異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~ 作:3S曹長
数分後、会食に参加していたメンバー全員が大食堂に揃っていた。ワッカの頼み事を聞いた将軍によって呼び出されたのだ。
「一体何の用なんだ…。うおっ!?」
文句を言いながら大食堂に入ってきたバルサ伯爵は、元気な国王の姿を見て驚きの声をあげる。
「へ、陛下…。もう体調の方はよろしいので!?」
彼は震え声で国王に尋ねる。
「ああ、バルサ伯爵。この通り、私は元気だ。心配をかけたようだな?」
「い、いえいえ…。ご無事なら、な、何よりでございます…」
顔から汗を流しながら手をすりあわせる伯爵。
「一時はどうなることかと思ったがな。あそこにいるワッカ君が毒を消してくれたのだ。いや、余は実に運が良いな」
国王の言葉を聞いたバルサ伯爵は、ワッカを睨みつける。だがしかし、ワッカはそれに気付いていない。
犯人のトリックを突き止め、将軍に皆を呼んでくるようにワッカは頼んだ。だが後になってよくよく考えてみれば、
後悔するワッカの脳内に、今朝見た夢の影響なのか、
「よゆーッス」
「簡単です」
「これくらい誰にでも分かるでしょ?」
「ロンゾをなめるな」
「これくらい分からないでどうする」
「もっと自分の頭で考えなよ!」
「わりい、やっぱつれぇわ」
「さあ、ワッカ殿!準備は整ったぞ!謎解きを始めてくれ!!」
将軍の大声で我に返るワッカ。大食堂にいる全員が彼に注目していた。もう後には引けない。
「こおーなったらヤケクソだッ!」
心の中で叫んで、ワッカは口を開く。
「え、え~、み、皆さんは、国王が倒れたとき一緒に食事してたメンバーということで、あ、集まって頂きゃした。んで、で、何で集まって貰ったかとゆーとぉ…」
一端言葉を止め、ワッカは宣言する。
「犯人がこの中にいるからっす!!」
こんなかっこいいセリフ、「一度言ってみたかった!」なんて思う
「ふん!犯人なんぞ決まっている!そこにいる獣人の女がやったのだ!陛下に贈るワインに毒を仕込んだのだろう!」
「わ、私はそんなこと…」
「黙れ!この獣人風情が!!」
バルサ伯爵がオリガ大使相手に熱くなる。その伯爵を他の皆が冷ややかな目で見ている。そんな周りの様子にかまっていられる余裕は今のワッカには無かった。さっさと終わらせてとっとと恥をかこう、そう思いながら発表を始める。
「え~とですね、こちらにオリガ大使が贈ったワインのボトルがありゃ~す。これを飲みま~す」
投げやりな口調でワッカは大使が贈ったワインのボトルを取り出し、ラッパ飲みする。
「ワッカ様!?」
「何をやっておられるのですか!?」
ユミナ王女とシャルロッテが叫ぶ。二人の声を無視しながらワッカはボトルから口を離す。
「は~い、このとーり。このワインに毒は入ってませ~ん」
「なに!?」
どういうことだ、と言わんばかりに唖然としている皆の様子を見て、ワッカは
「なんだコイツら。ホントにビックリしてるのか?だとしたら…もしかするのか?」
そんな風に心の中で呟きながら、多少覇気が戻った声色で発表を続ける。
「え、え~次に、未開封のワインのボトルを用意したんで、今からこの場で開けやす」
ワッカはボトルを開け、
「このワインに毒が入ってないことを確認するために将軍、一杯どうすか?」
「ああ、頂こう」
レオン将軍がワッカから貰ったワインを飲み干す。コレも実は段取り通りだ。
「うむ!良い味だ!」
「ワインに毒が入ってないことを確認した上で、今度は国王のワイングラスに注ぎゃす」
そう言ってワッカは
「国王は体調がまだ良くないみたいなんで、バルサ伯爵、代わりをおねしゃす」
「な、なに!?」
ワッカに指名されたバルサ伯爵が後ずさる。顔からは見たことも無いような量の汗が噴き出していた。その様子を見たワッカは心の中で確信する。
「マジかよ…。本当にこんなくっだらねえ方法で国王を暗殺しようとしたってのか?知能はどうなってんだ知能は!!」
何にせよ、自信を取り戻したワッカはいつもの調子を取り戻して伯爵に迫る。
「おいおいどうしたよ?さっき将軍がワインを飲んだだろぉ。毒は入ってないんだって!前みたくワインを飲みに来いよ、素直になって」
「そ、そうは言うがな…」
後ずさる伯爵を他の皆が睨みつける。
「遠慮したいほど嬉しいってんなら、たっぷりくれてやるよ、いつでも」
「い、いや、私は…」
ワッカはかつてティーダにやった時と同じように、伯爵の肩に無理矢理腕を回した。
「しっかり飲ませてやる!そぉら!!」
「うぐ、ぐぐぐぐ…」
ワッカは伯爵にワインを無理矢理飲ませ、飲み終わったのを確認した後伯爵を解放する。
「ぐ、ぐ、ぐおおおぉぉ!!く、苦しい!毒が、毒が回るぅ!!」
伯爵は喉を押さえて苦しみ始めた。
「だ、誰か助けてくれえええええ」
「あのな、このグラスの毒はとっくに拭き取ってあんだよ」
「えええ…、え?」
伯爵のうめきが止まった。思い込みでここまで苦しめることに呆れつつ、ワッカはトドメの言葉を投げかける。
「まさか、バルサ伯爵が犯人じゃないだろうな?」
伯爵の顔が真っ青になった。
「どういうことかね!?」
「は!?」
公爵に尋ねられ、唖然とするワッカ。
「ここまで見てまだ分かんないのか?知能はどうなってんだ知能は!!」
「私にも分かるように教えてくれ、ワッカ君!」
「え、えぇ…」
国王にも頼まれて言葉を失うワッカ。アーロンさんに後を任せたい、と思いながらも彼はトリックを教えることにした。何だかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。
「いや、単純な話で、毒はワインに入ってたんじゃ無くて、国王のワイングラスに塗られてたんすよ」
「なるほど、そういうことだったのか!」
「なんと卑劣な!」
公爵が納得し、オリガ大使は憤慨した。他の皆も感嘆の声をあげるので、ワッカは
「くっ、捕まってたまるか!」
そんな中で逃げようとするバルサ伯爵をワッカは見逃さなかった。
「逃がすかよ!ブラインアタック!」
「ぐあ!」
ワッカの投げたブリッツボールがバルサ伯爵に命中する。
「な、なんだ!?何も見えない!!どうなってるんだ!!」
伯爵が叫ぶ。「ブラインアタック」はワッカの特技の一つで、攻撃を当てた相手を暗闇状態にする技である。
「真っ暗だ!私はドコにむかゴフぁ!!」
目の見えない状態で走っていた伯爵は壁に激突し、その衝撃で気絶してしまった。
「ま、これで一件落着っつーことだ」
返ってきたブリッツボールをキャッチしつつワッカが言った。気絶した伯爵は兵に取り押さえられ、連れて行かれた。
「お見事だ、ワッカ殿!」
「…」
公爵が褒める。
「すごいな、ワッカ君は」
「……」
国王も褒めた。
「聡明な方でもあるのですね…」
「………」
ユミナ王女も褒めた。
しかしワッカは全く嬉しく感じなかった。むしろ、こんな単純なトリックを解いただけで褒められるのは馬鹿にされているようにしか感じない。何をやっても「スゴいね、よくできたねぇ」と褒められる子供と同じ扱いを受けている気分だ。
だがもしかしたら、大勢の目の前で種明かしを始めたワッカが恥をかかないように、と自分を気遣っての反応なのかもしれない。だとしたならば、不満をぶちまけるのはお門違いだ。
「ハァー…」
色々文句を言いたくなるのをぐっとこらえ、ワッカは一言
「人をコケにしやがって…」
私としても色々言いたいことのある原作のこの場面ですが、どうにか面白くしよう、どうにか読み応えのあるものにしよう、とした結果、このようになりました。
今回の話のアニメに当たる部分についても解説していきます。アニメだと、くだらないトリックを望月冬夜が自信満々に解いて、ソレを皆が感心して…、となんとも痛い場面なのですが、原作を読むと受け取り方が違ってきます。
原作では「こんなトリックとも言えない犯行なんていずれ誰かが解き明かすだろうけど、その時に言い逃れされても困るから、今この場で逃げられないように手を打っておくか」的な望月冬夜の独白があります。なのでアニメほど痛いヤツにはなってません。
まあでも、望月冬夜の種明かしに周りが「すっごーい!」的な反応してるのはどっちも一緒なんで結局変わらないね!