異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~   作:3S曹長

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 この作品のUA数(閲覧数)を確認してみたら、なぜかバルサ伯爵の事件解決の話が他と比べて多くなってて笑った。そんなに探偵ごっこが好きになったのか?ウルトラマン…。


海辺の皆、そして潜水。あとブリッツボール。

 メンバーが確定した後、ワッカは着替えを行うためのテントやパラソル、レジャーシート、バーベキューを楽しむための食材やコンロ等を海へと運ぶ作業に取りかかった。

 

「せっかく私が参加するのだ。中々お目にかかれない豪華な食材を持って行こう!」

 

国王が上機嫌でそう言った。

 

「期待して良いのか?」

 

「今日のバーベキューに使う肉はドラゴンの肉だ!良いだろう?」

 

「マジかよ!?イヨッシャァ!!」

 

 ワッカのテンションが一気に上がる。ミスミドでのドラゴン討伐の際、彼は仕留めたドラゴンの肉を食べそびれていたので、異世界でドラゴンを食すのは初めてになる。高級食材だという話を聞いているので期待は膨らむ一方だった。失礼な話だが、この話を聞いて初めて国王を誘って良かったと思ったほどである。

 物品の搬入が終わった後の仕事は、クレアを始めとした使用人達の役割である。ワッカ一行や王族達は自由行動だ。他の人は各自で水着を持っているようだが、ワッカには必要無い。彼の着ているビサイド・オーラカのユニフォームは水陸両用なのだ。

 ワッカが波打ち際で準備体操をしていると、後ろから声をかけられた。

 

「何の踊りをしてんのよ?」

 

エルゼだ。赤と白のボーダーラインの水着を着ていた。隣には、青と白のボーダーラインの水着を着たリンゼも立っている。彼女の方は、上にパステルブルーのパーカーも羽織っていた。

 

「踊りじゃ無くて準備体操だっ!泳ぐ前の準備体操は生活の基本だろ?」

 

「なるほどね。ま、そういうことにしときましょ」

 

「そういうことって何だよ?お前らもしっかりやっておけよ?」

 

「はあい」

 

エルゼはそう答えて準備体操を始める。リンゼはそんな姉の様子をただ見ているだけだった。

 

「リンゼもやっとけって」

 

「あ、私は泳ぎませんから…。砂浜で本でも読んでます」

 

 その言葉通り、彼女は海へと駆けていく(エルゼ)の姿を見送った後、砂浜へと戻っていった。

 

「お、エルゼ殿が一番乗りでござるか?拙者も続くでござる!」

 

 薄紫色のビキニを着た八重がリンゼの代わりにエルゼの後を追いかけていった。この時初めて、八重が結構な巨乳であったことにワッカは気付く。いつもはサラシを巻いた上に和服を着ているので目立たなかったのだ。しかし、ワッカはそんなことで動揺しない。スピラでは露出度の高い服を着た女性など山ほどいるので、彼にとっては見慣れているのだ。それに男ワッカさんは、女性を胸の大きさで判別したりはしない。

 

「ワッカさん」

 

 次に声をかけてきたのは、フリルの付いた白いビキニを身につけたユミナだった。その場でくるりと一回転し、ワッカに水着を見せつける。

 

「似合ってますか?」

 

「良いじゃねえか。似合ってるぜ」

 

ワッカは思ったままを口にした。

 

「えへへ。ありがとうございます!」

 

「やっぱ王女様ともなると、高級感のある水着を着るんだなぁ」

 

「ワッカさん、一緒に泳ぎませんか?」

 

 ユミナにそう誘われたワッカだったが

 

「わりいな。海底にある遺跡を探さにゃならねえからよ」

 

とヤンワリと断った。23歳の彼にとって、10代前半のユミナと一緒に海で泳いで遊ぶのは流石に気が引けたからだ。

 しかし、ユミナはそんなことで諦める女性では無い。

 

「じゃあソレが終わってから!だったら…、良いですよね?」

 

「ん?あ~、まぁ…」

 

ワッカとしても、そう言われてしまうと良い断り方が思いつかなかった。

 

「いいぜ。遺跡を探した後だったらな」

 

「分かりました。じゃあ終わったら必ず来て下さいね?」

 

 そんな約束を交わしていると、またしても別の2人に声をかけられた。

 

「ワッカ!」

 

「ワッカ兄ちゃん!」

 

 スゥシィとレネのちびっ子コンビだ。同年代と言うこともあってか、2人は初対面であったのにも関わらず、もう仲良くなっているらしい。レネが「ワッカ兄ちゃん」呼びなのは、オフだからだろう。バーベキューの準備を手伝っていないのは、公爵の娘であるスゥシィの護衛をしているのか、それとも大人達が「子供は遊んでおいで」と優しさを見せたのか。恐らく後者だろうとワッカは思った。

 

「スゥ様~、レネちゃ~ん、私もまぜて~」

 

 その理由がやって来た。エメラルドグリーンの水着を着たセシルだ。彼女が2人のお守り役らしい。今回のメンバーの中で最大級の巨乳だったが、ワッカはそんなことは気にせずにスゥシィとレネに注意を促す。

 

「いいか?スゥ、レネ。楽しいからってアブねえことするんじゃねえぞ。溺れたりしたらおっかねえからな。大人の言うことをしっかり聞くんだぞ?」

 

「分かってるのじゃ!」

 

「うん!行ってくるね、ワッカ兄ちゃん!」

 

 ワッカの言いつけを耳に入れて、2人は海へと入っていった。ユミナとセシルも後を追う。

 

「あり?なんだかセシル、普通に楽しんでねえか?」

 

 海で遊ぶ4人を見ながら、ワッカは(いぶか)しがる。セシルはベルファスト王国の諜報員「エスピオン」の一員である。公爵の娘であるスゥシィと王女のユミナが近くにいる今、彼女は間違いなく仕事の最中だろう。だが今の彼女の様子はどう見ても、年下3人と一緒になって海を楽しんでいるようにしか見えない。

 ミスミドの王都までワッカ達の後を追ってくるガッツがあるのだから、仕事をほっぽり出すタイプで無いのは確かだ。演技なのかとも一瞬考えたが、彼女は仕事と遊びを両立出来るタイプなのだろうとワッカは結論付けた。

 

「ん…あそこにいるのって?」

 

 日差しの照りつける海には似合わない真っ黒な服を着た2人組をワッカは発見する。その2人組は双眼鏡を手にして、4人を岩陰から見守っていた。

 

「な~にしてるんスか?」

 

「スゥ様の安全を監視しております」

 

「同じく姫様の安全を監視しております」

 

 ワッカの質問に、レイムとライムの家令兄弟が答えた。こんな場でも、2人は真っ黒な礼服を着たままである。

 

「公爵や国王は良いのかよ?」

 

「あのお二人には将軍が付いておりますので」

 

ライムが答えた。

 肝心の公爵と国王は、遠くの岩場で競泳を楽しんでいる。護衛役のレオン将軍も確かに一緒だったが、彼もセシル同様、普通に競泳を楽しんでいるようにしか思えない。仕事と遊びを両立出来るタイプ…、にはどうしても思えなかった。

 ベルファストの王族達がユルユルなのは元からだと思い出し、ワッカは放っておくことにした。最初はドコに潜ろうかと当たりを付けつつ波打ち際を歩いていると、日傘を差しているリーンと準備体操中のポーラを発見した。

 

「え?ポーラって泳ぐのか?」

 

 赤と白のボーダーラインのタンク・スーツを着たポーラが「あたぼうよぉ!」とでも言いたげに胸を叩いた。

 

「伊達に『プロテクション』をかけてるわけじゃ無いわ。防水だってバッチリなんだから」

 

白いレースをあしらった黒色のアダルティな水着を着たリーンが言葉を返した。

 

「で、ワッカは散歩中?」

 

「いや、遺跡を探すのにドコから潜ったら良いモンかなぁと」

 

「具体的な場所が分からないなら、ドコから潜っても一緒でしょ?そんなこと考えて歩いてる時間が無駄じゃない」

 

「た、たしかに…」

 

 リーンの正論にたじろいでいるワッカの足下では、波に押し戻されたポーラが砂浜にひっくり返っていた。防水はバッチリでも、他の要素が足を引っ張っているらしい。

 もう1匹のマスコットキャラクターであるビャクティスはと言うと、テントで昼寝中である。やはり小さい身体のまま砂浜を歩くのは億劫(おっくう)なようだ。

 

「じゃ、ひとまず泳いでみるとしますかね」

 

 そう言ってワッカはその場で海に飛び込んだ。イーシェンの海は透明度が非常に高く、遥か先の水中の様子が見て取れた。無論、水底の様子も丸見えである。

 元ビサイド・オーラカの選手兼コーチであるワッカの本領発揮である。この異世界の常人にはマネできない潜水時間で、海の底をひたすら探す。

 が、流石に一回で発見出来るほど甘くはなかった。息継ぎを挟み、3回目の潜水でそれらしき物体を発見した。ワッカは一旦海上に浮上し、大きく息を吸う。そしてターゲットの詳細を確かめるために再び海中に潜り始めた。

 確かにソレは遺跡だった。様々な形の巨石群が、いかにも神殿のような形の小さな建物を囲んでいる。が、問題はその遺跡が海中に存在する深度である。ブリッツボール選手のワッカが息継ぎをせずにギリギリたどり着けるかどうかの瀬戸際と言える深さにあるのだ。ワッカはもう一度浮上し、呼吸を整える。

 

「うし!!」

 

 意を決してワッカはダイブを開始する。当たり前の話だが、浮上する分の余力を残した状態で探索は終了しなければならない。ブリッツボール選手である彼には、自分の水中にいられる限界は手に取るように分かる。気合いで何とか建物まで辿り着いたが、その入口にあったのは地中へと続く深いトンネルであった。先は真っ暗で、ドコまで続いているのか見当も付かない。

 階段を見たワッカは、素潜りでの探索を諦めることにした。旧王都に存在していた地下遺跡のような深さの階段だったならば、流石に息が保たない。仮にそこまでの深さじゃなかったとしても、階段を下りた先に待つものも分からない状態で、息の続く瀬戸際の冒険をするほどワッカは愚かではなかった。

 

「ぷはぁ!!あぁ!クソッ!」

 

 浮上したワッカは思い切り海面を叩いた。バシャンと水しぶきが上がる。潜水には自身があっただけに、強い悔しさが心の中を満たしていた。しかし、彼に不可能ならば他のメンバーにも遺跡の探索は不可能である。何か別の手段を考えるしかなかった。

 悔しさとむなしさに(さいな)まれながら、ワッカは砂浜に戻った。周りには他のメンバーの姿が見当たらない。島の範囲内ではあるものの、テントを建てた場所からは大分遠くまで来てしまったようだ。

 その代わりと言わんばかりに、1人の男性が営む露店の姿がワッカの目に映っていた。




 前回の後書きに「神国イーシェン編はあと2回」と書きましたが、次の話じゃ終わらないかもしれません。とりあえず、次回の前書きで報告します。

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