BLEACH The 3rd Phantom?何それ知らない。   作:九頭竜 胆平

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私は、そんなこと望んでなかったのに

私たち兄妹は、西流魂街76地区、風久利(かざくり)に生まれた。

そこの治安ははっきり言って最悪の一歩手前だった。窃盗に強姦、数は少ないが殺人まで行われるような場所。

兄は決して外には出るなと忠告していつも外に食料やきれいな水、石鹸、手ぬぐいや毛布、果ては花札などの娯楽用品まで持ってくることもあった。兄はいつも料理をつくり、桶にきれいな水を入れては上等な手ぬぐいで私の体を丁寧に洗ってくれて、自分はそのあとに私の垢が浮いた水とぼろきれで自分を拭くのだ。自分でやるからいいと拒否したこともあったが、兄らしいことは何もしてやれないのだからこれだけはさせてくれと頭を下げられては、私はうなずくほかなかった。兄らしいこととは何か知らなかったので了承した私であったが、あれは私の面倒を見るための方便であり、兄らしいどころか親のやるようなことまですべてやってくれたのだと知った時は申し訳なさで胸がいっぱいだった。

私は兄が大好きだった。いつも優しく面倒も見てくれて、勉学を教える教師にも、一緒に遊んでくれる友達にもなってくれる兄が大好きで大好きでしょうがなく、兄と一緒にいるときは引っ付き虫のようについて行った。そんな時、ふと私たちの家の周りは他よりも少し治安がいいことに気づいたので、そのことを兄に尋ねた。兄は優しく笑って、「お兄ちゃん頑張ったんだ。いつか俺がいなくても一人でこの辺を歩けるようにしてやるからな。」なんて言う物だから、私は寂しくなって兄に飛びつき、大泣きしながらずっと一緒だからそんなことしなくてもいいと背中で喚いた。身長はほとんど変わらず重かっただろうに兄は悪かったと言いながら、そのまま私をおぶり家に連れ帰ってくれた。

兄の授業はいつもわかりやすく、私はこの世の道理をすべて兄から教えてもらった。子供は弱い、女は弱い、孤独は弱い、外の世界は危なく、だから私は一人で外に出てはいけないのだと。

しかしやんちゃだった私は、兄のいない世界を見てみたくて、兄がものを持ってくる間に一人で家を出た。四半時(しはんとき)で帰り道が分からなくなり、半時(はんとき)で知らない場所に出て、一時(いっとき)で攫われた。

私が暴れるとそいつは手を上げて、殴らないと私に言ってきた。怖かったので相手に従って黙って震えていると、その男は私の着物をすべてはぎ取ったうえ、太い麻縄で複雑に私の体を固定し始めた。どうやら私を攫ったのは人身売買をしているような奴ではなく、ただの幼女趣味(ロリコン)だったようで、私を犯すのが目的だったらしく、この後どうされるのかわからない私は恐怖で泣き出してしまった。そいつは私が泣き出すのを見ると顔を見にくくゆがめ笑っていた。恐怖に耐え切れなくなった子供を犯して泣き叫ぶこともできなくなるほど心を壊すのがいいと語ってきた男が私には同じ人間には見えなかった。いよいよ死ぬかもしれないと思ったその時、その男が急にか細い呼吸音を出しながら苦しみ始めた。見ると男の後ろには兄がいて、その手の中にある鋭いガラス片のようなものから赤い水滴が滴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

この先はよく覚えていないが、拘束を解かれた私は兄に抱き着き死ぬほど泣いて疲れて眠った。

 

 

 

 

 

 

 

兄は私のために人を殺した。そんな後悔の念がじわじわと湧いてきて、罪悪感から逃れたいために兄に謝罪した。自分も奴への怒りはあれど後悔も申し訳なさもないし、奴はきっとあのままでも自分以外のやつに殺されていただろうから私のせいじゃない。と慰めてくれた。そんな優しい兄を人殺しにしてしまったんだと再認識した。

 

兄はかっこいい人だ。善人を助け、悪人をくじく正義の味方。

兄は情に厚い人だ。私の家の周りの治安を守っているのは兄に助けられた人たちであり、その人たちは兄を慕い、兄もまたみんなを愛していた。

 

兄に風久利の話を聞かされ、大人も子供も関係なく助け合っている自警団のことをしった。私とおんなじくらいの(かすみ)という女の子がいてそのことは特に親しくなった。霞はいつも父親が食べ物を持ってきてたらしいが、ある日藤丸が家に来て父親が死んだことを伝えてくれたらしく、落ち込んでる霞を設立したばっかりの自警団へ誘ったのだそう。なので霞は藤丸にもよくなついており、妹である私ともすごく意気投合した。

自警団は藤丸がすべて方針を固めており、時には狩りに出かけ、時には兄の指示のもと、いくつかの店の窃盗を防いだりした。時々ミスがあって店から商品を盗まれてしまうこともあったが、それでもいるといないとでは大違いだそうで、たくさんの報酬をもらっていた。家によく来るのも自警団の面々であったが、自警団にももちろんランクがあり、兄が王で、直属の部下が霞、その下に部隊長が6人、そして一部隊は4~7人で組まれており、それぞれ得意なことが分かれていた。

この役割分担や、部隊ごとにまとめるのもすべて兄が考案したそうで兄は天才なんだと思っていた。

しかし、兄は時々どこに行くのかわからなくなることがあり、それは霞も知らないといっていたので、気になって跡をつけた。

かくれんぼが得意だったからなのか、今までつけられたことがないからなのかはわからないが、驚くほどすんなりと兄の尾行はできた。そこまでの道には全く見覚えがなかったが、兄の目的地は今でもはっきりと覚えている、私が犯されかけた小屋だった。

ここは自警団の管轄外。どんな用事があるのかはわからないが、ここまで来たなら中の会話を聞きたい。そんな軽い気持ちで聞き耳を立てた私が聞いた話はひどくおぞましいものだった。

 

「藤丸さん。自警団はうまくいってますか?」

 

「当たり前だ。これからもう少し規模を拡大して動きたいから適当に人員を補充しようと思ってる。い点、は点、へ点は兄弟しかいない。上を殺せ。ろ点は煙たがられている孤児のガキがいる。サクッと囲んでこちらに来るように洗脳しておけこいつは裏の仕事をさせるから、お前らもばれても問題ない。に点、ほ点はガキが集まっている。適当な奴を指定の刻に襲わせろ、下のやつだけ殺して自警団で助けて取り込む。」

 

「わかりました。たしか、そろそろ首が回らなくなってるやつらがいるんでそいつらにやらせます。尾崎、いけるな?」

 

「はい、8ツ(午前2時)に動かします。」

 

「おう、お前らも足付かないように動けよ、組織において最も重要なのは信用だからな。じゃあ解散。」

 

ばれるなといった本人がつけられて、ばれているのは今考えればひどく滑稽なことではあるが、当時の私にそんな余裕はなかった。

正義の味方の兄が、殺しに加担していた。()()()。殺しを主導していたんだ。たくさんの大人がいるあの中で()()()()()()()()()()

気になる話があった。人員を補充するために殺すといっていた。なぜ?そんな時に兄の話を思い出す。孤独は弱いと言っていた。相手を孤独に追い込んでから助けて仲間にする。つまり自作自演(マッチポンプ)だったのだ。

 

ある日藤丸が家に来て父親が死んだことを伝えてくれた。

 

霞は、そう、言っていた。

まさか、それは

 

兄が殺したのでは、

 

浮かんだのは疑問形であったがそれは半ば核心に等しく、それはまつ梨の思考を長時間拘束した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まつ梨、帰ろうか。」

 

まつ梨の意識を戻したのは何度も今まで何度も聞いた大好きな、しかし今は一番聞きたくない声だった。

 

「どうした?立てなくなった?おぶろうか?また昔みたいに。」

 

この兄は、まだ騙せると思っているのだろうか。自分が密会をしていた場所の路地裏に、そこに妹がいるのにまだばれてないと思っているのだろうか。ならば、ならば教えてやろう。この能天気な極悪人に、私はすべて知っているぞと。

 

「にっ、兄s

 

(声が震える。怖くて顔を上げることができない。こんなのが自分の大好きな兄なわけがない。これを兄とは呼べない。)

 

「ふ、じ、丸。

 

(ああ、神様は何て残酷なのだろう。自分はここでこれに殺されるのか。こんないやな場所にさらに嫌な出来事を重ねて。)

 

わっ、私、全部聞いたっ。

 

(言ってしまった。あんなに優秀な藤丸のことだ。きっと私のこともうまく消すのだろう。)

 

藤丸が、殺すって言ってた。

 

(殺されるとわかっていても、言わずにはいられなかった。)

 

も、戻ったら、い、言う。全部。

 

(優しいやさしい兄を消し去った人を責めずにいられなかった。)

 

なんで、霞のお父さんを殺したの?

 

(なんで、兄さんを殺したの?)

 

ねぇ、なんで何も言わないの!

 

(なんで、全部嘘って言ってくれないの!)

 

答えてよ!!!」

 

 

 

 

 

 

「まつ梨、辛かったな、苦しかったな、俺のせいでそんなに辛い思いしたんだよな。よーしよーしだいじょーぶ。もう怖くないぞー。」

 

強く、しかし苦しくないように、()は私を抱きしめた。

 

「な、んで。」

 

思わず口からこぼれた疑問。

 

「わたしのこと、殺すんでしょ。」

 

口封じに殺されるんでしょ?そう尋ねた。

 

「いや、殺さないよ。まつ梨が言いたいならみんなに言えばいいさ。大丈夫だよ。きっと何も変わらない。幸せなあの場所は崩れないよ。」

 

止めて!優しくしないで!あなたは兄じゃない!私のことを慰めないで!じゃないと!…じゃないと

 

「き、キライになれない。わ、たし、藤丸のこと、キライになれない。」

 

ここまで何不自由なく育ててくれた。自分のことを二の次にして必死に尽くしてくれた。たとえどれだけ自分のことを隠してても、それだけは絶対にわかる。いつも私より汚れてて、おなかを鳴らしてて、それでも私が幸せそうなのを見ると顔をほころばせて嬉しそうにしてた。

 

「藤丸、全部はなそ。みんなに、全部はなそう。」

 

「そうだな。そうするか。もう俺がいなくても霞ならまわせるだろ。」

 

ああ、兄は自分が死ぬときも常にみんなのことを考えているんだ。やっぱり優しい人だったんだ。そんなふうに思った。

私は兄のことも、兄がしたことも全く分かってなかった。

 

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

て、分けで大体俺のせいなんだ。」

 

兄は帰って来るや否や、いきなりみんなを集めてすべて話した。みんなそれを呆然と聞いていた。きっとまだ事態を呑み込めてないんだろう。一人一人の目が潤んでいる。やはり裏切られたことが相当に答えているのだろう。自分たちはどう殺されるんだろうか。虫のいいことではあるが苦痛なく死にたい。

 

「自警団の全権を霞に譲渡する。霞、全員の意見を集めて俺をどうするか好きにしていいぞ。」

 

「…わかりました。数分ください。まとめてきます。」

 

神様、どうか、どうかお願いします。みんなを不幸にしないでください。全部全部私が背負いますからどうかみんなは、

 

「決まりました。藤丸さん。あなたを許します。」

 

はぇ?

 

「これからは自警団をまとめていただかなくても大丈夫です。これまで通り、物資のいくらかは融通します。今まで本当にありがとうございました!」

 

なんで?

 

「うん。これからもがんばれよ。ちょいちょいまつ梨と顔出すから。」

 

いみがわからない。

 

「はい。自警団一同おまちしています!」

 

 

 

 

「なんで?」

 

「まつ梨ちゃん?」

 

「みんなおかしいよ!みんなの周りで殺された人たちは全部兄さんが殺し「まつ梨ちゃん。」た、ん、だ」

 

「確かに私は父さんを殺された。でもね?私幸せだよ?」

 

おかしいよ。家族が殺されて幸せなんて変じゃん。

 

「そうだぜまつ梨ちゃん。俺なんて前はゴミ箱を明後日飯食ってたってぇのに今には肉や果物まで食えるんだ。」

 

「わたしなんて、前はすっごい垢もついてて匂いもひどかったのに、今は毎日体を拭けるし、三日に一回お風呂に入れるんだよ!」

 

「わたしは、前の家族なんてほんとの家族じゃないと思ってる。今この家にいる自警団(みんな)が私の家族。」

 

次々と声が上がる。私がおかしいのかな、これがほんとにいいことなのかな。もう、わからないや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に着いた私は兄さんに体を洗ってもらって一緒の布団でそこそこの毛布をかぶった。

 

「藤丸」

 

「なに?」

 

「もう、誰かを傷つけちゃだめだよ。」

 

「わかった。」

 

一週間後。虚に襲われて傷を負った藤丸は助けてもらった浦原さんに言われた死神を目指し始めた。

 

藤丸自身を傷つけながら。

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