異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~   作:3S曹長

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通常魔法
(1):デッキから「トゥーン」カード1枚を手札に加える。


過去の会談、そして四天王の解放。あとブリッツボール。

 数ヶ月前。イーシェンの武田領にある竹林にひっそりと建てられた小さな(いおり)にて、ある会談が行われていた。

 6畳の和室に2人の男が向かい合っている。左目に眼帯を付けた色黒肌の男、山本完助が先に口を開く。

 

「よくぞお越し下さいました、松永ダンジョー殿。このような狭い所で申し訳ない」

 

「いや、構わないよ…。私の存在を他の者に知られたくないのだろう…?」

 

完助の向かいに座る男、松永ダンジョーがそう答えた。黒い髪を総髪茶筅(そうはつちゃせん)にまとめており、黒い服を着た中年の男性だ。

 

「しかし松永殿。中々珍しいお召し物をしておりますな?」

 

 完助は松永の着ている服を見ながら尋ねた。

 

「ああ、これかね…?これは『スーツ』という服でね、イーシェンの外にある国では要人と会う際にこの服を着る習わしとなっているのだよ…。此度の会談、私にとっても非常に重要なモノでね…。その意思を示したかったのだが、不服だったかね…?」

 

松永が答えた。彼の声は低く、息を吐き出すような話し方だったが、その言葉は何故か相手の胸にズシリとくる性質を持っていた。

 

「いえいえ、不服だなんてとんでもない。ただ珍しいなと思い、尋ねただけでしたので…」

 

「そうかね…。ならば良かった…」

 

 完助は松永に対し、湯呑みに入った緑茶を差し出す。それを飲みつつ、松永が口を開いた。

 

「しかし山本完助殿…。失礼な物言いだが、(けい)はあまり賢い男では無いようだな…?軍師とはとても思えない…」

 

「な、なぜ、そのようなことを!?」

 

いきなり「頭の悪い人」扱いをされ、完助は戸惑う。

 

「私の悪名はイーシェン中に知れ渡っている…。無論、卿も知っているはずだよ…?」

 

「は、はい…」

 

「まともな軍師ならば、大悪党である私の手を借りようなどという愚行は犯さないはずだ…。己の身に如何(いか)なる火の粉が降りかかるか分からないからな…。そうは思わないね…?」

 

「な、何だ、その事でしたか…」

 

 完助は安堵の息を吐きつつ、松永に言葉を返す。

 

「確かに仰る通りです。私の今の行動はとてもじゃないが、領主に仕える軍師が取るべき行いでは無いでしょう。貴方との会談についても、私以外の人間は誰一人知りません」

 

「では何故、私と取引を…?」

 

「それはもちろん、武田の未来を守るためです!」

 

完助は力強く断言した。

 

「先にお話しした通り、武田が領主、真玄は病に伏せておられる状況です。恐らく、長くは()たないでしょう」

 

「知っているよ…。安心したまえ…。他にはバラさないよ…」

 

「ありがとうございます」

 

 完助は一礼し、言葉を続ける。

 

「真玄…御屋形(おやかた)様は優れた領主でした。あの方がお亡くなりになれば、武田の治世はきっと荒れることでしょう。他の領主が武田に攻め込むことも考えられます」

 

「そうだろうな…」

 

「その事態を防ぐためには、武田に新たな改革が必要なのです!御屋形様は大砲を始めとした火器の類いを嫌っておりました。しかし私の考えは違います。他の領主も使用している火器を使わぬのは、無意味な逆行に他なりません」

 

「そのことは、真玄殿にも伝えていたのかね…?」

 

「いえ。御屋形様は火器を使わずとも、武田の平和を維持しておりました。素晴らしい手腕のなせる(わざ)です。しかし御屋形様が亡くなられた後はそうも行きません。火器を始めとする新兵器の導入は必要不可欠でしょう。それも他の領主に知られること無く、です」

 

「だから私なのだな…」

 

「その通りです。無論、貴方様の悪行は知っております。しかし今の我々にとって最も重要な事項は、武田の未来を守る事なのです!例え()()()()使()()()()()()()()()()…」

 

「なるほど、中々深い考えを持っていたようだ…。先の失言を詫びようじゃないか…」

 

「いえいえ、当然の疑問でしょうから」

 

「まあ安心したまえ…。私は武田の領地で悪行を振り()く気は無いからね…。さっきも言ったが…、私としても此度の会談は大切なのだよ…」

 

 今度は松永が語り始める。

 

「こんな悪党である私でも、行動を起こす上では金が必要でね…。今までも色々な相手と取引をしてきたわけだが…、卿ほどの大きな相手は中々いないのだよ…。当然だな…。自身の立場が大きくなれば大きくなるほど、人は安全な道を選ぶものだ…。悪人もまた同じ…。大きくなれば大きくなるほど、自分の仲間とその傘下で全てを済ませようと考える…。他人の付け入る隙など無いわけだ…」

 

「なるほど…」

 

(ゆえ)に、イーシェンの9大領主が一つ、武田の軍師である卿との取引はとても大事なのだよ…。にも関わらず、武田の領地で悪行など出来るはずも無い…。上客は大事にしなくてはね…。まあ、卿にとっては今の私の話など、信じることは出来ないだろうが…」

 

「とんでもない!信じましょう。私にとっても松永殿は大事な取引相手なのですから」

 

「そうかね、それはありがたい…。では、話を始めようじゃないか…」

 

 こうして、山本完助と松永ダンジョーの2人は商談を始めた。この日の議題は完助側がどれだけの額を支払えるかという話だった。松永が提供する戦力の内容は、受け取る額を踏まえて後日知らせる、とのことである。故に、この日は実際に金と物の取引が行われるワケでは無い。

 商談は(とどこお)りなく進み、そろそろお開きになろうかという所で松永が完助に問いかける。

 

「ところで一つ気になっていたのだが…、その左目はどうしたのだね…?」

 

「ああ、これですか」

 

完助が己の左目を隠している眼帯を指し示す。

 

「以前、(いくさ)で矢を受けてしまいましてね。左目を失っただけで済んだのは幸運でしたな」

 

「そうだったのか…。辛いことを思い出させてしまったね…」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

「そうだな…。では、卿にはこれを贈ろう…。(ふくろう)(たわむ)れ…、いや、お近づきの印…と言うモノだ…」

 

 そう言って松永は、(ふところ)から箱を取り出す。手のひらに収まる大きさの、漆塗りの黒い箱だ。

 

「開けてみたまえ…。遠慮はいらないよ…」

 

「は、はあ…」

 

完助は恐る恐る箱を開ける。何かが白い布に包まれていた。白い布をほどいてみると、その正体は()()()()()()()()()()()()だった。

 

「綺麗なものですな…。宝石か何かですか?」

 

「不正解だな…。答えは義眼(ぎがん)だよ…」

 

「ぎっ、義眼!?」

 

「私の収集品の一つでね…。昔の職人が丹精に作り上げた一品だ…。何でも『戦に勝つ力を与える』といった話もあるが…。まあ、この手の物に良くある口上だな…。気にする必要も無いだろう…」

 

「な、なるほど…」

 

「卿にふさわしい品だと思い持ってきたのだが…、不服だったかね…?」

 

「いえいえ、そんな…」

 

 完助は松永からの贈り物をまじまじと見つめる。義眼と言われなければ分からないであろうその品は光沢が有り、庵に差し込む日の光を受け、赤く輝いて見えていた。その輝きを目にしていた完助の心は、段々と義眼に惹かれるようになっていった。

 

「その様子だと…、気に入って貰えたみたいだな…」

 

「はい。大切にいたします、松永殿」

 

「ならば良かった…。さて、私はそろそろお(いとま)しようかね…。同じ場所に留まっているのは良くない…」

 

 そう言って松永は立ち上がり、庵を後にした。

 

 

 

 

 

 そして現在、イーシェンの武田領にあるツツジガサキの館に、1人のくノ一が足を踏み入れようとしていた。

 

「高坂様からの使いだ。通していただきたい」

 

くノ一もとい椿が、門番に鑑札を見せる。

 

「確かに。しばしお待ちを」

 

鑑札を確認した門番は、重い門を開けて椿を中に通す。彼女が通った後、門は再び閉ざされた。

 他の人間が誰もいない場所に椿が来たところで、彼女の後ろから声がした。

 

「ふう。侵入成功だな」

 

 声を発したのはワッカである。彼とリーンは光属性の魔法で姿を消した状態で椿の後をついてきていたのだった。

 

「結界に入った瞬間、リーンの魔法が無効化されちまうんじゃねえかとヒヤヒヤしたぜ…」

 

「結界は基本的に、そこに干渉しようとする魔法を弾くだけだもの。『インビジブル』は私達だけに効果を及ぼす魔法だから、結界で無力化されたりしないわ。同じ理論で、結界の内側から『ゲート』で転移するのも問題ないわよ」

 

隣にいるリーンがそう解説する。

 

「そいつぁありがてえ。さて、まずは四天王とやらを救出すっか。ソイツらは完助に反抗してんだろ?助けりゃ力を貸してくれるかもしれねえ」

 

「間違いないでしょう」

 

 ワッカの提案に椿が同意する。

 

「地下牢は館の西側にございます。付いてきてください」

 

彼女に連れられ、一行は四天王が(とら)われている地下牢へと向かう。番人の前は門を通ったときと同じ方法で通過し、石造りの階段を下りていく。

 地下牢は石と木で作られた座敷牢だった。エボン教の牢と比べると簡単な造りだ、とワッカは思う。

 椿に案内された座敷牢の一つに、巨漢の老人が1人、目を閉じながら座禅を組んでいた。

 

「誰だ」

 

老人が不意に声を発する。

 

「馬場様、椿です。高坂様の命にて助けに参りました」

 

「高坂か…。やはりヤツが完助に下ったというのは嘘であったな。食えぬ男よ…」

 

 そう言って馬場様と呼ばれた老人は目を開き、椿の後ろに目線を向けた。

 

「椿よ…。後ろに2人隠しておるな?姿を見せんか」

 

「マジかよ…。この爺さん、気配でオレ達に気付いたってのか?」

 

ワッカは驚きつつも、リーンに魔法を解くよう促した。

 

「こちらは徳川様の客人で、ワッカ様とリーン様でございます」

 

 椿が馬場老人に説明する。

 

「徳川の…?」

 

「はい。ワッカ殿は徳川に攻め込んだ鬼面兵一万五千を1人で打ち倒した程の実力者です」

 

「なんと!?」

 

「は!?あの面のヤツら、そんなにいたんか…」

 

馬場老人だけで無く、ワッカ本人も驚いた。

 

「まあ、倒せたんだし良いじゃない」

 

「リーンの賜物(たまもの)だな」

 

「褒めても何も出てこないわよ」

 

 そんな会話をリーンとしながら、ワッカはブリッツボールに生えた刃物(エッジ)で木の牢を切断していく。水属性の魔法で切断するのは目立つので控えた。

 

「内藤と山県は奥の牢だ」

 

 座敷牢から解放された老人もとい馬場信晴(ばばのぶはる)の案内で、ワッカ達は四天王の残り2人が囚われている座敷牢に辿り着く。

 

「おお、馬場殿。お元気そうで何より」

 

 囚われの身とは思えないような穏やかな顔の男が、にこやかな声で話しかけてくる。彼が武田四天王の1人、内藤正豊(ないとうまさとよ)である。

 

「何か面白そうなことになってるみたいだな?馬場殿、俺も混ぜてくれよ」

 

もう1人、全身傷だらけの目つきの鋭い男が話しかけてきた。彼が武田四天王の1人、山県政景(やまがたまさかげ)である。

 

「内藤、お前はもうちょっと緊張感を持てや。いつもニコニコと緩んだ顔しやがって。逆に山県、お前はもうちょっと考えろ。何でもかんでも戦えば良いってもんじゃねえぞ」

 

馬場信晴が囚われの2人に説教を始める。

 

「おい!説教をつつしめよ。今はそんなことやってる場合じゃねえだろ?」

 

「おおそうだな。小僧、この2人も出してやってくれ」

 

「小僧ってオレの事かよ?」

 

馬場の要求にワッカが聞き返す。

 

「他に誰がいる?」

 

「まあ、良いけどよ…。この歳になって小僧呼ばわりされるとは思わなかったな~」

 

そう言いつつ、ワッカはブリッツボールで木の牢の切断作業に取りかかる。

 

「一応この人、ベルファスト王国の王女と親密な関係だから、口の利き方には気をつけた方が良いんじゃない?」

 

「そうなのか?うーむ。しかし今更呼び方を変えるのもみっともない。ま、小僧で良いだろう。本人も良いと言っていたしな」

 

 リーンによる一応の注意喚起に対しても、馬場はどこ吹く風である。

 そんなことをしてる内に、内藤と山県の解放が終わった。役者は揃った。これより反撃(パーリィ)の始まりである。




 ワッカがブリッツボールに(ほどこ)した鬼面兵を倒す「プログラム」は、最初に鬼面兵を倒したときの速度を参照にしている。
 ワッカが最初に鬼面兵を倒したとき、彼は「ブースト」をかけた状態で全力投球していた。この時、ボールはものすごいスピードが出ていたと想定できる。
 仮に1秒に1人鬼面兵を倒す計算だとして、1分で60人、1時間で3600人である。
 結果、1万5千の鬼面兵を倒すのにかかる時間は4時間と少し。当作品の描写は間違っていないと言える。

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