半透明の何かを纏ったディープスカイ。

そして、後ろから荒野を駆けていくドリームジャーニー。

芝が、ドリームジャーニーが進むたびに荒野に変わる。

だが、それは錯覚のはずだ。

これが、俺を見ていた追いかける奴らの見ていた景色。

 

『おい!』

『あぁ……えっ?』

『諦めんのかよ!俺は、嫌だぜ!』

 

話し掛けてきたのは、マツリダゴッホだった。

その顔は、苦悶に満ちている。

もう、限界だろ。

俺だって苦しいんだ、なのにお前はまだ走るのか?

 

 

【さぁ第4コーナーで、ヴィクトリーは余裕がなくなってきたか!カワカミプリンセスはまだ後ろから3頭目、先頭にアドマイヤフジが変わる。】

 

 

『うおぉぉぉぉぉ!』

 

 

【内をすくったマツリダゴッホ!内からマツリダゴッホ!外から堂々とディープスカイ59kg!更にドリームジャーニー!】

 

 

『く、クソ……』

『やっと、先頭に、なれたんだ!』

 

真ん中を走っていた奴が垂れる。

それを追っていた先頭集団の奴が必死に逃げる。

それを追うのはマツリダゴッホだ。

アイツの気迫が、他を圧倒している。

 

『邪魔だ雑魚ども、俺の前を走るんじゃねェ!』

 

来た、ディープスカイとドリームジャーニー!

アイツらが、外から上がって、俺の真横に走ってる。

どんどん奴らの背が離れていく。

マツリダゴッホ、ディープスカイ、ドリームジャーニー。

全員が一度此方を見て、そしてすぐに前を向く。

 

 

 

……畜生。

 

 

 

 

……レースに出て、勝つ。

 

 

 

 

 

……走りたいように走れるだけで奇跡なのに。

 

 

 

 

 

『もっと』

 

 

……死にたくないから走った。

……走りたくても走れなかった。

……勝ちたくて仕方なかった。

……負けたくないと思ってしまった。

……ここまで来た、三冠馬になれた。

 

なんで走る?何のために走ってる?俺が戦うべきやつは誰だ?

 

 

『苦しいじゃねぇよ……』

 

 

そんなの当たり前だ。

誰だって苦しいし、キツイに決まってる。

 

 

『キツイじゃねぇよ!』

 

 

そんなことで、走らない理由にはならないだろうが!

そうだ、俺が戦うべきなのは誰でもない!

 

 

『立ち止まれるか!』

 

 

俺自身だ!

だって、俺は……

 

 

『勝つためにここに来た!』

 

 

『ッ!?』

『何ィ!?』

 

 

世界が真っ黒になる。

見えるのは真っ白な、止まった他の馬達。

俺だけがカラーの、そんな世界。

ただ、走れば良い、走るだけでいい。

なるほど、音も色もない、必要な情報は地面と他の馬の位置だけ。

走ることだけ考えれば良い、雑念のない世界。

そうか、これがゾーン、あるいは悟りって奴か。

 

 

【あっ、メジロレクサス!メジロレクサスが上がってきた!マツリダゴッホ、アドマイヤフジの間からやって来た!】

 

 

2頭の馬の間をすり抜けるように駆けていく。

スロモーションの世界で、走っていく。

 

 

【ここでドリームジャーニー追い込んできた!先頭がドリームジャーニーに変わった!】

 

 

ドリームジャーニー、ディープスカイ、奴らのそばまで駆けていく。

残り2頭、その差は鼻先だけだ。

 

 

【ディープスカイ粘る!ディープスカイ、ディープスカイ!メジロレクサス!ドリームジャーニー!】

 

 

抜いた。

ドリームジャーニーと俺が前に出る。

首先の差で、ディープスカイを抜いていく。

 

 

『引っ込んでろ!』

 

 

モノクロ世界にヒビ割れが走る。

ドリームジャーニーの周りだけ荒野が展開する。

そうか、お前の集中状態を俺がイメージとして認識しているのか。

互いの集中力、気迫、それがヴィジョンとして見えている。

この状態になって、ようやく分かった。

これを知らないやつには理解できない世界か。

 

『勝負だ、ドリームジャーニー!』

『黙ってろ、舐めプ野郎が!』

 

ここに来て、もう1段の加速をドリームジャーニーがする。

それを併走するように俺も足の速度を上げる。

鞭は入っている、だがそんなものは気にならない。

今はただ、走れば良い。

 

『…………!』

『…………!』

 

 

【ディープスカイ3番手か!ドリームジャーニー、メジロレクサス、ドリームジャーニー!ドリームジャーニー!ゴールイン!1番手接戦!その後ディープスカイか。アドマイヤフジか、外からダイシングロウかカワカミプリンセス。1分59秒7、上がり3ハロンは34秒8!1着と2着は写真判定です】

 

 

『……ハァ!ハァハァ……』

『ッ!……ハァハァ……』

 

心臓が、うるさいくらいに鳴り響く。

肺が、痛いくらいにズキズキする。

足が、熱いくらい痛くて重い。

全身への疲労感が、普通の比じゃない。

 

『悪いが……』

『えっ……』

 

 

【1着争いは外から!ドリームジャーニー!メジロレクサスを捉えてゴールイン!足を伸ばしたのがドリームジャーニーでした!】

 

 

『俺様の勝ちだ!』

『……クソ』

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