俺はただうまぴょいしたかっただけなんだ   作:nyasu

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傷口に塩を塗るようなことをするなんて、それが貴様らのやり方かぁ!

それは、酷い奴らの行いであった。

何も見えない真っ暗闇の中、俺は身体中を固定されていた。

何やら訳の分からん言葉を話す人間が、俺に何かしようとしてるのだ。

特にあの白いのは許さねぇ!絶対に絶対にだ!なんか、震えと怒りが見たら湧いてきたからな!

 

『がぁぁぁぁぁ!?』

 

熱い!熱い熱い熱い!腰が、俺の背中に何かが噛み付いてる!

違う、噛み付いてるんじゃねぇ!ぐじゅぐじゅとした音をたてながら何かが入って来ようと皮膚を突き破ったんだ!

真っ暗闇だったはずの視界は真っ白にチカチカと点滅する。

口の中にある何かを無意識に噛み締めるが、息つく暇もなく痛みが来る!

何度も何度も、終わりの見えない痛みが連続でやってくる!

 

『離せ!俺のそばに近寄るなぁぁぁぁ!』

 

身動きは取れない。

何をしていやがる、まさか馬肉にするつもりか!

いっそ殺せ!一息で殺せ!クソが、拷問しやがって!

許さんぞ、この人間どもがぁぁぁ!

またか!またなのか!やはり、白いのが原因か!

 

『ぐあぁぁぁぁ!?』

 

何回だ?何時間たった?終わらない、終わらないんだよ!暗いのやだぁぁぁ!誰か押さえてるけど、それはそれとして暴れるでしょ!

クソがァァァァァ!覚えてろ白いの、ブッ殺してやる!

 

『許さんぞ、絶対にぃぃぃ!んなぁぁぁぁ!?』

 

地獄のような時間が終わった頃には、俺は全身に疲労感を感じていた。

 

 

 

ここは馬畜生が落ちる地獄だ。

粗雑な馬房の中で、あれこれ触りまくる人間。

 

「これが傷に塩を塗るか」

『イノウエ!助けて、コイツらが……』

「早くコズミ治すんだぞ……」

 

お、おい!嘘だよな、イノウエ!何だそれ、何を持ってやがる!で、でかい!彫刻刀!?まさか、それを刺してたのか!あっ、おい!何を笑って……う、裏切ったのか?俺を、裏切ったのか!

 

『ギャァァァ!?ヒリヒリする、いやズキズキする!』

「痛そう……ほんとに効果あるのかな」

「効いてる証拠だ、続けろ」

 

ビターンと何かを傷口に塗ったりしてくる。

頭が割れそうだ、全身が熱い!

 

『フゥゥゥゥゥ……』

 

呼吸だ、呼吸を整えろ!

なんか痛みが和らぐ気がする。

お、思い込みで痛くなくなるんじゃないか!?

天才か、俺!波紋の呼吸だ!もしくは全集中の呼吸だ!

俺は何を言ってるんだ?念?覇気?チャクラ?な、なんか知らない記憶がいっぱい出てくる!

ろ、ろくな記憶がないな!なんで紙なんか見てるんだ!

それは10センチからなる長い針と言うには巨大な太さ彫刻刀程度の物を言い、それを刺したあとに傷口に塩を塗る行為である。

何の話!?あれ、なんなん!

黒い血を抜く行為は瀉血から構想を経ているが、みんな大好き中世ヨーロッパくらいに流行った間違った治療方法で、懐疑的である。

なろうで廃止するのが転生者あるある。

魅力アップかレースで勝てる秘孔がオススメだぞ。

 

『だから、なんの話!?なにこれ!?』

 

なんか人間の女にビンタされてから母親に蹴られかけて、仲間外れにされたり乗ってるやつを叩き落としたり、蹴ろうとしたり、温泉入ったりフルーツ食べたり、変な記憶が流れた。

 

 

 

人の食い物じゃない草や雑穀を無理矢理に食べさせる。

終わったと思ったら無理矢理に連行されて野原に放り出される。

なんで、なんでこんなことするんだ。

俺が負けたからか?ちょっと先走ってしまったからか?

あの、ゲートはうまくいったもん!

悪くないもん、悪いのは邪魔した乗ってるやつだもん!

 

「よく頑張ったな……バナナだぞ」

 

フルーツだ、フルーツを出すんだ!

俺は桃か梨を所望する。

 

「おっ、レクサス。元気になったか?」

『イノウエェ!俺もぅ、ここやだよぉ~』

「やっぱり痛いだけだよなぁ……」

 

それは、不倶戴天の敵。

白いやつが、複数の部下を連れて歩いている。

野郎ブッコロシャァァァ!?

 

「やっぱり来た!ひえっ!」

「逃げろ!前より速いぞ!」

「囮を使おう!当然、先生が囮になる!」

「うわぁ、傷開いてるよ。執念がヤバイよ」

 

イノウエ!邪魔するな、どけ!

身体が痛てぇ、殺せない!

許せねぇ!あの白いの許せねぇんだ!

 

「バナナ!バナナあるよ!」

『バ……あむあむ、あれ!どこ行った!』

「今のうちだ、抜いだ白衣に気付かれる前に逃げるぞ」

 

どこ行った!知らない間に逃げやがった!

あっ!なんか平べったくなってる!

この野郎!こうしてやる!オラ!オラァ!

 

 

「滅茶苦茶、踏んづけてるよ」

「何してんだ、落ち着かせろ」

「素人は黙ってろ!近付いたら怪我するだろ」

「分かってるけど、狙われてんだよ!こっちは!」

 

白いのをボコボコにするのが日課になった。

もう白いのは息もしてない。

ヒラヒラして、泥だらけだ。

こないだ人間が助けに来ようとしたら真ん中から千切れたくらいだ。

俺が噛み付いて放さなかったからな!

今じゃ藁の中で寝床になってる、勝ったな!

 

「今日は杏だぞー、今が旬なんだって」

 

最近は何でかフルーツを人間がくれる。

たまに散歩はするが、基本は寝てればいいし楽だ。

なんか警戒しなくても俺は偉いから人間が守るし、ずっと寝てても問題ないのは思い出した。

もうここ最近ずっと調教してないけど、俺は引退したのか?

 

「もう2ヶ月か、そろそろ本格的に調教しますか藤井さん」

「回復力がすごいとはいえ、本調子じゃないだろ。宝塚は色々言われてるが見送るか……まぁ、まだ様子見だな」

「あー、じゃあ軽くしときます?」

「放牧じゃ元気だったからな、馬なりで軽くな」

 

とか思ってたら、なんか走らされるんですけど……

あれ、ここいつもの場所じゃないよ、どこー?

見覚えはある……妙だな?

 

「併せ馬やってみるか」

「了解です!」

 

まだ走んの?うわ、他の馬いる。

 

『お、お疲れ様でーす!』

『よろしくおなしゃーす!』

『あっ、はい』

 

えっ?走るの?一緒に走るの?

あれか、レース前の練習のやつ!はいはいはい!

なんか、コイツらビビってね?

 

『っべーよ、傷だらけだよ』

『なんか、他の馬とやりあったらしいぞ』

『マジかよ、不良じゃん。怖くね?』

 

あの、なんで距離取るの?

ねぇ、なんで?なんでよ?

 

「よし、軽く行くぞ」

「あっ」

『よし行くぞ!』

『待てって!置いてくな!』

 

なんか、俺をおいて走られた。

あっ、行く感じ?そうですか。

 

「よしよし、後ろから抜いてくぞ」

『走っちゃダメ、抑えて抑えて』

「うーん、本調子じゃないか?抜かないな」

『間隔をキープ、うーん出来てるのか?わからん』

 

その後ずっと走ってたが、終わったあとのイノウエはなんか元気なかった。

えー、なんか違った?わかんねー。

 

 

 

何回かの調教、イノウエのやりたいことが分かってきた。

先に行った馬を抜いてほしいことが判明、抜いたらフルーツ。

レクサス分かった!

オレ、オマエ、ヌク、フルーツ、マルカジリ!

 

『おりゃぁぁぁぁ!』

『っパネェ……レクサス神ィー!なぁ!なぁ!』

『神って?』

『っス!鬼ヤバっス!俺はえーっス』

『鬼って?』

 

わ、わからない!3歳馬の言葉が分かるけど理解できない!

これがジェネレーションギャップ!

ジェネレーションギャップってなんだ、それもわからない!

俺は差し馬だから速いのは当たり前なのに、差し馬ってなんだ?

なんか記憶が穴だらけで分かったり分からなかったり何なんだ。

忘れてるのか……何を忘れてるんだ?

 

「どうですか、調子は?」

「最近はだいぶ良くなってきました。本格的な調教も出来るし、宝塚も行けるって」

「そうですか、後は俺次第ですね」

 

あっ、ヤネ……タケ……どっちだっけ?

コイツがいるってことは近いうちにレースがあるってことだ。

いつも振り落としてるのに、また乗るっていうのか。

 

「今度こそ一着になりますよ」

『あれ……落したことあったけ?』

「今度こそ、実力を引き出して……」

『なんか……もにょるなぁ……』

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