異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~   作:3S曹長

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 今回から「神国イーシェン編」がスタートします。この章では少しオリジナル要素を付け加えようと思っています。
 この章を加えて、残すところあと2章となりますので、よろしくお願いします(アニメ一期の範囲ですから)。


神国イーシェン編
恐怖の詮索、そして大人の約束。あとブリッツボール。


 その来訪者は突然やって来た。

 ある日、リビングにいたワッカにライムが報告をした。

 

「旦那様、お客様が来ております」

 

「公爵か?」

 

「いえ、妖精族のリーン様です」

 

「は?」

 

ワッカの顔が青ざめる。

 リーンと言えば、ミスミドの宮殿で出会った妖精族の長であり、ベルファストの宮廷魔術師シャルロッテの師匠でもある少女、否、自称612歳の女性である。彼女の使う「プログラム」という便利な無属性魔法を彼女の前で試してみたところ、ワッカの特異性を怪しまれてしまったのだ。さらにはワッカに対し、自分の弟子になるよう迫ってきた。

 

「いかがなさいましょう?」

 

 ライムがワッカに問いかける。

 嫌な予感しかしなかったが、追い返すのはそれはそれで面倒なことに繋がりかねない。とりあえずは、彼女から来訪の目的を聞くのが一番だろうと判断した。

 

「通して…、いや、オレが直接出向こう」

 

「かしこまりました」

 

意を決して、ワッカは玄関へと向かった。

 

「こんにちは」

 

 扉を開けると、最初会った時と同じゴスロリ衣装を着たリーンが立っていた。しかし、その時とはどこか違う雰囲気も感じたのだが、ワッカにはその正体がよく分からなかった。足下にはクマのぬいぐるみのポーラも立っており、「こんちゃす!」とでも言いたげに右手を挙げて挨拶のポーズをした。

 

「リーン…、ポーラも一緒か…」

 

「あら、覚えていてくれたのね。私の弟子になる気になったのかしら?」

 

「断るっつっただろ?」

 

「あら、残念」

 

「まさか、勧誘しにここまで来たんじゃないだろうな?」

 

「違うわ。『確認』、『報告』、あと『お願い』ね」

 

リーンは指を曲げながら、不穏なワードを3つ口にする。

 

「わ、分かったよ。とりあえず入ってくれ」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

こうしてリーンはワッカの屋敷へと足を踏み入れた。

 応接室へと向かう途中、女性陣4人がワッカの元へとやって来た。

 

「ワッカ?公爵以外のお客さんが来たって聞いたけど…」

 

「ああエルゼ、リーンって言うんだ。妖精族の長で、こう見えてもオレらよりもうんと年上なんだからな」

 

「妖精族…?でも、羽根が生えていませんけど?」

 

ユミナはそう言いながら、リーンを不思議そうに眺める。彼女の言うとおり、最初に会った時には背中に生えていたはずの羽根が、今のリーンには生えていない。先程感じた違和感の正体はこれだったのか、とワッカは納得する。

 

「羽根は光属性の魔法で見えなくしてるの。この国だと目立つでしょ?」

 

何てことは無いと言いたげに、リーンが答える。

 応接室のソファに腰掛けた6人に、ライムが紅茶を持ってきた。

 

「ありがとう。でも、ポーラの分は持ってきてくれなかったのね?」

 

リーンの言葉に合わせるかのように、ポーラが残念さを表すように頭を抱える仕草を取った。

 

「あ…、これは失礼をいたしました。ただ今お持ちいたします」

 

クマのぬいぐるみに紅茶という、不可解な要望を聞いたライムは一瞬だけ戸惑ったが、すぐさま元の冷静さを取り戻し、キッチンへと帰っていく。

 

「リーン、どうしてココが分かったんだ?」

 

 ワッカが最初に質問をした。

 

「シャルロッテから聞いたのよ。私はあの子の師匠だったって話、したでしょう?」

 

「え?あのシャルロッテ様の師匠、なんですか?」

 

リンゼが驚きの声を漏らす。

 

「ええ。あの子から全部聞いたわよ?毒殺されかけた国王を救って、その事件を解決して。その結果、そこにいるユミナ王女に結婚を申し込まれて、今はお試しの期間中だって」

 

リーンはユミナとワッカを交互に見ながら話す。

 

「ま、まあそういうことなんだが…」

 

「し、失礼しますっ!」

 

 ワッカの言葉を遮って応接室にやって来たのは、メイド服を着たレネだった。隣にはセシルが付き添っている。

 

「ポーラさんへのお紅茶、お持ちしましたっ!」

 

レネはギクシャクとした動きで、ポーラの前に紅茶の入ったカップを置いた。

 彼女は現在、ワッカの屋敷で使用人達のサポート役として働いている。毎食の前後には厨房でクレアの手伝いをし、それ以外の時間はラピスとセシルの手伝いをしているのだ。

 リーンとポーラはレネが働くようになってから初めてのお客様である。緊張するのも無理は無かった。

 

「おう、よくやれたなレネ?」

 

「は、はい、ご主人様!」

 

 屋敷に来た時はワッカのことを「兄ちゃん」と呼んでいたレネだったが、屋敷で働くようになってからは、ワッカのことは『旦那様』と呼ぶようにライムから徹底されている。

 

「失礼しましゅ」

 

 最後の言葉を噛みながら、レネとセシルは応接室を後にした。

 

「随分と小さい子を雇っているのね。あまり接客になれていないようだけど?」

 

リーンが応接室の扉を見ながら言った。

 

「最近雇ったんだ。まあ見ての通り、まだ仕事には慣れていねえんで温かく見守ってやってくれ」

 

「そう。それじゃ、話を続けましょうか」

 

 リーンは、テーブルを挟んだ向かい側に座るワッカに目を向ける。

 

「ねえ貴方、中々の活躍ぶりじゃない?」

 

「そ、そうか?」

 

「そうよ。国王の毒を治すのに『エスナ』、バルサ伯爵を沈静化させるのに『ブラインアタック』、そして公爵家にはいつも『ゲート』で来てるんですってねえ?」

 

「なっ……!」

 

 何か言いたげな目つきのリーンから(つむ)がれる言葉を耳にし、ワッカの顔から血の気が失せる。

 

「な、なんで…」

 

「なんで知ってるのか、ですって?言ったでしょう?シャルロッテから全部聞いたって。あらあら、この時点でもう3つも無属性魔法を使ってるわね?」

 

「………」

 

 ワッカは言葉を失ってしまう。他の女性陣も、黙って様子を見ている他無かった。

 

「さらに言えば、獣王様との決闘では『スリプルアタック』に『ヘイスガ』、そして私の部屋では『プログラム』。これで6つね」

 

何も言い返せないワッカに対して言葉を続けるリーンの様子は、どこか楽しげであった。

 

「さあ、私がここに来た第一の目的、『確認』の時間ね。貴方、()()()()()()()()()使()()()んでしょう?」

 

「は、は、は…」

 

 いきなり自分のトップシークレットを言い当てられ、ワッカは必死で適当な言葉を探す。何としてでも、ここで彼女の推理を認めるわけにはいかない。

 

「は、な、何でそう言い切れるんだよっ!?オレが無属性魔法を6種類使ったからって、それが全部使える事に繋がるわけ…」

 

「その答えは簡単よ。貴方、私の『プログラム』を見て、『面白そうだから試してみよう』みたいな反応してたわね?少なくとも、『プログラム』の存在を知ったのはあの時が初めてだったハズ」

 

「お、覚えてねえ…!」

 

「私は覚えているわ。貴方はあの時初めて『プログラム』を知り、自分もやってみようと試みた。無属性魔法は個人魔法とも呼ばれるくらい、複数人が使える事例は珍しいのに、随分と無謀な挑戦ね?なのに結果は見事成功」

 

「く、くおぉ…っ」

 

「どう?無属性魔法を6種類も使えるだなんて、人間という種族にしては極めて珍しい事例も含めて考えれば、貴方が全ての無属性魔法を使える、という推理に行き着くのは自然じゃなくて?」

 

 ワッカは目の前に座るリーンという女性の恐ろしさを痛感する。徹底した情報収集、観察能力の高さ、そしてそこから導き出すロジックの正確さ。どれを取っても文句の付けようがない。紛れもなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女の底知れ無さは、シーモアを彷彿とさせた。

 だからと言って、このまま彼女の言い分を認めるわけにはいかない。ワッカは最後の抵抗を試みた。

 

「おい!詮索(せんさく)をつつしめよ」

 

「ふ~ん、そう言ってシャルロッテに詮索を止めさせたのね。探究心の強いあの子をどうやって諦めさせたのか不思議だったけど、納得がいったわ」

 

 リーンは全く動じなかった。もうワッカに打つ手は残されていなかった。

 

「はあ…、参ったぜ。オレの負けだ」

 

「じゃあ、私の勝ちね。私の推理が正しいと認めるのね?」

 

ワッカは静かに(うなず)いた。

 ガックリと項垂(うなだ)れる彼の様子を見て、リーンは顔に笑みを浮かべる。

 

「そんなにガッカリしないで?今の様子を見るによっぽど大事な秘密だったんでしょうけど、誰にも言わないわよ。私、身内には優しいの」

 

「身内…?」

 

「弟子入りしてくれるんでしょう?」

 

 ニヤニヤと笑いながら、リーンがワッカに問いかける。そんな彼女の様子を見て、ワッカは一瞬意識を失いかけてしまう。クラリと彼の首が大きく揺れた。

 

「わ、ワッカさん!?」

 

ユミナが心配の声をあげる。

 

「ふふ、冗談よ。嫌がっているのを無理矢理っていうのは、私の趣味じゃ無いもの」

 

「ハァー、人をコケにしやがって…」

 

 ワッカは深く息を吐き出した。安堵、というよりは脱力のため息だった。今すぐリーンを屋敷から追い出したかったが、自分の秘密を知られてしまった以上そういう訳にもいかなかった。

 

「そうそう、貴方には関係ないかもしれないけど…」

 

 リーンが再び口を開く。

 

「私、オリガ・ストランドに代わって新しくミスミドの大使になったの。そういうわけで、この国に滞在することになったから」

 

「まさか、この屋敷に住む気じゃないだろうな?」

 

「違うわよ。王城に住むの。オリガもそうだったでしょう?」

 

 ワッカの疑念を否定したリーンに対し、今度はユミナが質問をする。

 

「大使になったので、ワッカさんの『ゲート』をミスミドに報告せざるを得ない。そう言いたいのですね?」

 

「それも違うわね」

 

リーンはこれまたアッサリと否定した。

 

「ワッカの魔法については誰にも言わないわ。ミスミドの国王にも、シャルロッテにもね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そ、その言葉…、大使としてマズいのでは?」

 

「そうね。マズいこと聞かれちゃったわね。ねえ、ワッカ?」

 

 ワッカはリーンの言葉の意図を察した。

 

「…なるほど、今の言葉でオアイコ、ってワケか?」

 

「素敵でしょう?」

 

「素敵だね」

 

ワッカは今一度座り直し、リーンに頼み込む。

 

「確かに、リーンの推測は正しい。オレは魔法の名前と効果を知ってれば、全ての無属性魔法を使うことが出来る。でも、このことが知られると余計なトラブルを産みかねない。だから、ここにいる皆以外は知らねえ秘密ってことにしてんだ。頼む!誰にも言わないでくれ!!」

 

「良いわよ。誰にも言わない。私のさっきの発言を誰にも言わない、って約束してくれるならね」

 

「分かった。誰にも言わねえ。大人の約束だ」

 

「じゃあ私も、大人の約束、ね」

 

 23歳と612歳(推測)の大人の約束を交わし、リーンはイタズラっぽく笑った。




 リーン、恐るべし!でも、この隙の無さも彼女の魅力ですよね。
 逆にエルゼや八重は隙だらけな部分が魅力だと思います。
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