もし最強の剣聖に弟がいたら   作:たけのこ

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Aルート5話(2章1話):アルビノ無表情系オリジナルヒロイン

『剣聖殿の弟殿。僕の勘が正しければ、あなたも相当な実力者だとお見受けしますが』

 

 

 青いキモノ姿にゾーリを履いた青年が僕に問いかける。

 

 

『兄さん程ではありませんが、追いつく為に日夜努力はしています。──あなたと同じように、ね』

 

『それはそれは! 僕は剣聖殿が1人でないと教えようと思っていたのですが、どうやらその必要は無かったようで』

 

 

 彼は、兄さんと違って常識外れの透き通った剣気を隠そうともせずに喜色と共に僕に語りかける。

 

 

『僕が天剣に至る為の壁──それを超える為にあなたとも手合わせ願いたいのですが──構いませんね?』

 

 

 断られるとは微塵も思っていない様子だ。

 まあそれは当然の話。彼から言われなければ僕から提案する積りだったのだから。

 

 

 そして、僕たちは──

 

 

 

 


 

 

 

 メイザース邸行きの竜車にて。

 

 

「──これが、僕が知っているエミリア様とその周辺の情報だね」

 

「わかった」

 

 

 言われた少女は無表情で頷く。

 それを見た青年はいつも通りの事ながら、一応の確認として

 

 

「何か気になる点とかあれば聞いて大丈夫だけど」

 

「これ以上はいい。最低限知っていれば上手くやれる」

 

 

 竜車内でそんなやり取りを交わすのはシグルドと、一応は彼の従者という事になっている少女

 ──通常ではあり得ないほど白く、美しさと共に世俗から超越したかのような恐ろしさをも示す長い髪に、見る物を凍りつかせるが如く冷たく赤い瞳をし、アストレア一族に匹敵する程異常なまでに整った顔立ちをしている。

 出る所は出て、引っ込むべき所は引っ込んでいる完璧なスタイルをしたその身を、髪と同じく真っ白な服に包み、腰にシンプルな装飾の剣を下げ、その表情は完全なる無。整いすぎた容貌も相まって、近寄り難いとすら感じられる少女

 ──フィーナ。かつては姓もあったが、今はそれを捨ててただのフィーナとだけ名乗っている──である。

 

 

「まあ君はそうだろうけど。一応、エミリア様に仕えるという形を取るつもりだから──その辺り君には迷惑をかけるかもしれないから、聞いておこうと思って」

 

「別に良いといつも言っているでしょう。好きなだけ迷惑をかければいい。──あなたには、それが許されるだけの力があるのだから」

 

 

 素気無く答えるフィーナだが、最後に付け加えた言葉には、底知れない感情──羨望、愛憎、怒り、希望、絶望──があった。

 

 

 竜車の御者を務める爺やは、無礼極まるフィーナの言葉に何も言わない。爺やは2人の間にある事情を当然知っているし、何よりそれを他ならぬシグルド本人が許しているから。

 

 

「……エミリア様関連はともかく、あなたには他に聞きたい事がある」

 

「何だい?」

 

「腸狩りと戦ったのでしょう? ──私とどっちが強かった?」

 

 

 フィーナが気になるのは、今から自分たちが誰に仕えるかなどでは無く、強者の情報。もっと言うならば、自分と比較して誰がどのくらい強いか、だ。

 どうせ、何処に行こうが誰に仕えようがシグルドに求められる役割は剣を振るう事なのだし、フィーナはそんなシグルドのサポートをすると共に、彼に修行を付けてもらう──それが2人の主従関係なのだから。

 

 

 だから強者の事を、戦った経験と知見をこそ知りたい──つまり力を求めるフィーナの言葉にシグルドは真摯に答える。

 

 

「剣の腕という意味ならば、若干、君の方が優れていると感じるくらいだね。とはいえ差は僅か。それだけで戦いの超勢は決しない」

 

「…………」

 

 

 フィーナはその整った顔を引き締めて話を聞く。

 彼女はシグルドに従事してから見違える程強くなった。一端の騎士として生きるならば何一つ問題なく活躍出来るだろうと確約される程。

 だが。

 

 

「腸狩りの厄介な点は、ナイフ捌きもあるが、それに加えて再生能力を持つ点だ。軽い切り傷程度は物ともしないどころか、腕を切り落とされようとくっ付ける事が可能な程」

 

「再生能力……」

 

「人族の剣士に対してそれは多大なるアドバンテージと言える。君が地魔法を習得している事と合わせても──戦いは終始君が優勢だろうけど、最終的な勝敗に関しては、継戦能力の差で4:6で不利といった所か」

 

 

 剣に関してシグルドは決して嘘を吐かない。

 フィーナを必要以上に持ち上げる事も下げる事もせず、ただ現実の実力のみを見て語る。

 彼は自分と兄を常に比較し、目指しながら訓練して自らを高めている以上、それに対する信頼は固い。

 だからこそ──

 

 

「そう。──私はあなたやラインハルト様に修行を付けて貰っているのに、未だ流れの殺人鬼に不利を取る程度、か」

 

「いつも言ってるけど」

 

「わかっている。『焦って強くなるなら話はもっと楽』でしょう?」

 

 

 そう。

 焦って強くなるなんて事は絶対に有り得ない。

 強くなるために必要なのは才能と環境と冷静な現状分析とそれに従った適切な鍛錬。

 それは、シグルド自身が身を以て示しているのだから。

 

 

「ああ。──君も大分強くなったけど、実力はまだまだ円熟には程遠い。それは保証するよ」

 

「ええ。だからこそ、これからもお願い。その代わり、私はあなたの全てに従う」

 

 

 フィーナは未だ若干15歳。

 婆やによって提供される料理によって適切な栄養分を摂取している事もあり、年若いとはいえ身体付きこそすっかり女性らしくなりはしたが、その実力は未だ成長途中。

 

 シグルド自身未だ18歳であり、自らの実力の限界はまだ先だと考えているため、フィーナに修行を付ける事は自分を見直す事にも繋がる有意義な時間だと考えている。

 

 

 そうして、2人はこれからの修行メニュー等についての雑談をひとしきり交わし、

 

 

「お二人とも、着きましたよ」

 

「ありがとう、爺や」

 

「ありがとうございます、グリム様」

 

 

 2人と爺や──今更だが、名前はグリムという──を乗せたアストレア家の竜車はエミリアの滞在するメイザース邸へと到着した。

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 アストレア家から来た3人を出迎えたのは、双子のメイドだった。

 

 身長はおよそ150代中盤。大きな瞳に桃色の唇、彫の浅い顔立ちは幼さと愛らしさを感じさせる。

 瓜二つの顔をした二人は髪形もショートカットに揃えているが、髪の色は桃色と水色でそれぞれ違う。さらに髪の毛で片目を隠しているが、桃色は左目で水色は右目を隠しているというのも違いだ。

 

 

「メイザース邸にお越し頂き感謝申し上げます、『風剣』様に従者の方々。私はメイドのラム、こちらは同じくレムでございます」

 

「長い旅路を経てお越し頂き、ありがとうございます。邸まですぐにご案内いたします」

 

 

 桃色の方──ラムが口を開き、すぐにレムが追従する。

 2人の対応は宮廷魔術師のメイドとして相応しいものではあったが、巧妙に隠された緊張による硬直に気付かない3人ではない。

 シグルドやフィーナだけでなく、爺やもまたかつては優秀な剣士だったのだ。

 

 

「ああ、ありがとう。僕はシグルド・ヴァン・アストレア。こちらは従者のフィーナにグリムだ。先の連絡通り、これから伯にお世話になるのは僕とフィーナの2人になる」

 

「「よろしくお願い致します、ラム様、レム様」」

 

 

 双子メイドにシグルドが返答し、フィーナと爺やもまた挨拶をする。

 先程シグルド相手にはあのような態度だったフィーナも、他所行きの顔をこなす事は出来るのだ。

 

 そうして事務的なやり取りをひとしきり経た後。

 

 

「では、私はこれにて。──シグルド様。理由やその先はどうあれ、あなた様が進むべき道を見出した事を改めて祝福致します。フィーナ様、シグルド様を宜しくお願いします」

 

「重ね重ねありがとう、爺や」

 

「お気をつけて、グリム様」

 

 

 爺やが非常に嬉しそうな、そして何やら寂しさも感じさせるような表情をして別れの挨拶をする。

 ここで爺やは王都に戻り、この先エミリア陣営に入るのはシグルドとフィーナの2人となる。

 

 アストレア家としてエミリア陣営に入るわけでは無い。だが爺やからすれば、幼い頃から見守ってきたシグルドが自身の道を進む事は非常に嬉しく思うのだ。

 仮に、それがラインハルトとは異なる道であろうとも。

 だからこそ、適当な兵に任せずに爺や手ずから竜車を駆り出してここまで送迎したのである。

 

 

 爺やが竜車を駆って引き返すのを2人はその姿が見えなくなるまで見送った。

 

 双子メイドもまた、頭を深く下げながら見送った。

 いくら自分達と同じ従者とはいえ、爺やは剣士として実績を残した歴戦の雄。双子とは同格でも何でもなく、敬意を払わねばならない相手だと理解している。

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

「シグルド君。まーぁさか君のような強大な力を持った人物が陣営に入ってくれるなんて思ってなかったよ」

 

 

 濃紺の髪を長く伸ばした長身は、シグルドの姿を見て嬉しげにそうこぼした。

 

 身長は186cmほど。細身であり、しなやかというよりは純粋に痩せぎすといった印象が強い。

 瞳の色は左右が黄色と青のオッドアイであり、病人のように青白い肌と合わせて儚げな親和性を保っている。

 一般的な感性であれば十分に美形、そう断じていい容姿の持ち主だ。

 

 ──ロズワール・L・メイザース

 

 メイザース領の主であり、宮廷筆頭魔術師の称号を得た傑物。

 その戦闘能力は、彼一人で軍隊に匹敵するほどである。

 

 ラムとレムという双子メイドに案内されてメイザース邸に着いた直後に応接間にて、エミリアとロズワールがシグルド達を待ち受けていた。

 

 

「アストレア家として協力する訳ではありませんよ。あくまで手を貸すのは僕とこのフィーナだけです」

 

「それがどれだけ重大な事か。君ならば十分理解しているはずだーぁがね?」

 

「そうですね。ただ……

 

 

 シグルドは同席するエミリアの方を向く。

 視線の先の彼女は、先日自らの不安を改めて正面から突き付けてきたシグルドの視線に対して少しだけビクッと身体を振るわせる。

 それを見てから

 

 

「以前言ったように、僕はエミリア様の騎士になるという訳ではありません。もしそうしたいと望むのであれば、今後ご自身の力にて相応の成果をお見せしていただきましょう」

 

「シグルド……うん。わかってる」

 

「私はエミリア様ならば成し遂げてみせると確信していまーぁすよ」

 

 

 3者3様の反応。

 何はともあれ、これからのエミリアの働き次第だとシグルドは主張する。

 

 ──それが出来ないと確信しているからこそのエミリアへの協力なのだと知っているフィーナは、何も言わなかった。

 

 そんな、ロズワールに対して最初の挨拶をしてから一言も発さないフィーナにロズワールが声をかける。

 

 

「フィーナ君もまた、その見目の美しさもさることながら優れた才能を持った逸材のよーぅだし、歓迎させて貰うよ。流石はシグルド君が唯一自身にのみ仕えさせている人材だ」

 

「私など、まだまだです。シグルド様にも、メイザース卿にも遠く及びませんので」

 

 

 フィーナは自らが強者だとは全く思っていない。

 身近な人間がシグルドやラインハルトといった超級の剣士であるためバイアスがかかっているとは彼女自身認めているとはいえ、まだまだ足りない点が多過ぎると考えている。

 世界一恵まれた修行環境にいるにも関わらず、未だ流れの殺人鬼にすら及ばない程度の弱者でしかないと──

 

 

「私はともかく、シグルド君を超えてしまったら世界が震撼するだろーぅねえ」

 

「──恐らく、そこまでは不可能だと思います。だからといって鍛錬を止めることはありませんが」

 

 

 無表情を少しだけ悔しさに歪めながら、フィーナがそう発言する。

 この世界において、才能の差は残酷な程顕著だ。

 仮に剣に半生を捧げようとも超えられない壁は明確に存在していて、そして鍛錬すればする程、高みが自分にとって超えられるか否かを判断出来る様になってしまう。

 

 どんなに鍛え上げようと自分は恐らく、アストレア兄弟を始めとした世界5強には届かないくらいが限界だろうとフィーナは認識していた。

 

 

「そこまでは、ね。まあ気持ちはわからないでもなーぁいよ。かくいう私も昔は天才と呼ばれた自身の力に満足せず、そういった大望を抱いていたものだった」

 

「……メイザース卿も、ですか?」

 

 

 フィーナは表情を少し驚いたように変化させてロズワールに問いかける。

 当人を除き、その場にいた全員同じ疑問を抱いていた。

 ロズワールはその風貌や言動から、力を求めて邁進するような人間には見えなかったから。

 

 

「意外かもしれないが、若い頃なんてみんなそんなものだろーぅよ」

 

「……そう、ですね」

 

 

 目を瞑って答える。

 自身の力への渇望は、若気の至りに過ぎない──彼女はそれを言われてもやむなしと自分で理解しているのだから。

 

 そして、陣営や屋敷にてシグルドたちがこれからどう過ごすかの取り決めのためのやり取りを一通り交わしてから

 

 

「ではラム、レム。2人を部屋に案内して差し上げなさい」

 

「かしこまりました、ロズワール様」

 

「ではご案内致しますわ、シグルド様、フィーナ様」

 

 

 双子がそれぞれ答えて、シグルド達を部屋に案内する。

 

 

 これから自分たちはメイザース邸に居を構える事になる。それがどの様な結果を招くのか──未来のことがわかる人間などいるはずが無いのだ。

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 案内された部屋にてシグルドが私物の整理をしていると

 

 コンコン

 

 と何者かがノックしてきた。

 

(……? 部屋に案内された直後だというのに一体誰が? 足運び的にメイドでもフィーナでも無いだろうし)

 

 なんて思いながら扉を開けてみると──

 

 

「ああ、君か。ここに居るとは思っていたけど──数日ぶりだね、スバル」

 

「おお……いつ見ても変わらないそのイケメンぶりに俺ってばドキドキだ。やっぱお前ギャルゲーの俺ルートを考慮中なのか!?」

 

 

 爽やかに挨拶するシグルドにスバルはそう漏らす。

 

 シグルドにはわからないが、スバルにしてはおかしな反応である。何故なら、普段の彼ならばシグルドのイケメンぶりに対する嫉妬の言葉がまず最初に出てくるはず。

 それにもかかわらず、逆にシグルドに対してやけに好意的な反応。

 

 だが、未だ付き合いの浅いためにそれはわからないにしろ、シグルドには極めて気になる点があった。

 

 

「……差し出がましいかもしれないけど、何かあった?」

 

「……っあ」

 

 

 自身の内心をいきなり言い当てられたスバルは思わず息を呑んでしまう。

 この男は、本当に──

 

 

「……やっぱお前、反則だろ……」

 

「反則は兄さんの専売特許だと思ってたけど、どうやら僕も結構やるみたいだね」

 

 

 絞り出したスバルの発言に対して、片目を瞑ってウィンクしながらシグルドが言う。

 その茶目っ気も、自分への気遣いだと勿論理解するスバルは、更に弱々しい表情に変わる。

 

 

 そんな積もりは無かったシグルドは、あえて話題を少し逸らす様に。

 

 

「それにしても、君と会ったのは3日前か」

 

 

 エミリアに協力をする事に決めたは良いものの、風来坊たるスバルはともかく、『風剣』たる彼が直ぐにその足でエミリアと共に行く……なんて事は出来るはずがなく。

 

 当然、方々への様々な手続きをする必要があった。

 世界でも5強とされる彼程の実力者が仮とはいえ所属を決めるというのは、国家レベルでの重要性を持つ事態だから。

 

 それを済ませるために2日。

 

 そして、王都からメイザース邸まで竜車で約半日。

 

 つまり、スバルがメイザース邸に入ってから数えて3日目にシグルドとフィーナはメイザース邸入りした事になる。

 

 

「たったの3日間で色々あったみたいだね?」

 

 

 先程から彼がこのような発言をするのには、当然理由があった。

 何故なら、スバルからは3日前以上に濃厚な『死』の香りが──

 

 

「──なあ、シグルド。ちょっと良いか」

 

「どうしたんだい? スバル」

 

 

 スバルが軽口を止め、真剣な顔をして問いかける。

 

 

「今から俺、訳わかんねえ事言うと思うが、聞いてくれるか?」

 

「──ああ。構わないよ」

 

 

(そんな、縋り付く子供のような顔をされたら、ね──)

 

 

「サンキュ。──正直言って、誰から見ても俺ってばめちゃくちゃ怪しいと思う。俺は路地裏からお前にメチャクチャ感謝しなきゃいけないことだらけで、迷惑掛けっぱなしで、何一つ返せちゃいないし、フィーナと違ってこれからも恩を返せるか正直わかんねえ。情けない話だ。惨めな話だ。それでも──

 

 

 スバルは何故フィーナの事を知っているのか。

 シグルドは問わない。

 

 

 そして一呼吸置いて、少年は決意を口にする。

 

 

「シグルド。俺を──助けてくれ」

 

「──ああ、わかった」

 

 

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