艦隊コレクション戦記   作:クギヌキ

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主導権

漆黒の海に、時を刻む冷徹な声が響いていた。

「着弾まで……三、二、一、ゼロ。弾着、今ッ!」

霧島の鋭いカウントダウンが終わると同時、夜空の彼方から飛来した数条の光の矢が、ポイントCの偽装飛行場へと正確に突き刺さった。

遥か後方のイージス艦から放たれたトマホーク巡航ミサイル。その圧倒的な破壊力が、偽装網ごと地表を吹き飛ばす。整備中だった無数の敵艦載機(たこ焼き)は飛び立つ間もなく炎に呑まれ、舗装されたばかりの滑走路には致命的な大穴がいくつも穿たれた。

「自衛隊の露払いは終わったわネ! 私たちも行くわヨ!」

炎上する飛行場を前に、第一遊撃部隊を率いる金剛が探照灯を向け、獰猛な笑みを浮かべる。

「全門、三式弾! 撃てェッ!!」

金剛型四隻と、鳥海、摩耶の重巡部隊による一斉砲撃。空を焦がすような三式弾の雨が、現代兵器によって致命傷を負った飛行場を完全に更地へと変えていった。

「機長から電文! 『攻撃成功、ポイントC沈黙』とのことです!」

エンジンの重低音が腹の底を揺らすC-2輸送機の機内で、通信機を押さえた随伴の自衛隊員が叫ぶように報告した。

腕を組み、目を閉じていた長門は、ゆっくりと目を開いて頷いた。

「上出来だ」

長門は立ち上がると、機内で待機する主力艦隊の面々へ向けて腹から声を張り上げた。

「降下十分前! 全艦、艤装展開!」

カシャ、ガシャウンッ、と、狭い機内に鋼鉄の武装が展開される重々しい金属音が連続して響く。

やがて機体後部のハッチが重々しく開き、鼓膜を破るような猛烈な夜風が機内へ吹き込んできた。真下の海面が、月明かりに照らされて黒々と光っている。

「降下三分前! 超低空で侵入する!」

自衛隊員の合図とともに、C-2輸送機が海面スレスレまで急降下し、機体を水平に保つ。

「行くぞッ!」

長門の号令を皮切りに、艦娘たちが巨大なハッチから次々と夜の海へ向かって飛び出した。

パラシュートは使わない。彼女たちは海面に激突する寸前、艤装のスラスターを全開にして強烈な推力で落下速度を相殺し、猛烈な水飛沫を上げながら着水していく。

「神通率いる第二水雷戦隊は、指示通り別動隊として展開しろ! 残る水雷戦隊は着水地点の警戒網(スクリーン)を構築!」

先陣を切った水雷戦隊の働きにより、完璧に確保された安全地帯の中心へ、重巡、戦艦の大和と武蔵、そして最後に正規空母たちが次々と降り立つ。水飛沫が収まる頃には、夜の海上に隙のない巨大な輪形陣が完成していた。

「陣形を維持したまま前進。最前線の金剛たちと合流する」

合流地点。

硝煙の匂いを漂わせた金剛が、長門の元へ横付けするように滑り寄ってきた。

「長門、作戦はコンプリートよ。ポイントCの飛行場は完全に潰したわ。最低でも二、三日は使い物にならないはずネ」

「ご苦労。……ポイントBの敵主力の動きはどうだった?」

「ハープーンでパニックを起こして陣形がバラバラになった後、怒り狂って私たちを追いかけてきたのヨ。でも、そこを待ち構えていたイムヤたちがウルフパックで全滅させたわ。見事な連携だったネ」

圧倒的な戦果報告。しかし、長門の表情に慢心はない。

彼女は暗い海図を見下ろし、低く呟いた。

「さて、先手は完全に取れた。……敵がこのまま怒りに任せて出てきてくれりゃ簡単だが、連中もそこまで馬鹿じゃないしな。どう出るか……が、やることは変わらんか」

その直後だった。

急激に気温が下がり、海域一帯から異様な『気配』が膨れ上がってくる。

「……長門さん。通信に猛烈なノイズが。自衛隊とのデータリンク、ロストしました!」

周囲の海面を濃密で不気味な『深海の霧』が覆い尽くし始めた。後方のP-3C哨戒機もイージス艦のレーダーも、超広域ジャミングによって完全にホワイトアウトする。

だが、長門は一切動じず、獰猛な笑みを浮かべて軍刀を抜き放った。

「連中、現代の目を潰せば勝てると思ったようだな。……ここから先は、昔ながらの我々の得意な戦い方だ。索敵機、飛ばせッ!」

濃霧を切り裂き、第二機動部隊が放った艦載機群と敵空母群による、空を黒く染めるほどの壮絶な航空戦が幕を開けた。

そして海面では、艦隊が二手に分かれて敵の懐へ斬り込んでいた。

「私たちも暴れるわよ! 妙高型、第一・第三水雷戦隊、突撃!」

那智たち妙高型の重巡四隻が、水雷戦隊を率いて敵の外郭――駆逐や軽巡の群れへ強引に突っ込み、暴れ回る。物理的に陣形を掻き乱し、次々と装甲を剥がしていく。

そこへ、敵の重巡群が那智たちを押しとどめようと立ちはだかった。

「させないわヨ! 摩耶、鳥海、狙え!」

後方に控えていた金剛型四隻と重巡二隻の主砲が火を噴き、那智たちに群がろうとした敵重巡へ的確なダメージを与えていく。

見事な連携。しかし、これはすべて「敵の主力を引きずり出す」ための計画通りの動きだった。

外郭を食い荒らされ、ついに霧の奥底から敵の主力である『戦艦レ級』を含む強大な戦艦群が姿を現す。

「来たわネ……ここからは殴り合いヨ!」

金剛たちと敵戦艦群による、至近距離での壮絶な砲撃戦が始まった。

だが、敵の質量は想定以上だった。レ級の規格外の猛砲撃が海面を割り、同時に別の敵重巡群が那智たち妙高型に波状攻撃を仕掛ける。

「チッ……装甲貫通!」「こちら小破!」

通信帯域に、味方の被害を知らせるアラートが次々と鳴り響き始めた。

金剛は燃え盛る敵戦艦を睨み据え、歯打ちした。

「……このまま刺し違えれば、確実にアイツの息の根は止められるわネ。だけど――」

彼女はプロフェッショナルだ。「死兵」となって轟沈(ロスト)することは、総力戦において許されない。

「まだ私たちが還る時期じゃないわネ。第一遊撃部隊、妙高型、全艦後退! 連中を少し引っ張るわヨ!」

金剛はあえて挑発するように主砲を一斉射すると、煙幕を展開しながら見事な操艦で反転し、退却行動に移った。

「逃がすか」とばかりに、敵のレ級や主力陣が陣形を崩し、怒りに任せて前へのめり出してくる。

――その瞬間だった。

濃霧を利用し、戦場から少し離れた海域で息を潜め、大きく迂回運動をとっていた影があった。

神通率いる第二水雷戦隊だ。

金剛たちを追って敵陣形が前へ伸びきった、まさにその完璧な死角。

「……今です」

氷のような声とともに、神通たち第二水雷戦隊が霧を切り裂き、矢のようなスピードで敵の横腹へと一気に突っ込んできた。

「射程内! 全門、酸素魚雷――発射ッ!!」

海面を蹴り立て、必殺の魚雷群が突出したレ級へと殺到する。もはや回避不能のタイミング。

「万が一に備えて次発装填、次発装填準備!」

レ級の撃沈を確信しつつも、神通はプロとして一切の隙を見せず、即座に次弾の準備を命じた。

だが次の瞬間、信じられない光景が起きた。

敵の駆逐艦と軽巡ロ級たちが、まるで自ら進んで肉の盾となるように、レ級への射線上に次々と飛び込んできたのだ。

連続する大爆発。巨大な水柱が上がり、海面が激しく揺れる。

水飛沫が晴れた後、そこには完全に無傷のまま、凶悪な牙を剥き出しにして笑うレ級の姿があった。

「なっ……!」

その事実を理解するより早く、無傷のレ級から規格外の雷撃と猛砲撃が一斉に放たれる。

「次発装填準備やめ、退避ィッ!」

神通の悲痛な叫びも虚しく、至近距離からの理不尽なまでの暴力を前に、第二水雷戦隊の駆逐艦たちから次々と悲鳴が上がる。

「……っ! これ以上の戦闘は轟沈を招きます! 第二水雷戦隊、反転! 煙幕を展開しつつ直ちに後退!」

神通は冷徹に退却の号令を下し、濃霧の奥へと退避する。

その神通の視界の先。怒りに燃えるレ級の背後から、さらに巨大で禍々しい影がうっすらと姿を現していた。

深海棲艦の真の旗艦――『空母棲姫』が、余裕の笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。

主導権を巡る泥濘の激闘の果てに、真の絶望が立ちはだかった瞬間だった。

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