異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~   作:3S曹長

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 前話の後書きでも述べましたが、ソードレック子爵の話はカットいたします。ですので原作と違い、手紙を渡す相手は子爵以外の人間ということになります。
 まあ、服屋のザナックの存在を抹消している時点であまり関係ないかもしれませんが。



お買い物、そして帰還。あとブリッツボール。

 八重が仲間に加わった後、ワッカ達はまず最初に王都のギルドに向かった。公爵から貰った報酬の額が大きいので持ち歩きたくない、ということで意見が一致したからだ。

 王都のギルドはリフレットのギルドよりも規模が大きく、受けられる依頼の数も多かった。しかし今は手紙を運ぶ依頼の最中なため、新たな依頼を受けることが出来ない。各々白金貨一枚だけを手元に残し、残りの九枚はギルドに預けることにした。ついでに八重のギルド登録も済ませておく。他の三人と違い、黒ランクからのスタートであることを残念そうにしていた彼女だったが、ワッカの励ましを受けて気持ちを入れ替えた。

 ギルドで用事を済ませた後は別行動になる。八重は当初の目的である、彼女の父親が世話になった人の家を訪れることにし、ワッカと双子の三人は手紙を届ける依頼を完了させることにする。

 ギルドを待ち合わせの場所に指定し、八重と一旦別れた三人は目的地へと向かう。王都にはリフレットの町では見られなかったものがたくさんある。ワッカは特に、至る所で目にする()()()()()()()が気になっていた。

 

「なあ、あの獣の耳と尻尾が生えている人間は何なんだ?ロンゾ族じゃねえよな?」

 

「ロンゾ?」

 

「あ、わりぃ、気にしねぇでくれ。オレの故郷に似たような人種がいたモンでな」

 

「あれは亜人の一種で、獣人族ですね」

 

「へぇ、獣人ね」

 

ワッカは今一度獣人を観察する。スピラのロンゾ族は獣がそのまま二足歩行になったような外見をしているのに対し、獣人族は頭に生えた獣の耳と尻に生えた獣の尻尾以外は普通の人間の外見をしていた。人間の耳もしっかり生えている始末で、どちらが本体なのかはよく分からなかった。

 

「ん?あそこにいる女の子…」

 

 ワッカは一人の獣人の少女に注目する。頭には黄色のケモミミ、尻尾はフサフサの黄色い毛で先端部分が白い。キツネの獣人である。スゥシィよりも若干年上に見える彼女は不安そうな顔で辺りをキョロキョロと見回している。

 

「ははーん、さては迷子だな?」

 

「助ける気ね、ワッカ」

 

「あったりめえよ。手紙届けるなんざ簡単に終わるしな」

 

そう言ってワッカは少女の側に駆け寄った。

 

「どした?な~に困ってんだ?」

 

「ひゃ、ひゃい!!」

 

 突然声をかけたワッカに対し、少女は驚きの声を上げる。

 

「おいおい、別に怪しいモンじゃねえって!」

 

「筋肉質なデカ男がいきなり話しかけてきたらビックリするに決まってるじゃない」

 

「おいおいエルゼ、デカ男ってな…」

 

「気にしないで大丈夫ですよ。ワッカさんはとても優しい人ですから」

 

リンゼのフォローを受け、少女の警戒心も薄れていった。

 

「オレはワッカ。ギルド所属の冒険家だ。コイツらはエルゼとリンゼ、オレの仲間だ」

 

「「よろしくね」」

 

「あ、アルマといいます」

 

「そうか、よろしくなアルマ」

 

「はい…」

 

「で、何か困ってるみたいだったけど何があったんだ?」

 

「私、連れの者とはぐれてしまって。待ち合わせの場所を決めていたのですが場所が分からなくなってしまって…」

 

やはり迷子であった。

 

「王都の広さにやられたか…」

 

「待ち合わせの場所、名前は分かりますか?」

 

「『ルカ』という魔法道具屋です」

 

リンゼの質問にアルマが答える。

 

「よし、オレ達が一緒に探してやる」

 

「い、良いのですか?」

 

「おうよ!このワッカさんに任しときな!!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

しかしここでエルゼがワッカに声をかける。

 

「何、ワッカは『ルカ』の場所知ってんの?」

 

「んなもん、知るわけないだろ」

 

「はあ!?じゃあどうすんのよ?」

 

「そこらの人に聞いて回る。こんくれぇの(とし)の子はな、見ず知らずの人に声をかけるなんてこと出来ねぇんだよ。オレ達が聞いて回りゃ、万事解決ってワケだ」

 

「なるほどねぇ」

 

 こうしてアルマの連れを探すことになったワッカ一行。彼女を不安にさせないように会話をしながら、道行く人々に場所を聞いて回る。

 結果として、大した時間をかけない内に「ルカ」を見つけることに成功した。店の前では獣人の女性が不安そうに辺りを見回していた。ワッカと同年代であろうその女性にはアルマと同じ耳と尻尾が生えている。色が若干茶色っぽくはあったが、アルマの身内に間違いないだろう。

 

「お姉ちゃん!」

 

案の定、アルマが女性の方に走っていく。

 

「アルマ!」

 

駆け寄ってきたアルマを獣人の女性がぎゅっと抱きしめる。

 

「心配したのよ、急にいなくなるから!」

 

「ごめんなさい、お姉ちゃん」

 

二人の再会を見て、ワッカ達も胸をなで下ろす。

 

「うし、見つかったみてぇだな」

 

「そうですね」

 

「良かったわね、アルマ」

 

「あ、貴方達がアルマを助けて下さったのですか?」

 

獣人の女性が三人に目を向ける。

 

「ああ。アルマの姉ちゃん、なんだな?」

 

「はい、妹がお世話になりました」

 

「いや、気にしねぇでくれ。オレたちゃ偶然通りかかっただけだからな」

 

「あの、何かお礼を…」

 

「あーいや、ちょっと予定があってな。気持ちだけ受け取っとくぜ。じゃあな、アルマ!」

 

そう言ってワッカ達はアルマと別れる。

 

「ありがとー!ワッカー!」

 

アルマも立ち去るワッカ達に対し手を振って礼を言うのだった。

 

「全く…見つかったから良いものの、こんなことばっかしてたら依頼達成できないわよ」

 

 文句を言うエルゼだが、口調からは本気で嫌がっている訳では無く、すこし(あき)れたという程度のニュアンスが受け取れる。

 

「見つかったからインだよ。それとも、見捨てた方が良かったってか?」

 

「まあ、それは出来ないわよねぇ」

 

「それに、目的地に近い場所にも来れましたしね」

 

リンゼの言うとおり、手紙の届け先はもうすぐだった。

 

 程なくして、手紙の受け渡しに成功したワッカ一行。後はリフレットに帰り、ギルドに報告すれば依頼達成だ。

 

「ねえワッカ。八重との待ち合わせまでまだ時間があるし、私達も別行動しない?」

 

「おう、構わねえぜ。さては、白金貨で買い物してぇんだな?」

 

「そもそも、王都に来たら買い物するつもりだったし」

 

「お姉ちゃん、ずっと楽しみにしてたもんね」

 

「そういうことなら好きに買い物して来い。ギルドで会おうぜ」

 

「分かったわ」

 

 こうして双子とも一旦別れることになったワッカだが、彼自身は王都に来てやりたかったことが特にあるわけでも無かった。

 

「どうすっかな。文字も大分読めるようにはなったが、カンペキに覚えたってワケでもねえし。この世界の文化とかも、まだ全然知らねえしなあ…」

 

ワッカは(ふところ)から白金貨を取り出し、眺めていた。思わぬ大金が手に入ると使いたくなってしまうのは、人間の(さが)というものだ。

 

「オレも何か買い物してみっか。買い物っていったらアレだな、武器とか防具とかだな」

 

魔物を倒すことで得たギルを使って武器や防具を買う。ユウナのガード時代に幾度となく行ったことではあるが、考えてみればこの世界に来てからまだ一度もそういった買い物をしてこなかった。とは言っても、武器に関しては神から貰ったブリッツボールがある。せっかくだから他の武器も使ってみよう的な考えが全く無いわけでは無かったが、やはり愛着のあるブリッツボール以外で戦う自分の姿は想像しにくく、却下という結論に落ち着くのだった。となると目当ての店は防具屋ということになる。ワッカはその辺を散策しつつ、良さそうな防具屋を探してみるのだった。

 しばらく歩いていると、一つの看板が彼の目に入った。貴族御用達(ごようたし)防具専門店「ベルクト」。いかにも格式高そうなレンガ造りの外観をした店だった。

 

「おお、これこれ。こういう店を探してたんだな~」

 

リンゼから文字を教わって良かったと思いつつ、ワッカは軽い足取りで店の敷地に足を踏み入れる。豪華な造りの扉を開けると、女性の店員に声をかけられる。

 

「いらっしゃいませ。当店は貴族専用の店となっております。身分を証明できる物、もしくは紹介状はお持ちでしょうか」

 

「え?そんなの…」

 

持って無いっすと言いかけたところで、ワッカは公爵からの報酬で貰ったメダルを思い出す。

 

「こ、これでいっすか…?」

 

「確認いたしました、ありがとうございます。本日はどの様なご用件でしょうか?」

 

「そうっすね…、何か良い装飾品とか置いてたりします?戦闘で役立つようなモノで」

 

 ワッカが普段戦闘時に着ている服はビサイド・オーラカのユニフォームだ。動きやすく、とても丈夫な素材で作られている。この一張羅(いっちょうら)を捨てて新しい鎧や服で戦いに挑む、などという考えはワッカには最初から無かった。ちなみにワッカは毎日欠かさず、この服を手洗いでしっかり洗濯している。着たきりで汚いワッカさんなどと誤解しないように。

 閑話休題、店員に案内されたコーナーにはワッカの要望に応えるような様々な装飾品が置かれていた。指輪、腕輪、イヤリングにピアス、髪飾りなど種類も色々だ。女性向けの品が多数を占めていたが、そんなものを付けているのをエルゼなんかに笑われるのは恥ずかしいので候補から外す。ブリッツボールを使う際に邪魔になるので、指輪も候補から外す。

 

「買うとしたら…、ピアスだな」

 

ワッカは耳にピアスをしている。これ自体には特に何か特殊な効果があるわけでは無い。特に思い入れのある物でもないので、新しいものに交換しようと考えた。彼はピアスの中から、金額が高めかつ飾りすぎてないものを選ぶ。

 

「これとかってどうっすか?」

 

「そちらの商品には、攻撃魔法に対する高い耐魔の魔力付与が(ほどこ)されております。ただ一つ欠点がありまして、装備された方の持つ適性にしか耐性が付きません。逆に持っていない適性のダメージは倍増するという、扱いの難しい品となっております」

 

「それって適性の有る無しだけっすか?得意不得意による耐性の差とかって…」

 

「そういうのはございません。適性の有無のみが問題になります」

 

「あ、それじゃコレ、お願いします」

 

「ありがとうございます。こちらは金貨5枚になります」

 

「じゃあコレで払います」

 

ワッカは店員に白金貨を見せる。

 

「かしこまりました。お会計はあちらになります。すぐに装備なさいますか?」

 

「そうしゃす。今付けてるのは持って帰ります」

 

こうしてワッカの異世界初の防具ショッピングは無事終わったのだった。

 

 ギルド前に四人が集まった頃には、すでに日が落ちかけていた。

 

「集まったな。そんじゃ帰るか」

 

「そうね。たくさん買ったし、早くリフレットに帰りましょ」

 

エルゼの言葉通り、馬車にはたくさんの買い物袋が積まれていた。

 

「今から帰るのでござるか?もうすぐ日も落ちる(ゆえ)、王都に泊まった方が…」

 

「そこら辺は大丈夫なんだな~」

 

「大丈夫?それはどういう…」

 

「でもワッカさん、町中でやるのは目立ちますよ?」

 

「そうだな。やるのは町出てからだな」

 

「あの、()()とは…」

 

「いいからいいから。見てれば分かるって!」

 

「エルゼ殿…」

 

こうして八重を若干置き去りにしつつ一行は王都を後にする。門から出るときは検問は必要無かった。

 門から少し離れた人目の付かない場所でワッカは馬車を降りる。

 

「そんじゃ帰るぜ。『ゲート』」

 

「うわっ」

 

ワッカの出した「ゲート」を目にした八重が驚きの声をあげる。

 

「なんでござるか…これは?」

 

「ワッカさんの必殺魔法『ゲート』だっ!コイツがあればどこでもすぐに行けるんだぜぇ」

 

「今まで行ったことのある場所だけですけどね」

 

「すごいでござる、ワッカ殿」

 

 一行はワッカの「ゲート」をくぐり、リフレットへと帰還する。ギルドで手紙受け渡しの証明書を見せ、依頼を無事完了させるのだった。

 

「それではこちらが依頼報酬の銀貨7枚です。お疲れ様でした」

 

約束通り、報酬はワッカとエルゼとリンゼで三等分した。

 

「しっかし悪い傾向よね~。白金貨貰った後だと銀貨2枚が少なく感じちゃう」

 

「だな~。オレなんかこの間まで無一文だったのによ」

 

2枚の銀貨を眺めながらのエルゼの発言にワッカが同意する。

 

「公爵から貰った白金貨はこの先なるべく使わずとっておくことにしましょう。いつお金が必要になるときが来るか分かりませんから」

 

「リンゼの言うとおりだな。うし、銀月に帰るぞ!八重の部屋も取らなきゃなんねえしな!」

 

 こうして宿屋「銀月」に帰った一同は新たに八重の部屋を取る。明日から四人での活動が始まるのだった。

 

 余談だが、八重はあまりに多くの食事を一度に摂るので、追加の食事代を彼女だけ払うことになってしまっている。「自分の食費は自分で」と(あらかじ)め言っておいたことをナイスプレーだと思うワッカなのだった。




 初めての王都編、これにて終了です。次回、「まるで将棋だな」編。出来れば一話で終わらせたい…。

 原作にて望月冬夜が「ベルクト」で購入した商品は、「蓮舫コート」とネットで言われているあの白いコートです(アニメでは購入シーンがカットされている)。ワッカにあのコートは似合わないので、ピアスにしました。ワッカがピアスしてるって知ってました?

 いせスマのアニメの話ですが、アルマの姉ちゃんは井上喜久子さんが演じていて、アルマは井上喜久子さんの娘の井上ほの花さんが演じているんですよね。なんで、母娘で姉妹役やってんだよ?年の差はどうなってんだ年の差は!
 あと、適当に17歳ネタをアニメに入れとけばウケると思っているアニメスタッフさん、それスベってますよ。

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