俺はただうまぴょいしたかっただけなんだ   作:nyasu

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最後の最後に頼れるモノ

ゲートの中、いつだって緊張感が俺を包む。

コレが開けばもう始まってしまう。

止まることなく走り続ける、レースという戦いが始まる。

今か今かと他の馬達もソワソワしているのが、肌で分かる。

そうだよなぁ、お前らも走りたいよな。

ここにいる奴らはゲートも慣れてるような上澄みの強い奴らだ、恐いとビビってる奴なんていない。

レースが始まる。

 

今……ゲートが開く。

 

『よし、行くぞ!』

 

駆ける、スタートは好調だ。

芝と、どこまでも続く空が見える。

左には観客席が見え、ヒトが雄叫びを上げている。

右側にいた奴らが、左側に居た奴らがぐんぐん前に進んでいく。

俺よりも速く、序盤でありながら飛ばし気味だ。

少し早いと思ってしまうが、ポジションの確保のために序盤で速度を出してるなら後半の有利のために必要な経費みたいなもんだろ。

 

【スタートしました。キレイなスタートを切りましたが、ドリームジャーニーはそっと後方からの追走になります。先行争い、スクリーンヒーローが押して飛び出しました】

 

『うおぉぉぉぉぉ!』

『待て!先頭は俺の物だ!』

 

左後方から大きな声を上げて、奴が来た。

スクリーンヒーローの奴が、いつものように先頭目指して走っていた。

そしてそれを後ろから追いかける馬が一頭、先行を取りに行ったか。

 

【スクリーンヒーローまず先頭に立っていきます、これを追ってコスモバルクが並んで行って二番手】

 

内ラチ沿い、先に走っていた奴らの前に出る2頭。

後から合流するように、他の馬達が真ん中から、左奥から、内側に移動して一直線へと近づいていく。

膨らんだそれは、レーンに沿うように収束していくのだ。

そんな全体が見える後方、そこに俺はいた。

俺の前をディープスカイとドリームジャーニーが走っている。

ドリームジャーニーの視線の先は、ディープスカイだ。

アイツらは今の時点で中団をキープするつもりか、差しで走るみたいんだな。

勝負は、ラストって訳だ。

 

【その後カンパニー、アドマイヤフジ、スタンド前を通って行きます。インコース5番手インティライミ、サクラメガワンダー、そして中団外にディープスカイ、大歓声の前を通過、アルナスラインその内さらに内マイネルキッツ、そしてドリームジャーニー中団後ろにつけていきます。その後3馬身空いてモンテクリスエス、エリモエクスパイア、メジロレクサス、最後方ヒラボクロイアル】

 

最初のコーナーを曲がっていく。

チラリと右側を見れば先頭は……いつの間にかコスモバルクが取っていた。

こっからでも分かるくらい距離が空いている。

順位は変わらずコーナーを曲がり切り、直線へ。

 

【今1コーナーカーブを曲がっていきましたがコスモバルクが先手を取ってリード5馬身、6馬身と広げて2コーナーカーブ、スクリーンヒーローはポツンと2番手に来ました。1馬身半差、今日は先行策で行きますカンパニー3番手、アドマイヤフジ4番手向正面に入ります。その2馬身後ろにインティライミ、サクラメガワンダー、更に外からディープスカイ、今先頭までは12、3馬身です】

 

逃げも、大逃げ。

コスモバルクが、スクリーンヒーローから勝ち取った先頭で大きなリードを稼いでいる。

だが、それはやはり無茶だ。

その証拠に、直線に入ってからコスモバルクが失速している。

俺達は加速していないのに、差が少しずつ縮まってきた。

終盤までスタミナが持たないと見ていいだろう。

だが、しかし、本当にそうだろうか。

本当に持たないか、不安が徐々に大きくなる。

ここでペースを乱してはいけないが、焦りは生まれる。

 

【その後ろにアルナスライン、インコースマイネルキッツ、外ドリームジャーニー、ドリームジャーニー終始ディープスカイを見ています。その後ろエリモエクスパイア、あとはモンテクリスエス、そのあとメジロレクサス、2馬身空いて最後方ヒラボクロイアルです】

 

順位は変わらないまま、そのまま最後の曲線へと入っていく。

先頭は相変わらずコスモバルク、だがその距離は半分まで縮まって6馬身くらいか。

そろそろ、誰かが仕掛けるタイミング、鞭はまだない。

 

【各馬が3コーナーカーブに入りますが、逃げますコスモバルクのリードはまだ5馬身から6馬身です】

 

……来た!

 

『さぁ、勝負だ!』

 

【インティライミが、インティライミが行った、800を切ってインティライミが2番手にアガッてきました。その2馬身、3馬身空いたところにスクリーンヒーローが一旦3番手、カンパニー4番手、サクラメガワンダー外から並んできました】

 

初めに拗れを切らした馬が走る。

その後ろをスクリーンヒーロー、カンパニーと知ってる馬達が追いかける。

そして、もう一頭が追いかける。

全員がスパートを駆ける、最初から先頭を狙っていた奴らだ。

 

『行ける、この俺が勝つんだ!』

『させるか!もうリードはないぞコスモバルク!』

『ッ!?』

 

先頭と2番手の差がなくなる。

その後ろからは横並びに固まった3頭が迫る。

 

『まだだ!まだだぁぁぁ!』

『くっ、うおぉぉぉ!』

『行くぞぉぉぉ!』

 

見える。

最後のコーナー、横に詰まった馬群が見える。

後方からは先の動きまでが予想できる。

あのままカーブを曲がったなら、内ラチに沿って、コスモバルクを抜いた馬。

そして、コスモバルク、スクリーンヒーロー、カンパニーの3頭。

そこに追いつこうと内側や外側から迫る他の馬で壁が形成される。

抜けるには至難の業、つまり前が詰まる。

 

動くのは、無駄に位置取りしなくて済むコーナーを抜けて直線。

コースは外側から、直線距離ならロスは関係ない。

そして、体力と加速力の塩梅を見極めた奴が最後に勝つ、タイミングが勝負。

 

【アドマイヤフジ、マイネルキッツ、アルナスライン、外ディープスカイ、ディープスカイから先頭まで5馬身ぐらい馬群が詰まってきました、その2馬身後ろドリームジャーニー、追っ付けたディープスカイ!】

 

『届いた!さぁ、全員抜かせてもらうよ!』

 

来た!

ディープスカイが加速する、コーナーに入ってから加速していく。

外から、横並びになっていく先頭集団を悠々と抜こうとしているのが後ろから見える。

鞭が入った!だが、まだだと俺は思う。

だって、アイツがまだ動いてない。

 

【さぁ、第4コーナーカーブ、スクリーンヒーロー、インティライミ、カンパニー、そしてサクラメガワンダー直線に向かいました。その2馬身後ろ、やや外めアルナスライン】

 

先頭の横並びがズレてくる。

スタミナの差が、顕著に現れ始めた。

だが、それすらもディープスカイに写っているようには見えない。

だって、外から行くアイツに内側の争いは関係ないからだ。

 

『来るか!ドリームジャーニー!』

『――全員、俺様がブチ抜いてやらァ!』

 

来た!来た来た!

ディープスカイが首を前に最終加速へと入る、その瞬間。

狙っていたアイツが、加速する。

外側から抜こうとするディープスカイ、その真横から大外で差しに来たドリームジャーニー。

ここだ、今が勝負時だ!待たせたな、こっからが全速力だ!

 

【ディープスカイ、ドリームジャーニー、ディープスカイ――】

 

……届け!

 

【ドリームジャーニーが併せ馬で追い込んでくるが、ドリームジャーニーが先頭に変わるか――】

 

……届け!届け!

 

【200を切ってサクラメガワンダー、スクリーンヒーロー、カンパニー、外からドリームジャーニーが――】

 

……やっと、届いたぜ

 

【抜けた!あっ、猛烈に上がってくるメジロレクサス!坂の上りでドリームジャーニー、メジロレクサス!追いつけるかメジロレクサス!】

 

『負けるか、俺がブチ抜いてやる!』

『今更、遅せぇんだよ!勝つのは俺様だ!』

 

時間が止まる。

色が消え、音が消え、モノクロの大地とゴールが見える。

そして、ディープスカイとドリームジャーニーが俺の右側に居る。

3頭だけの世界、必要な情報以外を捨てた最低限の世界。

さぁ、勝負だ!

 

【横に並んだ!ディープスカイか!ドリームジャーニーか!メジロレクサスか!】

 

『ぐっ、うおぉぉぉぉ!』

『ッ、舐めんなぁぁぁ!』

『負、けるかぁぁぁぁ!』

 

 

【ドリームジャーニー届くか!メジロレクサスも凄い脚だ!3頭並んだ!並んだ!!】

 

心臓が、爆ぜる。

煩いくらいに鼓動する。

頭のテッペンから足先まで血が巡ってるのが解る。

一瞬でも気を抜けば、すぐ冷めちまうかのような危うさだ。

だが、今なら――

 

『――なんだって出来るはずだ!』

 

油断しない、全てを出し切る。

ディープスカイ、凄い健脚の持ち主だ。

ドリームジャーニー、自尊心の高さに見合った実力者だ。

けど、勝つのは俺だ!

 

『これで、俺が――』

 

燃やせ!執念で走りきれ!

勝てれば良い、この勝負に勝つんだ!

勝つために、何もかも出し切るんだ!

 

「……行くぞ」

『まだだぁぁぁ!』

 

空気が……変わ……ッ!?

 

【抜けた!!3頭から2頭になった!】

 

ドリームジャーニーが、頭一つ分だけ前に出る。

ここに来て、最後の最後に急激な加速!

 

【さぁ先頭は、ドリームジャーニーとメジロレクサス!先に駆け抜けるのはどちらだ!?】

 

 

まだだ!まだ抜かされてない!

 

 

『くっ!』

 

 

 

【メジロレクサスか!?】

 

 

 

『うおぉぉぉ!』

 

 

 

【ドリームジャーニーか!?】

 

 

 

 

ゴールは目の前に、ドリームジャーニーはぶつかるほどに真横に居る。

どちらが先で、どちらが後になるか、数センチの差しかない。

お互いに肉体が限界なのが見て取れる。

後は、精神の、意地の勝負。

 

 

 

『勝つのは俺だ!』

『勝つのは俺達だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【今ここに、ゴールイン!!ドリームジャーニー、ドリームジャーニー!2番手メジロレクサス!3番手はディープスカイかサクラメガワンダーか!スタンドに、指を突き刺した、ドリームジャーニー沼添謙一!】

 

徐々にスピードを落としていく。

心臓はゆっくりとだが、元の鼓動へと戻ろうとしている。

全身が、酸素を求めて、呼吸を荒くする。

冷たくなっていく身体、だが悔しさだけが内側で燃え滾っている。

 

『ハァハァ……』

 

俺が睨みつける先には、ゆっくりと歩くドリームジャーニーが居る。

 

『今度は……俺様の勝ちだァ!』

『ハァハァ……クソ!次は、俺が勝つ!』

『言ってろ、アホンダラ……』

 

次こそ、次のレースで勝ってみせる。

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