異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~   作:3S曹長

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 第32話「妖精師匠、そしてプログラム。あとブリッツボール。」の後書きにて情報提供の呼びかけをしたのですけども、情報は、何一つ、来ませんでした(ガチャッ)。何一つ来ることは無かったですぅぅぅぅぅ。残念ながら、はい。
 というわけでアニメ一期の8話であった、リオンとオリガ大使のデートをストーキングする話はカットして、今回の話をもって「ミスミド王国編」を終了することにします。
 自転車の話ももちろんカットします。スピラに自転車は無さそうなので。


新雇用人、そしてペンダント。あとブリッツボール。

 ジョギングはワッカの日課である。ブリッツボール選手として、ユウナのガードとして、そしてこの異世界では冒険家として、体力作りは欠かせない。

 この日もワッカは、ベルファスト王国の王都の外周区を一周するジョギングを行っていた。

 ワッカ達の住む屋敷は外周区の西区にある。西区は貴族以外の比較的裕福な人々が住む区域である。一方、商業区である南区を挟んだ向こう側の東区は、普通の人々が住む住宅街である。しかし中には治安が悪い部分も存在し、働き場所を失った者や孤児がいるスラム街のような場所もあった。

 そんなことは気にもせず、ワッカは東区でジョギングの真っ最中であった。そんな彼の耳に子供の悲鳴が聞こえた。

 

「あん?今の声は…?」

 

ワッカは悲鳴が聞こえた方向に足を向ける。彼が向かった先は、日の光が余り差し込まない薄暗い路地裏だった。人目に付かず、いかにも悪人が徒党を組んでいそうな場所である。

 そこでワッカが目にしたのは、男の子の胸ぐらを大人の男が掴んでいる場面だった。側にはもう1人、大人の男が立っている。大人2人組に脅されている男の子は、ヨレヨレのジャケットとズボンを身につけており、キャスケットをかぶっている。身につけていた物はどれも薄汚れていた。

 

「おいレネぇ!大声出すんじゃねえよテメエ!」

 

「またオレ達の縄張りで仕事(スリ)しやがったなぁ?テメエのお陰で警邏(けいら)が厳しくなっちまったじゃねえかよ!」

 

「ご、ごめんなさい、もうココでスリはしないから…」

 

「もう遅いんだよ!同業者のよしみで指一本で目をつぶってやる…」

 

そう言って男がナイフを取り出し、男の子の目の前に突き付けた。

 

「い、いやあああぁぁぁぁ!!」

 

「何やってんだお前ら!!!」

 

 男達の蛮行を止めに入ったのはもちろん、我らがワッカさんである。

 

「なんだテメエはぁ?邪魔すんじゃねえよ、殺すぞ?」

 

「おい!言葉をつつしめよ」

 

ワッカは男達に近づいた。

 

「大体、子供がナイフで切られそうな場面を見て黙っていられるワケねえだろ!教えはどうなってんだ教えは!!」

 

「あん、レネは泥棒だぞ?お前、泥棒を(かば)おうってのか?」

 

「話を聞く限り、お前らも泥棒じゃねえかよ」

 

「ほ~う、そうかい。そこまで分かってんなら、生かしておくワケにはいかねえなぁ?」

 

「覚悟しろよテメエ!」

 

そう言って男2人組がナイフを手にして襲いかかってきた。ワッカは2人の攻撃を軽々と避け、恒例のスリプルアタックを喰らわせた。

 

「ぐはっ…ぐぅ…」

 

「ごっ…スヤア」

 

 地面に突っ伏して寝息を立て始めた2人を確認し、ワッカは男の子に声をかける。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん…。助けてくれて、ありがとう」

 

「礼はいらねえよ。レネっつったな?泥棒してんのか?」

 

「………」

 

 沈黙を肯定と受け取り、ワッカは注意を促す。

 

「いいか?お前が泥棒すっとな、物を取られた人は困るんだ。さっきみたいな危険な目にも会っちまう。もう泥棒はすんじゃねえぞ!分かったな?」

 

「うん…。分かった…」

 

「ならば良し!じゃあな、元気でやれよ」

 

ぐうううぅぅぅぅぅぅ

 

 立ち去ろうとしたワッカの耳に異音が聞こえてきた。レネの腹の虫が鳴いたのである。

 

「なあんだ、ハラヘリかあ?」

 

「もう三日食べてない……」

 

そう言ってレネはしょんぼりと俯いた。腹を空かせた子供を見て、何もせずにその場を立ち去ることが出来るワッカでは無い。例え相手が泥棒を働いていたとしても。

 

「おっし!町行くぞ、何か食わしてやる」

 

「ホント!?」

 

「おう!オレに付いてこい!」

 

ワッカの言葉を聞き、レネは嬉しそうに彼の元へと駆け寄ってくる。

 その時、はずみでキャスケットがずれ、レネの長い髪が(あら)わとなった。

 

「お前、女の子だったのか!?」

 

「そうだよ…?」

 

「まあ、いいや。行くぞ!」

 

 こうして2人は汚い路地裏を抜け、明るい町へと足を踏み入れた。

 

「なあなあ、兄ちゃん。なに食わせてくれるんだ?」

 

「そーさなぁ…。まあまず、空きっ腹にいきなりガツンと行くのはキツいだろ?腹に入れやすいモノ食って、それからガツンとだな」

 

「へえ、兄ちゃんって色々考えてくれてんだな」

 

「だろぉ?」

 

 言葉通り、ワッカは最初にギルド近くの屋台で魚介のスープを購入し、レネに飲ませてあげた。彼女は受け取った熱々のスープを少しずつ飲み始める。

 

「舌、火傷すんなよ?ソレ飲んでる間に別のモン買ってきてやる」

 

そう言ってワッカは、予め目を付けていた別の屋台へと足を運び、串焼きを4本ずつ買ってきた。

 その後2人は近くの公園へ向かい、ベンチに座りながら串焼きを口にした。

 

「どうだ、美味いか?」

 

「うん!ありがとな、兄ちゃん」

 

 レネはワッカに感謝の言葉を言いつつ、三日ぶりの食事をガツガツと腹に入れていく。

 

「なあ、レネはどこに住んでんだ?」

 

「決まってない。公園で眠ることもあるし、路地裏の時もある。前は父ちゃんと宿屋で寝てたんだけどな」

 

「その父ちゃんは?」

 

「1年前、魔獣討伐に行ったまま帰ってこなくなった。父ちゃんは冒険者だったんだ…」

 

レネが悲しそうに答える。

 ワッカのパーティは全員が腕利きであるため危機感を感じにくいかもしれないが、本来魔獣退治の依頼は命懸けの仕事である。魔獣に返り討ちに遭い、命を落とす者も少なくない。ソロの冒険者の場合は、そのまま行方不明扱いとなってしまうのだ。

 辛い答えを言わせることになるだろうとは思いつつも、ワッカは次の質問をレネに投げかける。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「母ちゃんとか、他の親戚はいねえのか?」

 

「母ちゃんは、あたしを産んですぐ死んだって父ちゃんが言ってた。他の親戚とかは知らない」

 

「そうか…。よく今まで1人で生きて来れたな」

 

「町で仲良くなった旅の婆ちゃんがスリのやり方を教えてくれたんだ。悪いことだってのは分かってたけど、お腹が空いて仕方なくって…」

 

「そうか、よく頑張ったな」

 

 ワッカはレネの頭を撫で始めた。

 

「スリなんてしてたのに、褒めてくれんのか…?」

 

「勘違いすんなよ?スリを褒めてんじゃねえ。()()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

ワッカは優しく答える。

 

「スリは悪いことだってのは知ってたんだな?」

 

「うん…」

 

「聞けてよかった」

 

そんな会話をしている内に、2人とも串焼きを食べ終わっていた。

 レネの境遇を知ったワッカは、彼女に新たな道を示してあげることに決めた。

 

「レネ、オレの屋敷で働かねえか?」

 

「えっ?」

 

「オレの屋敷で働いてくれんなら、腹を空かせる心配もねえし、安心して眠れる場所も用意してやる。給料だって払ってやるぞ」

 

「ホントに…、ホントに働かせてくれるの!?」

 

「ただし!条件が二つある」

 

 ワッカは真剣な口調でレネに言い聞かせる。

 

「一つ!しっかり仕事をすること。二つ!もう二度とスリはしないこと。この二つを守れねえんなら、お前を働かせることは出来ねえ。どうだ、守れるか?」

 

指を一本ずつ立てながら、条件を提示した。

 

「うん!ちゃんと働くし、二度と盗みもしないよ!」

 

「うし!良い返事だ!じゃ、オレの屋敷に向かうか」

 

ワッカはレネを自分の屋敷へと連れて行く。場所を覚えて貰うために、「ゲート」は使わずに歩いて向かう。

 

「あれがオレの屋敷だ」

 

 ワッカが指で指し示した屋敷を目にしたレネは、その大きさに感嘆の声を漏らす。

 

「大きいな…」

 

「だろぉ?」

 

「ひょっとして兄ちゃん、貴族様なのか?」

 

「いいや、貴族じゃねえ。お前の父ちゃんと同じ冒険者だ」

 

屋敷の門前には警備のトムが立っていた。

 

「おや、お帰りなさいませ、旦那様」

 

「おう、お疲れさん、トム」

 

「旦那様が門からお帰りとは珍しいですな。いつもなら魔法で直接お帰りになるのに…」

 

「まあ色々あってな。入るぜ」

 

 ワッカはレネを連れて屋敷の中に入る。玄関ホールではラピスが掃除をしている最中だった。

 

「あら?旦那様、お帰りなさいませ。玄関から入ってくるとは珍しいですね?」

 

「おう。ラピスも()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ええ、はい…」

 

そう言ってラピスは、ワッカの後ろに隠れていたレネに目を向ける。

 

「その子は…?」

 

「コイツはレネっていってな…、ってコォラァ、恥ずかしがらずに挨拶しな?」

 

「うぁ……レネ、です。よろしく、です……」

 

町での様子とは打って変わって、レネはおずおずと挨拶する。

 

「で、ライムさんはどこに?」

 

ワッカがラピスに問いかける。

 

「リビングにいるユミナ様へ紅茶を持って行きましたよ。セシルもリビングで掃除をしていたハズです」

 

「おお、丁度良いじゃねえか。全員ココに呼んできてくれねえか?」

 

「かしこまりました」

 

ワッカの命を受け、ラピスはリビングへと向かった。

 ワッカが「丁度良い」と言ったのは、ユミナが人の質を見分けることが出来る魔眼の持ち主だからだ。公園でのレネの話が、本当は同情を誘うための真っ赤な嘘だったとしてもワッカには分からない。しかしユミナならば、レネが本当に()()()なのかが分かるのだ。

 時間をかけずに、ラピスが3人を連れてきた。

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

 

「お帰りなさいませ~、旦那様~」

 

「お帰りなさい、ワッカさん!あれ?その娘は…」

 

「ああ、実はな…」

 

 ワッカは3人に、今日の出来事を語り聞かせる。

 

「…つーワケなんだ。ユミナ、どうだ?」

 

話を聞きながら、レネの顔を見ていたユミナが答える。

 

「大丈夫ですよ、ワッカさん」

 

無論、彼女はワッカの質問の意図(いと)を分かっていた。

 

「うし、第一関門は突破だな。後はライムさんがどう言うか…」

 

 ワッカに顔を向けられたライムが口を開く。

 

「事情は分かりました。ですが、中途半端な考えで仕事をされては迷惑です。レネと言いましたね?」

 

「う、うん…」

 

「本当にこの屋敷で働きたいと思っていますか?失敗したり、私達使用人に迷惑をかけたり、そのことは構いません。その失敗から学び、逃げ出さないと誓えますか?」

 

ライムは真剣な表情で、レネの眼を見つめながら問いかける。決して厳しい口調では無いが、内容は甘くなかった。「おい!言葉をつつしめよ」と言いたくなるワッカだったが、そもそもは自分が無理を言ってレネを働かせようとしているのだ。ライムに迷惑をかけているのは重々承知しているので、黙って様子を見ることにした。

 

「……うん。あたし、ココで働きたい!ワッカ兄ちゃんのところにいたい!」

 

 ライムの射貫くような視線から目を離さず、レネは勇気を振り絞って答えた。彼女の答えを聞き、ライムは微笑んだ。他の4人も自然と笑顔になる。

 

「セシル、レネを浴場へ。隅々まで洗ってやりなさい」

 

「は~い。レネちゃんおいで~。お風呂入ろうね~」

 

 ライムの指示を聞いたセシルがレネを風呂場に連れて行く。

 

「ラピスはあの子に合う服を何着か買ってきなさい。新しいメイド服の注文も忘れずに」

 

「かしこまりました。行って参ります」

 

「では、その間は私の服を着せてあげることにしましょう。風呂場に持って行ってあげますね」

 

ラピスは外に、ユミナは自室へと向かい、その場にはライムとワッカだけが残された。

 

「悪かったな、ライムさん。無理言っちまってよ」

 

 ワッカがライムに謝罪する。

 

「問題はございません。旦那様にも紅茶をお持ちしましょう。リビングにてお待ちください」

 

「わ、わりいな…」

 

一切怒りもせず平然と言葉を口にするライムを見て、ワッカはホッとする。ライムはあの国王の世話人を長年勤めていたのだ。このくらいの唐突な提案は慣れっこなのかもしれない。

 ワッカはリビングのソファに座りながら、先程までの自分の行いを振り返る。思えば、東区には親のいない子供が他にもたくさんいるのだ。自分の境遇と重なって見えてしまうとは言え、その全員をレネと同じような扱いにしてあげることは不可能だと彼は思った。

 孤児院を開く、などという考えも湧かないワケでは無かったが、彼は世話好きではあるものの、子供の扱いが上手いとは思っていない。第一、そういうことは爵位を持った貴族が行うべきことであり、爵位を辞退した自分が出る幕では無いのだろう。

 次同じような場面に遭遇した場合は、黙って見過ごすべきなのかもしれない。屋敷で働く使用人達や、一緒に生活しているユミナ達のためにも…。

 そんなことを思いながら、ライムが持ってきた紅茶を飲んでいると、ドタドタと賑やかな足音が近づいてきた。

 

「ワッカ兄ちゃん!虎だ!虎の子がいるぞ!」

 

 バスタオルを体に巻いただけのレネが、ビャクティスを抱いてリビングに駆け込んできた。

 

「おい!なんでちゃんと服を着てねえんだよ?教えはどうなってんだ教えは!!」

 

「も、申し訳ございません~、旦那様~」

 

『あ、主~!この童女はいったい!?』

 

こうしてワッカの熟考はどこかに吹き飛ばされてしまった。

 

「旦那様~、レネちゃんがこれを持っていました~。預けておきますね~」

 

 レネを風呂場に連れ戻そうとしたセシルが、ワッカにペンダントを渡してきた。

 

「このペンダントは?」

 

「父ちゃんと母ちゃんの形見だよ。それだけは大事に持っていたんだ」

 

そう言ってレネは風呂場へと連れ戻されて行った。

 

「つか、なんでセシルはこのペンダントをオレに?」

 

「旦那様、そのペンダントを見せて貰えますか?」

 

 ライムの言葉を受け、ワッカはペンダントを手渡した。

 

「ふむ、グリフォンと盾、それに双剣と月桂樹の紋章…。このような紋章を持つ貴族はベルファスト王国には存在しません。グリフォンの紋章が多いと言えば帝国ですな」

 

「帝国…?パラメキア帝国っつったっけ?」

 

「いえいえ、ベルファスト王国の東に位置するレグルス帝国でございます。二十年前の戦争以来、ベルファストはレグルス帝国と不可侵条約を結んでおりますが、正直なところ友好的とは言えない状況にあります」

 

「ああ、なんかそんな話を聞いたことがあったな~。どこでだっけ?」

 

 答えは「国王暗殺事件の時に、王城に向かう馬車の中で公爵から聞いた」なのだが、幾ら考えても、ワッカがその答えに辿り着くことは出来なかった。




 次回から「神国イーシェン編」に入ります。お楽しみに。
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