異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~ 作:3S曹長
爵位授与式当日、
「この度は余の命を救ってくれたこと、誠に大儀であった。命の恩人たるそなたに爵位を授けよう」
「もったいないお言葉。しかし自分には冒険家稼業が合っています
いつものビサイド・オーラカのユニフォームとは違った正装に身を包み、らしくない丁寧な敬語でワッカは返答した。
ココだけ見たならば「頭でも打ったのではないか」と疑問に思う者もいるかもしれないが、単純な話、彼が授与式で発する言葉はこれだけなのである。彼はこのセリフのみを頭にたたき込み、授与式当日に臨んだのであった。
「そうか。ならば無理強いはすまい」
これにて授与式終了、のハズだった。しかしここで国王がアドリブをかましてくる。
「だがこのまま帰すのは、余の命の恩人に対して失礼だと思う。そこで、そなたには謝礼金と王都に屋敷を用意した。爵位の代わりに受け取って欲しい」
「…は?」
戸惑うワッカの前にお盆を持った使用人が現われ、お金が入った袋と屋敷の鍵、屋敷の間取り等々を渡してきた。
「…おい、これ、マジで貰って良いのか?」
「うむ。改めて、この度は大義であった。そなたのますますの活躍を期待しているぞ」
「よっしゃああ!!マイホーム、ゲットだぜ!!」
「これにて、爵位授与式を終了とする」
国王の言葉で授与式は幕を閉じた。
余談だが、この後参列者から「何なんだ、あの無礼な男は!?」「教えはどうなってんだ教えは!!」といった抗議の声が王城に寄せられることになり、国王が弁明及び後始末をすることになった。彼の勝手なアドリブが原因なのだから当然である。
ともあれ、国王の
「いやあ、国王も良いところあんじゃねえか!見直したぜ!!」
ワッカはすこぶる上機嫌である。
思えばビサイド島を出発してから今まで、宿での宿泊で夜を明かしていた彼には「帰るべき家」という概念がスッポリ抜けていた。不便があるわけでも無かったため、バルサ伯爵の事件解決後に国王から「何か欲しいものはないか」と聞かれた際にも「家」という答えは出てこなかったのだ。
そうは言っても「帰るべき家」がある安心感は
「というか、やっぱりやっちゃったわね、あんた…」
上機嫌なワッカに対し、エルゼが呆れた声を投げかける。
「しゃあねーだろ、こんなサプライズがあるなんて聞いてなかったし、あのセリフだけ覚えれば良いとしか言われてなかったしよぉ」
「まあ、後はお父様がなんとかしてくれますから。ワッカさん達は心配要らないと思います」
地図を見ながら先導するユミナが言った。王都の地理に一番詳しいのは彼女だ。
やがて一行は屋敷のある場所に到着する。
「すっげええへへええええ」
目の前の屋敷の大きさに、ワッカは驚きの声をあげた。
王都は大きな川によって、貴族の住む内周区と一般人が住む外周区に分かれている。ワッカが貰った屋敷は外周区の中でも特に立地の良い場所に建てられていた。爵位を辞退したので、外周区に建てられているのも、爵位を持つ貴族達の屋敷より小さいのも当然だが、それを加味しても圧巻の大きさであった。
「中々良い屋敷ですね」
ユミナが平然とそう言ったが、エルゼ、リンゼ、八重の三人は屋敷の大きさに言葉を失っていた。
「国王から貰った王金貨もあるし、家具とか買うのにも困んねぇだろ」
「「「王金貨!?」」」
平民女子三人が驚きの声をあげる。王金貨一枚は白金貨十枚分であり、ワッカはその王金貨を20枚貰っていた。
「そんな大金貰って、大きな屋敷も手に入れて…。もうギルドなんて行かなくていいじゃない」
「いや、そういうわけにもいかんだろ。怠けて体がぷにぷにになっても困るしよぉ」
ワッカは屋敷の門を開ける。芝生が生えた広い庭が屋敷の前に広がっていた。花壇と小さな噴水まで備え付けてあってバランスも良い。
屋敷の中に入ると、真っ赤な絨毯と二階へと続く階段が見える大きな玄関ホールが待っていた。
「いい屋敷ですね。気に入りました」
ユミナの発言にワッカが言葉を返す。
「けどよぉ、ちょっと広すぎねえか?5人で住んでもまだ余裕があんじゃねえか!」
「「「え!?」」」
いつもの女子三人がワッカの言葉に驚く。
「なあお前ら、三人で声揃えんの最近の
「いや、そうでは無く…。ワッカ殿、ひょっとして拙者達もここで暮らして良いのでござるか?」
「は?当たり前だろンなの」
ワッカは、そんなことを気にする意味が分からないとでも言いたげに言葉を返す。
「でも、この家って王様がくれたわけで、ユミナと暮らすための家なんじゃないの?」
エルゼが疑問を投げかけるが
「知らねえよ。んなこと一言も言われてねえし、条件とか言ってこなかった以上、どう使おうがオレの勝手だろうがよ」
とワッカが一蹴する。それでも不安そうな三人に彼は言葉を投げかける。
「家族同然の仲間で一緒に暮らすのは生活の基本だろ?」
この言葉を聞いた三人の顔が赤くなった。
「それにもし
三人は更に顔を赤くし、
「どした?チョーシ悪いんか?」
「あっ、あたし二階見てくるわね!」
「わた、私もっ、屋根裏部屋とか見てきます…!」
「せ、拙者はキッチンを見てくるでござる!」
そう言って三人は一斉に散ってしまった。
「なんだアイツら?屋敷の広さにやられたか…」
「そうじゃないと思いますよ」
ユミナがワッカに言った。
「私はワッカさんのお嫁さんになって、共に人生を歩んでいきたいと思っています。ですが私一人で独占する気も無いのでコレはコレで有り、ですね」
「急にどうした、ユミナ?」
「私、皆さんと話してきますね」
そう言ってユミナも走り去ってしまった。
「…まあこんな広い屋敷じゃ、はしゃぐのも無理ねえわな。オレ達も見に行くぜ、ビャクティス」
ワッカもビャクティスを抱いて屋敷の中を見て回る。風呂場や応接室、キッチン等立派なものだったが、備付けのモノは何も無かった。後で家具を買うのが大変だ、とワッカは思う。
一通り見終えた後でワッカは庭の芝生に寝そべっていた。屋敷の広さにやられたのは彼も同じだったらしく、見て回っただけなのに疲れを感じた。
「い~い屋敷だな~」
『私も気に入りました。ここで昼寝をしたら気持ち良さそうです』
ワッカの隣で寝そべりながらビャクティスが言った。
「そうか、ビャクティスも気に入ったか。アイツらも気に入ってくれると良いんだが…」
そんな彼の言葉に応えるかのように、女子四人が庭に集まってきた。
「おう、戻ったか」
彼は女子達に呼びかけたが、ユミナ以外の三人は顔を伏せたままである。
「どした、気に入らなかったか?」
「ねえワッカ、私達本当にここに住んでいいの?」
エルゼが問いかける。
「当たり前だろ?」
「後で、出てけ、とかその、言わないですよね?」
「この屋敷はオレのものだからお前らは宿に帰れ、なんてオレが言うと思うか?そんなこと言っちゃオレは、オレを許せねえよ。例え死んだってな!」
「ユミナ殿と…、その、一緒の扱いをしてくれるのでござるか?」
「おうよ。っつーか何だよ?オレってそんなに信用無いんか?」
不思議そうにするワッカを尻目に、ユミナが三人に話しかける。
「では皆さん、ここに住むということで。急ぐことは無いので、さっきの話は心の準備が出来てからということにしましょう」
「ええ」
「はい」
「分かったでござる」
「おい、何だよさっきの話って?」
「「「「秘密」」」」
「乙女の秘密ってヤツか?ワッカさんが可哀想だなー、ビャクティス?」
少しすねたようにビャクティスをなでるワッカだが、少女の秘密を追求するほど大人げない彼では無い。
「それでは、皆さんの部屋を決めましょうか」
「ちょっと待てよユミナ。こんなデカい屋敷、オレ達だけで管理出来んのか?」
「無理でしょうね。ですから、人を雇いましょう。私に当てがあるので任せて下さい」
「本当か?助かるぜユミナ!」
こうして使用人の件は彼女に任せることになった。
数日後、注文していた家具類の準備が整い、屋敷に引っ越す日がやってきた。お世話になった「銀月」の従業員に別れを告げ、ワッカ達は「ゲート」で屋敷に到着する。
「うし!家具の搬入を手伝うぞ、お前ら」
ワッカ達が業者と共に家具の搬入を行っていると、屋敷のベルが鳴った。
「あ、私が呼んだ使用人達がやってきたみたいですね」
そう言ってユミナは屋敷の扉を開ける。彼女の言うとおり、来訪者はこの屋敷で働くことになる使用人達であった。
使用人は7人おり、一人の高年男性が代表としてワッカ達に挨拶する。
「この度、こちらの屋敷の家令を務めることになりましたライムと申します。お見知り置きを」
「じいやはお父様のお世話係を長年勤めてきた者です。家令には申し分ないですよ」
ユミナが付け加えた。
「はえー、そんな人がどうしてウチに?」
「いえ、寄る年波には勝てず、役目を息子に譲ることになりまして…。ですが姫様からお誘いを受け、弟の命を救って下さった方に仕えるなら本望だということで、こちらでお世話になることにいたしました」
「弟?」
「はい。弟の名前はレイムと申します」
「ああ!公爵家の執事か!確かに助けたなぁ。えっと、ライム?あれ、レイム?」
「私はライムです」
「ああ、ああ、上が『ラ』で下が『レ』か!ややこしいな」
最後の言葉は小声で言ったワッカだったが、ライムにはしっかり聞こえているようだった。
「時間をかけて覚えて下さい。それでは旦那様、他の方々もご紹介いたします」
「旦那様って、オレだよな?」
「もちろんでございます。では右の方から」
そう言ってライムの使用人紹介が始まる。
「彼女たちはラピスとセシル。メイドです」
「メイドギルドから参りました。ラピスと申します。よろしくお願いいたします」
「同じくメイドギルドから参りましたぁ。セシルと申します~。よろしくお願いします~」
二人のメイドが挨拶する。ラピスは黒髪のボブカットで真面目な印象、セシルは明るい茶髪でホワホワした印象の女性だった。
「続いて庭師のフリオと調理師のクレア。彼らは夫婦でございます」
「庭師のフリオと申します」
「調理師のクレアです。よろしくお願いします」
二人は二十代後半くらいの男女で、金髪の男性がフリオ、赤毛の女性がクレアだ。
「最後になります、こちら二人はトマスとハック。彼らには屋敷の警護を行って貰います」
「トマスです。以前は王国重歩兵をしとりました」
「ハックです。元王国軽騎兵です」
二人が挨拶した。自己紹介の通り、トマスは大柄の男性で、ハックは小柄な男性だった。
「以上になります。トマスとハックは王都に家がございますので、そこから通うことになります。残りの5人ですが、こちらの屋敷に住み込みという形を取らせて欲しいのですが、構いませんか?」
「レイじゃねえライム、ラ?えとメイド二人、あと~夫婦がこの屋敷に住むんだな。構わねえぜ。まだまだ空き部屋はあるからな!」
名前を覚え切れていないワッカだったが、とりあえず了承しておく。
「ありがとうございます」
「おう!これからよろしく頼むぜ!」
ワッカが7人にサムズアップする。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「「「「「「よろしくお願いいたします」」」」」」
代表のライムに続いて、使用人全員が挨拶した。
「早速なんだけどよ、家具運ぶの手伝ってくんねえか?」
「「「「「「「かしこまりました」」」」」」」
ワッカの指示で使用人全員が家具の搬入を手伝いに向かった。
「こいつぁ心強いぜ」
「じいやに任せておけば問題ありませんよ。伊達に何年もお父様のお世話係を務めてませんから」
「賑やかになりそうだぜ。さ、オレらも手伝いに行くぜユミナ」
「はい。ワッカさん」
心強い使用人が集まり、安堵するワッカなのだった。
名探偵ワッカ編終了です。
次回からはミスミド王国編です。龍との激闘、獣王との決闘、そして「いせスマ」ヒロインの中でダントツの人気を誇る
アニメでライム、ラピス、セシル以外の使用人が名前すら紹介されないモブ扱いされてて笑った。確かに重要人物じゃないかもしれないけどさぁ…。というか実際の所、あの四人は原作通して見ても、どうでもいいモブなんですかね?全部読んでるわけじゃ無いので分かんないっす。アニメ範囲なら確かにライムとラピスとセシルを覚えておけば問題ないわけだが。