異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~ 作:3S曹長
獣王からの再戦要求を受け、ワッカは呆れたように言葉を返す。
「おいおい…。アンタ、勝ち負けには
「そういう以前の問題だろ!だいたい、さっきの技は何なのだ!?」
「あー、アレは『スリプルアタック』つって、攻撃した相手を眠らせる技っす」
「いやいや、そんなの無しだろ!」
「無しじゃねえだろ!
「そ、それは…、それは…」
しばらく口ごもっていた獣王だったが
「本当にそのボールで黒竜を討伐出来るのか知りたかっただけだ!今度は本気の本気だ!だからもう一戦!!」
と素直に開き直った。
「まさか、オレが勝つ度に『もう一戦!!』って言って、オレがへばるのを待つ作戦じゃないだろうな?」
「そんなことはしない!今この場でミスミド王国の王として約束する!あと一戦だけだ!!」
普通に聞くと単なるワガママにしか聞こえない獣王の発言だが、実は今の発言は彼にとって非常に重要な
それを理解してか、宰相のグラーツがワッカに近づきお願いをする。
「ワッカ殿、済まないがもう一戦だけお願いできないだろうか?もしまた陛下がワガママを言うようなことがあれば、その時は
「むむ…」
一方のワッカも、先程の勝ち方は良くなかったと考えを改め始めていた。仮に自分が獣王の立場だったとしても、あんな負け方をしてしまっては納得出来ないだろう。それにここで再戦を断って、獣王の機嫌を損ねても面倒である。今度はしっかりと戦ってあげて、それでもワガママを言うようならばハッキリ断れば良いだけの話だ。
「分かったよ!確かに、さっきの終わり方じゃあ煮え切れねぇよな?もう一戦やってやる!」
「本当か?恩に着るぞ、ワッカ殿!」
「フフフ、それでこそ
ワッカの言葉を聞き、機嫌を良くする獣王だったが
「ただし、さっきの技は無しだ!良いな!?」
と追加の注文をしてきた。
「陛下!?それはさすがに…」
「いいぜ!『スリプルアタック』無しで戦ってやらぁ!」
「そのいきだ!」
「ただし、お互い真剣勝負!勝っても負けても恨みっこ無しだ!良いな、獣王様よ?」
「うむ!約束しよう」
二人は熱い男の約束を交わし、再び戦闘態勢をとる。
「始め!」
審判の試合開始の合図と共に、今度は獣王が打ち込んでくる。
「でやぁ!」
相手の急接近に、ワッカもブリッツボールを投げる暇が無く、木の盾で攻撃を受けることにする。
「中々、力強ぇじゃねえか?」
「そうだろう?だが、儂の実力はこんなモノでは無いぞ!」
「へえ…、そいつぁ楽しみだ、なっ!!」
ワッカが盾で獣王をはじき、距離を取る。
「行くぞ。アクセル」
瞬間、獣王の姿が目の前から消えた。
「な!?ヘイスガ!」
ワッカは反射的に
彼の判断は正しかった。「ヘイスガ」のお陰で、背後から一撃を当てようとしていた獣王に気付くことが出来た。
「ぬおっ!?よく儂に気付けたな?」
攻撃を盾で防がれた獣王が驚いた。
「へへっ、
そう言葉を返し、盾で弾いて再び距離を取る。
「今の、速度上昇の無属性魔法っすね?」
「ご名答。身体の素早さをあげる儂の無属性魔法だ。動いている最中は身体に魔法障壁も発動するので、常時発動は出来ないがな。この速さに普通の人間なら反応できないハズなのだが…、ワッカ殿も同じような魔法が使えるとはな」
「まあ、オレのは『ヘイスガ』っつーんですけど」
「魔法名など何でも良い。やはり戦いというのはこうでは無くてはな!アクセル!」
獣王が再び
獣王が攻める。ワッカが守る。獣王が攻める。ワッカが守る。一見ワッカは防戦一方のようだが、そうでは無い。最も、お互い速度上昇の魔法を使っている二人の攻防を、観客席にいる皆は眼で追うことが出来ていなかったが。
実は、ワッカは決着を付けようと思えば、いつでも付けられる状態にあったのだ。方法の一つとしては獣王の使っている「アクセル」を自分も使うことだ。そうすれば「ヘイスガ+アクセル」状態のワッカの方が速く動けるようになる。
もう一つ方法を挙げるなら、相手の速度を下げるスピラの呪文「スロウ」を使うことだ。これで獣王の速さを下げれば、やはりワッカの方が速く動けることになる。
しかし、この二つの方法はどちらも「ワッカが3つ以上の無属性魔法を使える」ということを大勢の前で示してしまうので避けたいところだった。
「どうした?防いでいるだけでは勝てないぞ!」
獣王がそう言いながら攻撃を仕掛ける。ワッカはあえて盾で防がず、横に跳んで避けた。そして剣を握る獣王の右手に狙いを付ける。
「そらっ!!」
「ぐおぉ!?」
ワッカの投げたブリッツボールが獣王の右手に直撃する。痺れるような衝撃を感じ、獣王は思わず剣を手放してしまった。
ワッカは盾を放り投げ、地面に落ちた剣に向かって飛び込む。キャッチしつつ一回前転、そして拾った剣を獣王に突き付けた。
「オレの勝ち。何で負けたか明日までに考えといて下さい」
「フフフ、考えずとも分かるわ。ともかく、儂の負けだな」
獣王の言葉を耳にし、審判が高らかに勝者を宣言する。
「勝者、ワッカ殿!」
こうしてワッカVS獣王の戦いは、ワッカの勝利で決着が付いた。
「儂は、自分の無属性魔法にどこか自信を持ち、思い上がっていたようだ。儂の他に同じような魔法を使える者がいるとは思いもせなんだ。加えて言えば、お主の最後の攻撃。儂の右手に命中させる正確さ、そしてあの衝撃…。『スリプルアタック』の時は手加減していたのだな?」
「ま、まあ、一応王様が相手だったからよ。何かあっちゃいけねぇってんで手加減してたんだが…。勝負に真剣なアンタの姿を見て、本気でやった方が良いって思い直したんだ」
「そうであったか。とにかく、良い試合だった。礼を言うぞ、ワッカ殿」
「こっちこそ、久しぶりに楽しく汗を流せたぜ。ありがとうな、獣王様」
二人の握手により、闘技場での試合は幕を下ろしたのだった。
その夜、宮殿内でオリガ大使の帰還祝いや、ユミナ王女の歓迎会としての意味が含まれたパーティが催された。
ワッカはミスミド王国の正装に着替えさせられたのだが、意外と着心地が良く、快適にパーティーを楽しんでいた。
「やあ、ワッカ殿。似合っていますね、その衣装」
ミスミドの正装では無く、燕尾服に身を包んだリオンがワッカに話しかけてくる。
「おう、リオン。お前はこの服じゃねえのな」
「ええまあ。それで、その、オリガ殿はどこですかね?」
「さあ?知らねえな。ってか、なんでソワソワしてんだよ?
「え?い、いやあハハハ」
笑って誤魔化すリオンの後ろから、アルマもやって来た。彼女の後ろには恰幅の良い、白い髭の紳士がいる。白髪交じりの頭から生えたケモミミや尻尾は、白髪交じりのキツネのモノだった。
「初めまして、ワッカ殿。アルマの父のオルバと申します」
白髪交じりの紳士、もといオルバが挨拶する。
「ども、ワッカっす」
「べっ、ベルファスト王国第一騎士団所属、リオン・ブリッツでありましゅ!」
「おい、噛んでるぜ?」
ワッカとリオンも挨拶を返した。
「娘達を護衛して頂き、本当にありがとうございました」
「なぁんの、気にすんなって。こっちも色々楽しかったしよ!」
「ごご、護衛が我々の任務でしゅから!」
「なあ、キャラチェンしたのかお前?でも語尾が『でしゅ』ってのはちょっとなぁ…」
ワッカはリオンにツッコミを入れつつ、オルバに話題を振る。
「アンタ、仕事は何を?」
「私は交易商をしております。ベルファストからも色々と良いものを仕入れさせて頂いておりますよ」
オルバが笑顔で答える。
「そうだ、ワッカ殿。娘…オリガから聞いたのだが、道中面白い遊びをしていたそうだね?オーバー…何とか?」
「ああ。『オーバードライブ・リール・カードゲーム』だな」
「そう、それだ。あれはどういった遊びなのだね?」
「いやまあ、オレが考案したカードゲームなんすけど、色々な遊びが出来るんすよ。そうだ!」
ワッカがポンと手を叩く。
「1セットプレゼントするんで、娘さん達とどすか?」
「本当ですか!?これはありがたい」
「明日にでも届けるんで…、って明日はアイツらと一緒に観光する約束してたんだったっけな」
「で、では!私が届けましょう!」
リオンが申し出た。
「おお、マジか?じゃ、頼むぜ。明日お前に渡すからよ」
そんな会話をしていると、会場が急にざわめき始めた。ざわめきの元へ行ってみると、獣王とオリガ大使とユミナの主役三人が会場に入ってきたところであった。
ユミナの側には、エルゼとリンゼ、八重の三人もいた。四人はそれぞれミスミドの正装に着替えており、
「おう、ワッカ殿。なかなか似合ってるじゃないか。ミスミドの貴族と言われてもおかしくないぞ」
「そすか?ハハハ」
獣王とワッカが会話している横で、リオンがドレス姿のオリガに見とれていた。彼女の髪には、どこかで見たような花の髪飾りがしてあったのだが、もちろんワッカは気付いていない。
「似合ってますよ、ワッカさん。素敵です」
ユミナが獣王に続いてワッカを褒めた。
「うん、バッチリじゃない?」
「…いつもと、違う魅力があります」
「かっこいいでござるよ、ワッカ殿」
他三人も口々に褒めるのでワッカも
「おう、ありがとよ!お前らも似合ってるじゃねえか!」
とサムズアップで返す。
「うし!皆揃ったし、今日はとことん楽しむぜ!」
「拙者もたくさん食べるでござる!」
「八重の『たくさん食べる』はシャレになんないのよね…」
「ワッカさん、私が食べ物取ってきますね?」
「ずるいですよユミナさん!私も行く、です!」
こうして楽しい時間は過ぎていくのだった。
数十分後、調子に乗って食べ過ぎたワッカは、一休みするため会場の外に出た。
「ぶふっ、食い過ぎたぜ。いやいや、八重じゃあるめえしよ…」
ウワサの八重は未だに大食いを続けているのは別の話。とにかく、腹の苦しさをどうにかしようとワッカは、廊下にあったソファに腰掛ける。
「いやあ、食いモンも美味かったし、来てよかったぜぇ…」
ぼーっと、何も無い廊下の向こうを眺めるワッカ。そんな彼の目に、ある異物が映った。
「ん?何だ、疲れてんのか?」
ゴシゴシと目を
「……は?」
ワッカが言葉を失う。彼の前に立っていたのは、立って動くクマのぬいぐるみだった。
次回、「異世界はスマートフォンとともに。」で最も人気のある
と言っても、ミスミド王国編では触り程度の登場なのですが。