異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~   作:3S曹長

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 今回から名探偵ワッカ編です。

 オリジナル展開から始まり、原作に沿った話へとシフトチェンジしていきます。


名探偵ワッカ編
ガードの夢、そして国王暗殺。あとブリッツボール。


「ここは…どこだ?」

 

 気がつくとワッカは謎の空間にいた。前後左右上下、どこを見渡しても黒一色。光一つ差し込まぬ暗闇の中に放り込まれたようだった。その割には自分の姿はハッキリと目視できる。足下もしっかりしている。どうして自分がこの謎だらけの空間にいるのか、ワッカには理解できなかった。

 

「ワッカ、あんた何時(いつ)まで帰らないつもりなの?」

 

 不意に懐かしい声を耳にし、ワッカは声のする方向に目を向ける。

 

「………ルー?」

 

間違いない。ワッカの幼なじみでありユウナのガード仲間でもあるルールーが目の前に立っていた。

 

「いつものあんたなら、どんな手を使ってでも帰ろうとするじゃない」

 

「でもよ、ルー。神が言うんだよ。元の世界に生き返ることは出来ないって」

 

「それは神の言葉でしょ?本当は帰る方法に気付いて無いだけじゃない?」

 

「だって…」

 

「でも?だって?聞き飽きたわ」

 

ルールーに厳しい言葉を浴びせられ、返す言葉を失うワッカ。

 ふと気がつくとルールーの姿は消えており、彼女の代わりにキマリが立っていた。

 

「キマリ?何でお前まで…」

 

「ワッカはいつ帰るのだ」

 

「それは…」

 

「キマリは何時までも待っている。ワッカのいないこのガガゼト山で」

 

「お前、ガガゼト山に帰ったのか?」

 

「ワッカはもう、立派なロンゾの仲間だ」

 

「いやオレ、ロンゾ族じゃねえよ!?」

 

 ワッカのツッコミが終わる前に、キマリの姿は蝋燭(ろうそく)の火のように消えてしまう。代わりに現われたのはリュックだった。

 

「ぷにぷにワッカって意外にスケベなんだね!あんなに女の子引き連れちゃってさ!」

 

「ぷにぷにワッカって何だよ?つーか、オレはスケベじゃねえ!!」

 

「しょーこは?しょーこ見せてよ!」

 

 ワッカが言い返そうとした途端、リュックの姿が消えた。代わりにティーダが姿を見せる。

 

「ティーダ!?」

 

「次のセリフ言い終わったら、オレ消えっから!」

 

「は?それってどういう…」

 

「勝手で悪いけどさ、これがオレの物語だ!」

 

 そう言って宣言通り、ティーダは消えてしまった。「意味不明すぎだろ!」とワッカが思っている内にアーロンが現われる。

 

「あんた、ワッカだよな?伝説のガードの」

 

「伝説のガード?」

 

それはアーロンさんの称号だろ、と言おうとしたところでワッカは考える。ユウナはシンを倒した。シンを倒したということは彼女は世間から「大召喚士」と呼ばれているはずだ。そんな彼女のガードを務めた自分も当然「伝説のガード」と呼ばれているに違いない。

 

「あ、ああ…まあそうだな…」

 

こうワッカは返した。

 

「握手…してくれないか?ワッカ、いやワッカさん!オレ、アンタに憧れてガードになったんだ!」

 

「いやそれ、アーロンさんがバルテロに言われたセリフじゃねえか!!」

 

 ワッカのツッコミを受け、アーロンも姿を消した。その後に現われたのは、やはり()()だった。

 

「ユウナ……」

 

召喚士ユウナ。ワッカは彼女のガードを務めていた。ワッカの目の前に立つ彼女は何も言葉を発しない。ただ口元に(かす)かな笑みを浮かべてその場に立ち尽くしている。

 

「ユウナ、やっぱりお前も怒っているのか?」

 

ワッカはユウナに問いかける。

 

「死んで異世界に行ったきり戻ってこないオレのこと、怒ってんのか?」

 

ワッカの問いかけを耳にしたのか、ユウナが口を開く。そしてただ一言だけ言葉を発した。

 

「ワ ッ カ さ ん が 産 む ん だ よ」

 

「うわああああああああああ!!!」

 

 ワッカは跳ね起きた。両手で掛け布団の端を必死で握っている。彼がいたのは「銀月」の一室。彼が借りた部屋のベッドの上だった。窓から朝日が差し込んでくる

 そう、彼は夢を見ていたのだ。ルールーに責められたのも、キマリに帰参を促されたのも、リュックにイジられたのも、ティーダが一瞬だけ出てきたのもアーロンに握手を求められたのもユウナに意味不明な言葉を投げかけられたのも全部すべてみんな、何もかも夢だったのだ。

 神の手によって異世界に来て、冒険者になった。これが現実だった。

 

「夢…だったのか…」

 

寝ぼけていたワッカもようやく現実を受け入れる。何とも奇妙な気分だった。

 彼自身、この異世界での生活を不満に思っているわけでは決して無い。しかし、元の世界(スピラ)の仲間を忘れたことも、この世界に来てから一日たりとて無かった。

 

「一体何だったんだ?あの夢は…」

 

ワッカは未だにぼんやりする頭で、さっき見た夢の意味を考える。もしかしたらスピラの仲間達は何かしらの方法でワッカの置かれている現状を知り、何かしらの方法を使って接触を図ろうとしたのだろうか。そんな考えも浮かんだが、ソレだと後半3人の発言が意味不明すぎる。特にアーロンはあんなふざけたことは絶対にしない。

 時間が経ち、頭がハッキリしてくるにつれ、さっき見た夢はやはりただの夢だったのだという結論に落ち着いた。夢ならば意味不明なのは当然だ。

 

「さて、今日も一日頑張るぞい!っと」

 

 ワッカは切り替えられてないわけでは無い。さりとてスピラの仲間を忘れたりもしない。彼はスピラの仲間との思い出を己の内にしまい込みつつ、この異世界で生きていくのだ。

 

 

 

 

 

 今日は昨日戦った水晶の魔物について報告するため、王都の公爵邸に向かう。昨日の激闘を踏まえて休息が必要だと判断し、エルゼ達三人には一日自由に行動するよう言い渡した。

 ワッカは「ゲート」で公爵邸の正門前に到着する。今まで何度か「ゲート」で公爵邸に遊びに来ていたのだが、その度に門の前に立つ兵士達に驚かれてしまっている。

 

「いや、どもども」

 

ワッカは頭を掻きつつ、公爵邸の中に入る。いつものようにメイド達が挨拶をしてくれた。

 

「おはようございます、ワッカ様」

 

「あ、どうも。公爵はいますかね?」

 

「はい。ただ今お呼びいたします」

 

 しばらくして、メイドに連れられたオルトリンデ公爵がワッカの前に姿を見せる。

 

「いやあ、ワッカ君。よく来てくれたね」

 

「どうも、オルトリンデ公爵。実はお伝えしたいことがありまして…」

 

「そうか。まあ立ち話もなんだ。来賓室で聞こうじゃないか」

 

 ワッカ達が来賓室へと到着すると、パーラーメイドが二人分の紅茶を用意してくれた。

 

「それで、話とは?」

 

「実は昨日、ギルドの依頼で旧王都に行ったんすけどね…」

 

ワッカは昨日の出来事を公爵に事細かく伝えた。

 

「そうか、旧王都でそんなことが…」

 

「旧王都は王国の管轄だってリンゼから聞いたんで、一応公爵にと」

 

「分かった。これは王家に関わりのある事かもしれない。国の方から調査団を出し、その地底遺跡と魔物について調べてみよう」

 

「あー、地下遺跡の方は魔物が目覚めた時に崩れちまって…。オレらは『ゲート』で脱出したんで無事だったんすけど…」

 

「何、そうか…。地底遺跡については色々調べてみたかったのだがな…」

 

「なんか、すんません…」

 

「いやいや、ワッカ君達が無事で何よりだ。君達がいなくなればスゥが悲しむからね」

 

「そう言えばスゥは?」

 

「屋敷にいるよ。話が何やら深刻そうだったから彼女にワッカ君の来訪は伝えてないがね。君が来たと知ればスゥはきっと遊んでくれと…」

 

「オルトリンデ様!一大事でございます!」

 

 公爵の言葉を遮り、レイムが来賓室に飛び込んできた。

 

「レイム、客の前だぞ?」

 

「申し訳ございません。至急お伝えしなければならないことがございまして…」

 

「何事かね?」

 

「国王様が、毒を盛られて倒れられました!!」

 

「何だと!?」

 

レイムの報告を聞いた公爵の顔色が変わる。

 

「それは確かな情報か?」

 

「はい!先程、王城から早馬が…」

 

「分かった、すぐに向かおう!急いで馬車の準備を!」

 

「すでに手配を済ませております」

 

「そうか。ワッカ君、すまないが一緒に来てくれないか?」

 

「王様の毒を治して欲しいって事っすね」

 

「頼めるか?」

 

「モチロンっすよ!」

 

 程なくして、公爵とワッカを乗せた馬車が王城へ走り出した。

 

「この非常事態に君がいてくれたのは何という奇跡だろう。神様の賜物(たまもの)だな」

 

そう言う公爵の顔は青ざめており、手は震えていた。

 

「国王は公爵の兄弟、なんすよね?」

 

「そうだ、国王は私の兄上なのだ。何としてでも助けたい…」

 

ワッカは公爵に自分を重ねて見ていた。兄と弟という違いはあるが、兄弟を大切に思う気持ちはどこの世界でも変わらないのだろう。

 

「毒を盛られたって話っすけど、犯人に心当たりはあるんすか?」

 

「ある。だが証拠が無い。君は謎の刺客に襲われていたスゥを助けてくれたね。あの刺客を放った犯人と今回の犯人は恐らく同一人物だ」

 

「国王を狙うって事は、敵国の仕業とか?」

 

「それならまだ分かりやすかったんだがな…」

 

 そう言って公爵はベルファスト王国の置かれている現状を語り始めた。

 

「我がベルファスト王国は三つの国に囲まれている。西にリーフリース皇国、東にメリシア山脈を挟んでレグルス帝国、南にガウの大河を挟んでミスミド王国だ」

 

「は、はぁ…」

 

異世界の地理事情をこの場で覚える自信が持てず、ワッカは少し困ってしまう。

 

「レグルス帝国とは二十年前に起こった戦争以来、一応の不可侵条約を結んでいるのだが、正直友好的とは言い難い。そして今回の件で問題なのは南のミスミド王国だ。ミスミドは帝国との戦争中に新たに建国された新興国でね。兄上はここと同盟を結び、帝国への牽制(けんせい)と、新たな交易を産み出そうとしている」

 

「う、う~ん…」

 

シンという全種族共通の脅威が跋扈(ばっこ)しているスピラで生まれ育ったワッカにとって、国同士の戦争は馴染みが薄い。(ゆえ)に、公爵の話を理解するのは彼にとって難しかった。

 そんな彼の心情を察したのか、公爵が詫びを入れる。

 

「ああ、すまなかったね。少し難しかったかな?」

 

「いえ、なんかオレの方こそすんません…。今度リンゼにゆっくり解説してもらうっす」

 

()()まんで説明するとだね。今ベルファスト王国は南のミスミド王国と友好的な関係を築こうとしているのだが、その動きに反対している貴族達がいるんだ。兄上に毒を盛ったのはその貴族の誰かだと私は考えている」

 

「うす、なるほどす」

 

この説明ならワッカにも理解できた。

 

「しかし、どうしてその貴族ってのは反対を?」

 

「それはミスミド王国が亜人達の国だからだ。亜人達が多く住み、獣人の王が治める国と友好関係を築こうとしているのが、古い考えの貴族にとっては我慢できないのだ」

 

「古い考え?」

 

「かつて亜人達は下等な生き物とされ、侮蔑(ぶべつ)の対象だった。亜人達への人種差別という古い考えを、その貴族達は捨てられていない」

 

 公爵の口から「人種差別」という言葉を聞いた瞬間、ワッカの思考は止まってしまった。




 人種差別だってぇ!?なんだか気になるな…。

 ワッカの見た夢についてお話しすると、あれはただの夢です。壮大な伏線とかではありません。ただ全く無意味というわけではなく、二つの重要な役割を持っています。
 一つは「ワッカはスピラの仲間を捨てたわけじゃ無いよ」ということを読者に伝える役割です。ワッカが異世界で幸せな生活を送っていると、不安になる読者もいるかと思いまして。
 もう一つは、今後の展開をお楽しみに、ということで。
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