異世界はブリッツボールとともに。 ~異世界ワッカ~ 作:3S曹長
個人的に後者は、原作を読んでいる前提のアニメになってしまうので止めて欲しいなぁ、と思ったりしています(「神のみぞ知るセカイ」のアニメ三期を思い起こしながら)。
「それでワッカ、この子どうするの?」
「どうするって言われてもなぁ…」
フランシェスカを見ながらのエルゼの質問に対し、ワッカは回答に詰まってしまう。少なくとも、エルゼ達4人のように行動を共にするのは避けたいところだ。出会ってからまだ少ししか経っていないものの、彼女の異常さは十分すぎるほど理解出来た。少し変人、と言う程度なら彼も気にすることは無いのだが、ここまで立て続けに問題有りな言動をされると流石に厳しいモノがある。
「シェスカはどうしたいんだ?」
そうは思いつつも、ワッカは一応本人の意思を尋ねてみることにした。
「私はマスターと供にいたいと思いまス。おはよウからおやすみまデ。お風呂からベッドの中まデ」
「勘弁してくれよ…」
聞くんじゃ無かった、とワッカは頭を抱える。
ワッカと常に一緒と言うことは、当然屋敷で暮らすことになる。フランシェスカの言動は、レネの成長によくない影響を与えるだろう。年代の近いラピスとセシルの2人からはどんな目で見られることになるだろうか。ライムは問題だらけのフランシェスカに文句を言うだろうか、それとも「旦那様の仲間だから」という理由で口を挟まないだろうか。いずれにせよ居心地の悪いコトに変わりは無い。無論、居心地が悪くなるのはワッカの方である。
「あ、そうだ!お前はこの空中庭園の管理をしなくちゃならねえじゃねえか!オレと一緒だとそれもままならねえ!
「ご心配なク。『空中庭園』に何かあった場合、私はすぐに知ることが出来まス。加えテ私には『空中庭園』への転送機能もありまス。普段の管理はオートで十分ですカラ、何も問題はありませン」
「あのなぁ…、察してくれよ…」
フランシェスカや庭園に問題は無くとも、ワッカには大有りなのだ。そんな彼の胸中を知ってか知らずか、フランシェスカは言葉を続ける。
「つきまシては、『空中庭園』へのマスター登録を済ませテいただきタク。私は既にマスターのモノでスが、『空中庭園』もきちんとマスターのモノとシなければなりませン」
「登録?」
「ちょっと失礼しまスね」
そう言ってフランシェスカは椅子に座るワッカの前に回り込む。
そしてあろう事か、いきなりワッカにキスをしてきたのだ。
「むっ!!!??」
「「「「ああああーーーー!!!!」」」」
エルゼ、リンゼ、八重、ユミナが同時に大声を上げる。他のメンバーも驚きの様子でワッカとフランシェスカを見ていた。フランシェスカの舌がワッカの口内に入り込んでくる。ディープなタイプのヤツだった。
「ウボァー、な、何しやがる!!?」
我に返ったワッカは、急いでフランシェスカを引き剥がした。
「登録完了。マスターの遺伝子を記憶しましタ。これより『空中庭園』の所有者は私のマスターであるワッカ様に移行されまス」
何と言うことでしょう。フランシェスカは遺伝子を採取するためだけにワッカとディープキスをしたのだった。対するワッカの方は後味の悪さしか感じられていない。彼女の舌から変な味がした、という意味では無く、好きではないどころかむしろ嫌悪感を抱きつつある
2人のキスはもう「世界一ピュアじゃないキス」と呼んで差し支えないだろう。
「ちょっと何してるんですかぁ!!」
ギャラリーで最初に抗議の声をあげたのはユミナだった。
「いきなり、きっ、きっ、キスするとか!私だってまだなのに!私だってまだなのに!!」
彼女の猛抗議に対するフランシェスカの回答はアッサリとしたものだった。
「遺伝子採取に一番効率が良いと思いましたのデ」
「くっだらねえ!なんだよそれ!バカバカしい!」
相手の意図を知ったワッカは絶叫する。
「それなら髪の毛とかで良いだろうがよ!教えはどうなってんだ教えは!!」
「私に子供はできませンが、そちらの方法はイロイロと問題がありそうでシたカラ」
「おい!言葉をつつしめよ」
意味不明な判断基準である。ナイフで他人を刺しても死ななきゃセーフ、みたいな言い草だ。この瞬間、ワッカはフランシェスカをこの庭園に置き去りにすることを心に決めた。
そんな彼の目の前に、険しい顔をしたリンゼが立ちふさがった。
「……ワッカさん」
「何だよ!?オレは悪くねえ!オレは悪くねえ!」
「私は、
「は?」
唐突な告白を耳にし、ワッカの思考が停止する。そんな彼の隙を突くかのように、リンゼは顔を真っ赤にしながら、彼の唇に自分の唇を押しつけてきた。
「んっ!!」
「んん゛!!?」
「「「あああーーー!!!」」」
絶叫が再び、バビロンの空中庭園にこだました。
その後、ワッカは逃げ帰るように王都の屋敷へと戻ってきていた。荒い息を吐きながら1人で自室へと戻った彼に対し、声をかける者がいた。
「大変そうでスね、マスター」
フランシェスカだ。どさくさに紛れて付いてきてしまったのだ。他人事のような言葉を投げかけてきた彼女の胸ぐらを、ワッカは思わず掴んでしまう。
「分かってんのかよ!?全部あんたのせいなんだ!オレが苦しんでいるのも!リンゼがキスしてきたのも!
ワッカは早口でまくしたてる。せっかく機械嫌いを克服したというのに、昔の自分に逆戻りしてしまいそうになっていた。
「そうでスか」
フランシェスカの方は相変わらずである。申し訳なさそうな表情をするとか、困惑するとか、涙を見せるなどと言った様子を一切見せない。
そんな彼女に対して怒り狂うのが馬鹿馬鹿しく感じられ、ワッカは掴んでいた手を離した。
「お前を『空中庭園』に返すからな!オレと一緒にはいられねえ!」
「ではマスター。レジーナ・バビロン博士からメッセージがございまス」
何が「では」なのかはサッパリだが、彼女はマイペースな姿勢を崩さず、
「な、何だよコレ!?」
「こちらのスイッチを押しテいただけレば、博士の画像が映りまス」
言われるがままワッカがタブレットのスイッチを押すと、画面の液晶から光が発せられた。光が収まると、画面の上に半透明の小さな人間が立っていた。立体映像である。白衣を着た20代の女性で、丸い眼鏡をかけており、髪は長くボサボサの状態だ。
そんな立体映像の女性が、口にタバコを
『やあやあ、初めまして。ボクはレジーナ・バビロン。まずは「空中庭園」及びフランシェスカを引き取ってくれた礼を述べよう。ありがとう、ワッカ君』
「は!?何で、オレの名前を知ってんだよ…?」
ワッカの口から疑問が漏れ出る。レジーナ・バビロンは5000年前の人物であり、フランシェスカも彼女については「既に亡くなっている」と口にしていた。そんな彼女が5000年後の世界にいるワッカの名前を知っているハズが無い。
『分かるよ。君の疑問はもっともだ。ソレを知りたくなるのも当然だよね』
驚くことに、画面の上の博士はワッカの疑問に応えるかのような言葉を返してきた。
『君の疑問に答えようじゃないか。じっくり見ると良い』
そう言うと博士は自分の
『ボクのお気に入りだ』
「知るかぁ!!」
ワッカは思わずタブレットを叩きつけてしまった。運良くベットの上に落ちたので、タブレットは割れずにすんだ。
『はっはっは、冗談だよ冗談。ちょっとしたお遊びさ』
「おい!冗談をつつしめよ」
ワッカは博士に対して人差し指を突きつける。
「もうパンツはたくさんだ!次変なことを言ったら、この機械を叩き割るからな!!」
『きちんと君の質問に答えるから許してくれたまえ。どうしてボクが君のことを知っているのか気になっているのだろう?』
「そうだよっ!」
『ボクが君を知っている理由、それはボクが未来を覗くことが出来る道具を持っているからだ』
都合の良い道具の存在を聞かされ、ワッカは彼女の言葉を信じて良いのか疑問に感じる。しかし隣にいるフランシェスカの存在を考えると、ウソだと断定することは出来なかった。
「そ、それは冗談じゃねえんだな?」
『時空魔法と光魔法を組み合わせて、そこに無属性魔法の…、まあ細かいことは
好き勝手に未来を覗けるほど、都合の良い道具では無いらしい。
『使用者と同じ生命波動を持つ者を捉えて映し出すシステムでね。ボクの場合、全属性の魔力持ちであることが災いして、君のいる遠い時代しか見ることが出来なかったんだよ。まあともかく、その道具を使って、君の存在を見つけることが出来たんだ。君の仲間との冒険は楽しく見させて貰っていたよ』
「勝手に覗きやがって…」
『しかしある時、急に君の活躍を見ることが出来なくなってしまった』
「故障か?いいキミだぜ」
あざ笑うワッカの予想に反し、博士の示した理由は驚くべきものだった。
『未来が変わってしまったんだよ。いや、「変わった」と言うより「不確定になった」と表現した方が正しいかもしれないな』
「ど、どういうことだ?」
『パルテノの滅亡…、いや、それは決まっていたのだろうな。実際、君達の時代にはボクたちの文明は滅んでいるのだし』
「らしい、な?」
『とにかく人類の敵、
「ふ、フレイズだって!?」
博士の言葉にワッカは驚いた。「フレイズ」は彼が旧王都の遺跡で戦った水晶の魔物のことである。単語自体はこの間、リーンから聞かされたばかりだった。
「フレイズが、5000年前の文明を滅ぼした元凶だってのかよ!?」
『ボクらも戦ったが、幾万ものフレイズによるパルテノの滅亡は止められなかった』
「そ、そんなに数が…」
ワッカは呆然とする。水晶の魔物が万単位で攻め込んできたのだとしたら、流石のワッカも止めきれる自信が無い。
『フレイズによる世界の滅亡は目の前まで迫ってきていた。恐らくその先に未来は無い。だからボクは未来を見ることが出来なくなったんだよ』
恐ろしい報告である。冗談だと思いたかったが、彼女の口調から察するに冗談では無さそうだ。
『でも君達はこの世界で生きているだろう?世界は滅亡しなかったのさ』
一転、現実を突き付けられてワッカはハッとする。
「た、確かにそうだ!」
『ある時を境にフレイズたちが世界から消えてしまったんだよ。その理由は分からないけど、お陰でまた君達の活躍を見ることが出来るようになったよ』
ワッカにはもう、博士に覗かれていることに対しての怒りは消えていた。代わりに様々な思いが、頭の中を占拠していた。
『そういうわけで、ボクは君のことを知ったのさ。無論、ボクの遺産である「バビロン」は君のために遺したものだ。好きに使ってくれたまえ。君好みの娘達も造っておいたことだしね』
「いや、シェスカは別に俺の好みじゃねえんだが…」
隣にいる
『一応、君以外に「バビロン」が渡ってしまうのは良くないので分散させておいたが、残りを探すかどうかは君に任せるよ。見つけても見つけなくても良い。あまり、強すぎる力はその時代に必要無いみたいだしね』
博士に配慮が出来ているのかはイマイチ不明なところだったが、ワッカは一つ確信した。パンツ丸出しは適合者を決めるための行為である、というのはウソだったのだ。
『では、長くなってしまったことだし、これにてメッセージを終了する。ちなみにこのメッセージの終了後、フランシェスカは全裸になる』
「はああぁぁ!?」
『冗談だ。ではまた』
バキィッ!!
博士が別れを告げるのと、ワッカがタブレットを叩き割ったのはほぼ同時のことだった。
隣にいたフランシェスカは、ワッカが機械を壊したことについては特に責めるわけでも無いらしく、普段と変わらぬ調子でワッカに言葉を投げかけた。
「脱ぎまスか?」
「お前もとっとと帰れ!!」
ワッカは煮えたぎる頭のまま「ゲート」を開き、フランシェスカを無理矢理「空中庭園」へと押し込んだ。
「あア、強引なマスター…」
言葉を返すことも無く、ワッカは「ゲート」を閉めてしまった。
はあ、しんど…。「見ていて一番キツい」と言われている11話の部分なだけありますわ。