異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~ 作:3S曹長
ワッカはレオン将軍に連れられて、国王暗殺未遂の現場である大食堂へ向かうことになった。事件現場に関係者以外が立ち入ることについては、公爵の「事件当時現場にいなかったワッカ君にしか気付けない事もあるかもしれない」という後押しのお陰で問題視されなかった。
「現場にいたのは誰だったんだ?」
大食堂に向かう道中、ワッカがレオン将軍に尋ねる。お互い体育会系である二人は意気投合し、敬語を使わず会話をするようになっていた。
「事件当時、陛下と食事を共にしていたのは6人。ユエル王妃、ユミナ王女、宮廷魔術師のシャルロッテ、ミスミドの大使オリガ殿、バルサ伯爵、そして
ワッカは将軍が挙げた名前と外見を一致させるため、質問を重ねる。
「ユミナ王女ってのは、あのオッドアイの?」
「そうだ。陛下と王妃の間に生まれた唯一のご息女だ」
「シャルロッテっつーのはあのキレーな緑髪の?」
「そうだ。君の無属性魔法に興味を示していたあの人だ」
「バルサ伯爵ってのは獣人嫌いの?」
「そうだ。よく知ってるな」
「ここに来たとき会ったモンで。あの人はこの城に住んでんのか?」
「いや、今日の会食に使われる野菜は伯爵の領地で採れた物だったからな。食材を提供する代わりに会食の際は呼んで欲しい、と申し出があったのでお呼びしたのだ」
名前と外見が一致したところで、ワッカは辺りに人がいない事を確認した上で小声で尋ねる。
「公爵や国王はバルサ伯爵を疑ってるみたいだな?」
「当然だろう。大使が贈ったワインが原因で陛下が死んだとなれば、ミスミドとの同盟は当然白紙になる。それに加えて、陛下がお亡くなりになれば王位はユミナ王女に移る。まだ王女は12歳だ。貴族が裏で操るのも容易くなるだろう。例えば一族の誰かを婿として迎えるように迫るとかな。婚約が成立してしまえば王位はその婿に移る。獣人達を再び
「え~と、つまり、大使が原因で国王が死ねば色々都合が良いっつーことか?」
「そういうことだ」
将軍の説明のお陰で、公爵と国王がバルサ伯爵を疑っていた理由を理解するワッカ。実は城に向かう馬車の中で公爵が同じ話をしていたのだが、その時彼はうわの空で聞いていなかったのだ。
疑問が一つ解消したところで、ワッカはもう一つ抱いていた疑問を口にする。
「バルサ伯爵が怪しい理由は分かったけどよぉ。にしたって国王は大使を信用しすぎなんじゃねえのか?」
「何、ワッカ殿は大使が怪しいと思っているのかね?」
「別にオレは獣人を見下してるわけじゃねえぞ?でも、あんだけ信頼されてんなら国王を暗殺しても犯人と思われないハズ、と考えての犯行だったとしてもおかしくないんじゃねえか?」
「だが陛下が
「オレは外の人間だからな。詳しいことはよく知らんけど、得が無いってだけで全然疑わねぇのも変だろ」
「得が無い、というのはオリガ大使にとってという意味では無い。ミスミド王国がベルファストの王を殺しても得にならん、ということだ」
「
「随分疑り深いのだな?」
「まあ、以前の旅で色々あってな。向こうのことをよく知りもしねぇで信用しきると一杯食わされるって知ったんだよ」
ワッカはユウナのガード時代を思い出してそう言った。
「なるほどな、一理あるかもしれん」
「だろぉ?」
「だがそれでも、ミスミドが
「なんでぇ?」
「ミスミド王国は新興国だ。歴史の浅い国が歴史ある大国を騙したと知れ渡れば、他の国が警戒する。そうなれば孤立は
「な、なるほど…」
将軍の詳しい説明を受け、納得をするワッカ。国同士の戦争が無かったスピラで生まれ育った彼は外交について知らない。そんな彼が考えている以上に、国が国を裏切るというのは難しいことらしかった。
そんな会話をしている内に、二人は現場の大食堂に到着する。十人以上の兵士達が現場の状態を保持するために警戒に当たっていた。レオン将軍が彼らに対して国王の容態が回復した旨と、自分が引き連れている
ワッカが始めに目を付けたのは机の上だ。レオン将軍の言葉通り、国王の分を含めて7人分の食事が
「あのグチャグチャになってる料理があるのが国王の席だよな?」
「そうだ。陛下はワインを飲んだ直後、急に体調を崩され、椅子から転げ落ちてしまわれた。その時の衝撃で食卓の料理があのような状態になってしまっているのだ」
ワッカは国王が座っていた椅子の周辺に目を向ける。ワイングラスが床に転がっており、中に入っていたであろう
「このワインが毒入りってことだな。……ん?」
ここでワッカの脳内に一つの疑問が浮かぶ。ソレを解消すべく、彼はもう一度机の上を確認し、将軍に尋ねる。
「今気付いたんだが、国王以外はワインを飲んでねえのか?」
「ああ。さっきも言ったが、陛下はワインを飲んだ直後にお倒れになられた。当然、その場で会食は中止だ」
その言葉通り、国王以外の食卓にあるワイングラスにはワインが入ったままだった。
「じゃあ、ワインに最初に手を付けたのは国王って事だよな?」
「一番目上の者が最初に食事に手を付ける。生活の基本だろ?」
「じゃあ、大使が贈ったワインに毒が入ってんなら、あのワイングラスの中身も毒入りって事だな?」
「そういうことになるな」
質問を終え、ワッカは再び机を観察する。しかし観察しただけではよく分からなかったので、素直に尋ねることにする。
「将軍の席はどれだ?」
「儂が座っていたのはあそこだ」
ワッカは将軍の指した席に向かい、そこにあったワイングラスを手に取る。そして
「なっ、何をしているのだ!?ワッカ殿!!」
「ぷふぅ。なんで、オレが飲んでも何ともねえんだよ?教えはどうなってんだ教えは!!」
「つっ、たっ確かに言われてみれば…。おい!中身を変えたりなどしていないだろうな!?」
将軍が近くの兵士に問いかける。
「も、モチロンであります将軍!ワッカ殿が先程ワイングラスを手にするまで、誰も食卓の上の物に手を付けてはおりません!」
問われた兵士が答える。十人体制で見張っているのだから間違いないのだろう。
「ということは、大使が贈ったワインが原因では無かった…?」
「アンタも飲みゃいいじゃねぇか」
「し、しかし…」
「大丈夫だ、何かあったら回復してやる」
「む、わ、分かった。儂も男だ、やってみよう」
将軍も近くにあったグラスを手に取り、
「何ともない…な。ワッカ殿が特別、というわけでは無いらしい」
つまりオリガ大使は犯人で無かったということになる。そうなれば怪しいのはバルサ伯爵しかいない。ワッカもさすがに彼を犯人だと確信する。
「ワインに毒が入ってないのに国王はワインを飲んで倒れた…。つーことは方法はアレしか無えよな」
ワッカは床に落ちた国王のワイングラスを手に取る。そしてテーブルの上の他のワイングラス達と見比べてみた。
「おもっくそじゃねぇか!そういうことかい!」
「なんだ!?何か分かったのか、ワッカ殿!?」
ワッカの叫び声にレオン将軍が反応する。
「ああ、分かったぜ!」
「一体何が分かったのだ?」
「そいつぁ…、犯人の前で話した方が良いんじゃねえか?」
「そ、そうかね。気になるが…」
「犯人を捕まえてぇだろ?そこで将軍にお願いがあるんだなあ~」
「何だ、何でも言ってみてくれ」
ワッカは将軍に耳打ちする。話を聞いた将軍は早速行動に移った。
解決編に続く。
私としては「オリガ大使は犯人では無く、バルサ伯爵が犯人だ」という前提ありきで進む原作の展開にどーしても我慢が出来なかったので、まずオリガ大使の疑惑を丁寧に解消していくことから始める展開にしました。
大食堂に着く前の将軍との会話はオリジナルです。「どうして国王はオリガ大使を全く疑わないのか」「そもそもバルサ伯爵が城にいるのはなぜなのか」原作で全く書かれてないんですよ。(読者への)教えはどうなってんだ教えは!!