異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~ 作:3S曹長
ワッカは途方に暮れていた。神に異世界転生させてもらったは良いものの、文字の読み書きが出来ない上に所持金は0ギル。このままではどうすることも出来ない。
「サイアクダゼ、読み書きが出来ない上に無一文だなんてよ…」
そう吐き捨てるワッカの脳裏に、初めてティーダと出会った時の光景がよみがえる。あの時のティーダも今の自分と同じく心細い気持ちでいたのだろう。そんなティーダの世話をしたのは自分だった。自分は果たして同じような良い人に出会えるのだろうか…。
「…なんてウジウジ考えるなんて、オレらしくも無かったな!」
気を取り直し、町の散策を続けようと決めるワッカ。歩いていれば何か解決策が浮かぶかもしれないと考えたからだ。
その時、彼の耳に誰かが言い争うような声が聞こえた。声が聞こえる路地の方に彼は足を向けることにする。
「約束が違うわ!報酬は金貨一枚だったはずよ!」
そう叫ぶ一人の女の子。言い争いは細い路地の行き止まりで起こっていた。片や女の子二人、もう片方はガラの悪そうな男が二人。男の一人はガラス細工のような鹿の角を持っていた。
「確かに水晶鹿の角を金貨一枚で払うといったさ。けどそれは傷無しの場合だ。見ろよ、ココに傷があるだろ?だから銀貨一枚なのさ。ほれ受け取りな!」
そう言って男が銀貨一枚を二人の女の子に放り投げる。床に落ちた銀貨を見て、ワッカはこの世界ではギルとは違う通貨が使われている事に気付いた。
「そんな傷、傷物の内に入らないわよ!」
「お姉ちゃん…」
女の子二人は外見が似ていた。どうやら双子らしい。男と言い争いをしている少女は銀髪のロングヘアで目つきがキリッとしている。いかにも活発そうな女の子だ。もう一人は銀髪のショートヘアで大人しそうな目つき。相方を「お姉ちゃん」と呼んでいたあたり、こちらが双子の妹のようだ。
「もういいわ、お金は要らない!その角を返して貰うわ!」
「そうはいかねぇ、もうコイツは俺達のモンだ!」
男が意地の悪そうな声でそう答える。どう見ても男達の方が年上だ。
こういった言い争いを目にすると見て見ぬフリをする人も多いだろうが、そんなことは出来ない正義感の強い好漢、それがワッカという男である。男が少女をいじめている現場ならなおさらである。
「なぁ~んだ、モメゴトかあ?」
「ああん?何だテメェ!」
「何の用だぁ!?」
ガラの悪い男二人が、背後から声をかけたワッカににらみを利かせる。見た目どうりのチンピラで間違いなさそうだ。そう考えたワッカも負けじと言葉を返す。
「おい!言葉をつつしめよ!」
「あぁん!?」
「だいたいなんだお前ら、よってたかって女の子をいじめるなんざ、恥ずかしいと思わねえのか?」
「舐めた野郎だなぁオイ!」
そう言って男達は
「いてぇ目にあう前に逃げた方がいいぜぇ?」
「へっ、嫌なこった!」
「ヤロウ!!」
男の一人がワッカに襲いかかる。しかしワッカはシンを倒すところまで
「よっと」
チンピラの攻撃を
「ガッ!?」
彼の手から離れたボールはチンピラに命中。それだけでは無い。相手に当たって回転が加わったボールはまるで意志を持っているかのようにワッカの手元に戻っていったのだ。
「テメェ何するん…だ…ウボァー」
ブリッツボールを食らったチンピラがその場に倒れ込む。そして寝息を立て始めた。
これぞワッカ選手の特技の一つ「スリプルアタック」。ボールを当てた相手を眠らせる技である。
「ぐおぉ…」
と同時にもう一人のチンピラもその場に倒れ込んだ。見るとロングヘアの女の子がガントレットを両手に装備している。どうやらアレで殴り倒したようだ。
「おいお前達、早くここからずらかるぜ!」
「え、ええ…」
ワッカは二人の少女と共に路地裏を抜け出した。
「助けてくれてありがとう」
「あ、ありがとうございます」
少女達がワッカに礼を言った。
「いいってことよぉ!てか、見た感じ余計なお世話だったみたいだけどな!」
「そんなこと無いわ。あたしはエルゼ・シルエスカ。こっちが妹のリンゼ・シルエスカよ」
そう言ってロングヘアの少女、エルゼが自己紹介をする。
「リンゼ・シルエスカです。よろしくお願いします」
ショートヘアの妹、リンゼも頭を下げた。
「オレはワッカ。ユウ…」
ユウナのガードだ、と言おうとしてワッカは口を閉じる。この世界にユウナはいない。そもそもシンが討伐されたならば、ユウナにガードは必要無くなる。シンを倒しユウナにガードが必要無くなった後、果たして自分は何をしているのだろうか。
少し思案した後、ワッカは言葉を続ける。
「ビサイド・オーラカの選手兼コーチだ」
これでいいとワッカは思う。ユウナのガードに専念するためブリッツボールを引退した彼であったが、その後も「賞品に欲しいアイテムがある」と言うティーダの呼びかけに応じてちょくちょくブリッツボールを続けていた。シンを倒してビサイド島に帰った後はきっと地元のチームであるビサイド・オーラカに復帰していたことだろう。
「ビサイド・オーラカ?」
「センシュケンコーチ?」
双子の少女が聞き返す。
「何だ?ブリッツボール知らねぇのか?」
「知らないわ」
「聞いたこと無いです…」
ワッカは自分の失敗に気付く。ここはスピラとは違う異世界なのだ。当然、ブリッツボールなど存在しないだろう。
「あ~何て言ったら良いんだろうな、オレの故郷で流行っていたスポーツだ」
「ああ、そうなのね」
改めて異世界という環境の特異性に気付くワッカ。ここでは自分の常識は通用しない。もっと慎重に言葉を選んだ方が良いらしい。
「とにかく、助けてくれてありがとう。何かお礼がしたいのだけど…」
そう言ったエルゼに対し、ワッカは言葉を返す。
「それじゃあ、二人にお願いがあるんだなぁ~」
どことなく怪しい言い方になってしまったために、エルゼは少しワッカを警戒し始める。一方、リンゼはそうでは無く、目の前のワッカという男が良い人なのだろうと認識していた。恐らく今の言い方も彼なりにフランクさを示そうとしたのだろう、と考えた。
「実はオレ、ここから遠く離れた地域でシンって言う強大な魔物と戦っていてな…」
身の上話を始めるワッカ。無論、自分の現状をそのまま全部伝えることは出来ない。言っても信じてもらえないだろうと考えたからだ。だからといって全てを嘘で塗り固めた作り話をするのもダメだ。読み書きも出来ず所持金も0という現状を伝えるのに上手い作り話が思いつかなかったし、上手く行ったとしても後々ボロが出てしまうだろう。「オレさ、シンに近づきすぎて頭がぐるぐるなんだよな」というティーダの言葉を思い返す。彼もあの時苦労していたのだろう。
「どうにかシンを倒すところまではいったんだが、アイツは最期の力を使ってオレを遠くに吹き飛ばしちまったんだ。おかげでココがどこなのかも分からねぇし、文字も読めねえ。オマケに無一文ってわけなんだ」
「そうなの…」
「それは大変でしたね」
「だからさ、オレになんか、金になる仕事を紹介してくんねぇか?」
ワッカの頼みを聞き、顔を見合わせる双子の少女。何か心当たりがあるらしく「うん」と
「だったら丁度良いわ。私達と一緒にギルドに登録しに行きましょう!」
「ギルド…?」
また一つ、異世界の文化に触れることになるワッカなのだった。
ワッカの戦闘を少しですが書くことが出来ました。次回はもっと書けると思います。