異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~   作:3S曹長

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 前回、タイトルを入れ忘れたまま話を投稿してしまい、申し訳ございませんでした。



戦の後、そして海。あとブリッツボール。

 ツツジガサキの館での戦いから一夜が明けた。この日からワッカ達は、徳川領の復興作業に力を貸していた。 

 武田の領地も疲弊していると聞き、ワッカは助太刀を申し出たのだが、それは家泰に止められた。

 徳川の客人であるワッカが武田に手を貸したと言うことは、徳川が武田に手を貸したのと同義である。「武田に攻められていた側の徳川が武田に手を貸した」という事実だけで、これから両者の間で行われる和平の会談に当たっては十分な交渉材料である。逆にこれ以上武田に手を貸すことは、他の領主から「徳川の領主は甘い男だ」と舐められることに繋がりかねない。

 ワッカとしては余り納得いかない言い分ではあったが、八重の父親が仕えている領主にとってマイナスとなることは避けるべきだ、と考えてキッパリ諦めることにした。

 

 そしてワッカにはもう一つ、大変なことが待ち受けていた。それはリーンに対してスピラの呪文についての説明をしなければならないことである。

 長い詠唱が必要なこの世界の水属性魔法に対し、スピラの水属性魔法は「ウォータ」「ウォタラ」「ウォタガ」で十分である。

 このことについて、リンゼに対しては「自分の故郷ではこれで良かった」という安易な説明で済んでいたのだが、リーンは簡単には納得しなかった。彼女は「そんな場所は聞いたことが無い」と主張したのだ。流石に600年以上生きている賢者には厳しい説明だったのだが、ワッカにはそれ以上の説明は出来なかった。

 話が長引くにつれ、「ワッカの故郷はドコなのか」「なぜ故郷に『ゲート』で帰れないのか」といった、異世界に来て最初にしたやりとりまで(さかのぼ)ることになってしまう。最終的には、ワッカが説明に四苦八苦している様子を見たリーンが「ワッカ自身にも説明できないことなのだ」と納得して終了、ということになった。

 

 三日後、戦の舞台となっていたカワゴエの砦にて両者の和平会談が行われる事になった。武田は徳川に対し多額の賠償金を支払わねばならず、その上で領地もある程度受け渡さなければならない。そんな重苦しい話題が飛び交うことになる会談に対し、ワッカは口を挟むつもりは無かった。ただ、会談を行うに当たって武田四天王がやって来るとのことだったので、最後に挨拶だけでもしていこうと思って砦で待っていた。

 

「小僧!元気にしてたか?」

 

 ワッカの姿を見た馬場信晴が声をかけてきた。後ろには内藤正豊と山県政景の姿もある。

 

「おう!馬場の爺さんも元気そうじゃねえか!」

 

「おかげさんでな」

 

ワッカは馬場と握手を交わす。

 

「悪かったな。お前達の復興の手伝いしてやれねぇでよ」

 

「気にするな。色々大変なのは事実だが、元はと言えば武田(こちら)が撒いた種。自分達で始末を付けるのがスジと言うものだ」

 

 そう言葉を返されたものの、ワッカとしてはやはり武田のその後が気になっていた。

 

「なあ、武田はこの後どうなっちまうんだ?」

 

「これから行われる会談については終わってみるまで分からんが…、新しい領主なら決まったぞ」

 

「アンタか?」

 

(わし)はそんな身分では無い」

 

馬場が笑って否定した。

 

「新しい領主は、真玄様の長男である武田克頼(たけだかつより)様です」

 

 答えを内藤が引き継いだ。

 

「オヤシロサマ、だかに子供がいたのか?」

 

御屋形様(おやかたさま)、だろ?高坂が(かくま)ってたんだとよ」

 

山県がツッコミを入れた。

 

「高坂…?どっかで聞いた名前だなあ」

 

「儂らと同じ、武田四天王の1人だ。武田に手を差し伸べるよう徳川に依頼した張本人であり、椿の主人でもある」

 

「ああ、ソイツだソイツ!今日は来てねえのか?」

 

「領主の引き継ぎ作業に追われていて、来ることが出来ませんでした。会談には我々3人が臨みます」

 

「そっか…。思えば、高坂ってヤツには会ったことが無かったなあ」

 

「いずれ会う機会もあるだろう。良いヤツだから仲良くしてやってくれ」

 

 馬場がそう言った後、ワッカに内藤が尋ねた。

 

「ワッカ殿はどうして(ココ)に?会談に参加されるのですか?」

 

「いや、オレはアンタ達が来るって聞いたから顔を見に来ただけだ。徳川での手伝いも終わったし、そろそろ出発しようと思ってる」

 

「ちなみに、どちらへ?」

 

「ニルヤの遺跡っつー場所だ」

 

「おお!そこなら行ったことがあるぞ!」

 

 そう答えたのは馬場だった。

 

「本当か?ならお願いがあるんだなぁ~」

 

「記憶を渡せ、と言うのだろう?小僧には色々と世話になったからな。ワケも無い」

 

「ありがとよ~!」

 

 ワッカは馬場から「リコール」でニルヤの遺跡への記憶を貰い、3人に別れを告げて八重の実家に「ワープ」で向かった。

 八重の実家の道場では、ワッカの仲間達と、八重の父、母、兄、従者の綾音が彼の帰りを待っていた。

 

「お別れは言えましたか?」

 

「ああユミナ、バッチリだ!それとリーン。馬場の爺さんからニルヤの遺跡への記憶を貰ってきたぜ!すぐにでも行けるぞ」

 

「そう。ソレは朗報ね」

 

 リーンはそう返した後、小声で呟く。

 

「ワッカって相手がお爺さんでも平気で『リコール』出来るのね。何だかつまらないわ…」

 

「何がつまらないんですか?」

 

「いや、別に?」

 

下らない呟きを近くにいたリンゼに聞かれてしまったので、リーンは誤魔化した。

 

「では父上、母上、それに兄上と綾音も、行って参ります」

 

 八重が家族に別れを告げる。

 

「ああ、気をつけてな」

 

「ワッカさん、娘をよろしくお願いしますね」

 

「おう!任しといてくれ!」

 

八重の母親である七重からの挨拶に、ワッカはサムズアップで答える。

 

「今度来たときは、八重の家族達もオレの屋敷に招待すっからな」

 

「楽しみにしているよ」

 

 各々別れの挨拶を済ませ、ワッカは「ゲート」を開く。魔法の門に消えていく娘一行の姿を、八重の家族達は手を振って見送るのだった。

 

 転移した先に広がっていた光景は、ドコまでも広がる青い海と白い砂浜だった。ココはイーシェンの島津領の海岸から200メートルほど海を隔てた先にある孤島である。海の向こうに小さく見える森と馬場からの説明によって、ワッカもその状況は理解していた。

 

「わああ、綺麗ですねえー」

 

 ユミナが白い砂浜と青い海に目を奪われている。

 

「海なんて久しぶりねー」

 

「そうだね、お姉ちゃん」

 

 双子も嬉しそうに砂浜を歩き出す。

 八重は草履と足袋を脱いで、裸足で砂浜を駈け出そうとして「熱い!」と悲鳴を上げる。空からは太陽の光がまぶしく降り注いでいる状態なのだから当然である。

 リーンはドコから取り出したのか、黒い日傘を差しながら優雅に砂浜を歩き出す。そんなご主人様の後を、ぬいぐるみのポーラがはしゃいだ様子で追いかけていく。

 ビャクティスは砂浜の上を歩きにくそうにしている。神獣だけあって熱い砂の上を素足なのは平気なようだが、それでも生物学的な歩行の得手不得手はあるらしい。

 

「ああ、ホントに久しぶりだ…」

 

 一方のワッカは感慨深い気持ちに浸りながら砂浜を歩いていた。

 彼の故郷はビサイド島という名前の島で、砂浜と海という光景は見慣れたものであった。よく海岸でビサイド・オーラカのメンバー達とブリッツボールの練習に打ち込んだものである。

 しかし彼はこの異世界に来てから、海には一度も行った経験が無かった。異世界(ここ)に来てからどれ位の月日が経っただろう。2年以上は経っていないのだが、それでも故郷を思い起こせる光景を目にすることが出来たのは本当に久しぶりだった。

 そんな感傷に浸りながらも、彼は目的を忘れたワケでは無い。

 

「なあリーン。ニルヤの遺跡は海の中って話だったな?」

 

リーンに追いついたワッカが問いかける。

 

「そうね」

 

「水中を呼吸出来る無属性魔法とか無えのか?」

 

「水の上を渡る魔法ならあるけどね。水中で呼吸出来る魔法は…、あったような気もするけど名前は覚えてないわ。興味なかったし」

 

「おいおい、そこが大事なトコだろうよ…」

 

 そんな会話をする2人の先では、双子と八重とユミナの4人が打ち寄せる波と(たわむ)れていた。嬉しそうな皆の様子を見て、ワッカも自然と笑顔になる。

 

「あーあ、これで水着とかあれば最高なのに」

 

「お、水着あんのか?」

 

「店に行けばあると思いますよ」

 

リンゼがそう答えた。

 

「うし!じゃあこの海で今日は一日遊ぶとするかぁ?」

 

「「「「やったー!!!!」」」」

 

 ワッカの鶴の一声に、女性陣が嬉しい悲鳴をあげる。

 

「良いよな、リーン?別に急いでるわけでもねえしよ?」

 

「そうね、悪くないわ」

 

リーンも口元に笑みを浮かべて答える。足下ではポーラが嬉しそうに飛び跳ねていた。

 一行は一旦王都の屋敷に戻り、海で遊ぶ準備に取りかかる。女性陣が水着を買いに行っている間、ワッカは屋敷の使用人達を誘うことに決めた。

 

「海、ですか?」

 

「わあ~、いいですね~」

 

「セシル姉ちゃん、海って何だ?」

 

 メイドトリオからは嬉しそうな反応が返ってきた。諜報員も海で遊ぶ事を喜ぶモンなのか、とワッカは意外に思う。そんな彼の思いなど知らずに、3人も水着選びに出かけて行った。

 

「旦那様の誘いでしたなら、喜んで参加いたしましょう。最も、私は泳ぎませんが」

 

 家令のライムからは事務的な反応が返ってきた。とは言っても嫌そうな様子は微塵も感じられなかったので、参加ということになる。

 

「皆様のため、腕を振るって料理をご用意いたしましょう」

 

「では私は妻の手伝いを。庭師は海では活躍出来ませんからな」

 

 フリオとクレアの夫妻も参加することに決定した。

 残念ながら、屋敷を完全に留守にするわけにはいかない。警備のトムとハックは問答無用で留守番である。今度何かの形で埋め合わせをしようとワッカは考えた。

 

「あとはそうだな~。スゥも誘うか!」

 

 そう思い立ったワッカは公爵邸へと「ゲート」で向かった。

 

「イーシェンの海か!いいね!行こう!」

 

「父上!誘われたのはわらわじゃぞ!」

 

(スゥシィ)に負けないくらいテンションを上げている公爵から、このあと衝撃の一言が…。

 

「よし!兄上も誘おう!」

 

「は?」

 

 ワッカは言葉を失う。公爵夫婦とスゥシィは予定に入っていたが、まさか国王である兄を誘う気になるとは想像していなかった。とは言え断る理由も見つからないので、彼は仕方なく王城への「ゲート」を開く。

 

「イーシェンの海か。アルのやつ、中々気が利くじゃないか!」

 

「おいおい!アンタ国王だろうがよ…。仕事はどうなってんだ仕事は!!」

 

「いや何。今日は午後からの予定がポッカリと空いていたのでな。丁度良かった」

 

「お労しや国王(あにうえ)…」

 

そんなわけで国王と王妃も参加する事になった。

 

「儂も陛下の警護としてついて行くぞ!無論、儂も楽しむつもりだがな。ハッハッハ」

 

というわけでレオン将軍も追加である。

 公爵家には家令のレイムも一緒するとのことなので、締めて19人(+ビャクティスとポーラ)の大所帯となってしまった。

 頭を抱えるワッカだったが、せっかく海で楽しむなら大勢の方が良いと思い直すことにした。楽しいパーリィはまだまだこれからである。




 神国イーシェン編はもう少しだけ続きます。あと2話くらいかな?その後、最終章となります。
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