俺はただうまぴょいしたかっただけなんだ   作:nyasu

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ペガサス座の私にはセンチメタリズムな運命を感じられずにはいられない!

2007年 札幌2歳ステークス

東田裕一郎は勝利を確信していた。

最高の馬、最高の仕上がり、これで勝てないとは思えない。

所詮、競馬は馬の実力が一番だからだ。

 

誰もが俺を見てる。

正確には俺の乗っている馬だ。

若手の奴らに運がいいやつだ、俺も乗りたかったと嫉妬されるくらい、この馬は強い。

気性難だし、田舎のクソジジイとオッサンが調教下手なせいで普通ならキレてるような馬だ。

だが、落馬してでも乗ってるだけで大金が入ってくるのは美味しい。

 

競馬業界は、それこそ騎手は命がけの世界だ。

そこそこ稼いで引退するか、実績作って地方で乗り回してたほうが稼げるってもんだ。

その点、メジロの馬だからとわざわざ地方の零細牧場の誘いに乗ってやったら、当たりも当たり。

強い馬に乗れりゃ、騎手の実力なんて関係なく誰でも勝てるんだ。

 

係員に呼ばれ、パドックに向かう。

どうやらそろそろ騎乗の時間らしい。

ヒュー、有名な騎手がチラホラいるな。

まぁ、俺だって重賞くらいは勝ったことがある。

これから俺も有名になってやるからよ、せいぜい今日は踏み台になってもらおうか。

 

「今回も勝ったな」

「んんっ!」

 

いざパドックへという所で、水を差すように咳払いが隣から聞こえる。

横を見れば、先輩騎手が何か言いたげにしていた。

 

「なんか用ですか?」

「あまり、そういうことは言わないほうが良いかな。周りだって勝ちに来てるからね、いらぬトラブルを招くよ」

「フハッ、やっぱベテランは言うことが違いますね。でも、事実ですよ。俺の馬は最強だ」

 

あんな走り、たまにしか見たことない。

少なくとも10馬身以上なんて、俺は数回しか見たことない。

そんな馬だ、こんなチョロいレース、軽くやったって勝てる。

 

「俺だって同じ馬に乗ってたら負けない。ダービーだって勝てた」

「それは……正しいとは思わない。騎手にとって馬は大切だし、馬主との関係も大事だ。だが、馬との信頼関係が一番大事だ」

「綺麗事っすね。もうアンタ引っ込んでろよ、アンタの時代は終わったんだよ。俺は安全に出世したいんだよ。出世すりゃあ支給される金も多くなるからな。とりあえず俺はこのレース勝つぜ」

「悪いが、勝つのは俺とオリエンタルロックだ」

 

そう言って、先にパドックへと入っていく騎手に舌打ちする。

老害が、たまたま運が良かっただけで偉そうにしてやがる。

俺は確かに数年しかやってないが、同期の中じゃ一番の実力者だ。

長くいるんだから、そりゃ実績は俺より多いが、同じ時間騎手をやってたら俺のほうが上手くやる。

いいさ、見てろ。勝つのは俺だ、俺の馬は最強なんだ!

 

 

 

誘導馬の指示に従って、パドックに入る。

全頭のステータスをチェックするが強敵はいない。

だが気になる奴はいる。

なかなかの仕上がり、それに他の馬と違って落ち着いてやがる。

 

『疲れた、ここどこ』

『暇だなー』

『真っ直ぐ走って真っ直ぐ走る、真っ直ぐ走る』

『寒い、キッツ、寒い……』

『…………』

 

ただ、ソイツは歩いていた。

何を考えてるのか分からない、前だけ見て厩務員に引かれていた。

 

「おっ、どうした、レクサス?」

『あぁ』

「大丈夫か?馬体に問題ないはずだが」

 

立ち止まって居たら、おっちゃんが引っ張ってきて我に返る。

おっと、ぼーっとしてたな、レースだってのに。

だが、なんだか懐かしさを覚えて、少し気になったのだ。

 

『オリエンタルロック……』

 

初めて会ったはずなのに、どこかで会ったようなそんな気がする不思議な馬だった。

 

【オリエンタルロック】

 

【調子】絶好調

 

【体力】90/100

 

【ステータス】スピード:D スタミナ:E パワー:C 根性:F 賢さ:F

 

【バ場適性】芝:C ダート:C

 

【距離適性】短距離:D マイル:B 中距離:A 長距離:B

 

【脚質適性】逃げ:D 先行:C 差し:D 追込:D

 

【スキル】

・外差し準備 最終コーナーで外から追い抜くと速度がわずかに上がる<作戦・差し>

・差し切り体勢 レース終盤で加速力がわずかに上がる<作戦・差し>

・前列狙い レース終盤に少し前を目指す態勢をとる<ダート>

 

多分、どっかですれ違ったんだろ。

 

 

 

2007年9月29日 第42回札幌ステークス(G3)

芝右1800m / 天候 : 晴 / 芝 : 良 / 発走 : 15:30

 

【札幌競馬場、今日のメインレース!札幌ステークスG3 芝の1800m。出走は14頭です。グラーフ、ネオスピリッツ、ヤマニンキングリー、カレイジャスミン、マイネルスターリー、ピエナエイム、オリエンタルロック、メジロレクサス、ヤマカツオーキッド、サブジェクト、ホウザン、ウィントリガー、レディビィスティーの14頭、スタンド前のゲートには……メジロレクサスが立ち止まってますね。あっ、ようやく入ったようです】

 

目の前にあるのは細い鉄の柱、その間には鉄格子が開く形で付いている。

ゆっくり中に入れば、後ろで施錠するようにガシャンと嫌な開閉音が響く。

 

「今日も頼むぜ、相棒」

『うっざ、触んじゃねぇよ』

 

首筋をトントンと叩かれ、耳元で虫が飛んでる時みたいな衣擦れの音が気になって首を振る。

まぁいいさ、お前とは最後の日だ。

 

【……スタートです!】

 

おっしゃ、今じゃボケェェェェェ!

ボケェェェェェ!

 

【あぁっと!メジロレクサス、立ち上がった、メジロレクサス!8番メジロレクサス、出ない出ない!場内からどよめきぃぃ!メジロレクサスがゲートから一歩も動きません!】

 

「なんで!動け、動けよこのポンコツが!」

『痛っ!野郎ブッコロシャァァァ!』

 

クソが、ムチで叩きやがって!落ちろ、落ちろ!

 

【あぁっと!メジロレクサス、またしても暴れる!東田騎手、落馬です!さて、先頭からカレイジャスミン、1馬身離れて――】

 

落ちたな!よっしゃ、ほな帰るでー!

 

「おい、待てよ!おい!おーい!」

『なんか叫んでるの草。待てってか?ねぇ、どんな気持ち?今、どんな気持ち?』

「クソがぁぁぁ、おぉぉぉい!待てよ、クソがぁぁぁ!」

『フハハハ、馬に勝てるわけ無いだろ、走って追いつけるかよ!』

 

ムチを投げ捨てて、こっちに向かって走ってくるヤネ。

アホすぎワロタ、後少しのところで軽く走ってやる。

ほら、待ってやってるんだから来いよ。

 

「おちょくってんじゃねぇぞ、クソボケが!ドアホ、ブッ殺してやる!」

『すまねぇ、人間語はさっぱりなんだ。じゃーのー』

 

俺は賢いからな、地下道の位置も把握してるぜ。

ほな、俺帰るんでな。お前はクビだ、クビ。

 

「レクサス!何してんだ、おめぇ!」

『おっ、オッサン出迎えご苦労。ちゅかれたぁ』

「なんてことしてんだ、謝るの俺なんだぞ!」

『あー、なんか怒ってる感じ?ごめんって、すまんなぁ』

「馬体検査するぞ、怪我してねぇだろうな」

 

流石に怒られた、みたいな、分からんけど。

ワーワー言ってるし、目がガン開きだし怒ってると思う。

地団駄とか踏んでくれたら、ジェスチャーなら分かんけど。

 

「おい!どういうことだよ、佐藤!テメェ!」

「ひ、東田騎手!?」

『何だお前、まだいたのか』

 

さぁ、帰るってところで息を切らしたヤネが何か喚いてた。

これだから、DQNはよぉ……近寄らんとこ。

 

「恥かかせやがって!あぁぁぁぁぁ!」

「た、大変だ!逃げろ、レクサス!」

 

んだテメェ!その右手は何だ、やんのか?おぉん?

走る時はもっと腕ふれよ、オッサン邪魔だ!

頭を下げて、正面から思いっきり踏み込む。

オラァ、これが俺のタックルだぁ!

 

『人が馬に勝てる訳ねぇだろうが!』

「うげえっ!?」

 

ぶつかると同時に首を振り上げる、相手は飛ぶ!

ンンンン、キモヂィィィィィ!超エキサイティィィン!

 

「だ、大丈夫か!」

『おう、誰に喧嘩売ってんのか分かってんのか!将来のスターホース様やぞ!もう馬肉にもならん、将来有能馬やぞ!』

「て、テメェ!ヒィ!」

『立てよ!立てよオラァ!踏まれてぇのか、アホが!ムチの恨み!』

「落ち着け、落ち着けレクサス。守ってくれたんだよなぁ!なぁ!」

『腹減ってんだよ!泣いてんじゃねぇよ!蹴られたいのか、立てよオラァ!』

「もういい!もういいから!どうどう、落ち着け!誰か、誰かー!」

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