六度目の角を曲がる。
踏みしめた芝の青臭さも、植物特有の何かを燻したようなきな臭さも感じた。
高みから降り注ぐ光が曲がり角の先を照らしており、木陰の暗闇から一歩一歩と踏み出す。
世界が変わる。
何とも言えない力強い何かが身体を包み、照らされた大地を切り取るような一枚絵が出来上がる。
一枚絵の中には数多の馬が居て、躍動する身体を維持したまま奇妙なことに静止している。
そんな一枚絵の周囲には星空が浮かび上がり、一枚絵の前で佇む。
真っ暗闇の中で、鮮明に描かれた一枚絵。
それは視界いっぱいに広がっていて、首を横に向けてようやく額縁が見えるほどに大きい。
そんな一枚絵に、どこからか飛んできたインクが当たる。
黒いインクが滲むように広がり、それは次第に馬になって一枚絵に追加される。
馬群の中、1頭の黒い馬が描かれたのだ。
瞬間、一枚絵の馬達がゆっくりとだが静止した身体を動かしていく。
静寂に包まれた真っ暗闇の空間に、頭上から音が降ってきた。
それは歓声にも悲鳴にも似た聞き慣れた何か、振動とも波とも言えるそれが世界に響き渡る。
『見えた』
先行する馬達が、徐々に溶けるように輪郭を失う。
残るのは陽炎のように揺らめく不定形の光る何か。
それは大小様々で、より前に行くそれほど光強く揺らめいている。
だが、揺らめきが強ければ強いほどそれは小さくなっていく。
小さくなればなるほどに眩しいそれは、まるで暗闇に灯る蝋燭の炎のようでもある。
そんな、光の横を漆黒の影が駆けていく。
外から、まっすぐに、一点に向けて。
それは誰にも邪魔されない道順、無駄を削ぎ落とした動きをする影は、馬の形をしていた。
あれが、あれこそが理想の走りなんだと直感する。
影が、薄らぐ。
薄らいで、揺らぐ。
それは、隣の光源に影響を受けたからだ。
光が強くなれば、その分だけ影は濃くなり、揺らぐことなく足元から伸びていくのだ。
『もっとだ!もっとだ!』
『俺が勝利だ!勝利こそが俺だ!』
『俺こそが、ボスだ!トップは誰にも譲らねぇ!』
競うように、より他の光源は力強く燃えていく。
どんどん小さくしながらも光を強くしている。
より照らされる世界で、足元から伸びる影だけが対比するように濃くなっていた。
『…………』
他の光のように、何かを叫んだりはしない。
ただ、そうただ、あの影を追いかけるだけだ。
あの影を追いかけ、そして追い抜くことさえ出来れば良い。
先行する影が、今度は暗闇の世界へと突入した。
何かの影で薄暗くなった芝の大地、その上へと進出したのだ。
不思議なことに、暗闇の中でなおも、それは真っ黒であった。
それが、光を追い越していく。
『ぐっ!くそぉぉぉ』
『うおぉぉぉぉ!』
遅れて、影のように横並びに自分の身体が他の光を追い越していく。
だが、それでも、まだ追い付けない。
終わる瞬間まで、それには気付けない。
一度しか抜くことの出来ない影。
もし、次があるとすればもう分かる。
自分が何かを燃やして輝く限り、影はずっと先を行き続ける。
もし影を追い抜くことが出来るとしたらそれは、自らの輝きをなくしたときだけだと。
自分の全てを燃やし尽くせば、そんな簡単なことに気付くまで、随分と掛かってしまった。
焦がすような燻りを胸の奥に感じる。
多くの視線が集まっている、誰もが勝利を願っている。
この気持は、焦りだ。
遥か遠くへと走る馬、その差は圧倒的だ。
ただ悠然と、1頭だけが先を行く。
いつか差が縮まる、それは分かっていても、それは何時なのかという不安に押し潰されそうになる。
普段ならもっと後方に位置するはずが、いつの間にか前にいるのはその焦燥のせいだ。
真っ直ぐ、堂々とした蹄跡がいくつも残る道を沿うように走っていく。
最後のコーナー、そこで追うように駆けていく。
大勢の前でも、本番でも、調教のような走りさえ出来れば。
だが、どこかで、もう間に合わないかもと思ってしまう。
『くそっ!』
心臓の音は、まだうるさい。
正直、調教のような走りが出来ている気がしない。
でも、それでも、私のことを信じている人のために走らなくてはならない。
『ハァハァ……』
前を行く馬達、その煌めき近付けば近付くほど、影に呑まれる。
圧倒される、その輝きに踏み込む足が重くなっていく。
届きそうになるほど、不安な気持ちが強くなる。
あんな風に、自分も輝けるのかと。
自分でも走っているつもりだ。
なのに、他の馬はどんどん加速していく。
自分より外側を、自分より距離を走っているはずなのに、どんどんと離れていく。
まるで置いてくかのように走っていく。
鼓動は変に速く、手足も自分の物じゃないように感じられる。
当たり前のように最後の直線で伸びる他の馬のように走ることが出来ていない。
その差がどんどん開いていく。
どうして、前に、足が進まない。
『はぁぁぁぁぁ!』
青いバラが散っていく光景が見える。
遥か先でさっきまで横並びだった馬達が鎬を削っているのが見える。
手の届かない、そんな場所で先頭を奪い合っているのだ。
そして、1頭が他の馬を抜いて走り去っていく。
『あっ……』
そんな先で、また新たな輝きが世界を包む。
それは雪景色だ。
でも、その馬が駆けた瞬間に広がるように花畑が出来上がっていた。
まるで、私達の不安を晴らすように、降り積もった雪が春風に溶かされていくように。
『ブライト……』
まだ、諦めてないんだ。
貴方は、過去の栄光も重圧も跳ね除けて走り続けるつもりなのか。
走り続ける、先頭は変わらない。
それでも走っていた。
その視線の先は他の馬ではない、ただ前へと、ゴールより遥か先の景色へと向いていた。
もっと早く気付いていれば良かったのだ。
自分が見るべき場所は、他の馬ではなく遥か彼方であるゴールより先だと。
もし次があるとすれば、その場所だけを目移りせずに目指したほうが良いのだ。
暗闇の先で、光が見えた。
そこに佇むニ頭の馬が俺を待っている。
その先に何があるのか、俺にはわからない。
分からないが、そこに向かうことは強くなれる気はする。
だから、そこに向かって走った。
藁が擦れる音がする。
あぁ、そうだ、ここは馬房の中だった。
ぐるぐるする何かを終えて、俺は休んでたんだった。
また負けた、あと少しで負けた。
だが、もう負けない。
勝つ方法を覚えたからだ。
「おはよう、レクサス。今日は寝坊してないな」
『……うん?』
首筋を撫でられる。
どうやら餌か走る時間らしい。
もうそんな時間か、なんだか身体が軽い気がする。
「なんか体調良さそうだな」
『うまい、うまい』
「うーん、こんなデカかったか?あれ?」
果物を与えられて、口の中が甘くなる。
うーん、頑張ったらまたこれが貰えそうでやる気が出る。
次こそ、勝つぞ。
ふと、なんとなしに背後を見た。
そう言えば、自分の姿を見てなかったことを思い出したからだ。
【メジロレクサス】
【調子】絶好調
【体力】120/120
【ステータス】スピード:S スタミナ:A パワー:A 根性:B 賢さ:B
【バ場適性】芝:S ダート:G
【距離適性】短距離:D マイル:B 中距離:S 長距離:A
【脚質適性】逃げ:D 先行:B 差し:S 追込:D
【スキル】
・アナタヲ・オイカケテ
レース後半に中団から 速度をちょっとずつ上げ前方のウマ娘を ほんのちょっと委縮させる
・彼方、その先へ
落ち着いたまま、中盤の仕掛けどころまたは終盤の勝負どころのコーナーを中団で進むと奮い立ちわずかに加速力が上がる
・差しコーナー○
コーナーで速度がわずかに上がる<作戦・差し>
・差し直線○
直線で速度がわずかに上がる<作戦・差し>
・スタミナグリード
レース中盤で後ろの方にいると前方の持久力をわずかに奪う<長距離>
・位置取り押し上げ
レース中盤で速度がわずかに上がる<作戦・差し>
・八方にらみ
レース終盤に他のウマ娘が動揺する<作戦・差し>
・差し切り体勢
レース終盤で加速力がわずかに上がる<作戦・差し>
・臨機応変
レース終盤にコース取りが少しうまくなる
【スキルPt(90)】
・全身全霊 340pt
ラストスパートで速度が上がる
・末脚 170pt
ラストスパートで速度がわずかに上がる
・尻尾の滝登り 180pt
レース中盤にスキルを多く発動すると速度が上がる
・尻尾上がり 100pt
レース中盤にスキルを多く発動すると速度がわずかに上がる
・乗り換え上手 180pt
レース終盤で加速力が上がる<作戦・差し>
・直線加速 170pt
直線で加速力がわずかに上がる
・アガってきた! 340pt
レース中盤に追い抜くと速度が上がる
・ペースアップ 170pt
レース中盤に追い抜くと速度がわずかに上がる
・差しコーナー◎ 140pt
コーナーで速度がわずかに上がる<作戦・差し>
・差し直線◎ 140pt
直線で速度がわずかに上がる<作戦・差し>
・迅速果断 180pt
レース中盤で速度が上がる<作戦・差し>
『なんだっけ?』
良く分からないけど、飼い葉が美味い。
おっ、調教するのか?おし、行くか!
次こそ勝つぞ、勝って……勝って、うまびょいするぞ!
……うまぴょい?
「よーし、放牧行くぞ」
『あっ、そうだった』
「おっ、珍しく素直だな。よしよし、次も頑張れよ」
『おっしゃ、走るぞー!』
難しいことは分からない。
分からないが、コイツとかテキとかヤネとかのために勝つんだ。
今度こそ、アイツには負けねぇ!負けっぱなしは悔しいからな!