もし最強の剣聖に弟がいたら   作:たけのこ

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Aルート2話(1章2話):強すぎるが故の弱点

『兄さん。今日は本気で手合わせをしよう』

 

 

 僕は兄にそう言い放ち、木剣を構えた。

 

 

 いつものように、暗い表情をする兄。

 ずっと見てきたからその心はわかる。

 

 

 きっと、僕が、いや誰もが兄さんとまともにやり合えるはずがないと思っているのだろう。

 

 

 だけど、

 

 

『兄さんは、1人じゃない。それを今から僕が、証明するよ』

 

 

 

 そうして、僕たちは木剣を合わせ────

 

 

 

 


 

 

 

 

 ナツキ・スバルは、アストレア兄弟と別れてから一旦商い通りに戻ってしばらく聞き込みをした後、貧民街へと向かった。

 

 道中、明らかにエミリアがやったと思われる魔法の痕跡を発見したためにアストレア兄弟は一旦別れて、シグルドはスバルの尾行、ラインハルトは重要人物であるエミリアの捜索に回った。

 

 エミリアは一体何故街中で魔法をぶっ放したのか……彼女は決して気まぐれに攻撃魔法を撃つような分別の無い人間ではない以上、見過ごせない事実だったから。

 

 

 そんなこんなでシグルドがスバルを尾行する最中、スバルが貧民街に向かう際に自らの身体に泥を塗って、聞き込みをスムーズに行うために住民の姿に合わせようとした姿には、その様子を後ろから見ていたシグルドも感心した物だった。

 

 スバルが自らの身体に泥を塗り始めたその時点では、彼が一体何がしたいのかさっぱりわからないまま眺めていたが……スバルに同情するような姿を見せる貧民街の住民の様子を見て考えを変えた。

 

 なかなかどうして、色々と考えているではないか。

 

 

(僕も兄さんも大抵の物事は力押しでどうとでもなるから、こういう工夫をするというのは抜け落ちていた。参考になるな)

 

 

 もっとしっかり貧民街の住民になり切るならば、スバルがやったようなあからさまな汚し方ではなく、わざとらしく無いよう程々にすべきだった。

 だが、シグルドがそれに思い至る事は無かった。

 

 アストレア兄弟は、物事全て強引に成す力を持つためか、色々な事を割と雑に考える傾向にあるのだ。

 

 シグルドはその言葉を知らないが、地球の言葉で表現するならば2人はいわゆる『脳筋』という。

 

 

(それはそうと、わざわざ地竜のフンまで踏む必要はあったのだろうか? 服装は十分汚したと思うし、何よりあれは相当な臭いがするはずだけど……)

 

 

 地竜の糞を踏み、恐らくかなりの悪臭を漂わせているであろうスバルを眺めてそんな事を考えながら、シグルドも貧民街に入る。

 スバルを見習ってという訳では無いが、認識阻害の効果がある指輪をはめる事で必要以上に目立つのを避けながら。

 

 

(貧民街で僕がスバルに近づき過ぎるのは悪手か。何をしているのかを見る事はできないが、距離を保つべきだろうね)

 

 

 スバルが貧民街の奥へ進んでいく中、シグルドはそう考えていた。

 いくら認識阻害の指輪をはめているとはいえ、シグルドはかなり目立つ風貌をしている以上それは確実なものでは無いし、何より遮蔽物に乏しい貧民街ではスバルに発見される可能性もある。

 だから、一旦シグルドはスバルと距離を離す事にした。

 

 

(まあ、何かあった場合はまた叫んでくれたらすぐに駆けつけられるし、それくらいの距離を保てばいいだろう)

 

 

 なんて、思いながら。

 

 

 もし、ここでシグルドがこういう風に考えず、引き続きスバルに付かず離れずの尾行を続けていたならば、物語は違う分岐を見せていた。

 

 選択の数だけ世界は存在する。

 

 だが、人生は1度きりでやり直しが効くものではないから。

 だからこそ、人は慎重になり、自らの人生を一生懸命に謳歌するのである。

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

(……! あの金髪の少女は一体? スバルの知り合いか何かなのだろうか)

 

 

 シグルドが再びスバルの姿を確認したのは、彼が金髪の少女と共にどこかに歩いている時だった。

 

 後ろから見ているために、シグルドは少女の眼の色を確認する事が出来ていない。だから、少女がスバルの知り合いなのかどうかは気になるが、その秘められた生い立ちまでについては気にしなかった。

 

 もし、ここで彼女の正体に気付いていれば──それもまた、分岐点。

 

 まあ、遠目で少女の後姿だけ見て正体に思い至れというのは無理がある話ではあるのだが。

 

 それはそうと、どうやら金髪の少女はやたら感覚が鋭いようで、尾行に勘づいたか周囲をキョロキョロする様子が見られた。

 そのため、シグルドは彼らが見えないような距離を保たざるを得なかった。

 

 

(まあ、少女はスバルよりは強そうだし、何かあればそれこそどうとでもなるだろう)

 

 

 そんな事を考え、シグルドは先程に引き続き普段あまり見ない貧民街の様子を眺めてみる事にした。

 この通りに入ってからずっと感じる事ではあるが、雰囲気は薄暗く、湿った空気とすえた臭いが漂ってきている。

 

 人々の表情は暗く、彼らからはとてもでは無いが未来への希望など感じられない。

 

 

(彼らをどうにかしたいとは思うけど……政治に明るく無い僕が何かしようとしても逆効果なのはもう知ってるから)

 

 

 政治を学んできていない人間がにわか知識で手を出した結果、何が起きるかを間近で見てきたシグルドはそう考える。

 あの時は、結局兄の『剣聖』の名前を用いてシグルドが王族に掛け合い、政に明るい人間を引っ張って来ることでどうにかしたのだが……それまでの被害は無視などとても出来ない程に大きな物だった。

 

 だからこそ、シグルドは力だけではどうにもならない事もあるのだという事実を目に焼きつける必要があると考え、この際に彼らの事を見て回る事にしたのだ。

 

 気配を可能な限り消して遠目に見るだけならば、指輪の効果を合わせて自分に面識のない住民に自分の立場を見破られる事は防げると考えながら。

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 そうして視察する事暫く。

 

 

(そういえば、この先は昔兄さんが制圧した盗賊の寝ぐらがあるんだったか)

 

 

 ふと昔を思い出し、シグルドはラインハルトがまだ幼い頃にも関わらずあっさり制圧してみせたものの、その後破棄した盗賊たちの拠点に向かってみる。

 

 

 スバルを発見してから既にそれなりの時間が経過し、時刻は夕方。

 これまで特に何かあったという訳では無いし、それなりにできそうな少女も居る以上はそこまで気を張り続ける必要も無いだろうとシグルドは油断していた。

 

 そう──彼は兄と同じく、力がある分割と大雑把で抜けた人間なのである。とはいえ、これから起きる大事件を予測していたとしたら、それは誇大妄想者あるいは予知能力者だと言わざるを得ないくらいにはその日は平凡な1日であったのだから、仕方ないとも言える。

 

 

(今あそこは誰かが住み着いたりしているのだろうか? まあ、別に構わないのだけど────!?)

 

 

 それはシグルドの遥か昔の記憶通り、高い防壁を背中にして、文字通り貧民街の最奥地に居を構えていた。

 かなり広い敷地を誇っており、ここを拠点とした盗賊たちはそれなりの規模だったことを伺わせる。

 

 

 そんな盗品蔵を見た瞬間、シグルドは駆け出した。

 

 

(なんだあの濃厚な死の香りは!? まずい!)

 

 

 そこからは、戦場を経験したシグルドですらなかなか見ないレベルの『死』の感覚が漂って来ていたから。

 

 

 自分の油断を反省し、シグルドは風のように駆ける。

 

 

(これが、スバルから感じた『死』の原因という事か!? だとしたら、急がないと!)

 

 

 直後、扉の立て付けが氷の1撃にて吹き飛んだのを視認し、シグルドは更に焦る。

 

 

(これはエミリア様の攻撃? この規模の魔法を放つ程の強敵となると……間に合ってくれ!)

 

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

「痛いわ。素敵。生きてるって感じがするもの。それに……ちょっと動きづらいけど、十分よ」

 

 

 火の大精霊パックの放った魔法を耐え切り、魔法の影響を受けて剥がれた足裏に強引に氷の靴を履く事で止血した女殺人鬼──エルザが愉しげに笑う。

 そんなエルザと反して彼女と相対している銀髪のハーフエルフの少女たちの様子は深刻なものだった。

 

 

「パック、いける?」

 

「ごめん、スゴイ眠い。ちょっと舐めてかかってた。マナ切れで消えちゃう」

 

 

 少女の呟きに答える大精霊パック。声からは余裕が消えていた。

 姿は淡くぼんやりと輝き、今にも消えそうなほどである。

 

 

「あとはこっちでどうにかするから、今は休んで。ありがとね」

 

「君になにかあれば、ボクは盟約に従う。──いざとなったら、オドを絞り出してでもボクを呼び出すんだよ──と言いたい所だけど、どうやらその必要は無さそうだ」

 

「え?」

 

 

 その言葉に、エミリアが呆けたような声を出すと

 

 

「どうやら間に合ったようだね」

 

 

 そんな言葉と共に、黒髪の剣士がそこに現れた。

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

「……シグルド、か?」

 

「うん、そうだよ、スバル。さっきぶり」

 

 

 シグルドは油断ない仕草で前を見て、自身に敵意をぶつけてくる黒衣の麗人を見やる。

 ふと、その青い瞳が何かを思い出すように細められ、

 

 

「黒髪に黒い装束。そして北国特有の刀剣──それだけ特徴があれば明らかだ。君は『腸狩り』だね」

 

「なんだその超物騒な異名……」

 

「その特徴的な殺し方からついた異名だよ。危険人物として名前が上がっている有名人だ。どこぞの傭兵という話ではあるけど」

 

 

 スバルの呟きに律儀に応じて、シグルドは透き通る青い双眸でエルザを見据える。その視線にエルザは身じろぎし、

 

 

「シグルド──そう。国の双剣の一振り。『剣聖』の家系の『風剣』ね。すごいわ、こんなに楽しい相手ばかりだなんて。雇い主には感謝しなくてはいけないわね」

 

「色々と聞きたい事がある。投降をお勧めするけど」

 

「血の滴るような最高のステーキを前に、飢えた肉食獣が我慢できるとでも?」

 

 

 薄い唇を赤い下で艶めかしく舐めて、エルザが恍惚の表情でシグルドを見る。

 シグルドはその視線を受けて困った仕草で頬を掻き、盗品蔵にいる面々を眺めてから

 

 

「仕方ない。スバル、少し離れていて。その後は守り易いように4人で固まっていてくれると助かる」

 

「かしこまり。……化け物みてぇな女だから、油断しないでな?」

 

「幸いなことに、彼女を遥かに超えた怪物を退治した経験があってね」

 

 

 頼もしく言い残して、シグルドは腰に下げた2本の剣の内一振りを抜く。

 

 彼の余裕綽々な態度にスバルは思わず息を呑んだが、それ以上に仰天する羽目になったのは直後に戦端が開かれてからだ。

 

 

「──しっ」

 

 

 鋭い呼気を放ち、エルザが手にしたククリナイフを首目掛けて一閃。

 走る銀色はスバル相手の手加減を失い、空気すら殺し尽してシグルドの細い首に襲いかかる。

 

 そのまま刃が振り抜かれ、スバルはシグルドの首が吹っ飛ぶ幻影を見た。血飛沫が噴き出し、漫画のように遅れて首が落ちる。

 そんな光景を幻視したのだ。だが──、

 

 

「女性も子供も居る。あまり刺激の強い絵面を作りたくはないのだけど──」

 

 

 そう言って、シグルドがスバルの目に全く見えない速度で剣を振る。

 

 すると──

 

 

「あら」

 

 

 エルザのククリナイフを持つ腕があっさり斬り飛ばされ、鮮血と共に床に沈む。

 

 直後にシグルドはエルザを蹴り、彼女を木の葉のごとく吹き飛ばしていた。

 

 その光景を見てスバルは絶句する。

 蹴りの直撃を受けたエルザの体は吹き飛び、壁を足場に勢いを殺し、転がるように地面に降り立った。そんな彼女の顔にも驚愕が張り付いている。

 

 

「いやいやいやマジかよ……なんじゃ、そら」

 

 

 まさか、1撃であっさり勝負を決めるとは思わなかった。

 風のように走るフェルトや棍棒を小枝のように振るうロム爺、尋常の域を超えた戦闘センスを持つエルザも、圧倒的物量を誇る魔法力を持つエミリアもパックも、シグルドの実力と比較してしまうとその全てがかすむ。

 

 

「噂通り……いえ、噂以上の存在なのね、あなたは」

 

「兄さん程ではないけどね」

 

「……そう。それに、腰のもう一つの剣は使わないのかしら。伝説の1つの切れ味、味わってみたいのだけれど」

 

 

 エルザはシグルドの持つもう一振りの剣を指差し、本気の彼との対面を望む。

 しかしシグルドは彼女の希望に首を横に振り、

 

 

「この剣を使ってしまえば君は死ぬ。可能なら生け捕りにしたいからね」

 

「安く見られてしまったものだわ」

 

「こっちの家宝の剣でお相手するよ。とはいえ片腕の君にもう勝ち目があるとは思わないけど……」

 

「──いいえ。それがそうでも無いのよ?」

 

 

 余裕を見せるシグルドに対し、エルザは床に落ちた腕を拾う。

 スバルたち4人を背にしたシグルドは動かずそれを眺める。

 

 直後、エルザは自分の斬り飛ばされた部分に腕を押し付け……

 

 

「マジかよ……」

 

 

 スバルが戦慄するのも無理はない。

 何故なら──

 

 

「再生能力持ちか。そうでは無いかと思っていたけど、このレベルだと少し面倒くさいね」

 

 

 エルザの腕は元の通りにくっついていたのだから。

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 エルザの回転する体から投げナイフが射出される。その数はなんと一度に四本。

 高低差のある刃は速度こそそこまでだが、弾道の違いが回避行動の妨害を生んでいる。即ち、普通に考えたらナイフを防ぐには弾くしかないが、

 

 

「フーラ」

 

 

 シグルドが一言呟くと、室内に風が発生してナイフが吹き散らされる。 

 

 

「魔法まで……チートかよこのイケメン」

 

「チートというのが何かはわからないけど、とりあえず褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 

 思わず漏らしたスバルの言葉に、相変わらず爽やかにシグルドが答える。

 

 

「それはそうと……いくら再生能力があるとはいえ、多分君に勝ち目は無いと思うけど、まだ続ける?」

 

「──冗談。牙がなくなれば爪で。爪がなくなれば歯で。歯がなくなれば骨で。骨がなくなるのならば命で。──それが戦闘狂というものよ」

 

 

 投合が無意味と見せつけたシグルドはエルザにそう語るが、彼女は当然取り合わない。

 そうしてエルザは懐から2本目のナイフを構え、戦闘を再開する。

 

 

 刃と刃が交錯する。エルザの1方の刃は聖剣の前にあっさりと折れるが、それを起点にもう片方の刃がエルザの腕から放たれる。

 

 しなる刃はシグルドの首を狙うが、それは跳ね上がる足に腕を蹴られて届かない。彼女は蹴られた勢いすら利用して壁に足を伸ばし、反動を利用して天井へ。そして天井を蹴り、また別の壁へ。

 

 彼女は重力を無視したかのよな機動で動き続ける。

 3本目のナイフを構え、一撃離脱の戦法が縦横無尽に襲いくるのを、シグルドはその場から一歩も動かずに迎撃に徹して防ぎ、返す刃でエルザの身体を切り刻んでいく──だが、斬った側から再生する以上、キリがない。

 

 

「まさかシグルドですら、決め手に欠けるってんじゃねぇだろうな……」

 

 

 エルザの技量の人外ぶりは、もはやナイフ一本だけのときとは段違い。

 それを迎え撃つシグルドも、見せつけた魔法の強力さと戦闘力もあって同じく人外の領域。

 まさしく天上人同士の激突に違いない。ただしそれでも、シグルドの方が実力的には上ではないか、という楽観じみた考えがスバルにはあるのだが。実際シグルドは未だ無傷だが、エルザは既に血塗れなのだから。

 とはいえ、それでも未だ決着は付かず、状況は膠着しているようにスバルには見えた。

 

 

「……こっちに、気を遣ってるのよ、彼は。4人を守って戦うなんてすごーく難しいんだから。それに、私が……」

 

「やっぱそうか。4人ってのはちょいと多いよなあ……」

 

 

 わかっていた事ではあるが、現在の自分たちが明らかに足を引っ張っている状況を見てスバルは独りごちる。少女が最後に小声で言おうとした言葉をスバルに聞き取る余裕は無かった。

 

 よく、人は両腕に抱えられる数しか守れないと言うが、今シグルドが守る必要があるのはその倍の人数。そして、これもまた今更ではあるが彼が相手にするのはエルザという超級の戦士。

 もし彼の腕が4つあるなら話は別なのだろうが、そんな筈はなく。

 

 

「この状況を見ると実力はシグルドが上だろうし、せめて1人だけでも逃がせたら勝てそうな感じだが……」

 

「けど、どーすんだよ? あの兄ちゃんの背から出たらアタシたちなんて簡単に殺されっぞ」

 

「そーなんだよなあ……」

 

 

 手加減していた先程までならともかく、今の本気を出したエルザから逃げられる未来がスバルには見えなかった。

 それどころか、シグルドの背後から少しでも動いた瞬間にあっさり腑を切り裂かれる未来の方が簡単に想像できるという始末。

 

 そんな女から現在進行形でスバルたち4人を守り続けているシグルドの腕には脅威の一言だが、足手纏いな現状そうも言っていられない。

 状況的に、時間をかけたら普通にシグルドが勝利するのかもしれないが、スバルとしてはそれを期待して何もしないよりは少しでも勝率を高めたい所だった。

 何せ、文字通り命がかかっているのだから。

 

 スバルは銀髪の少女の方を見て、

 

 

「君が助太刀するってのは……」

 

「やってみる? あまり分のいい賭けとは思えないけど……」

 

「やめとけ、嬢ちゃん。ろくな事にはならんぞ」

 

 

 自信なさげに言う少女を巨人族の翁──ロム爺が止める。

 

 

 正直言って八方塞がりだった。

 スバルにできるのは、このままシグルドが4人を守り、エルザを撃退するのをただ願うしかないのか──

 

 

「いや、待てよ。さっき言ってたもう一つの剣ってのを使えば楽に勝てるんじゃないのか?」

 

「……さっき言おうとしたのだけれど、それ込みでシグルドは私に気を遣ってるのよ。──あの剣は、精霊を殺す剣だから」

 

「ああ、そういう──!」

 

 

 精霊を殺す剣が精霊使いである少女や、精霊そのものであるパックに与える影響を考えたら──シグルドがその剣を使わないのも納得だった。

 先程、生け捕りの為に使わないと言ったのは恐らくシグルドが少女に気を遣ったが故か。

 

 聞く限りどうやら凄まじい力を持った剣らしいが……正直な話、状況があらゆる面において悪い方に働いていると言わざるを得ない。

 

 

 

「足手纏い4人に最強のカードも使えないって……縛りプレイにも程があるだろ」

 

「安心して、スバル。……十分時間は稼げたから」

 

「? どういう……」

 

 

 思わず愚痴を呟くスバルを安心させるようにシグルドが語りかける。

 

 すると……

 

 

「ああ。僕が来たからにはね」

 

 

 そう言って現れたのは1人の青年。

 

 

「舞台の幕を引くとしようか──!」

 

 

 紅の髪をかき上げて、アストレア兄弟の兄が高らかにそう謳った。

 

 

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